作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
事故で夫と身籠っていた子どもを一度に失い、失意の底にいたジェサベルは、父親が暮らす実家に戻る。
そこで亡き母が自分に向けて残していたビデオテープを発見した彼女は、ビデオを見ながら懐かしい思い出に浸っていた。
しかし、ビデオの中で母が語った予言が現実のものとなり、不可解な現象に襲われ始める──。
2014年製作、アメリカの作品。
原題も『Jessabelle』。
ジェイソン・ブラムが製作で、『ソウ6』『ソウ ザ・ファイナル 3D』などでも監督を務めたケヴィン・グルタートが監督と、個人的には魅力的な布陣。
それもあってか、なかなかに楽しめた作品でした。
冒頭でいきなり起こる不幸、不気味な夢、古いビデオ、車椅子というハンデ、ブードゥー教の怪しい儀式や呪物、突然恐ろしいことを言う不気味な老女、襲いくる怪異……などなど、これでもかというほど色々な要素が詰め込まれており、スピーディかつ徐々に真相が明かされていく展開は面白い。
ブラムハウス製らしいジャンプスケアも要所要所に挟まれ、油断させません。
が、どうにもあと一歩物足りないというか、惜しいというか、といった感覚が拭えませんでした。
徐々に謎が明らかになっていく過程は面白くもありつつも、明かされた真相はそこまで予想外というわけでもなく、主人公にとってはただただ理不尽。
細かく検討してしまうと「周りがみんなクズで、主人公だけがかわいそうすぎない?」という結論になってしまったり、齟齬が目立ってきてしまうので、あまり深く考えず、詰め込まれた要素を勢い良く楽しむべき作品かと思います。
真相は若干ごちゃごちゃしていますが、主人公ジェサベル(以下、ジェシー)の母親が妊娠したのは、夫レオンの子ではなく、タロットを習っていたという教会のスタッフ(神父?)モーセとの子でした。
つまり、不倫していたわけですね。
生まれた子の肌が黒いのを見て、レオンは自分の子どもではないことを悟り、ブチ切れ。
赤ちゃん(以下、真ジェサベル)を殺し、モーセも銃殺して家に火を放ちました。
母親は拳銃で自殺。
レオンは罪を隠すために、別の女の子(ジェシー)を養子に迎えましたが、アルコール依存になり、最終的にはジェシーを親戚(叔母と言っていたのでレオンの妹?)に預けました。
一方、真ジェサベルはモーセの教会で葬られ、ブードゥー教の儀式が行われました。
ジェシーとプレストンがモーセの教会付近を訪れた際に襲ってきた男性たちがその儀式の実行者でしたが、モーセの信者的な存在だったのでしょうか。
そうだとすると、モーセはやはり神父なりそれなりに権威ある立場だったのだと考えられます。
その儀式によって霊が呼び出され、最後には真ジェサベルがジェシーに乗り移るように姿を変え、水上へと浮上しました。
それが大まかな真相ですが、まぁとにかく、ジェシーはとばっちりを受けまくったとしか言いようがありません。
モーセの霊はジェシーに「償ってもらうぞ」と言っていましたが、ジェシーには何も償うべき罪も非もないでしょう。
冒頭、「“運命の影からは逃げられない” ハイチの伝説」という言葉の引用から始まるので、養子として引き取られ、ジェサベルとして育てられた時点で運命は決まってしまっていた、ということでしょうか。
彼氏が事故死し、妊娠していた子を流産して自分も車椅子生活になってしまったのも、あの土地に戻ってくる運命に引き寄せられた結果とも捉えられなくはありません。
理不尽にも程がありますが、運命とは理不尽なものです。
とはいえ、運命の理不尽さを描いた作品という感じでもありません。
不遇な環境の割にジェシーはまっすぐに育っており、家に棲む霊を助けようとするなど優しさも目立っただけに、何とも後味の悪さだけが残ってしまいました。
そのあたりの理不尽さに加えて、登場人物がほぼ全員自己中心的で共感しづらかったのも、後味の悪さに拍車をかけます。
共感できないのは別に良いのですが、何でその行動になるのかがことごとく謎だった感。
まずとにかく、母親はフォローのしようがありませんね。
モーセもまた同様。
父レオンは、罪のない赤ちゃんを殺したのはさすがに問題しかありませんが、ブチ切れてアルコール依存になるのは同情の余地もあります。
しかし、アルコール依存になって社会性がなくなり、お金も余裕がなかったんだと思いますが、悲劇の現場となったあの家、あの土地に住み続けるというのは、なかなか理解し難いところがありました。
ジェシーは車椅子というハンデを背負っており、それが自由に逃げられない恐怖に繋がっていました。
一方で、それをフォローする役割が必要で、それがプレストンだったわけですが、さすがに奥さんに対して気遣いがなさすぎました。
別に独身設定でも良かった気がしますが、既婚者だったことで妙に生々しいリアル感があったとも言えるかもしれません。
協力的だったのはジェシーにとってありがたく、手を出してくることもない最低限の紳士さを持ち合わせていたかと思いきや、「俺が今でも君を想っていることも知っている」というセリフを吐いてしまいました。
個人的にあの雰囲気でのあのような表現、最強に卑怯だと思うんですけれど、いかがでしょう。
まぁ、明らかにプレストンの前では露出の多い服を着ていたジェシーも確信犯だった気はします。
真ジェサベルは、自分が生きられなかった人生を送ったジェシーを恨んでいたのかとは思いますが、なぜプレストンに好意を抱いていたのかは謎です。
ジェシーの身体を乗っ取ったような形なので、ジェシーの気持ちが残っていた、ということでしょうか。
ただ、その前から車の中でキスしようとしていたので、そこはどうにもわかりません。
単純に相手は誰でも良くて、恋愛に憧れていたのか。
ただ、簡単に引っ越すこともできず、人々の想いが多重に交錯し、不倫が渦巻く混沌とした環境は、あのような地方の小さなコミュニティのリアルさとも言えるかもしれません。
ホラー要素は、序盤の方が秀逸でした。
特に、現実も侵食してくるような不気味な夢は、個人的に好みでした。
ビデオの活用や真ジェサベルの造形は、『リング』『呪怨』といったジャパニーズホラーも感じさせる雰囲気で良かったです。
ただ、真ジェサベルが、かなりはっきりした実体を持って登場する上に、攻撃が想像以上に物理。
『呪怨』の海外リブート作品『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』でも、『呪怨』の伽椰子に該当する霊フィオナはかなり物理攻撃寄りだったので、そこはやはりアメリカらしさを感じました。
ラストシーンでは、車椅子ごと湖に落ちたジェシーのもとに真ジェサベルが泳いできましたが、あの時点ですでにシュール。
さらに、ジェシーが「真ジェサベルは敵じゃない、助けを求めているんだ!」といったことを言っていたのと、真ジェサベルがジェシーを恨んでいるとは思っていなかったことから、個人的にはあそこで真ジェサベルがジェシーを助けてくれるのかと思ったので、無表情でブレスレットを奪って浮上していったときにはちょっと笑ってしまいました。
そんなわけで、様々な要素が詰め込まれた展開は楽しめましたが、詰め込みすぎで中途半端感は否めず、細かく見るとツッコミポイントが色々見えてしまうのが惜しいポイントでした。
ただやはり、一番インパクトがあるのは、本編ではなくポスターですね。
このポスターが秀逸すぎて、それは宣伝としては大いに成功しつつも、このシーンがあるわけでもないですし、逆に内容のハードルを上げてしまっている気がしました。
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