
作品の概要と感想(ネタバレあり)

州知事の娘・エヴァは恋人と友人との卒業旅行のために、10歳のローザは陸軍出身の大好きな祖父母との3人旅行のために、CAのダニーロは彼氏との同性婚を夢見ながら大型旅客機に乗り、南国メキシコのリゾート地・カボへと向かっていた。
だが飛行中、エンジンに鳥が激突して機体は高度2万フィートから、遥か海底へとあえなく墜落。
生き残ったのはエヴァとローザを含む僅か7名のみ。
そして、生き延びられる場所は機内のエア・ロック、ただ一カ所だけ。
生存者たちは身を隠すように救助を待つが、そこは、決して安全ではなかった。
襲い来る水圧、失われていく酸素、そして遂には海の捕食者が、機内に忍び込んで来る──。
2024年製作、イギリスの作品。
原題は『No Way Up』で「(上方向への)逃げ道がない」的な意味。
原題のオシャレさがすべて削ぎ取られた『エア・ロック 海底緊急避難所』という邦題は、良くも悪くもいかにも邦題な感じです。
正統派サメ映画で、公開当初から気になっていましたが映画館での鑑賞は逃してしまい、ようやく鑑賞。
結果、期待通りに楽しめた1作でした。
どれだけ新しいシチュエーションを作れるかのアイデア勝負になっているサメ映画業界ですが、ぶっ飛び設定ではなく正統派な路線でのアイデア捻出はさらに苦しいのではないでしょうか。
そんな中で本作のシチュエーションを生み出しただけでも、まずはしっかりと評価したい。
最近観た『猛襲』と比べると、町全体というある程度開放的な舞台であった『猛襲』に対して、本作は狭い場所で身動きが取れないという対照的な環境。
映像的に動きの幅が狭まる難しさがありますが、海底の閉所というだけで一定の恐怖や圧迫感があります。
海底でサメに襲われるというだけであれば『海底47m』がありますが、本作はそれに加えて飛行機の墜落、水の中ではない避難場所がある、といったような点が斬新。
とはいえ、本作の製作・脚本を担当したアンディ・メイソンは『海底47m』で製作総指揮を務めていたようですし、同作の製作陣も多く関わっているようなので、同路線の進化系、といったようなイメージでしょうか。
アンディ・メイソンは同じようなシチュエーション・スリラーの製作や脚本に多く携わっているので、お好きなようです(あるいは味を占めたのか)。
まず、オープニングの海中の映像がとても綺麗でした。
このあとに海中こそが恐怖になるとわかっていながらも、やっぱり海中はいいなぁ綺麗だなぁと思わされる美しさは、落差にも繋がっておりとても効果的でした。
自分が潜りたいタイプではありませんが、海中は幻想的で好きですし深海とかも大好きです。
その後、メインとなる登場人物たちが順番に紹介されますが、年齢や性別の差がはっきりしており初見で覚えやすい点も、見逃せない親切さ。
エヴァにぶつかってコーヒーで汚してしまったのにちゃんと謝らない少女ローザやその祖父ハンク、典型的な面倒くささ溢れるカイルなど、引っかかる点はありつつも総じて悪い人ではなさそうなところも好印象。
そして起こった飛行機事故は、しっかりと臨場感とド派手さが併存していました。
古い飛行機は怖いですね。
さすがに「簡単に燃えすぎでは?」と気になりましたが、壁が吹き飛び人々が気圧で吸い出されていくシーンは「『ファイナル・デスティネーション』で観たやつだ!」と熱く盛り上がりました。
生きたまま投げ出されたあとはどうなるんだろうなぁ、というところまで考えてしまうと、絶望です。
しかしその後、生きていたら生きていたで海底でのエアロック(エアポケット)に取り残されるという、これまた別の絶望的状況。
バカンスに向かう雲の上から海底に閉じ込められるという、天国から地獄への落差の激しさも素晴らしいです。
頼れるボディガードのブランドンは、あまりにも頼りになりすぎるので懸念した瞬間、哀れ最初の犠牲者に。
残念でしたが、まぁ彼がいたらなかなかパニック状況にならないと思うので、仕方ありません。
その後はひたすらわちゃわちゃしながら、事態が悪化していくのを見守ります。
外の様子が小窓からしか見えないので、あまりサメの姿を映せないところがややもどかしいですが、その分、内部まで侵入してきてサービスしてくれました。
近年、そもそもサメは臆病なのであまり襲ってこないという事実が広まり常識になりつつあるので苦しいサメ映画業界ですが、そんなの関係ねぇとばかりに殺意マックスで捕食ではなく殺戮のために襲い掛かってくるサメ、これはこれで潔くて良かったです。
ブランドンに代わって指揮を執るのは、主人公のエヴァお嬢様、そしてこういった映画では必須の医療知識を備えたナナおばあちゃん。
男性陣は総じて役立たずでした。
あまりにも。
何かこう、フェミニズム的な強い思想があるのか?と思ってしまうほど、少女ローザを含めて女性陣が強く、男性陣が役立たずすぎたところは少々気になってしまいました。
いや、単純にこれがリアリティでしょうか。
特に、CAのダニーロ。
あまりにも空気で、貨物室にダイビング道具を探しに行くのもエヴァに任せる始末。
そこはさすがに機内に詳しいダニーロが行くべきでは?
と思いつつ、何もしなかった(ナナを蘇生させたり要所を押さえてはいましたが)一方、我を失って騒いだりすることもなかった彼が生き残ったというのは、妙なリアリティもありました。
「俺、生きて帰ったら故郷に帰って結婚するんだ」という伝統的典型的な(かつ、今となっては逆に使われることが珍しい)死亡フラグをへし折ったのは評価に値します。
そして、プロなのに無防備すぎる救助ダイバーもあっさり餌となり、「まぁそれしかないよね」な方法で脱出を試みますが、さすがにツッコミどころが満載すぎました。
まずはやはり、減圧症(潜水病)。
急浮上してしまうことの怖ろしさ、そして海面がそこに見えているのに急いで上がることが許されないもどかしさを、我々は『海底47m』で学びました。
それなのに、いくら窒素濃度が高い酸素ボンベをずっと吸っていたわけではないとはいえ、ガン無視であの距離を急浮上するのは、素人目にも明らかに危険。
しかし、ここで思い出してください。
本作の脚本を務めたのは、『海底47m』にも関わっていたアンディ・メイソンです。
減圧症を知らないわけがない彼の描く脚本で、医療に従事していたナナを含めた登場人物の誰一人として減圧症に言及しなかった事実が意味するところは、ただ一つ。
「この作品では、そこは気にすんな」です。
あくまでも、飛行機が墜落して海底に閉じ込められてサメに襲われるスリルやパニックこそが、本作の本質です。
脱出なんてもうオマケみたいなもんです。
何なら本格的な救助隊が来ても良かったのに、「まさか幻覚オチではないよな?」という落ち着かなさも含めて、最後までドキドキさせてくれたのでしょう。
息が続きすぎな点も、夜のそこそこ深い海中なのに周りが見えやすいのも、気にしてはいけません。
もう一つ気になったのは、「サメは泡で撃退できるんだ!」です。
そんなの初めて知りました。
いや、ちょっと調べた限りのネット情報では、確かにサメは泡を嫌い警戒するようでしたが、あんな目の前に突き出しただけで速攻姿を消してくれるほどの効果はやはりないでしょう。
あのレベルで怯んでいたら、到底海の中で生きていけなさそう。
ドラキュラに対するニンニクや十字架ばりに効きまくっていて、ちょっと笑ってしまいました。
生存者が3人というのは、まぁ妥当でしょう。
スタートが7人、早々に退場したブランドンを除けば6人だったことを考えれば、むしろ多い方と言えるかもしれません。
子どもであるローザはほぼほぼ助かるだろうなと思っていましたが、上述した通りダニーロが生き残ったのはだいぶ意外でした。
ブランドンに次いで残念だったのは、ナナおばあちゃんでしょうか。
あの状況で「帽子を取ってきて」と言ったりするのはどうかとも思いましたが、彼女としても混乱が大きかったでしょうし、彼女の知識や技術で助かった場面が多々ありました。
ただ、ブランドンもですが、ナナも最後はだいぶ潔くてかっこよすぎました(それだけに、最後に1人震える姿は胸を打ちましたが)。
自己中に暴れるキャラがいなかったのも、ストレスはありませんでしたが「あぁ死んじゃったか~」という悲しさにも繋がっていました。
やはり、ある程度の自己中さやお馬鹿さというのが、こういった作品の気軽さには大きく貢献しているようです。
その意味では、みんなが他者を思い遣る中でひたすら文句ばかり言い、みんなが勇敢に脱出を試みる中で1人「怖い」と言って引き返してサメの餌食となったカイルが一番、人間らしさに溢れていたかもしれません。
あの腕でだいぶ頑張ろうとはしていましたが。
というわけで、サメだけを求めるとちょっと物足りなさもあるかもしれませんが、有象無象溢れ返るサメ映画界において、新鮮なシチュエーションのパニック・スリラーと組み合わせた正統派路線として十分楽しめました。
しかし、観終わってから改めて日本版のポスターを眺めてみたのですが、めちゃくちゃ適当な印書が否めません。
まずは「いま、底にある危機」というダジャレなキャッチフレーズ。
そして「ようこそサメと無法の王国へ!」という意味不明な文章。
「夢と魔法の王国」にかけている(つまりはこれもダジャレか)のでしょうが、それはそれで関連がなさすぎますし無謀すぎます。
さらには「落下角度最大級に挑む“詰み系”スリラー」という聞いたことのないジャンル。
「内容を観ずに、ポスターの写真とあらすじだけで作らされたのではないか?」とすら思ってしまうザ・日本版ポスター、作っている会議とか覗いてみたいです(嫌味とかではなく純粋に面白そう)。
ちなみに、これを書いているのが2026年7月13日なのですが、本作の監督と脚本コンビでの新作『タービュランス/絶空16,000フィート』なる新作が7月10日から公開されているようで、タイムリーですし気になります。
こちらは熱気球の上というシチュエーション・スリラーのようで、うーん、それだけで面白そう。
映画館にまで行けるかはわかりませんが、いずれは観てみたいと思います。

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