
作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

スヒョンは新居に引っ越しフリマサービスで中古の洗濯機を買ったが、後日壊れた洗濯機が届き、詐欺にあったことに気づく。
警察に相談するが、捜査までは時間がかかると告げられたスヒョンは自ら犯人に連絡することを思いつく。
売り手のアカウントを再び見つけ出し、スヒョンは返金を要求するが、相手にされず、感情的になったスヒョンは相手に怒りに満ちたメッセージを送る。
しかしそれ以来、スヒョンの身に恐ろしいことが起こり始める。
スヒョンは再び警察に相談し、捜査が始まり販売者の家を訪れるがそこには、思いもよらない事態が待ち受けていた──。
2023年製作、韓国の作品。
原題は『타겟』で、シンプルに「ターゲット」の意味のようです。
英題は『Don’t Buy the Seller』で、「出品者は殺人鬼」といういかにもな副題はやはり日本オリジナルでした。
いやぁ、韓国のこういったスリラーはやはり面白いですね。
ツッコミどころは多々ありつつも、スピーディにテンポ良く展開させながら押し切るので、飽きることなく楽しめました。
本作はとにかく、フリマアプリが怖い。
何が怖いって、金銭や商品を直接やり取りしたり、下手をしたら家まで来て取り引きするところが怖い。
そりゃあ出会い目的だったり危ない目的の人が跋扈するでしょう。
本当に韓国にはこんなサービスが主流なのか、さすがに脚色されているのかな、と思いましたが、公式サイトには、
近年、社会問題となっている中古品取引詐欺に焦点を当てたパク・ヒゴン監督は『ターゲットー出品者は殺人鬼ー』を通して「現実を映画に」することを試みた
と書かれているので、けっこう現実寄りなようです。
こうやって考えると匿名配送もできるメルカリなどは安心でもありますが、メルカリもメルカリでたくさんの問題がありますし、まぁどういう形であれ個人間のやり取りにトラブルのリスクはつきもの、ということでしょう。
さて、そんなフリマサイトで洗濯機を買った主人公のスヒョン。
「フリマアプリで洗濯機を買っただけなのに」というタイトルでもいけそうなほど、悲劇に見舞われます。
スヒョンを演じたシン・ヘソンの演技力も相まって、心理的に追い詰められていく恐ろしさがひしひしと伝わってきました。
煽ったスヒョンも自業自得ではありましたが、あれだけの金額の詐欺に遭えば文句や嫌味の一つや二つ、言いたくなる気持ちもわかります。
ただまぁ、触らぬ神に祟りなしというか、不運だったなとフリマサイトを利用する際のリスクの範囲に留めて、運営に通報するぐらいに留めておいた方がやはり無難でした。
平然と悪事を働けるような者を煽っても、ロクな結果にはなりません。
彼女が孤立した要因として、警察の後手後手感は大きかったでしょう。
しかし、警察が万能ではこういった作品は成り立たないので、仕方ありません。
ポンコツでなければいけない宿命ですが、それにしてもポンコツすぎてもどかしさがありました。
若い方のナ刑事は、ザ・韓国な正統派イケメンでした。
あまりにかっこよすぎるのでもしや犯人かと思いましたが、全然そんなことありませんでした。
そんなナ刑事は、まさかのカーチェイスで事故死。
突然の容赦ない展開も、韓国スリラーの魅力ではあります。
しかし、さすがに無茶しすぎではなかったでしょうか。
カーチェイス中にあちこちガンガンぶつけまくっていたような気もしますし、他にも色々被害や怪我人が生じていそうで心配なところ。
正義感は尊敬に値しますが、さすがにどう見ても危なかったでしょう。
年配のチュ刑事は、最終的にはスヒョンの相棒のような理解者になりましたが、とにかく後手後手。
終盤、スヒョンを囮に犯人をおびき寄せたのに渋滞に巻き込まれて間に合わない姿なんて、ひたすら情けなくてなりません。
身を張ってスヒョンを守り、犯人ごと飛び降りた雄姿で挽回しましたが、あれはあれであの判断で良かったのかは疑問が残ります。
PTSDなどにもなりかねない状況で、さらっと日常に戻っていたスヒョンもちょっと怖い。
キモムーブすぎたスヒョンの上司は、思った以上に純愛だったようで、言動の是非はさておき死んでしまったのはかわいそうで残念でした。
そして、本作のすべての元凶であった犯人。
スタイリッシュな知能犯かと思いきや、思ったよりもぽっちゃり系でした(いや、外見は関係ないか)。
あの大事故であれだけの怪我を負いながらも逃げおおせたのは、あまりにもタフ。
作中で彼が殺したのはアカウントを乗っ取った男性だけでしたが、おそらく他にも殺していると考えられるので、シリアルキラーとして認識して良いでしょう。
しかし、シリアルキラーとして考えると、彼の殺人鬼像には少々ブレを感じてしまいました。
まず大事なのは、彼の目的は殺人自体ではありません。
彼の主目的は、おそらくお金です。
あくまでも詐欺で儲けること。
殺人はそのための手段でしかありません。
冒頭でアカウントを乗っ取った男性を殺した手際からも、かなり手慣れた印象を受けました。
さらに、詐欺も殺人も、警察の捜査にまったく引っかからない。
サイバー関連の知識や技術も含めて、かなり高度な知能犯に見えてきます。
そんな知能犯としての彼と、煽られたからといってあれだけ執拗なストーキング行為をするという行動は、やや違和感を抱きます。
ビジネスとして詐欺を働いているのであれば、被害者の文句なんてスルーするのが一番合理的なはず。
実際、スヒョンの相手をしたことが自滅にも繋がってしまいました。
知能犯は執念深くないというわけではないので、シンプルに知能も執念深さも両方持ち合わせていただけという可能性もありますが、高度な技術で詐欺を働く姿と、激昂して衝動的な行動に出たりスヒョンに執着する姿は、ギャップが否めません。
あえてこのギャップを解消しようと考えてみると、導かれる結論は一つ。
「ただ警察が間抜けだった」です。
振り返ってみれば、「海外移住のため」というテンプレ文章を延々使いまわしていたのも、殺した男性の遺体をそのまま部屋に放置していたのも、防犯カメラ設置業者を装ってスヒョンに顔を見せたのも、かなり杜撰な印象が否めません。
そもそも、他人を殺してアカウントを乗っ取り、被害者の物を売って儲けるという犯行モデル自体が、あまりにも短絡的すぎます。
つまり、サイバー関連の技術は確かに高かったかもしれませんが、それ以外は実はたくさんの痕跡を残していたのかもしれない。
ただ警察がそれを見落としたりしまくっていただけ、ということです。
スヒョンにわざわざ顔を見せたのが一番愚かではありましたが、あれは演出上仕方ないでしょうか。
それまで不明だった犯人が満を持して顔出ししたとき、「誰やねん!」という初登場キャラよりも、「お前だったのか……!」という人物の方がインパクトがあるのは確実。
ただ、あの防犯カメラ設置おじさんだったからといって「お前だったのか……!」となった人がどれだけいるかは微妙です。
自分は正直、防犯カメラおじさんだとわかっても「誰やねん!」だったので、むしろこれまでには出てきていない犯人がようやく姿を現した、ぐらいでも良かった気がします。
スヒョンの部屋の中にも防犯カメラが多数あったのは不思議でしたが、あれはおそらくストーカー開始後に設置したのでしょう。
まず部屋前に設置して鍵の数字キーを把握し、不在時に部屋に侵入してカメラを仕掛ける。
その執念は恐ろしいものがありました。
詐欺とバレても同じ文面を使い回したり、前にも同じように詐欺を告発した女性を執拗に追い回したりしていたことを考えると、むしろ彼はこだわりが強く臨機応変な対応が苦手だったのかもしれません。
ちょっと煽られただけであそこまで追い詰めないと気が済まない小物感からは、高い自己中心性と誇大的な自己像も窺えます。
いつから詐欺や殺人を繰り返していたのかはわかりませんが、捕まらなかったのは彼が巧妙だったからではなく、ただ警察が間抜けでラッキーだっただけ、という可能性が高そうなのでした。

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