【映画】ヴィーガンズ・ハム(ネタバレ感想・考察)

映画『ヴィーガンズ・ハム』のポスター
(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『ヴィーガンズ・ハム』のシーン
(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888

結婚して30年になる肉屋の夫婦ヴィンセントとソフィーは、結婚生活も家業の経営も危機に陥っていた。
そんなある日、店がビーガン活動家たちに荒らされ、ヴィンセントが犯人の1人を殺害してしまう。
死体の処理に困ったヴィンセントは、ハムに加工して証拠隠滅を図る。
しかしソフィーの勘違いでそのハムを店頭に並べると、思わぬ人気商品となり──。

2021年製作、フランスの作品。
原題は『Barbaque』で、フランス語で「(質の悪い)肉」を意味するようです。

よく作ったな(そしてよく通ったな)、と褒め称えたくなる、最高に痛快でブラックなコメディ
社会風刺的な要素を含みますが、何かメッセージ性があるわけではなく、完全にコメディに徹しているところが気持ち良い。
それもそのはず、と言って適切なのかはわかりませんが、監督のファブリス・エブエはコメディアン出身のようです。

ヴィーガン側と肉食側とどちらかを皮肉るのではなく、強いて言えば「結局どういった主義・主張・信条があったところで、人間って愚かだよね」といったところでしょうか。
シンプルな原題も良いですが、邦題も好き。
「人狩り行こうぜ!」は、モンハン好きとしては嬉しいですが、怒られないかな。
しかし、リアルハントからの「上手に焼けました〜」(あまり焼いてませんが)なので、とても適切なキャッチフレーズであるとも感じます。

とにかく軽快なテンポで、無駄なく87分でまとめている潔さも心地好い
かといって、こういった作品にありがちなチープさをほとんど感じなかったところも、すごいなと思います。
「そうはならんやろ」のオンパレードでありながらも不思議と説得力のある自然な流れでストーリーが展開していくのは、取捨選択が巧みなのでしょう。
セットが細かくリアリティがあったり、映像の美しさもチープさを感じさせない要因であったと思います。
画の美しさで言えば、ポスターの爽やかさは、内容を観たあとで振り返るとこれ以上ないほどぴったりです。

登場人物も全員がキャラが立っており、会話もいちいち楽しく、キャストも合っていました。
特にやはり、主人公であるヴィンセントとソフィー夫婦が良かったです。
まんまるおめめが特徴のヴィンセントの百面相は、見ているだけで楽しい。

あと個人的に好きだったのは、最後に肉屋を襲撃してきた3人組。
ゲーム『Far Cry』シリーズに出てきそうな、「いかにもやべぇヤツらです」感をひしひしと醸し出してくる雰囲気が最高でした。
特にボスっぽいヒゲの男が良かったですが、フックが目に刺さっただけで即死は脆すぎました(演出的には完璧)。


一方で、しっかりと解体シーンがあったのも嬉しかったポイント
そのメリハリが効果的であったと思います。
切断面などはだいぶ簡略化されていた印象ですが、しっかりと「解体している」感が表現されていました。
耐性がない人には、しっかりとグロかったのではないでしょうか。
音楽の影響の大きさを改めて痛感したのも本作の解体シーンで、毎回軽快だったり爽やかだったり明るい曲が流れるので、不思議と人間を解体しているとは思えないポップなシーンに見えてきます。

伏線というか、登場人物やシーンに無駄がないのもお見事
挙げればキリがありませんが、一つ個人的に好きだったシーンを挙げるとすれば、シリアルキラー好き仲間で肉屋で働くヴィーガンを殺害した直後、娘のクロエが突然家に帰ってきて、ヴィンセントとソフィーが慌てて平然を装うシーン。
ソファの背もたれを乗り越えると同時に寝転がった体勢になるソフィーの身軽さが、地味ながらとても好き。
基本的に終始やばかったのはソフィーですが、金魚の水槽で血を洗い流すヴィンセントもなかなかです。

登場人物はみんなネジが外れていましたが、唯一まともだったのは娘のクロエですかね
あんな両親にあんな彼氏と、ただただかわいそうでした。
これからもまっすぐ育ってほしいところ。

あととにかく、肝心のお肉がとても美味しそうであった点もとても重要でしょう
やっぱり野菜だけで育てると人肉も美味しくなるのかな(違)。
もう冒頭から美味しそうでしたが、客を待たせるのも構わずぺちぺちとお肉を叩くヴィンセントからは、溢れんばかりのお肉愛が伝わってきました。
ちなみに、そんな作品で「世界一美味しい肉」として神戸牛が挙がっていたのは嬉しいですね。
果たして神戸牛に関わる人たちが本作を観て、光栄に感じるのかどうかはわかりませんが。

カニバリズムや社会派なテーマを扱っていながら、ひたすら軽妙で頭空っぽにして楽しめるエンタテインメントになっていたのは、とにかく見事でした。
カニバリズム、社会派なテーマ、というキーワードだけで考えたとき、本作と対極に位置しているイメージとして浮かぶ作品は、『ザ・シェフ 悪魔のレシピ』です。
こちらはもうあまりにも重々しく鬱々とした作品で、面白いか、万人受けするかというと激しく微妙ですが、個人的にはけっこう好きなので、ご興味のある方はぜひ。


本作は特に考察するポイントもありませんが、唯一余地があるとすれば、最後の法廷における「後悔することは?」という問いに対するソフィーの答え「ウィニー」でしょう。
シンプルに考えたとき選択肢は二つで、

  1. 肥満で心臓病でいじめられていたウィニーを殺してしまったことに対する後悔
  2. 逮捕されるきっかけ(ペースメーカー)になったことに対する後悔

でしょうが、個人的には圧倒的に2を支持します
ヴィンセントは1だと思いますが、ソフィーは絶対に2。
あるいは、法廷上はダブルミーニングにもなっており、1のようなニュアンスで反省を示しつつ、本心は2であると考えられます。
初めて(ヴィンセントが)人を殺してしまい、どうなるのかという不安に苛まれて眠れなくなりながらも、気分転換に見るのはシリアルキラーを紹介する番組なのがソフィーです。

とはいえ、最初のきっかけはヴィンセントによる殺人ですし、しかも事故でもなく、意図的に轢き殺したという点は忘れてはなりません。
ヴィーガン仲間を装ってブラシャール夫妻の肉屋を襲撃したときも大暴れしたヴィンセントは、だいぶ感情のままに動いてしまうタイプのようです。
そもそも肉屋の経営も夫婦関係もうまくいっていなかったわけですし、あまり先のことはしっかり考えない性格なのは間違いありません。
後半は、多様な方法で完全にハントを楽しんでいましたしね。

というわけで、観ている間はひたすらに楽しい、シニカルなブラックさが炸裂しまくりで個人的にはかなり好きな作品でした。


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