【小説】木下半太『極限冷蔵庫』(ネタバレ感想)

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小説『極限冷蔵庫』の表紙
(C) Hanta Kinoshita 2017
目次

作品の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:極限冷蔵庫
著者:木下半太
出版社:PHP研究所
発売日:2017年1月6日

渋谷の居酒屋でバイトをする女子大生・詩乃は、閉店作業中に四十歳独身の女性店長とともに業務用冷蔵庫に閉じ込められてしまう。
当初は偶然の事故かと思われたが、なぜか冷蔵庫内の温度が徐々に下がっていく。
何者かが扉の外で操作しているのか。
いったい誰が、何のために……。
命の危機を感じた二人は、犯人の心当たりを探すためにそれぞれの秘密を明かしていくが──

初読みの作家さんでしたが、小説だけでなく映画監督、劇団の脚本や俳優など、多岐にわたって活躍されているようです。
本作は『極限トランク』に続く「極限」シリーズ第2弾として書き下ろされたようですが、おそらく内容的な繋がりはない?はず。

飲食店の冷蔵庫に閉じ込められるという、いわゆるワンシチュエーション・スリラー
映画におけるワンシチュエーション・スリラーが大好きなのですが、小説ではあまり見かけず、ずっと読みたかった1作です。
同著者には本作以外にも同じようなシチュエーション・スリラーの作品がいくつかあるようなので読んでみたいのですが、難点は本作を含めて絶版かつ電子化されていない作品が多そうなこと。
古書店などで見つけたら、ちまちま買い集めていきたいと思います。
本作もようやく見つけて読めたので、嬉しい。

さて、そんな期待値高めの本作でしたが、正直な感想としては、小説でのワンシチュエーション・スリラーはなかなか難しいのかな……といったところ
映像だと緊迫した状況や「寒そう」というのがダイレクトに伝わりやすいですが、それを文字だけで表現するのはなかなかに難しそう。

もちろんそれはすべての映像作品や小説に言えますし、どちらにも得意不得意があり、どちらが優れているということではありません。
小説(文字)でしかできない表現もたくさんありますが、本作は映像的なイメージをしやすい文体だったかなと思うので、ついつい映像作品と比較しがちになってしまいました。

そういった難しさもあってか、本作は「脱出できるか否か、生きるか死ぬか」というスリラーよりも、「犯人は誰なのか?」というミステリィに重きが置かれているように感じました
そもそも著者にとってあまりスリラー的な緊迫感は重視していなかったのかもしれませんが、冷蔵庫に閉じ込められて命の危機に晒されるような緊迫感を味わうスリラーを勝手に期待してしまっていたので、個人的にはやや肩透かしとなってしまいました。

緊迫感に乏しかった要因としては、まず何より、閉じ込められた2人からほとんど緊張感が感じられません
2人とも強気かつ楽観的な感じでしたし、会話の切り返しもウィットに富んでおり、とても極限状況に追い詰められているようには感じられませんでした。

「寒さ」が本作におけるシチュエーションの肝ですが、たまに思い出したように「寒い寒い」と言うだけで、この点もそれほど過酷さが伝わってきません
マイナス10度なんて、下手したら数十分程度でも低体温症になり得るようですが、薄着のまま一切機能低下することなく元気に動いて考えて話し続けていました。

あとは、ちょいちょい挟まれるパパ活風景
現在と回想が交互に展開されるのは、徐々に謎が明かされていくミステリィのテンプレの一つではありますが、シチュエーション・スリラーにおいては緊張感の低減にも繋がりかねません。
この点は映画でも同じで、過去の映像に切り替わったタイミングで閉塞感や緊迫感はどうしても低減してしまいます。
どこかに閉じ込められる系のシチュエーション・スリラーにおける難しいポイントだなと思っているので、ある程度は仕方ないでしょう。

ですが、まぁそれほど楽しくも興味もないパパ活の様子を頻繁に挟まれると、何だか勢いが失われて気も抜けてしまいます。
片や店長視点の回想も、若い男性との恋愛模様が繰り広げられるのみで、あまり興味を抱けず。
2人ともキャラにそれほど魅力が感じられなかったこともあってか、やや冗長に感じてしまいました。

2人に魅力を感じられなかった点については、背景の設定はなされていましたが、あまり人間性が深掘りされていないように感じてしまったのが大きいかもしれません。
2人ともけっこう呑気に冗談やツッコミを織り交ぜますし、あまり状況がわかっていないのではと感じてしまう言動もあったり、ちょっと性格も悪そうだったり(根はそうでもなさそうかな)。
ただ、お互いの過去が交錯してくるストーリーや、軽蔑し合っていた2人がだんだんと打ち解けて協力体制を築いていくところは、熱い面白さもありました。

秘密を共有することは親密度を高めますが、本作でもまさにそうでした。
詩乃も店長も、お互い表面的な部分から勝手に相手を決めつけ合っていましたが、隠し事を話し合い本当の相手を少しでも知ったことで、理解度が深まっていきました

心理学では「自己開示の返報性」と言いますが、自分の弱い部分や隠し事を打ち明けると、相手も同じぐらいの開示をしやすくなります。
仲良くなりたい相手には、自分の方から自己開示をすると良いかもしれません。
もちろん、初対面でいきなり重すぎる話は逆に引かれる可能性もあるので、ただ考えなしに開示すれば良いというものでもありませんが。

詩乃と店長が仲良くなったことに関しては、危険な状況を共に乗り越えたという吊り橋効果も働いたはずです。
となると、これからも引き続き仲良くしていけるかは心配な部分もありますが、まだまだ秘密を共有する共犯関係は続きますし、意外と相性が良さそうなので、余計なお世話でしょうか。

そんなこんなでスリラーとしての緊張感には乏しい一方、どんでん返し的に意図されていたであろう真相がちょっと弱く感じてしまったのも、個人的には物足りず。
雨無が黒幕で、パパ全員が雨無の支配下にありグルだった、というのは意外性がありつつも、現実離れ度が大きく感じてしまったのも正直なところ
そもそもリアルさを求める作風ではなかったのだと思いますが、初読みで勝手な期待(ある程度リアルで緊張感のあるスリラー)を抱いてしまっていた自分のせいです。

また、キャラの個性や口調が極端だったりわざとらしく、「男性が書く女性」感が強すぎたのも気になってしまったのですが、以前に中島らも作品などでも同じような引っかかりを感じたので、劇団の脚本などを手掛けている人に特有の演出なのかな、とも思いました。
確かにこの『極限冷蔵庫』も、舞台として脳内でイメージすると、イメージしやすい上にそれほど違和感がありません。
こまめな場面転換も同じく。

もしかするとこのわざとらしい口調と会話が、一番合わなかった要因かも。
「そんなこと言わんやろ」のオンパレードを楽しめるかどうか。
ユーモアのセンスも含めて、このあたりは完全に相性ですね。
表紙も改めて見るとけっこう悪意があるような……。

というわけで、個人的にはやや引っかかってしまうポイントは多かったのですが、そのほとんどは自分の勝手な期待によるものでした。
マイナスな書き方が多くなってしまいましたが、何だかんだ先が気になって一気に読んでしまったのも事実。
コミカルな前半から少しずつ背景や謎が明らかになり、終盤で一気に違う形で追い込まれていく構成は見事で引き込まれました

何より、先ほども触れた通りこういったワンシチュエーション・スリラーの小説はあまり見かけず、ずっと読んでみたい1作だったので、それだけでも楽しめました。
引き続き、見かけた際には他の作品も読んでいきたいと思います。

小説『極限冷蔵庫』の表紙

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