【映画】フローズン・ブレイク(ネタバレ感想)

映画『フローズン・ブレイク』のポスター
(C)CTB Film Company, 2018
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『フローズン・ブレイク』のシーン
(C)CTB Film Company, 2018

カーチャと仲間たちは年明けを祝うため、ロープウェイで雪山の頂上を目指していた。
ところが、男女4人の乗ったロープウェイは故障により上空60メートルで停止してしまう。
マイナス10℃の中で夜明けを待つ4人だったが、救助は一向に来ない。
追い詰められた彼らは自力で脱出を試みるが、不安定な密室の中で次第に関係が悪化していき──。

2019年製作、ロシアの作品。
原題は英語で『Break』のようです。

雪山でリフトに乗っていたら、置き去りにされちゃった!
というわけで、ロシア版『フローズン』……かと思いきや、なかなかどうして二番煎じだけではないオリジナリティも放っており、思った以上に楽しめました。

まずはシチュエーションも、似て非なるもの。
『フローズン』が普通のスキー場のリフトだったのに対して、『フローズン・ブレイク』は立派なゴンドラです。
『フローズン』の足場がなく脚がぶらぶらするリフトはそれだけで不安定さを醸し出すアイテムでしたが、ゴンドラは安定感がありました(それはシチュエーション・スリラーとしてはマイナスかもですが)。

そのせいか、リフトが停止した瞬間悲観的で大パニックに陥った『フローズン』に対して、『フローズン・ブレイク』はどこかのんびりしており、動画を撮りながら年明けを祝っちゃう余裕までありました。
ただそれも、直前に1回止まったけれどすぐに動き出し、「またすぐに動き出すだろう」という気持ちに(乗っている若者たちを)させる伏線があったので、上手。

また、描かれる恐怖感も、だいぶ異なるものでした。
『フローズン』のネタバレはここでは避けておきますが、『フローズン・ブレイク』は寒さや高さよりも、人間怖いな展開でした。
というより、人間クズいですね。
というよりというより、ロマクズいですね。

ロマ(クズ)は、1人だけカップル漏れしている陽気なおふざけキャラで、余計なことをして仲間を危険に巻き込んでいくキャラかと思いきや、まさかのストレートに仲間を危険に巻き込んでいくキャラでした。
というより、ロマという存在が危険でした。
性格も、陽気というよりむしろ陰湿。

ゴンドラに乗る前からクズっぷりは発揮していましたが、最後までそれを貫いてくれます(でも最期はあっさり)。
極限の状況に追い込まれて醜い部分が顔を出した……といったものでもなく、もともと人間性が醜かったようです。
「ホラー映画の世界に巻き込まれたときに生き残るためには、普段から友達を選んでおきましょう」という標語(今作った)を再認識させてくれる存在でした。

止まったゴンドラの中で殴り合いの喧嘩をするところなんかは、平和だなと思ってしまいました。
本作もホラーの定番「あんま仲良くなさそうだけど、よく一緒に旅行とか来たね」なパターンでしたが、さすがに日本版ポスターの「仲間は全員敵」は言い過ぎです。

雪山が襲いかかってくる前に争い合って自滅していく、少々残念な展開。
ゴンドラの上でのカーチャ(主人公)とロマの戦いはなぜか緊迫感に乏しかったですが、それは音楽も影響していたのではないかと思います。
何かへにょへにょした音楽で、このシーンに限らず「何でこの音楽?」と感じたシーンがいくつかありましたが、文化差でしょうか。

『フローズン』と比較して、全体的に緊迫感には乏しかった印象があり、その点はシチュエーション・スリラーとしては少し致命的でした。
その理由を考えてみたのですが、おそらく、ゴンドラ外の出来事が多く描かれているからではないかと思います。
スタッフやキリル(カーチャの彼氏)の様子がちょいちょい描かれていたので、外部の状況が観ている側にはわかってしまい、それが主人公たちへの没入感の妨げになっていました。
その点が、ひたすらリフトの3人だけを描き続けた『フローズン』との大きな違いでしょう。


シンプルに、謎もないので考察ポイントもない本作ですが、1点だけわかりづらかったのが、冒頭のスタッフの事故死です。
回転している滑車に鉄パイプを噛ませたのは誰か?という点が、最初観たときに第三者が挟み込んだように見えたので、キリルの仕業だったのかと思っていました。
ただ、その後全然そんなことはなさそうだったので、改めて観直してみたところ、たぶんあのスタッフが回転を止めるために自分で手を伸ばして鉄パイプをつかみ、滑車に投げ入れて止めたけれど、時すでに遅く首を吊られてしまっていた、というのが真相だったようです。
カメラワークがいまいちわかりづらかった。

もう一つ少しわかりづらかった点を挙げておくと、カーチャの最後の夢でしょうか。
家族3人が風船を挙げていた夢です。
あれはおそらく、カーチャとキリル、そしてその娘であり、幸せな将来の夢でした。
それが生きようとする活力にもなったのだと思いますし、空に浮かび上がっていく風船が、凧を揚げて助けを求めようという発想にも繋がったのでしょう。
実際それがキリルに目撃されて救助に繋がったわけで、都合が良すぎるという突っ込みはさておいて、何でもやってみるものですね。

気になった部分を挙げるのは揚げ足取りになってしまいそうなのでやめておきますが、一点だけどうしても気になったのが、終盤、キリルが雪上車に乗る優しい人と協力して鉄パイプを取り除くシーン。
ロープを滑車に巻き付け、外から雪上車で引っ張るという発想は良いのですが、屋内から「始めろ、引っ張ってくれ」と叫んで、よく猛吹雪の屋外にいた雪上車の中まで声が聞こえたな、と。
はい、蛇足でした。
しかし、電気がショートしていたのに滑車が動き始めたところは、突っ込んで良いはず

キリルはだいぶ頑張っていましたね。
荷物がなくてあれだけ慌てたのも、指輪が入っていたのであれば仕方ないところ。
しかし、果たして何があって関係が拗れていたのかはわかりませんが、別れて子どもを中絶するつもりだったカーチャは、指輪を見て、死を覚悟する極限状態に陥ったことで、関係性の修復に気持ちが変わったようでしたが、何だかそれで戻ってもまた結局うまくいかない気がしました。
というこれも、余計なお世話でしょうか。


全体的に、シチュエーション・スリラーとしては緊迫感に欠け、どろどろした人間同士の争いが目立ってしまった作品でした。
間抜けな争いが繰り広げられるほど、観ている側の心が雪山並みに冷え切っていってしまいます。

しかし、これも『フローズン』と比較してですが、『フローズン・ブレイク』の規模はあまりにも壮大
「飛び降りても大丈夫なんじゃないか?」とは、これっぽっちも思いません。
地面に見えた雪が崩れて巨大なクレバスが現れたシーンなんか、恐怖よりも圧倒的な感動に包まれました。
人間なんてちっぽけな存在だと思わせてくれます。

特に、新年を迎える山間の街の風景は、心奪われる絶景でした。
何なら、どのシーンも景色が美しい。
圧倒的な景色の美しさが、気になるポイントを吹き飛ばしてしまうほどでした。

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