作品の概要と感想(ネタバレあり)
イラクでトラック運転手として働くアメリカ人ポールは、ある日突然何者かに襲撃され、気づくと地中深くに埋められた棺の中にいた。
手元にあるのは携帯電話、ライター、ナイフ、ペン、酒、そして残り90分の酸素のみ。
タイムリミットが迫るなか、ポールは必死に脱出を試みるが──。
2009年製作、スペインの作品。
原題は『Buried』で、「埋められた」の意。
邦題は、明確にリミットが示されていた感じでもないので、原題の方がストレートですね。
イラクでテロリストに襲撃され、棺に入れて生き埋めにされた主人公の脱出劇を描く、ワンシチュエーション・スリラー。
とても楽しめました。
特筆すべきはやはり、完全に棺の中のシーンだけで90分を費やすところでしょう。
ただでさえ狭い棺の中で、外部の様子が一切映らないというのは、閉所恐怖症でなくとも観ていて息苦しくなってきます。
映像的には変化に乏しいので、飽きる人は飽きるかもしれませんが、そういう人はそもそもワンシチュエーション・スリラーに向いていない気もします。
とはいえ、ワンシチュエーション・スリラーには、引き延ばしのためにぐだぐだ間延びしたシーンが生じてしまうものがあるのも否定はできませんが、個人的に本作ではそれがほとんど感じられませんでした。
だからこそ、終盤で1回だけ、絶望して横たわるポールを映しながら、上空にカメラが引いていく映像がありましたが、それが少しだけ開放感を生んでしまい、もったいなく感じてしまいました。
ただ、完全に棺の中だけで、それも1人演技で90分保たせるのは、並大抵の業ではありません。
携帯電話を絶妙に使いながら二転三転させていく展開は、圧巻でした。
逆に二転三転しすぎて、蛇が出てきたときなんかは、もうかわいそうすぎて逆に笑ってしまいました。
ブルース・ウィリスにボヤいてほしいレベルでしたが、ブルース・ウィリスだったら絶対脱出してしまいます。
主人公ポール・コンロイを演じたライアン・レイノルズの演技があればこそというのは、言うまでもありません。
本編中ではまったく思いませんでしたが、本記事の冒頭に載せたカットシーンだけ見ると、ちょっと阿部寛っぽい。
全然似ているわけではないので、奇跡の1枚。
ポールが電話相手に悪態をつきまくるところは、自ら事態を悪化させている感も否めませんでしたが、電話相手がことごとく役に立たず、不安障害も抱えているとなれば仕方ありません。
ただその分、知人に電話してもあまり人望が厚くなさそうなポールだったので、思い入れは弱めになってしまい、奥さんとの電話シーンもそこまで感動といった感じではありませんでした。
不安障害については詳細はわかりませんでしたが、そこまで極端なパニック発作は起こしていなかったので、ポールは閉所恐怖症ではなかったようです。
息苦しさや暑さも描かれていましたが、生き埋めモノにしては珍しく、あまり酸素の心配はされていなかった印象です。
完全に密閉されていたら、あれだけジッポとか使っていたら速攻酸素がなくなってしまう気がするので、蛇が入ってきた穴など、酸素の供給口はあったのかな。
そうだとしてもかなりか細い供給だと思うので、あれだけジッポを使ったり叫んだらかなりしんどくなりそうです。
終わり方も性格が悪過ぎ(褒め言葉)で、鬱映画に分類できるでしょう。
希望を持たせて突き落とす終わり方、好きでした。
途中の解雇のための録音なども、相当な胸糞です。
しかしまぁ、ワンシチュエーション・スリラーの楽しみ方は「自分がこの状況に置かれたら?」と考えることですが、生き埋めは相当に、嫌なランキング上位に入りますね。
本作の棺は少し広めでしたが、身動き取れない、暗い、水も食料もない、息苦しい、というのが続けば、幻覚・妄想といったような拘禁反応が出てくるのも時間の問題でしょう。
発狂したまま死ぬに死ねず、餓死か窒息死を待つしかないというのは、まさに地獄。
考察:結局何がどうなっていたのか?(ネタバレあり)
ポールしか映らないにも関わらず、電話を通して色々な登場人物が入り乱れる本作。
何が起こっていたのか?何がどこまで真実だったのか?という点を、少し考察してみます。
ちなみに、製作年やテーマ、出てくるキーワード、そしてこの作品がスペイン製というのは、かなり風刺的なものも感じますが、そのあたりの感覚はよくわからないので置いておきます。
電話相手はどこまで本物?
本作で難しいのが、電話先が本当に正しい機関に繋がっていたのか、という問題です。
緊急センターや、国務省の人質対策のプロであるダン・ブレナーなど。
これらもすべて、犯人側がなりすましていた存在である、と考えることも可能です。
つまりは、すべてはポールを絶望の淵に叩き落とすための演出だった、という考え方。
しかしそうなると、そこまでポールが恨みを買っていたとは、少なくとも作中に描かれていた情報からは考え難いものがあります。
アメリカ側の自作自演だとしたら目的が不明すぎますし、本当にテロリストの仕業だとしたら、いくらアメリカ人が憎いにしても、そこまでの労力を割いている暇もないはずです。
最終的にはリンダに繋がっていたことからも、本当にアメリカに繋がっていたのは間違いありません。総合的に考えれば、電話先はすべて正しいところに繋がっていたと考えるのが自然です。
ポールが埋められたのはなぜ?
薬やお酒(水分)、ライトや携帯電話が一緒に閉じ込められていたことからは、ただ殺すためだったとは考えられません。
目的は、やはりお金だったのでしょう。
なぜあのような回りくどい方法を取ったのか、という点は、現実的な必然性は思い浮かばないので、深入りしない方が良いポイントかもしれません。
人質としてお金の要求に使い、お金を得られればそれでラッキー。
駄目であればそのまま放置しておけば、銃弾を無駄にすることもなく葬り去れる。
犯人も、プロのテロリストというよりは、戦禍において家族や仕事を失った人物のようだったので、アメリカ人を苦しめたいという想いもあったりと、色々な感情が渦巻いていたのかもしれません。
CRTの人事部長からの電話
ポールが所属してた会社CRTの人事部長ダベンポートからの電話。
録音しながら淡々と質問して解雇を告げるという、何とも鬼畜の所業です。
危険な地域に社員を送り込む企業としては仕方ない面もあるのでしょうが……。
これは単純に、社員が巻き込まれ人質に取られたことの責任を、企業側が負わないための措置です。
同じく人質に取られ銃殺された同僚のパメラ・ルティとは、実際には男女の関係にはなかったと考えられます。
どちらも責任を負わないために、2人が規約規範をしていたとでっち上げて、時間を遡って解雇。
2人が人質になったのは解雇後になるので、CRT側には何も責任はない、という理屈です。
ダン・ブレナーはどこまで本気でポールを助けようとしていた?
結論からいえば、ほとんど本気で助けるつもりはなかったのでしょう。
もちろん、助けられるなら助けたい、助けられたらラッキーぐらいの気持ちはあったでしょうが、まず、身代金を払うことはあり得ません。
この点、一度払ってしまえば身代金ビジネスが成立してしまうので、今後、さらなる被害者を生み出す可能性があるので、客観的に見れば支払わないのが明らかに正解ですし、定石です。
とはいえ、多くの犠牲者を出さないために1人を見殺しにするという構図の、「1人側」の視点から見ると、やはり相当な絶望が伴いますね。
ポールの携帯はエジプトの回線を経由していた、というのも真実だと思います。
ただ、それを踏まえてエジプト政府に情報開示を求めたりも、きっとしなかったのでしょう。
エジプト政府に貸しを作ることになるので、そこまでしてポールを助けるつもりもなかったはずです。
ポールが人質動画を撮ってしまったのも、ダンの火に油を注いでしまった可能性もあります。
CRTからわざわざ解雇通知の電話が来たのも、あの動画で一気に情報が広まってしまったからとも考えられます。
ラスト直前で、「捕まえたシーア派ゲリラがアメリカ人を埋めた場所を知っていると言っている」という情報をもとにポールを助けようとした点。
この点も、きっと真実です。
わざわざ身代金を払ったり、他国に貸しを作ってまで助ける気はありませんでしたが、たまたま捕まえたゲリラが場所を知っていた。
犠牲を払わず助けられるなら助けよう、という気持ちぐらいはあったはず。
ただ、そのゲリラが言っていた場所は、ポールが埋められている場所ではなかったというだけでした。
マーク・ホワイトは何者?
ダンがポールからの信頼を得るため、「過去に助けた人質の名前」として挙げたマーク・ホワイト。
マーク・ホワイトは、結局はポールと同じように埋められていた、というのがラストで明らかになります。
つまり、ダンは嘘をついていたのでした。
ここもまぁ、当たり前と言えるかはわかりませんが、本当に助けた者の名前を喋るのは、個人情報や国務省の機密上問題があるでしょう。
好意的に解釈すれば、ダンは立場上、本当に助けた者の名前を言うわけにもいかなかった、と考えられます。
結局、マーク・ホワイトも過去に棺に入れて埋められており、そのまま死亡。
ダンたちが捉えたシーア派ゲリラが知っていたのは、ポールではなくマークを埋めた場所だったのでした。
おかげで、死を悟って穏やかな境地に至ったのに、再び生きる希望を持たされて、しかしその糸をぷっつり切られて死んでいったポールの絶望は、想像すらできません。
また、マーク・ホワイトも埋められていたことからは、棺に埋めて身代金を要求するという方法は、ポールが初めてではなかったことが明らかになり、犯人たちの常套手段になっていたことも考えられます。
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