作品の概要と感想(ネタバレあり)
クラウディオはクライアントとの重要なミーティングの直前に、オフィス内のエレベーターに閉じ込められてしまう。
救助が来る気配はなく、わずかに開いたドアの隙間から外の様子を伺っていると、女性の悲鳴が聞こえてくる。
実は彼がエレベーターに閉じ込められている間に、外では謎の致死性ウィルスが蔓延し、人々を凶暴なゾンビに変えていたのだった──。
2017年製作、イタリアの作品。
原題は『In un giorno la fine』。
直訳が「1日で終わり」だったので、とある1日の出来事を描いたということなのか、終わりの日(週末の日)みたいなニュアンスなのか……?
エレベーターというワンシチュエーションに、ゾンビ要素が加わった作品。
ゾンビはゆっくり系ではなく走り回る系。
逃げ惑ったり戦ったりと動きが多くなりがちなゾンビものでありながら、舞台はずっとエレベーターの中だけという試みが斬新でした。
登場人物が基本的に1人だけのワンシチュエーションなので仕方ない側面もあるのですが、正直、展開が退屈で途中から少々飽きてしまいました。
『[リミット]』のように次々と謎や展開が繰り広げられるわけでもなく、基本的に誰か通りがかってはその人が襲われ、誰かに電話してはその相手が襲われ、という繰り返しで、展開の単調さが否めません。
設定は面白く好みだったので惜しいところですが、チャレンジングな試みは評価したい。
時間は103分でしたが、個人的には90分ぐらいにまとめても良かったような気もします。
脱出できそうで脱出できない絶妙な状況。
ワンシチュエーションものでは脱出が目的になることが多いですが、本作は脱出することが安全なのかどうかがわからない、むしろ外の方が危険かもしれないところに面白さがありました。
しかし逆に、エレベーター内は安全地帯と化していたので、差し迫った緊迫感に繋がりづらかったのも退屈さの要因でしょうか。
喜怒哀楽をこれでもかと表現しながら主人公のクラウディオが1人芝居を頑張っていましたが、さすがに限界があります。
半ば顔芸と化したリアクションは、ちょっと笑ってしまった場面も。
単調さをかき消すためにクラウディオの感情表現を豊かにしたのかもしれませんが、それが情緒不安定な感じになり、よくこれで優秀なビジネスマンになれたなと思うほど、クラウディオの魅力を下げてしまっていた印象です。
何とかエレベーターのドアを開けようとするシルヴィア(冒頭でコーヒーを持ってきた新入社員)に「背後は俺が見張ってるから!」みたいに適当なことを言いながら、とにかく自分を助けさせようとしていたシーンなどは、「クラウディオなんて放っておいて、シルヴィア逃げて!」とむしろシルヴィア側を応援してしまうほどでした。
あの極限状況だから仕方ない部分もあるかもしれませんが、それ以前に、運転手に対しての態度、元不倫相手に一方的に迫る身勝手さなどなど、クラウディオの性格は冒頭から難ありでした。
自己中心的な強引さは、ビジネス上は有効だったのかもしれませんが……。
ただ、野心の強そうなシルヴィアはさておいて、元不倫相手も、サラ(秘書)も、果ては非常用通話で繋がった管理人も、クラウディオを尊敬しているような雰囲気がまったくなく、適当にあしらっている感じでした。
それにまったく気がついていなさそうなクラウディオの姿は、哀れですらありました。
普段からスタッフに陰口を言われまくっていたんだろうな……と想像できてしまい、切ない。
自業自得ですが。
とはいえ、さすがのクラウディオも「自分さえ助かれば他の人はどうなってもいい」というほどの鬼畜ではなかったようで、妻のロレーナの安否に一喜一憂したり、ゾンビになったとはいえ元同僚を殺すことへの苦悩なども描かれていましたが、観ている側としては、普段の生活の様子はまったく描かれなかったので、いまいち感情移入しづらいものがありました。
警官のマルチェッロの登場は新たな展開を見せますが、退屈さを吹き飛ばすほどの影響はありませんでした。
噛まれて感染したマルチェッロを殺すか殺さないかという葛藤も、ゾンビものでは定番のため食傷気味で、盛り上がりには欠けてしまいます。
マルチェッロは、最初から助かるとは思っていませんでしたが、いいヤツだったので残念。
死を前に、妻と観た映画のくだらないギャグを思い出して大笑いしているシーンなどは、リアルさを感じました。
ビジネスで成功している人は時間の貴重さを知っているので、せっかちな人が少なくありません。
それはクラウディオもまた然りで、マルチェッロから無線越しに「黙っていろ」と言われたにもかかわらず、10秒も待てずに「無事か?」と訊いてしまうようなところも、妙なリアルさがありました。
クラウディオが初めて銃を撃ったとき、ゾンビに当たらずドアに当たって跳弾で危なくなったシーンもリアル。
そういった妙に細かいところがリアルな一方で、エレベーター入り口の下に敷いた紙が全然血で染まっていなかったり、ショットガンでは跳弾が全然なかったり、誤射で怪我をした右脚でゾンビを力強く踏みつけまくったりといったような、比較的目立つ部分での粗さがアンバランスだった気も。
トイレ問題については完全スルーでした。
肝心なところでは、あんな立派なビルなのに、エレベーター内に防犯カメラがなかったのも気になりました。
あと、タバコをスパスパ吸っていましたが、火災報知器もない様子。
最寄り階ではなく中途半端なところで停まってしまう仕様なのも、ビルの外観からするとあまりにもお粗末。
緊急停止ボタンではなさそうな「STOP」ボタンがあったのは、日本から見ると斬新でした(イタリアでスタンダードなのかはわかりませんが)。
クラウディオの乗ったエレベーターのドアは、部品が引っかかっていて開かなかったわけですが、部品を外したあとは、そちら側の扉だけを動かして脱出していました。
てっきり左右が連動しているのだと思っていましたが、独立していたなら、部品が引っかかっていなかった側は、何で開かなかったんですかね……?
反対側も同じように引っかかっていた、ということでしょうか。
最後は、エレベーターを出たのが正解だったのかは微妙なところです。
軍に救出された奥さんにも自分はまだ会社ビルのエレベーターに閉じ込められていることが伝えられたので、どれだけゾンビが残っているのかわからないビルの中をうろつくよりも、待っているのもありだったようにも思いました。
ただあれだけずっと閉じ込められていたので、出たくなってしまう気持ちもわかります。
そもそもどうすれば良かったか?で考えると、スマホはもっと活用できたでしょう。
SNSなどで「会社のエレベーターに閉じ込められていること、救助を必要としていること」を伝えれば、拡散してもらえたのでは。
SNSをまったくやっていないかった可能性もあるかもしれませんが、バリバリのビジネスパーソンのようだったので、人脈がゼロというのは考えづらい。
ただもちろん、ローマ以外の地域や国が無事であるという保証はありません。
「研究所で作られたウイルスが蔓延した」とマルチェッロは予想していましたが、客観的な背景情報はほとんど皆無なので、考察はしようがありません。
ラストの「THE END?」の「?」については、ビル周辺だけではなく、ローマ中が被害に遭っているような俯瞰映像で終わっていたので、「脱出できたけれど、これで無事に終わったのか?(まだまだ地獄は続くかも)」というニュアンスでしょうか。
不穏さや続編の余地を残すエンディングは定石ですが、「THE END?」の文字だけ放り投げて終わるのは、なかなか新鮮でした。
ちなみに本作の英題は『THE END?』のようです。
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