作品の概要と感想(ネタバレあり)
広大な森の中で目を覚ました12人の男女。
そこがどこなのか、どうやってそこに来たのか、誰にもわからない。
目の前には巨大な木箱があり、中には1匹のブタと多数の武器が収められていた。
すると突然、周囲に銃声が鳴り響く。
何者かに命を狙われることがわかった彼らは、目の前の武器を手に取り、逃げ惑う。
やがて彼らは、ネット上の噂に過ぎないと思われていた、セレブが娯楽目的で一般市民を狩る「マナーゲート」と呼ばれる“人間狩り計画”が実在することを知る──。
2020年製作、アメリカの作品。
原題も『The Hunt』。
セレブたちの人間狩り!
という、『パージ』などと同じで、もうその設定だけでどう考えても大好きな作品でした。
全体を通してスピード感が抜群。
個人的に、社会風刺的な作品は、大抵しっかりと読み取れないんですよね。
社会のこと知らなさすぎて(てへっ)。
本作のようなアメリカなど海外の社会風刺だと、なおさら実感としてはわかりません。
こういう作品を観るたびに、賢くなりたい、勉強したい、と思います。
頑張る。
とはいえ、本作における風刺的な要素はある意味ではあからさますぎるので、当時のトランプ大統領が怒ったというのは、さすがに「そりゃそうでしょうね」と自分でもわかる気もしますし、わざわざ怒ったり公開を延期するほどではない気もします。
さすがにトランプ元大統領、ちゃんと全部観てはいないんじゃないですかね。
オフィシャルのProduction Noteによれば、「陰謀説によってかつては揺るぎない個人主義と文化の多様性を誇ったアメリカが、いかにして滑稽な風刺画のような国へと変貌していったかを本作を通して描きたかった」という本作。
アメリカも大変です。
社会風刺的なブラックさがこれでもかというほどひしひしと伝わってきますが、作品そのものがブラックジョークのようでもあり、風刺的な意味合いがしっかりわからなくても頭空っぽにして楽しめる『バトル・ロワイアル』のようなバイオレンスアクションスリラー……というよりはもはや、突っ込みどころ満載ではちゃめちゃなコメディ映画ですかね。
特に冒頭の勢いが良すぎて最高でした。
前から思っていましたが、ブラムハウス作品は導入の演出がとても上手いように感じます。
それこそ、UNIVERSALのロゴが登場するところから。
『ハッピー・デス・デイ』などの作品でその点が顕著です。
狩られる側が集まってからの、誰が主人公になるのかわからない怒涛の展開。
主人公になりそうな人物があっさりと退場していくの、大好きです。
長くは映さずすぐに画面が切り替わりますが、グロさがしっかりとあるところも好きなポイントでした。
その割にシュールなギャグ感も強めなので、全体的にライトでふざけた雰囲気。
期待していたバトロワ的?デスゲーム的?展開は比較的すぐに終わってしまいましたが、背景となる狩る側の裏事情エピソードを経て、終盤はまた違った方向性での怒涛の展開。
アシーナとクリスタル、どちらの言い分も嘘ではなく真実だったと思っているのですが、陰謀論(ふざけて架空の「庶民狩り」をネタにしていたのに、ハッキングされて事実かのように広められた)によって転落したアシーナと、人違いで選ばれたクリスタルの激しすぎるバトル。
もはや何のために戦っているのかわからないのに、あまりにも爽快なスタイリッシュアクション。
そこでもところどころ、25万ドルで購入したというシャンパン(エドシック)を「それダメ!」とキャッチしたり、「ガラスは嫌!」といったようなユーモアが光ります。
とにかくクリスタルが最強すぎて、しかし人間離れしすぎているわけでもなく(ぎりぎりアウトかもですが)、一応の背景設定もなされており、そのバランス感が絶妙でした。
バトルロイヤルに紛れ込んだチートキャラ(しかも本来は何の関係もない)で、狩る側としては大誤算だったでしょう。
表情豊かで、顔芸もなかなか個性的。
最後にドレスを着て犬を連れて飛行機に乗り込み、シャンパンをラッパ飲みしながら見せる笑顔は素敵でした。
登場キャラもみんな個性があって良かったですが、個人的に好きだったのはガソリンスタンドにいた老夫婦役の2人でした。
このとき、女性(ミランダ?)が放った「反乱後に角砂糖は?」という台詞は、終盤で直接的に言及のあったジョージ・オーウェルの『動物農場』に出てきた台詞でした。
『動物農場』は初めて読んだときに衝撃を受けた大好きな作品ですが、人間を動物たちに置き換えて、民主主義が全体主義に陥る危険性などを描いた痛烈な風刺的作品です(でもこれも、風刺的な要素を抜きにしても単純に物語として圧倒的に面白い)。
『ザ・ハント』では『動物農場』の要素が散りばめられており、上述した角砂糖の台詞もそうですし、クリスタルのコードネーム(?)となっていたスノーボールというのも『動物農場』に出てきた理想主義者の豚の名前です。
他の犠牲者も「モリー」「モーゼス」「ウィンパー」など呼ばれていましたが、これも同じく『動物農場』の登場キャラたち。
おそらく富裕層側は、犠牲者たちのことを『動物農場』に出てくるキャラ名で呼んでいたのでしょう。
最初に飛行機で目覚めてしまった男性ランディは「スクィーラー?」と呼ばれていましたが、これも同じく『動物農場』に登場したキャラ名です。
ちなみにスクィーラーは、貴志祐介の小説『新世界より』にも「スクィーラ」というキャラが登場しますが、非常に弁が立つキャラで、『動物農場』のスクィーラー像がより濃く反映されています。
箱から出てきた子豚に「オーウェル」と名付けていたのは、悪趣味すぎやしませんかね。
オーウェルは撃たれてしまってかわいそう。
また、本作に登場した「マナーゲート」(リベラル・エリートが庶民を誘拐して娯楽でハントするという噂)は、現実のアメリカであった「ピザゲート」が元ネタになっているようですが、『動物農場』の舞台となるのが「マナー農場(manor farm/荘園農場)」(manor=荘園)でもありました。
ちなみにピザゲートというのは、2016年の選挙の際に広まった、「民主党のヒラリー・クリントン候補陣営の関係者がコメット・ピンポンというピザ屋を拠点として人身売買や児童性的虐待に関与している」という陰謀論で、銃撃事件にまで発展したり、政治や選挙にも影響を与えた陰謀論です。
いずれにしても、本作はすべての登場人物が踊らされていただけであり、両者ともに滑稽な存在として描かれる、何ともシニカルすぎる作品となっていました。
その中で繰り広げられるスピーディなバトルも、結局すべては意味がなく無駄。
それなのに、そこらのアクション映画の有名キャラに匹敵する勢いで大活躍を見せるクリスタル。
「すべてが壮大な無駄」というのが、本作の一番皮肉な点だった気がします。
たとえ風刺的な部分のバックグラウンドがしっかりと理解できていなくとも、ブラックさの塊のようで好きな作品でした。
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