【映画】黄龍の村(ネタバレ感想・考察)

映画『黄龍の村』のポスター
(C)2021「黄龍の村」製作委員会
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『黄龍の村』のポスター
(C)2021「黄龍の村」製作委員会

レンタカーでキャンプ場へ向かう優希ら8人の若者たち。
その途中、山の中で車がパンクしてしまい、携帯電話の電波も繋がらず、助けを求めて歩き始める。
トンネルを抜けてたどり着いたのは、包丁が頭に刺さった案山子がある奇妙な村・龍切村だった──。

2021年製作、日本の作品。

『ベイビーわるきゅーれ』シリーズなどで有名な阪元裕吾監督作品。
阪本作品は初鑑賞だったのですが、正直、SNSなどを見ていると特に『ベイビーわるきゅーれ』シリーズなどはかなり熱狂的なファンが多い印象で、「もし合わなかったらどうしよう、ネガティブなこと言いづらいな……」と思っていたのですが、杞憂で終わりました。
これは面白い

「後半アクションになる」という程度のネタバレだけは見かけた上での鑑賞でしたが、それでも想像を上回る展開でした
公式でも「ネタバレ厳禁」と言っている通り、何も知らずに見るほど度肝を抜かれそうです。
一応、公式が「ホラーアクション」と表現してもいましたが、それで本作の展開を予想はできないでしょう。
まさに予測不可能。

観終わった上でもジャンルの分類は難しく、公式サイトに書かれている「オリジナル異端映画」という表現がまさにぴったり
前半は紛うことなきホラーで、最後までホラーを期待して観るととんでもない方向に連れて行かれてしまいますが、それでもきっと楽しめる魅力があります。
深みがあるというよりは、エンタメ特化型。

そして阪元裕吾監督、よく名前を聞くのでそこそこベテランかと思っていましたが、本作製作時点で24歳だったんですね
とんでもない。
しかも『ベイビーわるきゅーれ』が2021年7月公開で、『黄龍の村』が同じ2021年9月公開と、勢いとエネルギッシュさと才能が尋常じゃありません。
もちろん本作も粗さやツッコミどころは多々あったり、バイオレンス度は賛否両論な作品もあるようですが、このような才能を叩いていたら邦画の未来はないでしょう(何様だ、みたいな言い方になってしまった)。


本作『黄龍の村』では、冒頭の大学生たちの解像度が高いなと感じましたが、24歳というほぼ同世代ならそれも納得です。
スマホでの撮影画面の間は常に「車、事故らないかな(他の人に迷惑をかけないように自損事故で)」「早くひどい目に遭っちゃって良いよ」などついつい不謹慎なことを思わされ続けてしまうパリピ具合でしたが、それだけ解像度が高いということです。

そして、いわゆる陽キャたちが一掃され、陰キャたちが活躍する逆転の構図も計算され尽くしており、見事です
監督はお馬鹿なパリピ陽キャに恨みがあるのでは……?という考えが一瞬頭を過るほどでしたが、しっかりと観客たちに爽快感を与えてくれます。

それでも、短い時間でみんなの様子を描き、不穏すぎる龍切村に突入してからは陽キャたちの良い側面も見えてくるので、親近感も抱かせておいてからの一掃もまた素晴らしいです
キャスト陣はちょうど見事に全員知らなかったので没入できましたが、陽キャで最後まで残った優希(赤い服)を演じた水石亜飛夢は戦隊モノにも出演しているようだったので、ここから優希の逆襲アクションが始まるのか……!?と思わせておいて速攻退場させられるところも、緻密な計算を感じました。

本作をトータルで「ホラー映画」と表現するには抵抗もありますが、前半は確実にホラーとしても見事ですし、完全なるホラー作品も観てみたいと思わされます。
また、ホラーの定番を逆手に取ったような演出も見られました
たとえば「何でそんなに仲良くなさそうなのに、このメンバーで旅行に来たんだ……?」と思ってしまうグループが登場するのはスラッシャーホラーの定番ですが、それが本作でも感じられます。
しかし、そこに「陰キャ組には真の目的があった」という設定が隠されていました。


さらに、田舎の風習や因習への風刺、というほど強烈なものではありませんが、因習モノの根底である「因習」「伝統」に対する一石も投じられているように感じました
本作における龍切村の儀式は、もはや完全に形骸化したものでした。
「これ、村の決まりやから」という新次郎の台詞に象徴されるように、村長も誰も、儀式本来の意味を理解した上で行っていた様子はありません。

オビワンタワラ様こと十兵衛すら、ただの拉致された被害者でした。
言動からはおそらく幼少期に拉致され、そのままもはや監禁状態で、きちんと奉られていた様子はありません。
村人にオビワンタワラ様を心から敬う様子などまったくなく、十兵衛もただ誰てでもいいからオビワンタワラ役を務めるためだけに監禁されていたようです。

十兵衛の年齢を考えれば、どれほど幼少期に拉致されたとしても30〜40年ほど前でしかないので、彼が初代オビワンタワラではないはずです。
起源や本来の儀式の意味がもはや伝わらなくなっている点を踏まえれば、相当昔から行われていたのでしょう

そのため、龍切村の儀式にはまったく深みや重みがなく、土着信仰ホラーに特徴的な畏怖を抱かせるような感覚も皆無でした
いわゆる脳死状態でただ旅行客を拉致って殺害してオビワンタワラ様に食べさせ続けているだけ。
それは「決まりやから」続けているだけで、意味なんて理解しても考えてもいないのです。

伝統の継承は大切だと思っていますが、意味を知らずに続けても意義はありません。
それは校則だったり、差別用語の禁止なども同じであるように感じます。
「決まりだから」というだけで意味のない規則を続けていたり。
「良くない言葉だから」という説明だけで用語の使用を禁止させたり。
本来大切なのは「なぜそういう決まりを作っているのか」「何が良くないのか」を理解してもらうことであるはずです

そう考えると、本作では関係ない村人も皆殺しにされてしまいましたが、村全体として見れば、いずれは廃れ滅びる運命が早まっただけとも捉えられます(殺されて当然だったというわけではありませんが)。

なので、そんな惰性の被害者だった十兵衛が生き残っていたのは嬉しいというか、良かったなと思います。
もともと人肉を食べるからオビワンタワラに選ばれたのか、適当に選ばれてから食べさせられたのかはわかりませんが、人肉の味を覚えてしまっているのに抜け出せるのかだけ心配です。
いや、でも、便利屋になった健人の助手になっていましたが、便利屋として悪人を成敗したあと、死体処理の手間を省くのには便利なのかも(?)。

そんなわけで、なぜか真面目な方向性に話を広げてしまいましたが、俳優陣もみんな合っていて良かったですし、アクションはさすがでしたし、エンタテイメント性の高い楽しい作品でした。

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