作品の概要と感想(ネタバレあり)
大きな屋敷に兄と2人で暮らすアンナ。
末期がんを患った兄を献身的に介抱する彼女の姿を、日常的に食事を届ける宅配配達員のダンが見守っていたが、ついに兄が死去。
その葬儀の当日、アンナも葬儀に参列して留守であることを見込んで、ヴァンス、ペリー、J.P.の泥棒3人組が彼女の家に侵入するが、広場恐怖症で家から出られないアンナは在宅していた。
家の中から出られない彼女の哀れな姿を目にして、あざ笑う彼らだったが──。
2015年製作、アメリカの作品。
原題は『Shut In』。
shut inは「外出できない、引きこもり、寝たきりの人」などを指すので、主人公のアンナだけではなく、兄のコンラッドも含められるタイトルでしょうか。
強盗が入ってくる展開が早いな、と思わせておいて、実はアンナが捕食者側に回るという『ドント・ブリーズ』的な作品。
ただ、強いのは人ではなくて家であり、アンナは決して強くはない上に詰めも甘いので、ハラハラします。
原題とはまったく違う『侵入者 逃げ場のない家』という邦題ですが、作中において侵入者とアンナの構図が反転すると同時に、このタイトルの意味自体も反転するので面白い。
まさかの壮大なトラップが仕掛けられていたアンナの家。
とりあえず、お金はあり余るほど裕福な一家だったようです。
その割に、からくりのスイッチとか機械はかなりレトロ。
あの家の間取り図というか構造というか、いまだにわかりません。
ちなみに、配達員のダンを演じていたのは、『ホーム・アローン』の子役で有名なマコーレー・カルキンの弟であるロリー・カルキンでした。
トラップハウスは、そこが伏線だったでしょうか(たぶん違う)。
ロリー・カルキンは初めて見ましたが、影のあるイケメンで好きでした。
アンナ役のベス・リースグラフも綺麗でしたが、本作では終始眉間に皺が寄っていて険しい表情。
ただその分、ダンと会話しているときの控えめな笑顔が輝いていました。
どんでん返しとまではいかないまでも、意外な展開を見せて面白かった作品ですが、アンナと侵入者たちは基本分断されているので、『ドント・ブリーズ』のような緊張感は強くありません。
アンナの情緒も不安定なので、爽快感があるわけでもなく、むしろテーマや雰囲気は重ため。
インコ殺害は猛批判を浴びそうです。
過去に色々あったアンナが精神的に不安定だったのは仕方ありませんが、詰めが甘かったり何がしたいのかいまいちわからなかったり、というのもあって、いまいちアンナを応援したくなるわけでもなく、盛り上がりには欠けてしまいました。
まぁ、アンナも好きでやっているわけではなく、勝手に侵入してきた強盗たちへの対処なので、仕方ないといえば仕方ない。
強盗3人組は、これまでにアンナが「治療」していた変質者ではないので、閉じ込めて警察を呼ぶだけでも良かった気がします。
ただ、地下室には過去に殺害した被害者たちの切断遺体が冷凍されたりしていたので、警察が来るのは避けたかったのでしょうか。
それなら何でJ.Pやダンを逃がそうとしたのか?
家を燃やしたら警察が来て事件が発覚するのでは?
という疑問もありますが、アンナはだいぶ自暴自棄になっていた様子も窺えたので、色々とどうでもよくなってきていたのでしょう。
ダンに対しては、指を折ったり突き落としたりと容赦はなかったですが、これまでの信頼や少なからず好意もあったのだと考えられます。
考察:アンナの背景やラストシーンの意味(ネタバレあり)
終盤、アンナと閉じ込めたJ.P.の間で交わされる会話で詳しく説明されるので、そんなに複雑ではないですが、アンナの背景や目的、ラストシーンについて少しだけ。
アンナは過去、父親から性的虐待を受けていたようでした。
それがきっかけかはわかりませんが、広場恐怖症を患い、長年一歩も外に出ることなく家に閉じこもっていました。
ちなみに、広場恐怖症は、広い場所に限らず、公共交通機関や店内、人の多い場所、家の外に1人でいる状況なども対象になります。
ただ、一歩玄関から外に出ただけで目眩を起こしたり失禁するといったようなアンナの病態は、だいぶ誇張されたものです。
そんなアンナを守るため、兄のコンラッドは父親を殺害。
家族写真は4人でしたが、母親はまったく話にも出て来ず、いつどうしていなくなったのかはわかりません。
父親を殺害後、兄妹は家の地下を改修。
変質者の「治療」のための部屋や仕掛けを整えました。
そこに変質者を誘い込み、「治療」と称して反省させ、最終的には首を吊らせて殺害していたようです。
目的としては、アンナのトラウマの克服です。
家の2階にあった寝室と同じ内装の部屋が地下室に作られていたのは、2階の寝室が、アンナが父親から性的虐待を受けていた場所だからでしょう。
そこに、父親のような変質者を閉じ込め、彼らが苦しみ反省する様子を観察し、たとえ反省したとしても最終的には殺害する。
被害者が加害者に転じる心理メカニズムについては、櫛木理宇の小説『殺人依存症』の考察で詳述していますが、大まかには、
「支配されていた弱い自分」から、「支配する強い自分」になる
→ 自分が支配している対象に、かつての弱かった自分を投影する
→ その対象をいたぶったり殺害したりすることで、かつての弱かった自分を消し去る
といったプロセスです。
とはいえ、これがアンナの苦しみからの解放に繋がっていたのかは疑問です。
どちらが主導だったかわかりませんが、本当に妹のためを思うなら、コンラッドは明らかに止めるべきでした。
ただ、アンナの反応からは、J.P.が勝手に推理していたような「コンラッドは殺人の快楽に目覚めてしまった」というのも、あながち間違ってはいなかったのかもしれません。
『侵入者 逃げ場のない家』のラストでは、トラウマを克服したらしいアンナが、家から出て行きます。
これも唐突ではありましたが、理由としては、最終的にアンナの父親のように襲いかかってきたJ.P.を自らの手で殺害したことで、トラウマが克服された、ということなのでしょう。
殺せたからようやく「あなたを許す(=父親を許す)」と口に出来たというのは、なかなか痛烈。
これまではアンナは傍観していただけであり、兄のコンラッドが殺害を担っていましたが、自分の手で殺したことでようやく、解放されたのだと考えられます。
J.P.がわざわざアンナの父親と重なるように襲いかかってきてくれたのも、トラウマ克服の点においては功を奏したはずです。
アンナが家から一歩も出られなかった点は、アンナが過去に囚われていたことを暗示していました。
冒頭では「引っ越さないのか?」というダンの問いに対して、アンナはそんな可能性など考えたこともなかったような反応で「ここが私の家だもの」と答えていました。
そのアンナが、ラストシーンで家を燃やして去って行ったことは、過去への決別を象徴するものでした。
『侵入者 逃げ場のない家』が好きな人におすすめの作品
『ドント・ブリーズ』
感想部分では『侵入者 逃げ場のない家』を『ドント・ブリーズ』的作品と書きましたが、『ドント・ブリーズ』の方が後発作品。
こちらは強盗目的で侵入した若者側の視点ですが、家主の変態最強盲目おじいちゃんとの手に汗握るバトルが繰り広げられます。
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