【小説】背筋『口に関するアンケート』(ネタバレ感想・考察)

【小説】背筋『口に関するアンケート』(ネタバレ感想・考察)
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作品の内容と感想と考察(ネタバレあり)

タイトル:口に関するアンケート
著者:背筋
出版社:ポプラ社
発売日:2024年09月04日


ちっちゃ!

で、有名な(?)、超コンパクト型ホラー小説(勝手に命名)。

表紙も印象的で、でかでかと載せると何だか不安感が煽られますが、でかでかと載せます。
笑顔の口元がアップになっているだけで何となく落ち着かない気分になるというのも、興味深い。

もはや説明するまでもなくなった、『近畿地方のある場所について』の背筋による3作目。
発売日順にカウントして3作目とはいえ、2作目の『穢れた聖地巡礼について』の発売日が2024年9月3日と『口に関するアンケート』と1日違いなので、ほぼ同時発売と言えます。


本作はいかにも著者らしい、コンパクトながら巧妙な仕掛けが施されている1作
すでに「背筋らしい」という感想が出てくるところが、『近畿地方のある場所について』のインパクトを物語っています。

とにかく短いので、感想としては「やっぱり巧いなぁ」の一言に尽きます。
最後のアンケートによって全貌が見え、赤文字の意味もわかり、ぞくっとする構成は見事としか言いようがありません。

全貌が見えてまとまっていながらも、考察の余地を残しているところもさすがです。

大まかな流れとしては、

村井翔太、杏、伊藤竜也、原美玲の大学生4人が心霊スポットである霊園に肝試しへ。
実は言い出しっぺの翔太が、元カノの杏の現在の彼氏である竜也を呪い殺すために発案したもの。
翔太を呪うつもりが「てへ、失敗しちゃった☆」で杏が呪われ、死。

 ↓

約1ヶ月後、大学でオカルト研究部のメンバーである川瀬健と堀田颯斗が同心霊スポットを訪れ、健が杏の霊(?)を目撃し声をかけた。
その後警察に通報し、杏の遺体が発見される。

 ↓

杏による呪いの木を利用した呪いによって、翔太、竜也、美玲、健、颯斗の5人が呪いの木に集合し、それぞれが当日のことをすべて話すよう促され、話し終わった者から台を蹴って首吊り自殺。

であったと考えられます。

しかし、
杏の呪いの目的は何だったのか?
真実を話させることだったのか?
なぜあまり関係ないオカ研メンバーまで巻き込まれたのか?
杏の霊の口から発せられるセミの声を聞いたのがいけなかったのか?
5人が集まって話しているにしては、話し方に違和感があるような気も?

などなど、細かい謎は残ったまま。

個人的な解釈としては、すべてやはり呪いの木の影響であるという説です。
というより、もともと呪いの木でも何でもなかった木が、人が勝手に意味づけ、語り継がれる中で変質し、呪いの力を持ってしまった。
もはや呪いに目的や意味もなく、ただそれが暴走しているだけだと考えられます
セミの声を聞いてはいけなかったのだとしても、それも今回、翔太の願いによって生まれた新しい力です。

全員を集めて語らせたのも、死ぬ直前の杏の願いを呪いの木が聞き届けたというよりは、呪いの木に影響を受けた杏の願い、という側面が強そうです。
語らせて、それが拡散されていく。


重要なのは、作中の出来事が実際にどうだったのか、というよりも、作品外から眺めるメタ的な視点でしょう。
本作でキーになっているのは、裏表紙にも書かれている「口は災いのもと」でした。
肝試しに行こうなんて言ったのも、元カノに復縁しようなんて言ったのも、それを今の彼氏に見せたのも、幽霊に声をかけたのも、みんな口は災いのもとだったとも言えます。
木と口で「杏」なのも何とも皮肉ですね。

呪いのルーツが徐々に明らかになる民俗学的なミステリィホラーとは異なり、「何もなかったのに人が勝手に語ることで意味を持たせてしまった」というのが本質でした
内容はまったく異なりますが、「システムの暴走」をテーマにしている芦花公園『ほねがらみ』に近いものも感じます。

メタ的に見ると、本作では明確な解答は示されません。
最後のアンケートもミスリード的なものかもしれず、あのアンケート内容が今回の出来事の真実を示唆しているとも限りません

それでも何となくわかった気になって、それでも細かい謎が気になるので読者がネット上でそれぞれの考察を語ったりして、勝手な解釈や答えが広まっていく。
それこそ、本作で語られていた呪いの木が生まれたメカニズムとまったく同じものでしょう。

それはまた、怪談や都市伝説と同じメカニズムでもあります。
勝手に意味づけられ、語られる中で変容していく。
人間の恐怖心の本質を突いたような作品であり、単純に現実に侵食してくるようなメタ性だけではなく、「誰かに語って拡散したくなる」要素の匙加減があまりにも絶妙。
そのメタ的な視点は『近畿地方のある場所について』ですでに十分すぎるほどに目立っていたので、著者が得意とする要素となりそうです。


『近畿地方のある場所について』の考察で、著者について「少なからず心理学を学ばれていたのではないかと邪推しています」と書きました。
しかし、のちのインタビューで、大学ではデータサイエンスを主に学ばれたことが語られていました。
もちろん、メインの専門とは別で心理学を学んでいた可能性は十分ありますが、勝手な考察なんて、こんなものなのです。

と、謎の自虐のようになってしまいましたが、それでもやはり、色々とあれこれ考えて語り合うというのは楽しくて好きなので、今後も続けていきたいと思います(一方的に発信しているだけですが)。

それでは。

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