作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
タイから韓国に移住し、恋人のウィーと幸せに暮らすピム。
彼女にはかつて、結合双生児で分離手術後に死亡した双子の姉妹プロイがいた。
母親が病気で倒れたという知らせを受けてタイに戻ったピムとウィーだったが、それ以来ピムの目に死んだプロイの姿が見えるようになる。
精神科医はピムの症状は彼女の心の問題だと診察するが、彼女だけに見える心霊現象はしだいにエスカレートして、ピムを苦しめていく──。
2007年、タイの作品。
原題は『Alone』で、タイ語の原題は『แฝด』で「双子」の意味のようです。
なので邦題の「双生児」は原題に近いですが、「フェート」は「fate」ですかね?
内容とズレているわけでもないですが、若干、何でそうなったのかいまいちわからない邦題。
さて、本作は『女神の継承』のバンジョン・ピサンタナクーン監督が、パークプム・ウォンプム監督と組んで作った作品。
このコンビは、バンジョン・ピサンタナクーン監督の2004年のデビュー作『心霊写真』から引き続きです。
すっかりバンジョン・ピサンタナクーン監督のファンになってしまったので、2作目となる本作も鑑賞。
タイトルからもプッシュされている通り、結合双生児(シャム双生児)を題材としたホラー。
綾辻行人ファンとしては『暗黒館の殺人』に出てくる「シャム双生児」という表現に馴染みがありますが、一応、以下では「結合双生児」と表記していきます。
身体の一部が結合している結合双生児。
見ていて何となく不思議な感覚になる自分に対して、目を逸らしてはいけないように思います。
どうなっているのか?
どんな感覚なのか?
単純に色々と気になると同時に、何となく不安定さを感じる気持ち、さらにはどこか引き込まれるような魅力も。
恐怖などの感情の処理に重要な役割を果たしているのが脳の扁桃体という部分ですが、意識レベルでは黒人に好意的な白人においても、黒人の顔写真を見せると扁桃体の活動が高まるという研究結果があります。
一種の差別が無意識に働くことを示唆するもので、差別をなくす難しさの要因の一つとも推察されていますが、見慣れないものへの恐怖心や警戒というのは、人間に遺伝的に備わっているものです。
他部族同士の争いも多かった狩猟時代から脳が大きく進化していないと考えれば、同じ人間でも、肌の色や造形が近いものに親近感を覚え、差が大きいほど警戒心が強まるのも必然です。
それを克服したり正しい認識に修正するのが理性の働きですが、奇形などに対して心のざわつきが生じること自体を否定するのも間違いでしょう。
という議論や塾考の余地がある大きな話題は一旦置いておいて、冒頭の写真を筆頭に、結合双生児であるピムとプロイの姿は、それだけである種の神秘性も感じずにはいられません。
このあたり、『心霊写真』でも冒頭では実際に提供された写真を使用していましたし、世界観への引き込みが巧みです。
本作では特に、左右対称のモチーフが多く使われていました。
冒頭の結合双生児の写真と合わせて演出されていたのは、左右対称に広がっていく黒いインクの染みでした。
これは、左右対称の黒いインクの染みを見せて「何に見えるか」を問い、その答えによって深層心理を分析するロールシャッハ・テストという心理検査を連想させます。
実際、精神科医のダナイ(ウィーの友人)が1枚見せていたのがロールシャッハ・テストでしょう(使われていた図版は偽物)。
本作において明かされた真相については、通常の双子でも通用するものであり、結合双生児という設定は必然性があるほどではありませんでした。
ロールシャッハ・テストは科学的には疑問視もされている検査ですが、冒頭の結合双生児の写真とインクの染みが広がる映像は、観客の無意識の部分にも何かしらを訴えかける意図を示唆していたのかもしれません。
しかし、相変わらず精神科医の描かれ方がひどくて悲しみ。
内容に関しては『心霊写真』に引き続き、実にシンプルなホラーで楽しめました。
出るぞ出るぞ……と溜めてからジャンプスケアでバーン!と霊が登場し、実は夢だったり見直すと消えていたり、という演出の繰り返し。
単調といえば単調ですが、見せ方が凝っているので飽きはしません。
特に結合双生児の使い方が巧みで、砂浜に並んだ足跡や、混んだ電車内でまるで誰かがいるかのように隣の席だけ空いているとか、結合双生児ならではのホラー演出が印象に残りました。
ただ、終盤の真相はやや駆け足で、結合双生児の設定はそこまで活かされていなかった感もあり、少し残念でもありました。
何より、実は生きていたのはピムではなくプロイの方だったという真実より、それを知ったウィーの態度の豹変の方がどうかと思う極端さ。
気づかず付き合ってきたんだし、大切に想いながら2人の時間を過ごしてきたんだし……。
嘘を吐かれていたショックはわかりますが、そもそも双子とはいえ気づかなかったのもどうなのよ、とは突っ込まざるを得ません。
そもそも、若かりし日の病院におけるピムに対するアプローチも、完全にプロイを無視するような形で、あれはどう考えてもプロイは傷つくでしょう。
恋は盲目とはいえ、ピムだけの絵を描くのというは、見せるつもりはなかったにしてもなかなかに残酷。
そこまでプロイを空気のように扱ってピムにアプローチしていたにもかかわらず、入れ替わっていたことに気がつかず、さらにはそれを明かされたらここ数年の生活を無視してのブチ切れ。
オカルト系でありながら、背景に人間のおぞましさなども描かれていたのは『心霊写真』でも見られましたが、本作はよりヒトコワ系の展開に転じた印象です。
なので、プロイの冷酷さが後半の恐怖感を牽引する要素となっていましたが、どちらかというとウィーの変わり身の早さの方が恐ろしく感じてしまいまい、真相が判明してからはお互い極端に凶暴になりすぎで、どっちもどっちな空気感に。
どちらもキレすぎなため、最後は規模の大きすぎる痴話喧嘩でしかなく、置いてけぼりにされた感も否めず。
生きていたのが実はプロイだった、という真相もだいたい予想できるものだったので、結局はそのまま三角関係のもつれで終わってしまったのが少し物足りなく感じてしまいました。
プロイはウィーを殴って縛ったあとは、家ごと燃やすつもりだったんですかね?
ちなみに、鑑賞後に公式の予告映像を見たのですが、「生き残ったのは誰?」「いなくなったのは誰?」と流れていて、だいぶネタバレだなと思いました。
生き残ったのが実はプロイだったというのはそれほど隠そうとは思っておらず、あくまでも3人の関係を巡る物語が軸だった、ということかもしれません。
完全に巻き込まれただけのノイ(使用人)はひたすらかわいそうでした。
何となく怪しくも見えたので、実は真相を知っているのか?プロイとグルなのか?など色々想像しましたが、全然そんなことなかった。
結局幽霊はピムだったわけですが、霊も霊で何がしたかったのかがいまいちわかりませんでした。
プロイに対しては恨みをぶつけ、ウィーに対しては真相に気づいてもらおうとしていたのでしょうか。
けっこうプロイに対しては積極的にアプローチ(攻撃)していましたが、終盤の痴話喧嘩中にはほとんどウィーを助けてくれなくてやきもきしました。
ただ、序盤からもったいぶることなく霊がバンバン出てくるのは良いポイント。
霊のデザインは『心霊写真』に比べると、Jホラーよりは『エクソシスト』『死霊のはらわた』やゾンビっぽさが強く、やや洋風なデザインになっているように感じられました。
そもそも、プロイがピムを殺害したのも短絡的すぎる感は否めません。
結合双生児は、片方が亡くなるともう片方も続けて亡くなってしまうことも多いようです。
結合の範囲によっても大きく変わるでしょうが、本作でも名前が出てきた結合双生児チャン&エン・ブンカー兄弟も、ある朝に兄のチャンが気管支炎で亡くなっており、弟のエンも3時間後に亡くなったそうです。
そのあたりのリアリティは本作では重きを置いていないのだと思いますが、首を絞めて殺害したのはきっと丸わかりなので、もっと色々と大騒ぎにはなっていたでしょう。
ちなみに、この有名な結合双生児であるチャン&エン・ブンカー兄弟の出生地がシャムのため、結合双生児がシャム双生児とも呼ばれるようになったようです。
シャムというのは現在のタイのことで、特にタイで結合双生児が多いというわけではありませんが、本作のテーマとして選ばれたのも、そのあたりの文化的な背景があったかもしれません。
文化的な面で言えば、『心霊写真』や『女神の継承』同様、タイの文化が垣間見られたのも面白かったです。
お墓にあんな写真もついてるんですね。
ウィーはお墓参りもしていなかったのか、というのはツッコミポイントになってしまっていましたが。
しかし、バンジョン・ピサンタナクーン監督は犬に恨みでもあるのでしょうか。
というのは半分冗談ですが、少し調べてみたところ、タイはむしろ動物愛護の精神が強く、以前の国王や仏教の影響で野良犬の殺処分などもほとんど行われないようです。
そんな文化だからこそ、あえて犬を殺すことで異常性や凶暴性を描いているのかもしれません。
ただ、『女神の継承』の方は必然性も感じられて個人的には許容できるのですが、本作はこの点においても唐突だったり必然性まではなかったと思うので、ややネガティブな印象に。
ハムスターは許しません(あそこでハムスターを握っている状況も謎ですが)。
そんなわけで、『フェート/双生児』も堅実なホラー映画ではありますが、個人的には『心霊写真』の方がテンポも良く、楽しめました。
古い家の雰囲気やテーマは良いのですが、そのあたりは個人的に大好きな韓国のホラー映画『箪笥<たんす>』とイメージが少々被ってしまうところもあり。
ただ、やはりしっかりホラーしているところは好きで、ナ・ホンジンのアイデアがベースとはいえ『女神の継承』での進化は凄まじいので、バンジョン・ピサンタナクーン監督、他の作品も追いつつ、これからも注目&応援したいと思います。
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