【映画】サンクスギビング(ネタバレ感想・考察)

映画『サンクスギビング』のポスター
(C)2023 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『サンクスギビング』のポスター
(C)2023 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

「感謝祭(=サンクスギビング)」発祥の地、マサチューセッツ州プリマス。
一年に一度の祝祭に沸き立つ人々だったが、突如、ダイナーで働く女性が何者かに惨殺される事件が起こる。
その後も一人、また一人と消えてゆく住民たち。
彼らは皆、調理器具を凶器に、感謝祭の食卓に並ぶご馳走に模した残忍なやり口で殺害されていた。
街中が恐怖のどん底に突き落とされるなか、地の高校の仲良しグループのジェシカたちは、ジョン・カーヴァーを名乗る謎のインスタグラムの投稿にタグ付けされたことに気づく。
そこには豪華な食卓が用意され、自分たちの名札が意味深に配されていた──。

2023年製作、アメリカの作品。
原題も『Thanksgiving』。

とてもとても楽しみにしていた、イーライ・ロス監督の最新作。
イーライ・ロス監督による、1980〜1990年代のスラッシャーホラーをオマージュしたリスペクトしたR18+作品?
そんなのもう面白くないわけがないじゃないですか

というやや過剰とも言える期待をしっかりと満たしてくれた、2023年の最後に映画館で観られて大満足な作品でした。

本作は、もともとクエンティン・タランティーノ監督とロバート・ロドリゲス監督がタッグを組んだ2007年の映画『グラインドハウス』内に収録された、イーライ・ロス監督によるフェイク予告編「Thanksgiving」を、16年の時を経て、本当に長編映画化した、という1作。
ちなみに『グラインドハウス』は、観たいのですがまだ観られていません。

イーライ・ロス監督のデビュー作『キャビン・フィーバー』でも共同で脚本を担当したジェフ・レンデルが、本作『サンクスギビング』でも共同で脚本を担当。
イーライ・ロスとジェフ・レンデルは、小学生の頃からのホラー好き親友らしいです。
それが今も一緒にホラー映画を作っているなんて、何と素敵な。


本作はとにかく、シンプルな王道スラッシャー作品として完成された面白さ
散りばめられた過去作品群へのオマージュや演出は、古き良きスラッシャーホラーへの偏愛が強く感じられました。
一方で、インスタへのタグ付けやライブ配信など、現代的な要素もフル活用。
1980〜1990年代ホラーのオマージュ作品は近年多く見られますが、本作はまさに、古典スラッシャーリスペクトを、現代のイーライ・ロスが絶妙に味つけして完成された作品でした。
イーライ・ロスらしい、社会風刺的な要素の織り交ぜ方も見事。

個人的には、ちょうど最近観たのも影響しているかもしれませんが、復讐、全身コスプレ(?)した殺人鬼、パレードでの襲撃と、全体的には『ラストサマー』が一番近い印象を受けました。
オマージュに関しては、殺人鬼ジョン・カーヴァーが斧で襲ってくるところは『13日の金曜日』などの感が強く、森の中を逃げるあたりは『悪魔のいけにえ』を感じました。
主人公ジェシカの継母キャスリーンが鍬で襲われ、壁から鍬の先端が飛び出してくるところは、『13日の金曜日』っぽくもあるような、『シャイニング』っぽさもあったような、壁から刃物が飛び出してくというのはスラッシャーモノの定番でもあったような。
ラストの夢は『エルム街の悪夢』っぽい?

ちなみに、公開前には公式から、以下のような昔の作品をオマージュしたポスターが発表されていました。

映画『サンクスギビング』のポスター
映画『サンクスギビング』のポスター
映画『サンクスギビング』のポスター
映画『サンクスギビング』のポスター

上から順番に、
『13日の金曜日』
『悪魔のいけにえ』
『血のバレンタイン』
『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』
のポスターオマージュ。

この4作品がオマージュされているのは間違いないでしょう。
なので、斧は『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』の要素かも。
『血のバレンタイン』だけは残念ながら未鑑賞。
ただ、あらすじを調べてみた限り、『血のバレンタイン』は過去の事件をきっかけにバレンタイン・デーに殺人事件が起こる内容のようなので、全体の構成が『サンクスギビング』に似ていそうです。

事件の原因となった1年前のライトマートにおける暴走事故は、もう笑ってしまうレベルでしたが、あれもゾンビ映画のオマージュでしょうか。
海外でゾンビに襲われるといえば、ショッピングモールが定番です。
もはやゾンビに襲われてパニックに陥った人間以上に暴走する客たちの姿は、ゾンビより脳が腐っているのではないかと思えるほどに愚か。
つかみもばっちりなスタートでした。


グロ、ゴア、スプラッタ要素に関しては、個人的には爽快さが強く感じられました。
基本的には「そうはならんやろ」とツッコミたくなる、リアリティよりもエンタメ性が強い人体破壊のオンパレード。
定番を踏襲しているようで、予想を上回ったり外してくる派手さや死に方などはスラッシャー好きほどニヤリとするのは間違いなく、やはり「殺し方」に一番こだわっている印象を受けました
時には笑ってしまうようなオーバーな殺され方も、最高です。
印象的な、パレードでの殺戮、トランポリンでのチアリーダー、人間七面鳥あたりは、上述した『グラインドハウス』におけるフェイク予告の時点で原型が存在していたようです。

ただ、スタイリッシュ、派手さ、爽快さが前面に出ており、イーライ・ロス監督らしい生理的・本能的な恐怖や嫌悪感を喚起してくるような演出は鳴りを潜めていた印象です
優等生的な王道スラッシャー映画としてしっかりまとめてきたとも言えますし、個人的には、もう少しイーライ・ロス監督らしい嫌らしさを見たかった気持ちもあります。
なので、公式も「サイコ・フェスティバル・スリラー」と銘打っている通り、「怖い」「ホラー」といった作品ではないと思われます。
エンドロール後の笑える短い映像も、後味の悪さを残さないエンタメ性が強いことを示すものでしょう。

鳴りを潜めていたのは、『キャビン・フィーバー』や『ホステル』の感想でも書いたような、滲み出るイーライ・ロス監督の狂気も同じく
「なに、このキャラ?」「なに、この意味不明な演出?」「何でそんな発想になった?」と思わせる、訳のわからない要素にイーライ・ロスの(良い意味での)狂気を感じることが多いのですが、本作ではそのような意味不明なシーンは少なめだったように思います。
シュールなユーモアは健在でしたが、それもまた優等生的であった印象です。

ミステリィ要素に関しては、ニューロン保安官が犯人であった点は意外性がありましたが、どんでん返しというほどではありません。
そもそも関係者も限られていますし、怪しく見せていたボビーやライアンが犯人でないであろうことは容易に想像がつき、保安官や警察官が犯人というのも近年では珍しくもありません。
動機も、やや弱めと言えば弱め。
あとは、単純に知名度やキャリア等の理由もあるでしょうが、公式ホームページでも、映画.comやFilmarksといったサイトでも、キャストのトップに名前が来ているのはニューロン保安官演じるパトリック・デンプシーだったので、イコール犯人までは思わないにしても、キーパーソンであることはすぐ予想がつきます。

しかし、あくまでも本作の主軸はスラッシャーです
この点については、元々のフェイク予告は3分程度の作品であり、それを長編とするためにはしっかりしたストーリーやディティールが必要だ、それなら『スクリーム』や『ミュート・ウィットネス』のような犯人探しミステリィの要素もあるスラッシャー映画にしよう、とイーライ・ロス監督が考えたとのこと。
長編化にあたっての付加的な要素であり、そもそもミステリィやトリック、犯人当てがメインではないので、その中ではしっかりと組み立てられていたと言えるでしょう。


王道スラッシャーでありながら、王道からの外し方も巧みでした
時代に合わせてか、あまりだらだらと追いかけっこをすることはせず、すぐに殺すことの方が多かったのでストレスも少なめ。
キャスリーンは予想外の粘りを見せましたが、そのツケを払うかのように、人間七面鳥に選ばれてしまいました。

また、主人公周辺の仲間がそれほど死ななかった点も、王道から見れば意外性がありました
ジェシカはファイナル・ガールどころか、グループの半分ぐらいは生き残り、最後にはカップルで危機を脱出した上にライアンも生き残るところなどは、王道からは外れます。
しかも、全体的にみんな影が薄めでもありました。
ボビーもライアンも、犯人でもなかったし、それほど活躍もしなかったし、何とも最後まで見せ場が乏しい。
仕込みナイフの指輪、母親の写真の入ったペンダント、過去に銃に火薬を詰めた経験などの伏線も綺麗に回収しながら、ほぼすべてジェシカが1人で解決したと言っても過言ではありませんでした

現代的な要素としては、やはりスマホの活用が一番でしょう
インスタにタグ付けするのが殺害予告というのも面白いですし、ライブ中継で「死んでバズれ」というのは何とも皮肉というか、殺人を娯楽として楽しむ観客を重ね合わせた演出に見えました。
しかし、それが説教的ではないのがイーライ・ロス監督。
「自分も楽しむ側の人間ですよ」というのがひしひしと伝わってきます。
もちろん、フィクションの世界で、というのは言うまでもなく。

しかし、そんな現代的なデバイスを使いこなす殺人鬼のメインの凶器が斧というのがまた、こだわりとロマンを感じさせます。
斧ですよ、斧。
こんな現代的な殺人鬼が凶器を選ぶ際、斧なんて絶対選ぶわけがないじゃないですか。
ジョン・カーヴァーのお面といい、あえてのこだわりがたまりません。

少し物足りなかった点を挙げるとすれば、キルカウントが思ったより少なかったところと、想像していたよりお料理要素が少なかった点でした。
とはいえ、前者は多様な殺され方でカバーされており、自分の後者は勝手な期待に過ぎません。
『グリーン・インフェルノ』以上の人肉料理を期待してしまっていましたが、そもそもそういう嗜好の殺人鬼じゃなかった。
終盤の晩餐会のシーンはとても好きでした。


最後にややどうでもいい個人的な話ですが、本作を観る前に、前哨戦として『ホステル』を再鑑賞していったのですが、それが仇になってしまった、という話を。
『ホステル』はインパクトの強いキャラが多かったですが、中でも強く異彩を放っていた1人が、アメリカ人の顧客(終盤「素早くやった方がいいか?」などと主人公に問いかけてきた男性)でした。
フレンドリーに話しかけてきているのに、どう見ても「こいつはやべぇ……!」と思わせる狂気を醸し出す笑顔が抜群に輝いていた彼を演じていた俳優の名は、リック・ホフマン。

まさかの、『サンクスギビング』で主人公ジェシカの父親トーマス役で登場。
いかんせん直前に『ホステル』を観てしまっていたので、あんな癖が強めの顔に笑顔、登場して速攻気がついてしまいました。
それからは、娘想いの良いパパだったのに、終始やばい奴にしか見えなかったという弊害。


というわけで、とにかく「新たな王道スラッシャーを作ってやろう」という意気込みが強く感じられた本作
制作直後には「これ以上の作品は撮れない」と言っていたイーライ・ロス監督でしたが、早くも続編の制作が決まり、「自分たちが作ったものを超えるつもりです」と熱く語ってくれているので、期待したいと思います。
勝手かつ個人的な期待としては、優等生的に作った本作以上に、イーライ・ロス監督らしい狂気と悪趣味さ全開の方向性に向かってくれたら最高です。

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