【映画】キラー・ジーンズ(ネタバレ感想)

映画『キラー・ジーンズ』のポスター
(C)10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『キラー・ジーンズ』のシーン
(C)10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019

とあるアパレルメーカーが、誰にでもフィットする新作ジーンズを開発した。
発売前夜、従業員たちがキャンペーンの準備に追われていると、ジーンズが勝手に動き出し彼らを襲い始める。
ジーンズは様々な手法で人間たちを血祭りにあげていく──。

2020年製作、カナダの作品。
原題は『Slaxx』。

人喰いジーンズが襲ってくる!
という設定ですべてが説明できる、ホラーコメディ作品。
ですが、コメディ路線に走りすぎることもなく、真面目にスプラッタしようと頑張っている作品でもありました。

この作品には、三つの優れた点がありました。

一つ目は、人喰いジーンズという発想
もはやB級ホラーやホラーコメディの領域も、群雄割拠。
あらゆる独創的な発想が使われており、独自性ある設定を思いつくだけでも困難なほど、多様な作品が溢れています。
その中で現れた、ジーンズが人を襲う、という発想。

しかし、思いつくだけなら、他にもいたかもしれません。
二つ目は、それを実行に移したことです。
実際に人喰いジーンズの映画を作っちゃった。

そして三つ目は、その作品をしっかりと面白く作り上げたところ
数ある「発想オチ」な作品群を蹴散らす勢いで、完成度の高い作品に仕上がっていました。


というわけで、良質なB級スプラッタホラーコメディとして完成度の高かった『キラー・ジーンズ』。
この手の作品が好きであればたまらない、楽しめて満足できる作品でした。
無駄に引っ張ることなく、77分というコンパクトさでまとまっているのも好印象。

とにかく特徴的なのは、しっかりと深掘りされた世界観でしょう。
いや、それは言い過ぎかもしれませんが、ただただジーンズが襲ってくるというだけではなく、その背景までしっかりと描かれていたのは好印象です。
見えない搾取の上で成功している企業という、なかなかに社会派なテーマ。

そもそも、「CCC(CANADIAN COTTON CLOTHIERS)」というアパレルメーカーの理念などまできちんと細かく設定されていたのも、本作の魅力を引き立てていました。
タイトルやスーパー・シェイパーズ(新作ジーンズ)のロゴも、シンプルながらスタイリッシュでかっこいい。

店員たちも個性豊かで、ディズニーアニメのキャラかと思うほどにオーバーな表情の豊かさ。
ちょっとお馬鹿だけど素直で優しい主人公リビーや、これでもかというほど悪役を地でいく店長クレイグなど、テンプレ配役なので覚えやすくややこしさもありません。

展開についても、たとえば死体が発見されてからクレイグが隠蔽にこだわるのにもそれなりに納得できる理由があり、不自然さも少なめ。
納得できるというのは若干語弊がありますが、どのキャラも行動原理が明確でわかりやすい。


動き回るジーンズも、何だかだんだんと可愛く見えてくるので不思議なものです。
しっかりと血の痕跡を消すところは、吸水性も抜群!
なのかと思いましたが、あれは飲んでいたんですかね。

「あ、そこ口だったんだ」「あ、それ目だったんだ」となりますが、それがわかるとちゃんと顔に見えてくる不思議。
目と口が逆三角形に配置されていれば顔に見えるというのは、認知心理学的にも興味をそそられます(大袈裟)。

何より「ハマラ・インディア」に合わせて踊る、というより反応してしまって踊らざるを得ないらしいシーンが、可愛さもあり、あまりにもシュールでした。
「どうやって撮ったんだろう」という疑問にも、エンドロールでメイキングシーンを見せて答えてくれる丁寧設計。

そして、その「ハマラ・インディア」に合わせて踊ってしまうところや、冒頭で少し流れたコットン栽培のシーンが、まさかの伏線にもなっていました。
13歳にして働きに駆り出され、仕事中の事故で亡くなってしまったキーラット。
彼女の恨み(?)が、キラー・ジーンズの正体でした。

1本だけではなく、何本も人喰いジーンズ化していたのは、キーラットが巻き込まれて死んだ際に血に染まったコットンが使われていたジーンズたちということでしょうか。
あるいは、キーラットと同じように違法な労働の犠牲となった者たちの魂が宿っていたのでしょうか。

ラストシーンでは、ジーンズたちは新作発売に押しかけてきたCCCの熱狂的な客たちにも襲いかかっていました。
あれは無差別というわけではなく、CCCの裏側を知っていようと知っていまいと、商品を購入する側にも非があるということなのですかね。
キーラットにとってのラスボスは、ハロルド・ランズグローヴ(CCCの創業者)でしょうか。

ランズグローヴは演説後には店を出たのか、襲われたシーンはなかったはずなのでおそらくまだ生きているのではないかと思われますが、最高に悪役だった店長のクレイグはこれ以上ないほど食べ尽くされ、爽快感もありました。
綺麗に骨だけになったクレイグの姿からはキーラットの育ちの良さが窺え、おそらくキーラットは生前、魚とかをとても綺麗に食べるタイプだったのでしょう
内臓なども全部食べていましたが、どうやら目玉だけは嫌いなようでした。
育ちが良いけれど好き嫌いもあるという、キーラットの人間らしさを強調するシーンだったのかもしれません(絶対違う)。


スプラッタシーンは派手めでしたが、食べるだけではなくて、インフルエンサーのペイトンなんかは首を絞めて殺していたのは良かったです。
とはいえ、いかんせん襲う側がジーンズなので、バリエーションには限界がありました
殺害シーンもはっきりとは映らず、血の噴水で誤魔化している感じもあり、何がどうなっているのかは少しわかりづらかったですが、そもそもジーンズが人を食べるところのリアリティなんて誰もわからず丁寧に描きようもないので、仕方ありません。

店舗の規模(意外と小さい)や、オープンと同時に押しかけてくる人数(意外と少ない)などからは、そこはかとなく低予算感が漂ってきます
それでも、そのような制限の中で、創業者がわざわざ来て演説したり、インフルエンサーが来たり、その時間以外は店を完全に閉鎖するなど、「これはすごい企業のすごいイベントなんだ」感をうまく演出していて、努力や工夫が感じられました

最後のリビーの死に方はあまりにあっけなかったですが、話が通じる人喰いジーンズより、話の通じない暴走した群衆の方が怖いというのも真実かもしれません。
全滅エンドと見せかけて、エンドロール後、まさかの生き残りが発覚。
彼は、ハンターが「休憩室でいけないことをしていた」相手であり、途中でクレイグに「君は亀か?」と言われたりもしていましたが、マイペースの勝利でした。

気軽に観られる良質スプラッタですが、全滅エンドだったり、まともに考えると意外と重めな社会派テーマも扱っており、後味は決して良くない部分もあるかもしれません。
しかしそれもエンドロールでの微笑ましいメイキング映像によって軽減されており、表向きは良いことを言いながら裏側はブラックだったCCCとは違い、アフターフォローまでばっちりな作品でした

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