【映画】レザーフェイス 悪魔のいけにえ(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』のポスター
(C)2017 LF2 PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』のシーン
(C)2017 LF2 PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED.

凄惨な殺人事件を起こし、精神病院に入れられた少年ジェド。
数年後、3人の入院患者と共に看護師を誘拐して施設を抜け出した彼は、復讐に燃える警官に追われながら恐ろしい逃走劇を繰り広げるが──。

あのレジェンド殺人鬼の一人、「レザーフェイス」の誕生秘話!

というコンセプトで、1974年のホラーの名作『悪魔のいけにえ』の前日譚が描かれています。
『悪魔のいけにえ』の監督・トビー・フーパーの最後のプロデュース作品であり、この作品の製作年(2017年)に逝去しているというのが感慨深い。

内容は、やや乱雑で駆け足ですが、十分楽しめるものでした。
最後まで大きくだれることも飽きることもなく鑑賞。
舞台も施設を脱出してからどんどん移動していくので、テンポも悪くありません。

ただ、当然ながら「レザーフェイスくん爆誕物語!」なので、レザーフェイスの活躍はそれほど観られず、最後にちょっとだけ。
この作品で主に怖いのは、むしろ人間です。
「下手な化け物よりも、やっぱりやばい人間の方がよっぽど怖いよね系ホラー」だったように思います。

激やば家族のソーヤー一家(そーやーいっか:「ー」が2回続いて見えるのは間違いではありません。念のため)に生まれたジェドくん。
5歳の誕生日プレゼントにチェーンソーをもらいますが、どうやらうまく殺人一家に馴染めていない様子。
何とかジェドくんなりに頑張りますが、警察の介入により、家族から隔離されて青少年更正施設へ送りに。
その更正施設でトラブルがあり、逃亡したジェドくんはいかにレザーフェイスになっていくのか……。

前半は、青少年更生施設からの脱出・逃亡劇。
人間同士の争いで、若干冗長であり、「これ何の映画だっけ、何観せられてるんだろう……」という時間が続きます。


後半は、一気にスピードアップして雰囲気もがらりと変わり、陰鬱な雰囲気で徐々にグロ表現が増えていく
そのメリハリも、飽きさせない展開に繋がっています。

ホラーとして見れば、まぁまぁグロいシーン(ただR-15だからか、けっこう暗くてはっきり見えずわかりづらい)もあって、それなりに面白いね楽しめるね、な感覚で、単発作品としてのインパクトはほどほどです。
ソーヤー一家に限らず、登場人物がだいたいみんな狂ってるところは、けっこう好き。

若かりし日のソーヤー一家の姿は、ファンならきっと必見です。

特に、おじいちゃん、グランパ

『悪魔のいけにえ』におけるあの、かつての栄光を期待されてハンマーを持たせられては握力がなくてぽろぽろ落とし、無抵抗の犠牲者すら殺すことのできない、生けるミイラと化しているような哀れな姿。
「やめてあげて!グランパの体力はもう限界よ!」と泣き叫びながら、何度枕を濡らしたことでしょう。

そのグランパが、ジェドくんが殺害し損ねた獲物を、神の一撃で処分します。
お兄ちゃんがジェドくんの代わりにチェーンソーで内臓肉片カーニバルを展開するのかと思いきや、「ハンマーかい!」と思わず突っ込んでしまうほど絵面は地味ですが、それは逆にグランパの手際の良さを際立たせていました。
見事、面目躍如

『バイオハザード7』にも影響を与えた、あの食卓がちらっと出てきたのも嬉しかったです。

ただ、「『悪魔のいけにえ』の前日譚」として見ると、どうしても「?」になってしまいました。
その点について、後半で触れていきます。



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考察:何でだ!何でそうなった!(ネタバレあり)

映画『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』のシーン
(C)2017 LF2 PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED.

それ、必要だった?なミスリードと、ぶれるレザーフェイス像

レザーフェイスといえば、もはやホラー界の「可愛い癒しキャラ」の地位も確立しつつある(?)ほど、憎めなさが魅力です。
大柄な身体、異様なデスマスク、そして軽々とチェーンソーを振り回す凶暴さとは裏腹に、肝心なところで抜けていたり、反撃されてダメージまで負っちゃうお茶目っぷり

そんな彼は、「知的障害や、自閉症(あえて当時の呼称のまま)傾向にある」「皮膚の感染症や梅毒のためにマスクをしている」といった設定があったはずです。

その時点で、幼少期のハイパーイケメン美少年で、殺人一家の期待を裏切って人殺しを躊躇し拒否する倫理観と精神力を備えた彼の姿は、すでに『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス像とはまったく別物。

それはさておいても、青少年更正施設(というよりもはや精神病院の閉鎖病棟)であるゴーマン・ハウス(院長の傲慢ハウス)からの逃亡者の中で、普通にバドがレザーフェイスだと思って観てました
実は「この中の誰がレザーフェイスになるでしょう!」的な演出だったことに気がついたのは、バドが死んでから。

友人想いで、恋する爽やか青年であるジャクソンが、わかるようなわからないような理由でブチ切れて唐突にレザーフェイスと化していく様は、驚きというより「えっ?えっ?」という戸惑いの連続でした。

大柄、皮膚の感染症、知的障害や自閉症傾向……
どこ行きました?

でも、トビー・フーパーも絡んでおり、そこが検討されていないわけはないので、再構築というか、これはこれで良い、という位置づけなのかな。

「得体の知れない」という恐怖

ブギーマン、ジェイソン、フレディ、そしてレザーフェイス。
有名なキラーに共通しているのは、ある程度のバックグラウンドは描かれつつも、「得体の知れない存在」であることです。

人間は、「わからないもの」「未知のもの」に、本能的な恐怖や不安を抱きます。
そのような対象への理解が進めば、恐怖は完全になくならないにしても、薄らいでいくもの。

『悪魔のいけにえ』におけるレザーフェイスも、そもそも殺人を生業としているソーヤー一家の一員であり、いきなりチェーンソーを振り回して襲いかかってきて、コミュニケーションも通じないという、得体の知れない不気味さが、その恐ろしさを演出していました。

そんな彼が、実はもともとはごく普通の人間で、辛い出来事をきっかけにダーク・サイドに落ちたとなれば、その「得体の知れない恐ろしさ」は、ダース・ベイダーレベルにまで落ちてしまいます。

また、人間、慣れることでも恐怖は薄らいでいきます。

バックグラウンドが描かれれば、対象への理解が進み恐怖が薄れ、
バックグラウンドが描かれなければ、どうしても展開がマンネリ化しやすく飽きられて恐怖が薄れる。

という、ホラーをシリーズ化する難しさが、この点にあるように思いました。

余談:
ちょっと話が逸れますが、終盤の森の中で追いかけっこのシーンは、『Dead by Daylight』というゲームを思い出しました。
『Dead by Daylight』は、レザーフェイスを含めたホラー界の有名殺人鬼たちが登場する、非対称形(鬼が1人 vs, 逃げる側が4人)の鬼ごっこゲーム。
最後、リジーがトラップにかかったシーンなんて、まさに『Dead by Daylight』でした。
「生きている獲物をフックに吊るす」という『悪魔のいけにえ』のシーンが、『Dead by Daylight』にも採用されています。


ジェドくん、何でそうなった!

個人的に、この作品の一番弱かったところが、「なぜ彼はレザーフェイスになったのか」「レザーフェイスはいかにして誕生したのか」という、前日譚に位置づけられるこの作品で一番大事であるべき部分がよくわからなかったという点です。

幼少期の環境要因の影響は大きいものです。
冒頭でもちょっと触れた通り、殺人一家に生まれて殺人が当たり前の環境に育ちながら、5歳にして家族に抵抗を示したジェドくんは、なかなかの意思の強さを窺わせます。

ちなみにこれも余談で、ホラー映画あるある(?)ですが、ジャケ写の「豚の頭をかぶってチェーンソーを持った幼少期ジェドくん」、本編に出てきてませんよね。

そんな彼は、ゴーマン・ハウスに送られてからも、親友を想い、常識的な感覚をある程度失わずに成長していたように見えます。

親友が殺される、好きな人に裏切られる(と感じた)……などショックな出来事は立て続けにありましたが、あの幼少期の環境要因ですら失わなかった心を、何でここで失ってしまったのかがいまいちわかりませんでした。

ただ、それは逆に、「殺人鬼になるのに、明確なきっかけ理由などない」ということなのかもしれません。

現代においても、凶悪事件が起こると必ず「動機は何だったのか」が騒がれます。
それはおそらく、小野不由美の小説『残穢』のレビューでも少し触れていますが、「明確な原因を見つけたいから」という心理によるものと思われます。

納得できるできないは別として、明確な原因がわかれば、「自分とは違う存在だ」と突き放すことができます。
誰もが、明確な理由もなく、傍から見れば些細なきっかけでおかしくなり得る。
そんな現実から目を背け、蓋をすることができるのです。

生理的な「気持ち悪さ」

一方、「恐怖」以上に「生理的な気持ち悪さ」が目立つのがこの作品です。

  • セックスしながらミイラ化した死体にキス(クラリスが一番やばいキャラが立ってた気がする)
  • 牛の腐敗した死体に隠れる(バド含めて潜り込んだのにばれなかったのはすごい)
  • 生きたまま豚の餌にされる(自業自得)

といったあたりは、ぞわぞわと生理的なおぞましさを感じます。

牛の死体から血まみれどろっどろで出てきたときなんて、むしろ感染症とかの方が心配なレベルでした。

あのあと、3人揃ってゾンビよろしくふらふら歩いてたシーンは、正気を失いかけている、というのを描きたかったんですかね?
リジーが明らかにパトカーに向かって叫んだり、バドが銃を向けられてもひたすら突き進んだりしていたのがよくわからなかったのですが、冷静な判断力を失っていた、ということでしょうか。

「牛のせい」説

ここで最後に、唐突に思いついた説で締めくくりたいと思います。

それこそ今触れた、「牛の死体で何か感染症にかかっちゃった説」です。

  • 腐敗した牛の血を全身に浴び、さらに頬を銃弾で抉られたことで、菌が体内を侵蝕
  • のち(エンディングのさらにあと)に皮膚の感染症を発症し、脳も脳炎とか起こして機能低下

かくして、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスが誕生した、という説です。

ただ、体型は太ればいいですが、190センチ以上あるらしい身長については……

まだ成長期だったのかな……。

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