【映画】THE GUILTY/ギルティ(2018)(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『THE GUILTY/ギルティ』のポスター
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『THE GUILTY/ギルティ』のシーン
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

過去のある事件をきっかけに警察官として一線を退いたアスガーは、いまは緊急通報指令室のオペレーターとして、交通事故の搬送を遠隔手配するなど、電話越しに小さな事件に応対する日々を送っている。
そんなある日、アスガーは、今まさに誘拐されているという女性からの通報を受ける。
車の発進音や女性の声、そして犯人の息づかいなど、電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、アスガーは事件に対処しなければならず──。

2018年製作、デンマークの作品。
原題は『Den skyldige』で、英題の『THE GUILTY』とほぼ同じ意味のようです。

同じく緊急通報司令室のオペレーターを描いているアメリカの作品『ザ・コール[緊急通報司令室]』とよくセットで名前を見かける作品。
ですが、『THE GUILTY/ギルティ』はまた全然異なる方向性のチャレンジで、こちらも完成度高く楽しめました。
早々と2021年にアメリカでリメイクされているのも納得で、リメイク版もいつか観てみたい。

別に比較するものでもないですが、『ザ・コール[緊急通報司令室]』が「動」であるのに対し、『THE GUILTY/ギルティ』は「静」のイメージ
前者の緊急通報司令室は「ハチの巣」と呼ばれるほど24時間静まることがありませんでしたが、本作の緊急通報司令室は何となく少しまったりした雰囲気。
どちらもリアリティの程はわかりませんが、実際、国や地域によって差はありそうです。

『THE GUILTY/ギルティ』は、ずっと緊急通報司令室の部屋内だけで展開されるワンシチュエーションである点が特徴的です。
怒涛の展開で息をつく暇もない『ザ・コール[緊急通報司令室]』とは逆に、」の使い方が非常に巧みでした
アスガー役を演じたヤコブ・セーダーグレンの演技力も大きいでしょう。

電話が切れたり、着信を待っている間のもどかしさ。
基本的に受け身にならざるを得ないオペレーターだからこそ、通話できている間でのやり取りが事態を大きく左右します。
何となくワンカットが長いシーンが多い印象も受けましたが、だからこそ、待ち時間や考えている時間のリアルさが表現されていました。

ワンシチュエーションだからこそ音が重要で、『ザ・コール[緊急通報司令室]』の「想像しろ、通話だけで少女を救え」というキャッチフレーズは、本作の方がより合っていた気がします。
正直に現在の状況を話せないイーベンからの最初の電話で異常を読み取ったのは見事でしたが、背景の音から何かを読み取る、という要素は思ったより少なかったかもしれません。
ただ、見えないからこそ、イーベンやマチルデの手や服が血塗れになっているのに気がつかなかったなど、しっかりと伏線にも活用されていました

そのような点も含め、ストーリーはシンプルに見えてひっくり返る部分があり、秀逸
余計な要素もほとんどなくコンパクトなので、ワンシチュエーションですがだれることもありませんでした。


救助に全力を注いだアスガーは素敵でもありましたが、ちょっと短気で早とちりでした
決めつけで話した内容で、事態が悪化した部分もちらほら。
ただその点も、本職は警察官で、一時的に配属されているだけでオペレーターの仕事に慣れているわけではないので、仕方ない面も。
『ザ・コール[緊急通報司令室]』では禁忌とされていた「絶対助ける、など保証できない約束はしない」という点も、アスガーはけっこう保証しまくっていましたが、これも同じ理由で納得はできます。

とはいえ、自分の事件の裁判が明日に控え、人命救助がうまくいかないもどかしさにイライラするのはわかりますが、オペレーター室の備品を破壊したのは少々やり過ぎ感がありました
すぐにイラついて態度も悪くなり、高圧的に指示をする場面も多いので、普段からこんな感じなのか……?とも思ってしまいます
苛ついて乱暴にヘッドセットを外そうとして引っかかってさらにイライラしていたのはちょっと面白かったですが、あれは脚本だったのかアドリブだったのか気になるところ。

結局、アスガーが抱えていたのは、「人生にうんざりして何か悪いものを取り除きたくなり、犯罪を犯した若者を正当防衛を装って殺した」という真実でした。
これ、だいぶ自己中心的というか、これだけ聞くとあまりフォローのしようがありません
たぶん後悔をしていたからこそ、本作において暴走に近いほどイーベンを助けようという行動に繋がっていたのだとは思いますが、あの告白を聞いて、同僚のみんながドン引きしていたのもむべなるかな。
地獄のような気まずい空気感になっていました。

最後に余談ですが、アスガーが警察官としてのバディだったらしいラシードにミケルの家の調査依頼をした際、「飲酒が2杯ぐらいなら運転できるな」「4〜5杯なら慎重に運転しないとな」と言っていたので、デンマークって飲酒運転に対して緩いのかな?と思って調べてみました。
その結果、「車が没収されてオークションで売り飛ばされる」「免許剥奪」「最低でも月収1ヶ月分の罰金」など、むしろかなり厳しかったです。
そんな中、人命救助のためとはいえ飲酒運転を頼むアスガーも、酔っていたとはいえ飲酒運転しちゃうラシードも、警察官としてはなかなか……。

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考察:アスガーの心理とラストシーンの電話(ネタバレあり)

映画『THE GUILTY/ギルティ』のシーン
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

事件の真相としては、「ミケルが息子のオリバーを殺害し、元妻のイーベンを誘拐した」と思わせておいて、「オリバーを殺害したのは精神疾患を抱え妄想に駆られたイーベンで、ミケルはイーベンを精神医療センターに連れて行くつもりだった」というものでした。
暴行の前科や服役経験のあるミケルに先入観を持ってしまったことがアスガーの失点でしたが、全員が絶妙に言葉足らずだったあの状況下では、仕方ありません。

ちなみに念のため、統合失調症など精神疾患に妄想に基づいて殺人を行うというのは、実際には滅多にありません。
また、イーベンのように、都合良くそれを忘れていたり、急に正気に戻ったりというのも、現実的にはあり得ないような現象です。
イーベンの「閉じ込められたくない」というセリフは、過去に閉鎖病棟や保護室に入れられた可能性を示唆し、それはつまり病態が重かったということですが、それでも、です。

この点はエンタテインメント要素なので言及は控えるとして、その他の真相については丁寧に説明されるので、さほど考察する要素はありません。

唯一、謎が残されているのは、ラストシーンでしょう。
アスガーが誰に、何の目的で電話をかけたのか
あえて何も説明しない余韻の残るラストは、観た人それぞれに解釈が任されているのは確実ですが、明確な答えがあるわけではないのは承知の上で、選択肢を少し考えてみたいと思います。


その前提としてまず、アスガーの心境の変化について簡単に。

アスガーは、根からの悪人という感じでもありませんし、正義感にも溢れています。
おそらく、だからこそ、警察官として働く中で社会や人間の裏側が見え、善人が報われるとは限らず、思い通りにならないことに不全感を抱いていたのでしょう。
特にアスガーの場合、たとえば誰かを救えなかったとしたら、自分を責めそうです。
燃え尽き症候群に近いような状態だったのかもしれません。

そんな折、彼は19歳の若者ヨセフを殺害しました
正当防衛で通していたので、逮捕の過程で銃で撃ったとか、そういう事件なのだと思われます。
アスガー自身が語っていた通り、ヨセフは死に値するほどの極悪人だったわけではなさそうです。

ではなぜ殺したのかといえば、アスガー自身が述べていた通り「殺せたから」なのでしょう。
衝動的というよりは、正当防衛に見せかけて殺そうという漠然とした計画性はずっと頭の中にはあり、ついにその状況が整ったから実行に移したのだと考えられます。
つまり、ヨセフが犠牲者となったのは偶然でした。

事件当時、一緒に行動していたこともあり、バディのラシードだけは唯一の?真相を知っている人物でした。
どういう経緯があったのかはわかりませんが、「正当防衛だった」というアスガーの主張を裏づける虚偽の供述をしたようです。
アスガーの思想に理解があったのかまではわかりませんが、少なくとも信頼関係があったのでしょう。


さらに深掘りすると、アスガーがなぜ犯罪者を殺したいと思っていたのかという点については、想像できるのは2点です。

一つは、警察官としての無力感です。
犯人を逮捕しても全然反省をしていなかったり、刑務所から出てきても犯罪を繰り返したり。
逮捕して司法に委ねるだけでは社会は改善されない、守るべき人たちを守れない、という無力感。
そこから、「それならば殺してしまった方が社会のためになるのではないか」という発想が生まれたと考えられます。

もう一つは、自身のネガティブな部分を消したいと思う気持ちです。
「人生にうんざりして、何か悪いものを取り除きたくなった」と述べていたことからは、警察官としてだけではなく、人生そのものがあまりうまくいっていなかったことが推察されます。
妻のパトリシアは事件後に家を出て行ったようですが、正当防衛で犯人を殺してしまったことだけが理由で家を出て行ったとはあまり考えづらく、それ以前から夫婦関係には問題があったのでしょう。

そんな「自分の人生における悪いもの」を犯罪者に投影し、それを殺害する=取り除くことで、何かを変えたかったのだと考えられます。
ただ、「悪いもの」は自分自身にもあったはずですが、それらもすべて自分の外側に投影して取り除こうとしたという点については、他責的であり、自己中心的だったと言わざるを得ません。
自分の問題からは目を背けて、周りに文句ばっかり言っているのと同じです。

そしてアスガーはついにヨセフを殺害してしまい、計画していた通り正当防衛で押し通しましたが、葛藤も抱いていた様子。
そんな中でイーベンの通報を受け、意図せず我が子を殺してしまい、それを自覚して自殺しようとしている彼女に真相を打ち明けました。

これは単純に自殺を思い留まらせる要素が大きかったと思いますが、自身の罪と向き合うことにも繋がりました
上述したポイントも合わせて考えれば、悪意なく犯罪に手を染めてしまい、それを悔やんで自分を責めるイーベンを前に、自分こそ憎んでいた犯罪者そのものである事実を直視せざるを得なくなったという点も大きいでしょう。


そんなわけで、イーベンの事件を通して自らの罪を直視し、受け入れたアスガー。
最後の電話はやはり、自分の事件の真相に関連したものであると考えられます。

それを踏まえると、電話相手として可能性の高い選択肢は、以下の順番でしょうか。

  1. 警察官としてのバディのラシード
  2. 上司のボス
  3. 家を出て行ったらしい妻のパトリシア
  4. 記者のブリックス

いずれも目的としては、自分の事件の真相を打ち明けるため、です。
最終的には全員にかけたかもしれませんが、順番としては上述した順が妥当な気がします。

イーベンには「まだ君を愛してる人がこの世にいるんだ」と説得していました。
妻も家を出て行き、そのような存在が見当たらないアスガーは、電話のあとはイーベンのように自責の念から自殺しようとした可能性もあるかもしれませんが、個人的にはあまりそのような選択をするとは思えません。
罰を受け罪を償う必要はありますが、光溢れるドアの外に出て行った構図からは、今後への希望が感じられるラストであると感じました。

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