作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
アメリカ人バックパッカーのジョシュとパクストンは、スロバキアのとあるホステルに外国人男性を求める美女たちがいるという噂を聞きつける。
彼らは意気揚々とそのホステルへ向かうが、そこで彼らを待ち受けていたのは想像を絶する恐怖だった──。
2005年製作、アメリカの作品。
原題も『Hostel』。
クエンティン・タランティーノ製作総指揮、イーライ・ロス監督という、今見ても豪華な組み合わせ。
イーライ・ロス監督の(本記事作成時点での)最新作『サンクスギビング』を観に行く予定なので、今回数年振りに再鑑賞しました。
いやぁ、やっぱり、大好きです。
悪趣味と言われようと、切株映画やらトーチャーポルノ(拷問ポルノ)と揶揄されようと、こういうのが大好きなのです。
もはや改まっての感想があるわけでもないですが、やはりこのブログに本作を取り上げて残しておきたい気持ちもあり、簡単に。
ホラー映画好きであれば必ず名前ぐらいは聞いたことがあるであろう、もはや細かい説明は不要かと思われる1作。
拷問的なグロさに定評のある映画で言えば、大抵『ソウ』と並んで名前が挙がります。
とはいえ、グロいグロいと言われがちですが、グロシーンはそれほど多いわけではなく、人間ドラマもけっこう描かれます。
単純に時間を引っ張っているだけとも言えますが、そこで飽きさせないのがイーライ・ロス監督。
『ホステル』も、前半はほとんどぐだぐだ遊んでいるだけですが、要所要所で生首を登場させたりと、ツボを押さえた演出が光っていました。
構図としては、見知らぬ土地を訪れた刹那的な快楽を求める若者たちが酷い目に遭うという、スプラッタの典型でしょう。
社会風刺的な要素も垣間見えますが、あくまでもおまけ、付加的な要素であり、根底は悪趣味なエンタメであるというのが個人的なイーライ・ロス監督作品の解釈です。
典型的な要素に関しては、その振り幅の極端さが好きです。
これでもかというほど今の快楽を生きる愚かな主人公たちと、時間にしては少なくとも印象に残るゴアシーン。
遠慮のないエログロ狂気の詰め合わせ。
特にゴアシーンに関しては、決して派手なわけではなく、リアリティも高くないんですよね。
それでいて妙に印象に残るのは、魅せ方の妙でしょう。
電動ドリルで刺したり、アキレス腱を切ったりというのは、地味であるが故にリアルな拷問感が漂います。
一方で、飛び出した目の視神経をハサミで切り、謎の白っぽい液体が溢れ出てくるというのは、もはやリアリティ的にはめちゃくちゃ。
リアルな恐ろしさと、もはやギャグじみた突飛な演出の匙加減が絶妙です。
何が求められインパクトがあるのか、観客が何を嫌がるのかというのを、よくわかっているのでしょう。
それは作品全体にも言えるのではないかと思います。
同じ悪趣味な作品でも、終始緊迫感が漂い痛々しい『ソウ』シリーズや、ひたすら暗くもはや絶望感しか残らない『マーターズ』や『屋敷女』といったフレンチホラーなどとは違い、イーライ・ロス作品は、観終わったあとに不思議とすっきりとした感覚が残ります(個人差は大きいと思いますが)。
少なくとも、鬱映画、胸糞映画とは言えない作品が多いでしょう。
その点は、決して一方的な残虐さだけを描いているわけではないからだと思います。
『キャビン・フィーバー』然り、『グリーン・インフェルノ』然り、必ずしもどちらが悪い、どちらがかわいそうとも言えません。
どちらかといえば、人類という存在全体に対してシニカルな視点であると感じます。
もちろん、鑑賞後のすっきり感に関しては、主人公のパクストンがしっかりとやり返す復讐劇を描いているのも大きな要因でしょう。
3人を車で轢いたのもそうですし、わざわざ引き返してきてトドメを刺すところなんか、「うーむ、理解っていらっしゃる」と唸らさせられます。
オランダ人のビジネスマン(列車で出会った、外科医になりたかった男性)なんて、本作で一番惨めな死に方と言っても過言ではないですからね。
駅のトイレの便器に頭を突っ込んだまま死んでいるのを発見されるなんて、絶対に嫌です。
いや、本作のどの死に方も絶対に嫌ですが。
唐突にねじ込まれるブラックを通り越してダークでシュールなユーモアも、イーライ・ロス作品の特徴として感じます。
それも、笑わせてやろうという感じではなく、あくまでも真面目な展開のまま。
個人的には、『キャビン・フィーバー』でも書きましたが、このシュールなユーモアにすごく狂気を感じるんですよね、イーライ・ロス監督の(褒めてます)。
恐怖も、笑いも、狂気も、すべて「常識からのずれ」である点を考えれば納得がいくのですが、「何でそんな発想になる?」と恐ろしく感じるシーンが多々あります。
また、それらも踏まえると、イーライ・ロス監督は、自分の演出が観客にどう受け取られるのかを熟知し、意識しているんだろうなと強く感じます。
派手ではないのに生理的で本能的な嫌悪感を感じる拷問関連のシーンもそうですし、一方で鑑賞後に残る爽快感も意図されたものでしょう。
お金を出せば人殺しもできる、文字通りのエリートに限らず、海外旅行に来た上、わざわざ快楽を求めて来た旅行客を虫けらのように拷問して弄ぶ「エリート・ハンティング」という組織。
そんな彼らも同じような目に遭う展開。
そこに社会風刺的な視点も織り込まれていますが、やはり、一番にメッセージを放っているのは、当然ながら観客に向けてであるはずです。
エンドロールの最後に、「あなたは私の商品。だから私の思いのまま」という、作中で使われた台詞が再び流れます。
これは個人的に、監督の観客に対する宣戦布告ではないですが自信の表れであるように感じました。
「こういうの、お好きでしょう?」という。
そしてそれはもちろん、こういった作品を好きな観客を馬鹿にしているのではなく、監督自身が大好きだからなんだろうな、と思います。
ちなみに、『ホステル』の社会風刺的な部分を拡張して、また違った悪趣味さとユーモアで味付けして仕上げた印象の作品が、『ザ・ハント』です。
小ネタとしては、日本人が出てきたり「さよなら」というメッセージなどは『ムカデ人間』と並んで笑ってしまいましたが、実際に日本人が演じていた『ムカデ人間』とは違い、カナはジェニファー・リムという単なるアジア系の俳優であったようなのは残念。
一方で、三池崇史監督の出演(エリート・ハンティングの建物に到着したパクストンに対して「有り金を全部使うことになる」と忠告した人物)は、熱いものがありますね。
2も観たはずですがほぼ覚えていないので(3はイーライ・ロス監督でなくなったのもあって、観ていなかったような)、またこちらもどこかで続けて観てみたいと思います。
追記
『サンクスギビング』(2023/12/31)
無事に『サンクスギビング』も鑑賞し、感想をアップしました。
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