【映画】スマイル(ネタバレ感想・心理学的考察)

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映画『スマイル』
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目次

作品の概要と感想(ネタバレあり)

精神科医のローズは、数日前に教授の自殺を目撃した学生ローラのカウンセリングをする。
ひどくおびえた様子のローラは突然錯乱し、ローズに向かって笑顔を浮かべたまま自らの首をかき切って絶命してしまう。
それ以来、ローズの周囲では人々が謎の笑顔を浮かべて豹変するなど不可解な出来事が続き、彼女は精神的に追い詰められていく──。

2022年製作、アメリカの作品。
原題も『Smile』。

ずっと観たかったのですが、ようやく鑑賞。
評価高めなので期待していましたが、ハードルが上がっていても十分楽しめた1作でした。

ストーリーや設定は、思ったよりシンプルでした
もうちょっと心理学的にどうこうな内容かなと思っていましたが、そうでもなく。
トラウマがある人限定な点が少し特徴的ですが、ザ・王道な感染系。
『イット・フォローズ』『トゥルース・オア・デア』あたりを組み合わせたような印象。
どこが、というのは言いませんが、ちょっと『MEN 同じ顔の男たち』『バーバリアン』っぽさもありますかね。

とはいえ個性がないという意味ではなく、笑顔で自殺する姿はシンプルが故に強烈なインパクトがありました
映像もスタイリッシュで美しく、ホラーとしても質が高かったと思います。
じわじわ系かと想像してましたが、思ったよりジャンプスケアが多かったのは好き嫌いが分かれそう。

感染系としてもシンプルではありますが、現実か非現実か、現実か妄想かの境界が曖昧になっていく演出が非常に巧みでした
「夢でした~」「妄想幻覚でした~」みたいなパターンを繰り返されると醒めてしまいがちなのですが、本作ではその繰り返しに意味があり、追い詰められて孤立していくローズの苦しさや恐怖が伝わってくる作りとなっていたところが良かったです。

タイトルの出方も印象に残っていますし、細部への徹底したこだわりが感じられました。
容赦なく猫を犠牲にしたところも、強いインパクトがあったので評価したい。

ちなみに本作は、パーカー・フィン監督自身が2020年に制作した『ローラは眠れない』という10分ほどの短編映画の長編映画化作品でした。
そのため、シンプルめなのは当然と言えるかもしれません。
しかし、同じく短編作品を長編化した『ナイトスイム』『ラリー スマホの中に棲むモノ/カムプレイ』あたりは引き延ばし感を抱いてしまったので、その点『スマイル』は長編としての完成度も高かったと思います。

短編『ローラは眠れない』は、恐ろしい笑顔が出てくるのは同じですが、『スマイル』とはストーリーや雰囲気はだいぶ異なっていました。
それでも、現実と非現実の境界が曖昧になる感覚は非常に似ており、確かに『スマイル』のルーツが感じられる1作となっています。

『スマイル』に話を戻すと、終盤に落ち武者な化け物がはっきりと出てきてしまったのは、個人的にはちょっとマイナスポイントでした
序盤からジャンプスケアで一瞬ながらはっきり出てきていたので、姿を現すであろうことは覚悟していましたが、ビジュアルが少々……。
後半の動きある展開やバッドエンドなラストも好きだったので、その点だけが残念でした。
主人公のローズの口から化け物が入り込んでいくシーンは、インパクトがあり好きでしたが。

シンプルでありながらも、笑顔や死に対する恐怖はもちろん、誰にも信じてもらえず孤立していく恐怖、化け物に襲われるというわかりやすく物理的な恐怖など、様々な恐怖を織り込みつつもうまくまとめ上げられていました
続編の『スマイル2』もいずれ必ず観たいと思います。

少し個人的な話になりますが、自分が臨床心理士として仕事をしているので、患者(クライエント)が目の前で自殺するというのは、想像しただけで胃が痛くなります。
ただ、ローズが面接していたのは救急精神病棟だったようですし、不安定な患者の手の届く範囲に自傷できる物があったのがそもそも大問題でした。

カウンセリングや精神医療の描き方も、だいぶツッコミどころは満載でした。
他にも、病院も警察も個人情報の管理やセキュリティは尋常じゃないレベルでガバガバだったので、このあたりはリアルさより映像の映え、話の展開のスムーズさ、わかりやすさ重視だったのは間違いありません。
なので、細かく突っ込むのは控えておきましょう。

キャスト陣も、知らない人ばかりでしたがみんなぴったりで合っていたように思います。
主演のソシー・ベーコンは本作が初主演だったようですが、ベーコン……?しかもこの顔……?と思ったら、案の定ケヴィン・ベーコンの娘でした。
とんでもなく似ていますね。

考察:笑顔の意味と、“それ”は何だったのか?(ネタバレあり)

ストーリーに関してはけっこうシンプルかつ丁寧に説明されるので、細かい部分をいくつか見ていきたいと思います。

笑顔の意味と怖さ

本作においては、「笑顔」が一番のキーワードになっているのは火を見るより明らかです。

この点についてパーカー・フィン監督は、インタビュー動画において、

「笑顔は友好的で温かさを感じるものだが、日常において我々は笑顔によって本当の気持ちを隠している」
「それを逆手に取って、悪が笑顔を仮面として被ることによって、脅威や危険を演出したかった」

といったようなことを述べていました。
つまり、「笑顔だからこそ怖い」という怖さを重視していたことが窺えます。

状況にそぐわない笑顔の怖さについては、『死霊のはらわた』の感想で詳しく述べていますが、笑っている理由が理解できない状況での笑顔は、違和感や恐怖心を抱く対象となり得ます
「内心では絶対怒っているんだろうな」などとわかっている人の笑顔に安心感を抱けず不安や恐怖を抱く、といったような経験は多くの人にあるのではないかと思います。

それをエスカレートさせたのがまさに本作であり、笑顔のまま自殺するというのはその究極形と言えるでしょう
ローラ(ローズの前で自殺したクライエント。ローズとローラでややこしいですね)は、まるで笑う口元のように自分の顔を切り裂いたのが印象的でした。

また、真の笑顔は「デュシェンヌ・スマイル」とも呼ばれ、作り笑いでは動きづらい筋肉まで動きます。
作り笑いとの違いは、特に目元。
筋肉の動きもそうですが、『スマイル』では死んだような目も印象に残ります。

『スマイル』ではまた、監督のインタビューで述べられていた通り「仮面としての笑顔」という機能も顕著でした。
それはまさにトラウマを隠す笑顔でもありました
そこまでいかなくても、つらい気持ちを隠して笑顔を見せようと頑張っている人は少なくない、というよりほとんどの人がそうでしょう。
その場合、笑顔は決して幸せや楽しさを象徴するものではありません。

自殺者は顔を傷つけて死んでいたケースが多かったかように記憶していますが、それもそのような点に起因しているのでしょう。
笑顔の下に隠していたトラウマがきっかけで“それ”に乗っ取られ、死に至ったのが、彼ら彼女らでした。

ちなみにですが、パーカー・フィン監督はどのインタビュー映像を見ても常に笑顔で話しているような感じで、本作の監督というのを踏まえると何だか怖く思えてきてしまいます。
というのは半ば冗談で、作り笑いではなく本当に楽しそうに話しているので素敵なんですけどね。

“それ”は何だったのか?

作中での呼称がないので、『イット・フォローズ』のごとく“それ”と書いていますが、本作における“それ”は果たして何だったのでしょうか。

この点もパーカー・フィン監督のインタビュー動画で少し言及されており、監督いわく、

「それを定義したり、どんな枠にも当てはめたりしないことが重要でした。
なぜなら、未知のものは、ベールを脱いだときよりもずっと恐ろしいと思うからです」

とのこと。

つまり、元も子もないですが、わからない未知の存在のままにしておくのが正解でしょう

しかしそこをあえて野暮にも踏み込んで勝手に検討してみると、イメージとしては悪魔的な存在なのかな、と思っています。
ビジュアルはさておき、喋る声などは、悪魔モノの映画で取り憑かれた人のものによく似ていました。

呪われる(?)と「自殺するか、他人を殺すか」という2択しかない救いのなさも、悪魔的です。
もしかしたらそれ以外にも助かる道があるのかもしれず、続編で明らかになっていったりするのかもしれませんが、少なくとも本作の中ではヒントすら提示されないので、助かる選択肢を与えようという親切さが皆無なのは間違いありません。

また、印象に残っているのが、天地が逆さまになった映像が何回か差し挟まれていた点です。
単なるビジュアル的な演出かもしれませんが、少し深読みすると、M・ナイト・シャマラン監督の『デビル』は天地逆さの街並み映像からスタートし、それが悪魔視点だったのではないかと考えられるので、本作でももしかすると悪魔的なイメージで用いられていたのかもしれません。

ただ、監督が述べていた通り、確たるイメージが想定されていたわけではないのでしょう。

あえて悪魔だったと考えて論を進めると、いずれにしてもローズが助かる道はなかったのではないか、と考えています。
呪いはトラウマがある人に伝染していましたが、トラウマ自体が脅威となっていたわけではありません。

つまり、トラウマが元凶というわけではないので、トラウマを克服すれば良いという話でもない。
そういう人に取り憑きやすかったというだけなのでしょう。
罪悪感が強いほど呪いも強まるのかとも想像しましたが、他の人のトラウマがわからないのでこの点は考える材料が足りません。

ただ、大きなトラウマがあることが悪魔に取り憑かれる条件だとすると、トラウマを克服することで悪魔を追い出せる可能性も、ワンチャンあるかもしれません(1回取り憑かれたら無理な可能性の方が高そうですが)。
もしそうだとすれば、ローズには助かる可能性があったことになります。

心理学的に見るまでもなく、終盤の母親から変化した化け物とのバトルは、ローラのトラウマ克服の戦いでした。
しかし、トラウマの克服は、言葉で言うほど簡単なものではありません。
克服しきれなかったために、ローズも死んでしまったと考えられなくもありません。

でも実際は、そう見せかけておいて、助かるチャンスはなかったのではないか
トラウマで言えば、ローラが目の前で自殺したのもローズにとっては新しい大きなトラウマです。
ローズに限らず、自殺の目撃者はみんなそのこと自体が新たなトラウマになっていたでしょう。
そう考えると、過去のトラウマを克服したとて助からないのではないか。

悪魔であれば目的なども必要なく、人間を苦しめて絶望を与えて死に至らしめることこそが目的であるとしても不自然ではありません。
その方が悪魔的な容赦のなさで、個人的には好みです。

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