【小説】小林力『この本の拡散は防止不可能です』(ネタバレ感想)

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小林力『この本の拡散は防止不可能です』の表紙
(C)Riki Kobayashi 2025
目次

作品の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:この本の拡散は防止不可能です
著者:小林力
出版社:スターツ出版
発売日:2025年11月28日

読んだ方から多数異常が報告されています。
本掲載原稿を見つけても読み進めない事をお勧めします。


2024年末~2025年頭にかけて小説投稿サイト「ノベマ!」において実施された「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」において最終審査に選出された作品。
コンテストの大賞は海藤文字『ある映画の異変について目撃情報を募ります』で、こちらの感想はすでに以下に書いています。

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『ある映画の異変について目撃情報を募ります』も同じでしたが、本作『この本の拡散は防止不可能です』も書籍化にあたってタイトルが変更されており、コンテスト投稿時のタイトルは『よるべない叫び』でした
以前読んだ別の作品、櫻井千姫『行方不明の友人を探しています』も同じスターツ出版ですが、超王道モキュメンタリーなタイトルで出版するのがスターツ出版の戦略のようです。

『よるべない叫び』は作中に出てくる呪われた書籍と同じタイトルで、それがより現実侵蝕性を高めているので、このタイトル変更はやや大胆とも言えます。
それでも、昨今のモキュメンタリーホラー小説ブームを踏まえて、注目されやすさ、手に取ってもらいやすさを重視したのでしょう。
『この本の拡散は防止不可能です』というタイトルは、若干内容とのずれを感じなくもありませんが。

そもそも、作中作の『よるべない叫び』は山元優斗くんの虐待死ルポなので、我々が読んでいる本作がまさにその本だった、というわけではありません。
その意味では、本作のタイトルを『よるべない叫び』とするのは、「読んだら呪われる本を読まされてしまっていた」と思わせる効果がある一方で、少々ややこしくもありました。

さて、そんな本作ですが、内容も超王道なモキュメンタリーホラーでした
良く言えば期待を裏切らない、悪く言えば予想を超えてこない、と言った感じでしょうか。
ただ、それは「リアルさ」が大事なモキュメンタリーとしては望ましいものでもあります。

『行方不明の友人を探しています』は登場人物のわざとらしい説明口調などが引っかかってしまったのですが、そのあたり本作は丁寧だったと思います。
誤字・脱字が多かったり(ここは校正の問題でしょうか)、音などの表現がみんな同じだったり、同じような内容が繰り返されてちょっとくどかったり、数行の間に「春之さん」「うちの人」「主人」と呼称が入り乱れてわかりづらかったり、などはありましたが、全体的にこなれた文章に感じました。

ただ、作者の正体はまったく不明で、本作以外にはノベマ!にも作品が見当たらず、本作が初投稿作品なのか、別名義で活動されているのかもわかりません。
作品内では、作中作の『よるべない叫び』の著者について主人公が検索した際に、「大往生と呼べる年齢ですでに亡くなっている同姓同名の時代小説家が出てきた」と言及していましたが、この時代小説化の方は現実にいたようで、検索すると出てきます。
書籍化にあたってのコメントなども含めて、本作のモキュメンタリー性を徹底的に保とうとしている姿勢が感じられました

内容はかなり地味ですが、本当にリアルなモキュメンタリーを作ろうとすれば地味にならざるを得ないと思うので、若干の物足りなさは否めませんが、肯定的に捉えています。
作中では鈴木光司『リング』や映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』にも触れていましたが、まさにこれら感染・拡散系や現実侵蝕系、モキュメンタリーホラーの王道をそのまま踏襲したイメージ

実在する作品名を出したりしてメタフィクションをメタることによってリアルさを高めていましたが、この手法ももはや定番と言えるでしょう。
主人公が「これじゃあ『リング』などの二番煎じじゃないか」みたいなことを何回も言っていたので、それ以上の何かがあるのかと期待してしまいましたが、結局このセリフもリアルさを高めるための演出で、やや辛口に言えばまさにビデオを本に置き換えただけの二番煎じのままに留まってしまっていた印象もあります。
贅沢ですが、もう一歩オリジナリティが欲しかったな、と思ってしまい、そのあたりが大賞には届かなかった要因でしょうか。

偉そうな物言いになってしまいましたが、上述した通り、徹底したリアル指向は好きです
感染系の割に一度呪われてしまったら回避方法が一切なさそうなところは、妙に現実的な容赦のなさで好きでした。

自分が感じた物足りなさは、ホラー小説を読み漁っているがゆえの物足りなさであり、スターツ出版作品はホラー初心者も主なターゲットにしていると思いますし、読み終わったあとに「大きな音が聞こえてきたら嫌だな」と少しでも思ってしまった時点で成功でしょう。
終盤のフォントを変えての演出は個人的にはない方が良かったですが、これは完全に好みの問題。

怪異現象の背景設定は、良くも悪くもほぼ説明なし。
大枠としては、

  • 20年以上に母親およびその交際男性による小学生(仮名ですが山元優斗くん)虐待死事件があった。その1週間後、逃亡していた母親と男性は事故死
  • 元新聞記者の小林力なる男性が、その事件をルポ形式で書籍化して自費出版
  • 出版後に小林力は飛び降り自殺をし、その本を読んだ人たちも次々に不審な死を遂げた

という流れでした。

これ以上に背景説明はほぼなく、深く考察するような感じでもありません。
なぜその本が呪われたのか?も不明ですが、著者も音に悩まされた上で自殺していることを踏まえると、やはり優斗くんの呪いと考えるのが自然でしょう

ただ、恨みつらみというよりは、無念や悲しみがベースでしょうか。
呪われた相手を殺そうという悪意があるというよりは、「懐く大人と懐かない大人がいる」という点も含めて「自分の苦しみをわかってほしい」という気持ちがあるように想像されます。
このあたりは、児童虐待も絡んでいるので重めですね。

本は少ないとはいえそこそこ発行されたようだったので、全部に呪いをもたらす効果があるのだとすれば、ほとんど売れなかったにしてもけっこう大変なことになりそう。
「絶対に読むな。読んだら後悔するぞ」のレビューや本の帯を書いたのは誰なのかなど、細かい謎はいくつも残っていますが、あまり細かく考察検討するような作品ではないでしょう。
明らかにならない謎がたくさん残っているところも「現実っぽい」と捉えて、呪いや怪異現象が広がっていく怖さを純粋に楽しむ作品であると感じました。

というわけで、エンタメ性を求めるとやや物足りなく、地味がゆえに強く記憶に残る作品ではありませんが、部屋で大きな物音がするという日常あるあるをうまく絡めつつ、あえて地味さを保ってモキュメンタリーに徹した姿勢はとても好きで楽しめた1作でした

本作が好きな方には、同じく読むと呪われる本を扱った滝川さり『ゆうずどの結末』もおすすめ。
モキュメンタリーっぽさもありつつ、本作よりエンタメ度が高めです。

小林力『この本の拡散は防止不可能です』

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