作品の概要と感想(ネタバレあり)
スマートフォンの中に覚えのないアプリを見つけたアージアは、恐る恐るそれを起動する。
するとカメラが立ち上がり、いるはずのない死者の姿が映し出された。
そして24時間のタイマーが作動する。
アージアは、制限時間を過ぎると自身の命を奪われてしまうことに気づき──。
2018年製作、イタリアの作品。
原題は『You Die: Scarichi L’app. Poi Muori.』で、英語だと『You Die: Get the App, Then Die』。
副題の方は「アプリを入れたら死ぬ」といった意味合いなので、そのままの説明。
お前はもう…
死んでいる…
冒頭、制作会社や配給会社のロゴなどが流れずいきなり本編が始まってびっくりしました。
『リング』系列の、死の宣告系作品。
スマホアプリという点では『カウントダウン』に似ていますが、『カウントダウン』は2019年製作なので、『デス・アプリ 死のカウントダウン』の方が先行作品。
ポスターも似ています。
古典も好きですが、スマホなど現代的なデバイスが用いられているホラーも大好きなので、楽しめました。
ほとんど観たことがないイタリアの作品でしたが、「ほんとにパスタ食べてる!」「歌いながらご飯作ってる!ほんとに陽気!」と嬉しくなってしまった単純な自分があまりにも哀れ。
このような単純化された先入観を、心理学では「ステレオタイプ」といいます。
24時間以内に、誰か別の人のスマホにインストールさせないと死んでしまう死のアプリ「YOU DIE」。
アプリという媒介が新しいだけで、不幸の手紙などの流れを汲む伝統ある形式ですが、「他人に押しつけても、24時間のリミットがリセットされるだけ」という設定、とんでもなく鬼畜でした。
人類絶滅に一番近いアプリ。
『リング』の貞子ですら、解除条件を満たせば見逃してくれます。
しかし、「YOU DIE」においては、回避はほぼ不可能。
一度インストールしてしまったら、死ぬまで毎日誰か新しい人にアプリをインストールさせないといけない生活になってしまうので、どれだけ粘っても寿命を迎えるのはほぼほぼ不可能では?と思ってしまいます。
その意味では確かに、「お前はもう…死んでいる…」は、間違っちゃいない。
いや、それでもまぁ、ちょっと、あの、あれですが。
もちろん、作中で明らかになっていないだけで、解除条件があったのかもしれません。
ただ、こういった作品では比較的珍しく、誰もほとんどルールを説明してくれません。
ネットの表層にも、情報はほぼ皆無。
そのため、『カウントダウン』や、死のゲームに巻き込まれる『トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム』のようなぶっ飛び解決法にも思い至ることもなく、ひたすら主人公アージアが右往左往するだけの様子が描かれます。
ラストの飛び降り自殺も「まぁ仕方ないよね……」感。
かといって、ゲームからいかに逃れるかより、ゲームに翻弄される人間の葛藤が描かれているかというと、そういうわけでもありませんでした。
ルールも理解できないまま死んでいった人たちとアージアを除けば、潔く他者を犠牲にするタイプしか出てこなかったからかもしれません。
アージアもルールを知るのが遅かったので、それほど葛藤せずに潔く自殺していったように見えてしまいます。
なので、色々とバタバタしていた割には、ちょっと内容が薄くて地味だったかな?という感は否めません。
幽霊の見た目や演出は、けっこう日本のホラー的であったように感じました。
幽霊は、動いているよりも静止していたバージョンの方が良かった。
地味さやじめじめした雰囲気も、けっこうアメリカとかよりもJホラーに近かったような印象があります。
「幽霊 GO」的な、ARが活用されたスマホカメラの演出も好きでした。
ただ、別にそれほど活用されたわけではなかったのが残念。
「YOU DIE」とかめっちゃ不吉な文字が出ているのに、みんなカメラが起動するとついついカメラで周囲を見回してしまうようです。
しかも、幽霊はカメラ越しでなくても現実でも見えていたのか?
観客だけに見えているのか?
カウントが少なくなると本人には見えるようになるのか?
といったあたりも、少々わかりづらかったです。
これもまたこういった作品には珍しく、友達がみんなすごく常識的で良い人たちでした。
女友達のヴィオラなんてめっちゃいい子でしたが、アージアが一方的にブチ切れて喧嘩して、その後はまさかの再登場なし。
両想いだったレオもまともでしたし、その友人でITに詳しいマルコなんて、とっても優しくて有能でした。
ちなみにマルクが使っていたノートPCは、まさかのPanasonic製。
ホラー映画に出てくる精神科医やカウンセラーは、大抵ろくな描かれ方をしないので悲しいのですが、本作のクラウディアもまた然り。
目力ありすぎて怖いですし、表情や態度、そしてファッションからは、誇り高きサイヤ人の王子並みのプライドが滲み出て……どころか溢れ出していました。
まさかの3回ぐらいも出てきたハムスターが癒し枠。
1人暮らしらしい飼い主の彼が孤独死してしまったので、ハムスターのその後が心配でなりません。
本作の教訓は、安易に人にスマホを貸してはいけない。
あと、パスコードを「1234」にするのはやめましょう。
考察:アプリの謎と、出来事の整理(ネタバレあり)
アプリの謎やルールの考察
作中では十分に説明されなかった「YOU DIE」アプリ。
そのため解明は不可能ですが、わかっている範囲でのルールなどを整理しておきます。
アプリ誕生秘話は謎に包まれていますが、アプリをインストールしてしまい、心を病みながらも生き延びてダークウェブ上のブログで情報発信を続けているらしいマイク・バトラーによると、「霊能力者が、依頼人に死者の姿を見せるためにアプリを作った」という説があるようです。
アプリ開発ができる霊能力者って、かなりかっこいい。
とはいえ、その説を信じるにしても、なぜこのような死の呪いアプリになってしまったのかは、完全にわかりません。
自分たちの姿が見えるアプリに対して、死者たちが冒涜されたと感じ、呪ってしまったのでしょうか。
ルールについては、こちらもマイク・バトラーが説明していたものも含めると、わかっているのは以下の通りです。
- 24時間以内にアプリを他の人のスマホにダウンロードさせないと死ぬ
- 同じ人にダウンロードさせても無効
- スマホを壊しても呪いは解除されず、タイマーが1分になる
- スマホを捨てたり買い替えたり、不正を働けばすぐに死ぬ
- ルールが知れ渡ったら全員死ぬ
スマホを壊すのは、不正には含まれないようです。
微妙にルールが細かい。
「ルールを人に話してはいけない」というのもルールなのに、1人に話すぐらいは問題ないようです。
微妙にルールがルーズ。
その他、作中から考察すると、ルールを守っているかどうか監視しているのは幽霊たち。
幽霊たちもみんな律儀にルールを守り、カウントがゼロになるまで襲わないのは偉い。
カウントが減っていくと、自分の身体に傷が見えるようにもなるようです。
死が近づいているサインでしょうか。
その傷は自分にしか見えないのかと思いきや、クラウディアの傷がアージアにも見えているようでした。
カウントが減ると他者の傷も見えるようになるのか……?
カウントが減ると傷が実体化するのか……?
途中で、セックスさせながら男性のスマホにアプリをインストールしようとした女性(冒頭の女性と同じ?もしかしするとヴィオラの友人のセリーヌでマッチングアプリの相手と会っていた?)がいましたが、インストール途中で男性に見つかり、スマホを取り上げられて、その後はすぐに死者に襲われて死亡しました。
どうやら、完全にインストール完了まで見届けないといけないようです。
シビア。
「アプリを渡す」というルールの境界線が、いまいちわかりません。
たとえば、電話で「このアプリ、ダウンロードしてみて」と言ってインストールさせても、カウントされるのか。
作中では、みんな自分で相手のスマホを手にして勝手にインストールしていたので、その点はわかりません。
ただ、マイク・バトラーやクラウディアが毎日毎日新しい人に会ってスマホを借りていたとも考えづらいので、誘導するだけでもOKと考えた方が自然でしょうか。
細かいポイントの確認と検討
①アージアに「YOU DIE」をインストールしたのは?
これは改めて説明するまでもないかもしれませんが、冒頭で出てきたハムスターの男性です。
ポップコーンを買いにスーパーに来ていたアージアに声をかけ、嘘をついてスマホを借りてインストールしました。
アージアが選ばれたのは、ただの偶然でしょう。
②アージアのバッグにスマホが入っていたのは?
気分転換にスマホを置いてドライブに出かけたアージアでしたが、バッグにはスマホが入っていました。
アージアはこれをヴィオラが入れたのだと思い込み、喧嘩になりました。
が、当然ヴィオラがわざわざ入れたわけはないので、おそらくあれも呪いの一種なのでしょう。
さらに言えば、ホラーのための演出寄り。
③アージアがアプリを渡したのは?
買春おじさんです。
息子たちの写真を見せてもらったときに、流れでインストールしたのでしょう。
初めての買春を試みて、死のアプリをインストールされてしまったおじさん。
悪いことはするものではありません。
④クラウディアがアージアに飲ませようとした薬は?
これは単純に、統合失調症などの患者に用いられる幻覚・妄想などを緩和するための薬でしょう。
クラウディアはアプリのことを知っていましたが、夫のフィリッポ(アージアの兄)の前では知らない振りをしていました。
なので、表向きはアージアを病気扱いしているので、演技で飲ませようとしただけで、別に本当に飲んでも飲まなくてもどちらでも良かったはず。
ただ、あの流れは、アージアを入院させようとしていたように思います。
そうなれば、アージアはアプリを拡散させるにも限界があり、死ぬしかありません。
毒や睡眠薬を飲ませようとしたわけではありませんが、あの時にはもう結果としてアージアを殺すことを決意していたはずです。
やっぱりクラウディア姐さんが一番怖い実は。
⑤クラウディアのスマホをフィリッポのジャケットに入れたのは?
実は、ここが最大の謎です。
ちなみに、若干矛盾する気がするので、スマホを置いて出かけたのにバッグに入っていたアージアの件は、ここでは置いておきましょう。
アージアは、足元に自分のリュックを置いていました。
ただ持ち去るだけなら、自分のリュックに入れれば良かったはずです。
ジャケットを持ち上げたときに、フィリッポが重さで気がつくリスクもありました。
その後、スマホがないことに気がついたクラウディアの取り乱し方もやや異常でした。
スマホがなくても、24時間以内に他人のスマホにインストールすれば、死ぬことはないはずです。
残りカウントがわからなかったり、紛失扱いでルール違反扱いされて死ぬことを恐れたのかもしれません。
ただ、総合的に考えると、フィリッポにクラウディアのスマホを渡したことに意味があり、それを察したクラウディアが取り乱した、と考えると一番整合性がとれるように感じられます。
つまり、アプリの入ったスマホを物理的に「渡した」だけで、フィリッポにも呪いが移った、という考え方です。
そうなると、アージアがフィリッポを巻き込んだことを意味します。
これまでのアージアを考えれば、愛する兄を巻き込むのは不自然なように思います。
しかし、彼女は妻子がいる買春男性のスマホにアプリをインストールしました。
このあたりから、アージアの心が壊れかけていたと考えることも可能です。
アージアは、家に帰りたいと言ったときにはもう自殺を考えていたはずです。
信じてくれなかった兄への絶望なのか、はたまた憎きクラウディアへの復讐なのか。
「ただクラウディアを困らせたかっただけ」という可能性も考えられますが、わざわざフィリッポのジャケットに入れていたことを考えると、そんなダークなラストが想像されるのでした。
ちなみに、アージアの投身自殺後、なぜ帰ったはずのフィリッポが現場にいたのかはわかりません。
アージアの配信動画をフィリッポも見ていたのか、クラウディアのスマホが入っていたのがアージアだと気がついて問いただすために戻ったのか、のいずれかでしょうか。
『デス・アプリ 死のカウントダウン』が好きな人におすすめの作品
『カウントダウン』
余命が表示されるアプリが登場。
死へのカウントダウンという点では同じですが、本作とはちょっと方向性が異なります。
出てくる神父がめちゃくちゃ好き。
コメント