【小説】背筋『目が』(ネタバレ感想・心理学的考察)

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小説『目が』の表紙
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

タイトル:目が
著者:背筋
出版社:ポプラ社
発売日:2026年06月25日


『口に関するアンケート』に続く、ポプラ社から出版されたミニミニサイズなA6変型判の作品第2弾。
サイズは微妙に異なりますが、文庫より小さいサイズの書籍は、知念実希人『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』や『エゴサ厳禁』(いずれも双葉社)、白井智之『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(実業之日本社)などが続いており、『口に関するアンケート』が火付け役となったと言えそうです。
本作のテーマは『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』とその続編『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』に通ずるものもありました。

『口に関するアンケート』については、以下の記事に感想を書いています。

あわせて読みたい
【小説】背筋『口に関するアンケート』(ネタバレ感想・考察) 【ネタバレ感想・考察】 口に関するアンケート

本作は「口」に続いて「目」「視線」をモチーフとした1作。
ポプラ社から小型の2作目を出すにあたり通底するテーマを探し、目が選ばれたようです。
次作はまた何か顔のパーツか、と思いきや、インタビューにおいては、

まず『目が』が成功したら、今度は「心臓」をモチーフにした作品を書いてみたいです。
「口」「目」と続いたら、みなさん「鼻」や「耳」をイメージされると思うんですが、そこは裏切っていきたい。
私、捻くれ者なんです。

https://ddnavi.com/article/1422750/a/2/

という著者らしいコメントが残されています。
これすら、本当かどうかわかりませんけどね。

また、『目が』の3つ目のエピソード「功徳」は、宝島社のショートホラーアンソロジー『5分で読める! 誰かに話したくなる怖いはなし』に含まれている「引き換え」が原型です
こちらは「功徳」よりもさらに短いお話で、5分もかからずに読めます。
このエピソードを膨らませて、さらに他のエピソードまで生み出し、パズル的に組み合わせたのが本作、というのも上述したインタビューで述べられていました。

そのため、本作のコアとなるのはこの「功徳」でしょう。
本作では神様を「架空の存在」と断じながらも、多くの人が善行を行うときにはどこかしらで神様の目を意識しているのでは、という面白い2つの視点が組み合わさっています。

相変わらず安定した面白さと読みやすさなのは言わずもがなですが、「見る」「見られる」の両方に、しかも様々な角度から焦点が当たっているのも魅力的です
怖がりながらも幽霊を目撃したい好奇心。
他者を監視する優越感。
存在しないはずの視線に怯える恐怖。
注目されたい承認欲求。
死後のジャッジが下される、神様の視線。
そして、上から見る、下に見るといったような比喩的な表現。

短い中で様々な視点が入り乱れているところも、最終的に4つのエピソードに繋がりが見出されるところもさすがでした。
エピソード2の「神様」は、AことMこと真鍋明日香が書いたものだったわけですね。

冒頭とラストの霊感テストは有名なものですが、こちらも上記のインタビューにて、

せっかく『口に関するアンケート』と同じ版元から出すならば、なにかしらのトンマナが揃っているほうがいいだろうと考えたんです。
結果、今回も仕掛けを入れてみることにしました。
それが読後のカタルシスにもつながってくる部分でもあるので、入れてよかったと思います。

https://ddnavi.com/article/1422750/a/2/

と述べられているので、サービス的な演出として、あまり深く考えなくて良いでしょう。

全体としては、本作はどうしても『口に関するアンケート』に続く作品として作ったというのが(内容に繋がりはまったくないにしても)感じられてしまい、個人的には前作の方が純粋に楽しめました。
表紙も『口に関するアンケート』の方がインパクトあり。
でも、本作も好きです。

これも背筋らしいと言えますが、本作において霊的な存在が実在するのか否かははっきりしません
見えない視線の集中も、気のせいと言えばそれまで。
フジツボのように目が群生する化け物も、精神に異常を来した者の幻覚かもしれない。

現実的に考えれば、見られていると感じるだけであんな短時間で発狂するとは考えづらいものがあり、何かしら超常現象が生じていた可能性の方が高いと個人的には思っています。
しかし、「この世ならざる存在に見つめられている」と強烈に思い込んだとしたらあり得るのかもしれません。
そうだとすると、やはりいるともいないとも本作だけでは断言できない。
どちらと捉えるかは、読者それぞれに委ねられていると考えて良いのでしょう。

改めて言うまでもありませんが、SNS時代の現代においては、他者の視線は必要以上に重要視されることがあります。
炎上してでも注目を集めたい。
ある意味依存症でもありますが、そこまで病的ではないにしても、過剰に他者の視線を意識する人は少なくありません。

現代における承認欲求の多くは「見られること」が重視されます
再生回数もそうですが、例外はあれども多くが「認知される=多くの人に見られること」と言えるでしょう。
他人の視界に入るということは、自分という存在にとって大きなことなのです。

いじめなどでも、最もつらいことの一つが無視と言われます。
自分なんか存在していないかのように、視界に入っていないかのように扱われること。
人間は、生まれたときから世界に1人だけだったら「自分」という概念を意識しません。
他者がいて2者関係になってこそ、初めて「自分」という概念が生まれるのです。

「自分」を認識した世界で、他者から自分なんか存在しないかのように扱われたら、自分の存在そのものが揺らいでしまいます。
透明人間の孤独、みたいなものでしょうか。
幽霊も孤独なのかもしれません。
だから、気がついてほしくて心霊現象を起こしたりするのかも。

見られることに重きを置いているほど、見る側に回ればある種の優越感が得られます。
しかし、深淵を覗くとき、という格言を持ち出すまでもなく、生きている限りは自分も見られ評価されるリスクが常につきまといます。
そこから抜け出すには、もはやこの世から抜け出す以外にはないのでしょう

他者の視線を意識することの影響は、かなり大きなものがあります。
言わずもがな防犯カメラは一定程度犯罪の抑止になりますし、寄付箱の横に人の形をしたロボットを置いておくだけで寄付金が約30%も上がったというハーバード大学の研究もあります。
それは自分の目でも効果があり、食事の際に目の前に鏡を置くだけで、健康に悪い食べ物を食べる量が32%ほど減ったという研究もあります。

他者の視線を意識するメカニズムとしては、人間の進化の過程で、顔と目が脳にとって強力なシグナルの意味を持つようになったからだと言われています。
そしてさらに人間の想像力によって、絵の中の目や想像の中の目も、実際に誰かに見られているときと同じような効果を引き起こすようになりました。
その最たるものが、神の目でしょう。

いわゆる「罰が当たる」ような行為も、他者や神様の目を意識しないと成り立ちません。
人目を気にするほど、そして神様の目(神目)を気にするほど、悪いことを控えるものです。
自分しかいない世界では、迷惑行為も罰が当たる行為も倫理的に問題のある行為も存在しません。

本作では神様のポイントを貯めると天国に行ける、見る側に回れる、みたいな話でしたが、抽象的に捉えれば、視線恐怖からの脱却でしょう
人目や神目を気にしていたらできないような倫理的に問題のある行動をあえて繰り返すことによって、抜け出せる。
「他の人が目を背けたくなるような行為をする」ことにも意味があるのかもしれません。
怪談を読ませることがトリガーになっていたのも、「読む=視覚的に認識させる=その人にとって存在するものとなる」ということが重要だったのかと考えられます。

ある意味では、これも視線恐怖への救済を求める者たちに対する宗教の一つにハマっているとも言えます。
ただ、明日香の言う神様は「全部の指がいろんな方向を向いた手」だったので、監視していておかしくなった対象である可能性が高いです。
となると、これもただ精神に異常を来した明日香の妄想であり、それが小説を読んだ黒澤樹に感染(?)しただけ(つまり読者にも)とも考えられます。

存在しないものを想像力によって生み出し、信じ込む人が増えることによって現実化させてしまうというのは、『口に関するアンケート』にも通ずるテーマ。
神様ポイントを貯めて見る側に回ろうと必死な登場人物たちは、やはり視線に囚われ続けてしまっていたのでした。

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