【映画】ザ・コール[緊急通報指令室](ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『ザ・コール[緊急通報指令室]』のポスター
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『ザ・コール[緊急通報指令室]』のシーン

ベテランオペレーターのジョーダンは、ある女性からの不法侵入者の通報が悲劇的な結末に終わり、悲嘆に暮れていた。
自分の人生を見直そうと思案していたジョーダンだったが、そんな折、連続殺人鬼に誘拐された少女ケイシーが、車のトランクから命からがら911に電話をかけてくる。
ジョーダンは、これまでの経験と知識、自分の能力の限りを尽くし、電話の声だけを頼りに少女の救出にあたる──。

2013年製作、アメリカの作品。
原題も『The Call』。

ロサンゼルス市警察の緊急通報指令室を舞台とした作品。
「ハチの巣」と呼ばれている通り、常に静まることなくスタッフが働き続けている現場。
何かもう、その様子を見ているだけで頭が下がります。

絶えない緊迫感が最後まで続き、のめり込んで観入ってしまいました。
運良く常に目撃者がいない、大事なところでスマホを落としちゃう、などちょっとご都合主義も目立ちますが、先が気になる展開やスピード感がそれをカバーしており、完成度の高い作品。
どうなるのかわからないリアルな緊張感が特徴なので、何回も観ようという作品ではないかもしれませんが、初見での引き込まれ具合は最高でした。

登場人物も、みんないい人で魅力的
ボスはめっちゃ怖かったですが、レイア・テンプルトンを救えずトラウマを抱え、教官となりオペレーターからは離れていたジョーダンが、ケイシーの件で新人ブルックに代わって対応した際、「やっぱり私には無理」みたいになっていたジョーダンに「深呼吸して。やれるわ」と声をかけたシーンは、かっこよくてお気に入り。


自分の言動によって通報者の命が左右されるという緊張感は、並大抵のものではありません。
冷静に、かつユーモアも交えながら対象者を落ち着かせ、常に会話をして不安がらせないようにしながら、必要な情報を引き出しつつ的確に指示をしていく。
ベストを尽くして当たり前であり、ちょっとした油断やミスが命取りになる。
やや余談ですが、カウンセリングの仕事をしていて一番緊張する場面の一つは、相談者に「死にたい」と言われたときです。
911に電話するほどではないどうでもいい通報も多いだろうとはいえ、常にそのような緊張感に包まれていると想像するだけで、胃が痛くなりました。

本作を振り返ると、一番の分岐点は高速道路でテールランプを落とし、手を振っていたケイシーに気づいた女性が通報していたシーンでしょう。
あそこであのまま高速を走り続けていたら、捕まえることができていたはずです。
言い出したらキリがない「もしも」の話にはなり、そもそもあの通報した女性に何も非はありませんが、「近づいて顔を見るわ」という女性の行動がなければ、ペンキに気づいた男性やガソリンスタンドの店員の死は回避できたかもしれないと考えると、けっこう罪深い。
というか、何で顔見ようとしたん?


日本版ポスターでは「通話だけで少女を救え」と言っているにもかかわらず、終盤、ジョーダンがバリバリアクティブに1人で犯人のもとへ乗り込んでいくところからは急にエンタメ路線が強くなり、このあたりからは評価は分かれるかもしれません
意表を突くラストの展開は、個人的には爽快感もあり面白いと思いましたが、ここも評価は大きく分かれそう。

「もう手遅れ」の決め台詞とともにドアを閉めるシーンは、もう完全に『SAW』でした。
ケイシーの要望とはいえ、真面目で誠実なジョーダンがノリノリで従っているのは、若干の違和感も。
いずれにせよ、真面目な2人なので、「大丈夫だろうか、本当に死んだだろうか、逃げ出していないだろうか、これで良かったのだろうか」と延々と悩んでしまいそうなところが心配

私刑を下すというのは法治国家では許されざる行為ですが、心情としてはとても理解できます。
ただ、犯人であるマイケル・フォスターは、冒頭で殺害された少女レイア以外にも、何人も誘拐・殺害していたようです。
少なくとも、冷蔵庫には3〜4つは金髪が保存されていました。

私刑を下したことで、ケイシーとジョーダンはある程度のカタルシスが得られたかと思いますが、レイアやその他過去にマイケルの被害者となった少女たちの遺族は、マイケルが苦しみながら死に至ることを知りません。
彼らにとっては永遠に犯人が行方不明で捕まらないということになってしまうので、その点はなかなか残酷な選択でもあると感じました。

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考察:犯人の心理(ネタバレあり)

映画『ザ・コール[緊急通報指令室]』のシーン

姉の存在との絡みが示唆されましたが、はっきりとは説明されたなかったマイケル・フォスターの犯行の動機。
想像レベルになりますが、彼が犯行を繰り返していた理由を少し検討してみたいと思います。


マイケルの姉メリンダ・フォスターは、どうやら白血病により若くして亡くなったようでした。
それがいつ頃かは明らかになっていませんが、写真からはマイケルは10代に見えたので、本編でのマイケルは36歳だったことを考えると、20年ほど前であると考えられます

残された写真の中で、マイケルは病床に伏すメリンダにキスをしていました。
もともと両想いな関係にあったのかはわかりませんが、唯一残っているキスの写真はメリンダがかなり弱ってからであることからは、おそらくマイケルの一方的な想いだったのかな、と想像されます。
あの写真を撮ったのが誰かがわかりませんが、撮ったのは親で、姉弟愛のキスと思ったのでしょうか。

マイケルは、1995年に放火で逮捕され、不起訴になったという前歴も持ち合わせていました。
マイケルの妻が「マイケルの生家は全焼した」と話していたことからは、マイケルが放火したのは自分の家であったことが推察されます
本作の時代設定が製作当時の2013年と一致していると考えれば、放火の事件は18年前、マイケルが18歳の頃。
年齢的にも、おそらく姉の死後、姉との思い出が詰まった自宅の悲しみや辛さに耐えきれず、放火したのではないかと考えられます。
自宅だったと考えれば、不起訴になったのも納得しやすくなります。

その後も彼は、姉メリンダへの想いを募らせ続けていました。
メリンダに似たブロンドヘアの女性を誘拐し、頭皮を剥ぐという行為をいつから始めたのかはわかりませんが、現実的な観点で考えると結婚後ではないかな、と思います。

シリアルキラーや性犯罪を繰り返す者が、結婚していたり普段は社会的に適応しているようなケースは少なくありません。
ただ、姉への執着に囚われ、誘拐・殺害の犯行を繰り返す中で、彼がこだわるブロンドヘアではない女性と結婚して子どもをもうけたというのは、やや不自然です。
普通に生きようとして家族を作ったけれど、やはり姉への想いを断ちきれなかった、と考える方が、理解しやすくなります。


彼が執着していたのは、メリンダに似た女性というよりも、メリンダのようなブロンドヘアを持ち合わせた女性、それもメリンダが亡くなった10代の少女でした。
ここの心理もはっきりとはわかりませんが、可能性として考えられるのは、

  1. もともと髪に対するフェティシズムを持っていた
  2. 病気で抜けたメリンダの髪をこっそり持ち帰り、匂いを嗅いだりしていたことでフェティシズムが生じた
  3. 病気でメリンダの髪が抜けたことで、元気だった頃の姉を象徴するものが髪になった

あたりでしょうか。

個人的には、1と3が組み合わさったような感じかな、と考えています。
ジョーダンが目撃した際には、マネキンの頭部にレイアの頭皮つきの髪を被せていましたが、その頭部に語りかけるようにしつつ、髪だけを外して恍惚とした様子でその髪に顔を埋めていました。
ただ、髪が青く染められた部分を見つけ、「違う、こうじゃない」と怒りを露わにします。
髪に対して執着しており、そこに姉の存在を見ようとしていることは明らかです。


総合すると、マイケルはおそらくもともと姉への性愛的な恋心を抱いていました。
それは表には出さず、弟としてくっついたり甘えたりする中で、メリンダの髪の毛がお気に入りになったのでしょう。
しかしメリンダは病気となり、薬の影響で髪を失い、そして命をも失います。

その後、ブロンドヘアが生前の姉の象徴となり、その幻影を追い求めていたのだと考えられます。
見た目だけではなく、質感や触感、香りなども関係してくるため、なかなか納得のいくブロンドヘアが手に入らず、理想の髪を求めて誘拐を繰り返すようになったのです。
ペンキのついたケイシーの髪を見て苛立ちを露わにしたのも、それが理由でした。

ケイシーの頭皮を剥ごうとした際、「やめられない。止まらないんだ」と発言していたことからは、もはや自分でも衝動をコントロールできなくなっていた様子が窺えます
レイアは窓を壊したりして家に侵入してまで誘拐し、ケイシーは目撃される可能性も高いショッピングモールの駐車場で誘拐しています。
一貫性がなく、用意周到とも言い難いことからは、ブロンドヘアの少女を見つけると、いても立ってもいられなくなっていたのでしょう。

ちょっとだけ気になった点としては、レイアを含め、マイケルの被害者はみな頭皮が剥がれていたはずで、そのような特徴が共通していれば、同一犯による連続殺人として情報共有されていたのではないかな、という点です。
レイアの遺体が発見された際、特にそのような話は出ていませんでした。
ただこの点は、レイア以外の過去の被害者は遺体が発見されていない、と解釈しても不自然ではないかもしれません。

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