作品の概要と感想(ネタバレあり)
17歳の女子高校生キャシーは、交通事故で他界した母の死に責任を感じ、自らを責め続けていた。
そんなある日、友人が薦めてくれたスマホの人工知能アシスタントアプリ”AMI”をふと起動した彼女は、音声がカスタマイズできると知って亡き母そっくりに調整し、“ママ”と呼びかけると起動するよう設定する。
やがてAIは自己学習を重ね、キャシーはいつしかアプリを通じて母が帰ってきたように思い始め──。
2019年製作、カナダの作品。
原題は『A.M.I.』と、シンプルに作中に出てくるAIアシスタントの名称。
邦題のセンスはけっこう好きです。
「殺・人工知能」のフレーズはなかなか思いつけない。
現代ならではの人工知能アシスタントをテーマとしたホラー。
設定はだいぶ面白そうですし好きなのですが、内容としては正直、なかなかに残念でした。
ネタには良いですが、純粋に面白いかというと、個人的にはちょっと微妙な印象。
とにかく、すべてが唐突すぎました。
もうちょっとマインド・コントロール的に主人公のキャシーがおかしくなっていく過程が描かれるのかと思いきや、もともとちょっとやばい状態のキャシーが、ママの声のAIアシスタントに急激にのめり込み、何か唐突に暴走し始めるお話でした。
海外の高校生は大人びて見えますし、見た目で年齢がわからないことも少なくありません。
とはいえさすがに!?
と思ってキャシー役のデブス・ハワード(日本だとちょっと名前がかわいそう)を調べてみたところ、1989年生まれだったので、2019年本作出演時には30歳ぐらいでした。
さすがに!!
デブス・ハワードは悪くありません。
登場人物たちは、「何もここまで……」と思ってしまうほど、誰一人魅力がありません。
類が友を呼んでいたのでしょうか。
とりあえず、彼氏のリアムと寝取りが趣味のサラは、いいところが一つも見当たりませんでした。
パパもやばい。
唯一まともだったのはもう1人の友達のルビーでしたが、キャシーにAMIを紹介したのはルビーなので、元凶といえば元凶。
しかも、学校の階段上でリアムが身体を触りながら話していたのはおそらくルビーだったので、もしかしたらルビーも……?
リアムの一方的なアプローチの可能性もありますが、特に嫌がる様子も見せず。
ストーリーも、とにかく滅茶苦茶だったりわかりづらかったりするのが難点です。
そもそもあのスマホって、落ちていたやつですよね?
道端に一旦置いておいて、誰も持ち帰らないからといって自分が持ち帰るのもどうかと思いますが、キャシーはその後ずっとそのスマホを使用しており、自分のスマホは持っていなかったのか……?
でも拾ったスマホでリアムに連絡したりしていたけれど、契約とかどうなっているんだ……?
などなど、あまり本質とは関係ない部分で謎だらけ。
もうちょっとシンプルで良かった気がしてしまいます。
警察の無能っぷりもすごいですし、まさかリアムが犯人扱いされて終わるとは思いませんでした。
とまぁ、突っ込み始めたら止まらなくなりそうなので、この辺で止めておきます。
完全に狂っちゃってるラストシーンは好き。
斧でドアを破るシーンは「『シャイニング』だ!」と期待しましたが、顔は覗かせませんでしたね。
というわけで、テーマはだいぶ面白そうなのに、どうにも作品作りが失敗しちゃってる感が否めない1作でした。
ちょっとだけ考察:キャシーの心理など(ネタバレあり)
冒頭の女性は?
最初に、ややわかりづらかった細かい点を1点だけ。
映画冒頭で、暗い道の中、AMIの赤い光を目撃した女性。
ちなみに、青ではなく赤い光は、AMIの悪い側面?攻撃的な側面?を表現していました。
この冒頭のシーンは、作品中盤にも出てきました。
キャシーが、殺害したサラを埋めようとする場面です。
つまり、この女性は単に、キャシーの犯行(遺体隠蔽)現場を目撃してしまっただけなのでした。
そして、あまりはっきりとは描かれていませんでしたが、キャシーに襲われ、殺害されたようです。
サラの死体を処理したあと、AMIが「もう一つの樽も埋めて」と言っていたのは、この女性の死体を入れた樽のことでしょう。
とばっちりにも程があり、この女性が一番かわいそう。
次点はリアムのお父さん。
キャシーの心理:キャシーはAMIのせいでおかしくなったのか?
まともに心理学的な考察をするような作品ではないので、さらっと。
キャシーは、ママの声で喋るAIアシスタントAMIのせいでおかしくなったのかというと、そうではありません。
それは、スマホを拾うよりも前に、猫の首を絞めていたことからも明らかです。
キャシーの背景としては、自分が運転する車に母親を乗せていた際、交通事故に遭い、母親を亡くします。
キャシーに過失があったのかはわかりませんが、キャシーは自分を責め続けていました。
父親はもともと家庭を顧みるタイプではなく、妻(キャシーの母親)の死後もろくにキャシーと関わることはなかった様子。
そのため、キャシーは孤独に1人で苦しんでいました。
カウンセリングにかかっていたのも、おそらくそのため、つまりは事故後でしょう。
「ジプラシドン」という薬を服用しており、これは統合失調症の薬のようですが、そのあたりのリアリティは厳密ではないと思うのでさておいて、作中では「衝動性、攻撃性」の症状に対するものと説明されていました。
キャシーにもともとそれらの課題があったと考えることもできますが、映画の内容だけで考えれば、事故後と考えるのが自然です。
他者に対する攻撃性は、自分に対する攻撃性が外部へと投影されたものと考えられます。
母親を死なせてしまった自分なんて死んだ方が良いという想い。
カウンセリングで話していた「最近感じるのは、怒り」というのは、おそらく自分に対する怒りでしょう。
自分に攻撃性が向いた場合の究極形態は、自殺です。
それを回避するには、耐えきれない怒りの矛先を外に向けるしかありません。
猫の首を絞めたのは、自分の首を絞めることと根っこは同義です。
そう考えると、自分を裏切った相手に対する怒りや攻撃、そして殺害のエネルギーは、事故後のキャシーに内在していた自分に対する攻撃性によるものと考えられます。
AMIは、キャシーに殺害を唆し、一線を越えさせるきっかけにはなりましたが、AMIが原因とまでは言えません。
喪の作業を妨げるAI
キャシーの母親の声をしたAMIは、さも母親であるかのようにキャシーに語りかけました。
このスマホは何だったのか?という点は、オカルト的な可能性も含めてよくわからないので、置いておきます。
いずれにせよ、キャシーはまるで母親が生きているかのように、AMIと会話をしていました。
母親のスカーフを抱き締めて泣いたりと、それまでの沈んだ様子からは一転、生き生きとした様子に変わりました。
しかしそれは、良いことだったのでしょうか。
親しい者の死(対象喪失)は、当然ながら大きなショックを受ける出来事です。
交通事故のように、それが突然であればなおさら。
心が危機的状況に陥ることも少なくありません。
それを乗り越えるのが、「喪の作業」「モーニングワーク(mourning work)」と呼ばれるプロセスです。
詳細はここでは省きますが、そのプロセスで大切なことは、「しっかりと悲しむ」ということです。
キャシーが母親のスカーフを抱き締めて泣いていたのも、モーニングワークの一環であり、悲しみを乗り越えていくために必要なプロセスでした。
AMIによる母親の代替は、その作業を妨げるものでした。
それは一見、悲しみや苦しみを緩和する望ましいものに見えますが、現実逃避に過ぎません。
大切なものを失う「対象喪失」は、誰しも経験したいものではありません。
しかし、その悲しみを乗り越えてこそ、人としての深みが増し、今あるものの尊さを学びます。
AIによる現実逃避が一概に悪とは言えませんが、たとえば命を軽視するといったような、社会的に大きな変化や歪みを生み出してしまうこともまた間違いないでしょう。
「脳をデジタル化し、死後もAIによってその人の人格を再現する」という試みも、同じような危険性を孕みます。
そんな歪みも象徴していたのが、ラストシーンなのでした。
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