作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
春休みの帰省のため、車で田舎道を走っていた大学生の姉トリッシュと弟のダリー。
やがて、2人の車に不気味なトラックが急接近し、執拗に追い立てはじめる。
何とか難を逃れた2人は、20年以上前に同じ道を走行中に行方不明になったカップルの噂を思い出す。
実はこの付近には、23年に一度、大量の人々が行方不明になるという都市伝説があり──。
2001年製作、アメリカの作品。
原題も『Jeepers Creepers』。
とある都市伝説を巡る物語。
これは都市伝説なのか?
と思わなくもありませんでしたが、序盤、「これは面白いぞ……!」と一気に引き込まれました。
ですが、
中盤あたりから「あれ?おや?」となり、
終盤ではスンッ……。
いや、悪くない。
悪くないんですけど、モンスター?クリーチャー?悪魔?系かぁ……という着地が、残念ながら自分にはちょっと合いませんでした。
序盤の魅せ方はとても巧みで、トラックで煽られたシーンから、教会の地下室を目撃するあたりまでは大好き。
トラックに追いかけられるのは、比較的最近観た『アオラレ』を思い出しましたが、もちろん『アオラレ』の方が後発。
本作は、スティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』や、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』などを参考にしているようです。
展開の雲行きが怪しくなってきたのは、大男(以下「クリーパー」)がはっきり登場したあたりから。
ここは本当に好き好きでしょうが、個人的にはビジュアルが怪人っぽくて怖さは半減、というか激減。
この点、『ジーパーズ・クリーパーズ』は、ホラー映画の難しさを体現したような作品でした。
最初の導入や不気味さは、ホラーの定番も踏襲しており、個人的には完璧です。
ほとんど車も通らない田舎道。
不意に煽ってくる不気味なトラック。
昔、学生が消えたという都市伝説。
目撃してしまった怪しい男とヤバそうな現場。
人間の死体でデコレーションされた恐ろしい地下室。
理解を超えた状況が、不安と恐怖を掻き立てます。
しかしそんな不気味な雰囲気は、クリーパーが登場してからは一転。
人間離れしたクリーパーの前では、車による体当たりも銃も効かず、ひたすら逃げ回るしかありません。
ホラーは、恐怖の正体がはっきりしてからが難しいと思っています。
それまでは、はっきりしない点が多いことで、観ている側の想像による恐怖が無限に広がりますが、いざ正体や謎が明らかになってからは、イメージは固定され、生き残るための対策も具体化してしまう。
なので、前半と後半でジャンルや方向性が変わるのは、ホラー作品においては仕方なかったり半ば必然だと思っていますが、本作はその切り替えがうまくいっていなかったというか、後半はチープなモンスター・パニックモノのようになってしまっていました。
クリーパーのビジュアルも、怖いかと言えば、そりゃあ現実で目の前に現れたら怖いでしょうが、ホラー映画の殺人鬼として人気が出るにはインパクトに欠ける印象。
長髪おじいちゃんからデビルマンへの変化も、何とも言えず。
ちなみにデビルマン、見たことはないのですが、進化したクリーパーを見て「何かデビルマンとかこんな感じじゃなかった?」と思って調べてみたところ、予想以上に似ていました。
見た目は悪魔的な雰囲気も強かったので、日本人が感じる印象はアメリカなどとは異なるのかもしれません。
あとは、謎が明らかになっていくことで、謎だった部分に必要性がなかったことが明らかになっていってしまったことも、残念なポイントでした。
たとえば、数十年前の死体がつやつやの状態で保存されていた地下室。
謎の実験器具みたいなものも多々ありましたが、それらも結局明かされず。
もちろん、すべてが明かされる必要はなく、裏設定が色々あるのかもしれませんが、考察できるようなポイントは見当たりません。
そうなると、ただただホラー演出のためだけの設定だったのかな、という印象が強くなり、前半の不気味さの価値もやや下がってしまいます。
クリーパーがクリーチャー化してからは、前半の人間っぽい行動にも違和感が強まってしまいました。
飛べるんだったらトラック運転しなくていいじゃん!と思ってしまいますし、トリッシュの運転によって突っ込んでくる車の上を華麗に走って回避してドヤ顔するというのが繰り返されるシーンは、何してるんだろう感が強め。
結局は轢かれてしまい、瀕死の状態になったことで羽根が生えてきたので、悪魔的な能力をあえて隠していたわけではなく、あそこで進化したのかもしれませんが……。
レザーフェイスやジェイソンといった名だたる殺人鬼に比べると、クリーパーはやはり魅力が乏しめでした。
特に、匂いでターゲットを嗅ぎ分けたり、捕まえたトリッシュとダリーに顔を近づけてクンクンしたりペロペロしたりするシーンは、あまりにも変態感が強い。
車上荒らしをして洗濯物を嗅いで匂いを覚えたというのも、また然り。
生首から舌を食いちぎっていたのはけっこう好きでした。
レザーフェイスやジェイソン、そしてマイケルなどは、みんな仮面により無表情です。
そこが感情を感じさせない不気味さに繋がっているのだろう、というのを、表情豊かなクリーパーを見て改めて思いました。
とはいえ、近年生まれた新たな名殺人鬼である『テリファー』のアート・ザ・クラウンは表情豊かですが、ピエロメイクで、残虐な状況にそぐわない楽しげな表情が逆に恐怖感を強めていたので、工夫によっていくらでも見え方は変わります。
あと本作でけっこう珍しいなと思ったのは、クリーパーだけのシーンが描かれたことです。
具体的には、パトカーに乗っていた警察官2人を殺害したあと、トリッシュとダリーが車で逃げるのを見送ってから、クリーパーがトラックに警察官の死体を投げ込むシーンがありました。
殺人鬼だけのシーンというのは他作品でもないわけではありませんが、トリッシュとダリーが逃げたあと、「一方その頃」みたいな感じでクリーパーの様子が描かれたのは珍しい印象。
死体を載せてから「よし」といった風に帽子を被り直していたりと、無駄に人間味を感じさせるというか、普段の様子を見せられているようで、謎めいた雰囲気が薄れてしまったように感じるシーンでもありました。
人間の殺人鬼なら良かったかもしれませんが、結局はクリーチャー的な存在だったので、なおさら。
ついでに言うと、序盤、パイプから地下に死体を投げ込んでいるところをトリッシュとダリーに目撃されたシーン。
「あっ、お、お前ら、見たなっ!」みたいな感じでちょっと慌てていましたが、自分で追い抜いたんだから、遅れて通りがかることぐらいわかるでしょう。
華麗なステップで突っ込んでくる車を避けつつも、ちょっとタイミングをずらされただけで轢かれてしまったりと、抜けたところも目立つお茶目さんでした。
トリッシュとダリー姉弟は、最初からお互い思い遣りが垣間見え、常識も備えている感じで好印象でした。
トリッシュの「ホラー映画では必ず1人バカがいて、観る人全員がうんざりする」というセリフは感動しました。
しかし、そのセリフに恥じない賢明な言動を見せてくれるのかと思いきや、物語が進むにつれてどんどんと観る側をうんざりさせる言動になっていく姉弟(特にトリッシュ姉さん)なのでした。
猫のおばあちゃんは、めっちゃ思わせぶりに出てきましたが、結局ただただ猫が大好きなだけのおばあちゃんでした。
まさに意味もなく巻き込まれてしまっただけであり、本作におけるかわいそうキャラナンバーワン。
猫たち、大丈夫かな。
霊能者のジェゼルは、なぜ登場したのかやや謎。
結局、予言は半ば当たっていましたが、まったく役には立たず。
しかし、親切心から助言してあげただけなのに、トリッシュのジェゼルに対する当たりが強すぎやしませんでしたかね。
それでもめげずに何とかしてあげようとするジェゼル、優しい。
「暗闇で歌を聞き、叫ぶのはどちらか」という問いに、ジェゼルはトリッシュの方を向きました。
結局、叫ぶのはダリーだったわけで、あのシーンは予言が外れたのか、ダリーが死んでしまうので「残されるトリッシュはかわいそうに……」という意味だったのか。
ただ、「結末がファイナル・ガールであることを隠すため、トリッシュが死ぬと思い込ませるように観客をミスリードさせている」という意図もあったようなので、そのための演出だったかもしれません。
『Jeepers Creepers』というタイトルは、作中でも流れていた同名の楽曲に由来しているようですが、関連性はあまりわかりません。
「どうして君の瞳はそんなに魅力的なのか」といった歌詞のようなので、クリーパーが探し求めていたのは理想の瞳だった、それを持っているのがダリーだった、ということでしょうか。
バッドエンドすぎるラストですが、目玉をくり抜かれてぺらっぺらになったダリーのインパクトは良い。
しかし、23年に一度、23日間しか活動できないというのは、なかなかシビアですね。
そんな中で必死に理想のパーツをかき集めて、地下室にコレクションしていたのかと思うと、やや涙ぐましい。
1年に一度しか会えない織姫&彦星と、23年に一度23日間しか活動できないクリーパー。
どちらが幸せなのでしょう。
というわけで、クリーパーの設定と、だんだん失速してしまったように感じられたのがやや残念でしたが、全体的に雰囲気は好きで、特に序盤はかなり楽しめました。
まさかの続編もあるようなので、いつか観てみたいと思います。
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