作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
老若男女さまざまな乗客を乗せ、バンコクからプーケットへ向けて離陸したサンセット航空407便。
しかし、地上3万フィートの上空を飛行中に恐ろしい怪奇現象が起こり、乗客がひとりまたひとりと死亡。
乗客乗員は逃げ場のない密閉空間で極限状態に追い込まれていく──。
2012年製作、タイの作品。
原題は『407 Dark Flight 3D』で、タイ語での『407 เที่ยวบินผี』の後半部分は「ゴーストフライト」という意味合いのようなので、邦題は原題に忠実です。
最初に申し上げておきますと、本作、残念ながら個人的には合いませんでした。
タイホラーでは初めて、そして映画の中では珍しく、途中で観るのをやめようかと思ってしまったほど。
それでも最後までは完走しました。
そのため、以下はマイナスな内容が多くなってしまうと思うので、本作がお好きな方は回れ右していただいた方が賢明かもしれません。
何が合わなかったのか考えてみると、一番はCG感強めの映像、特に霊の姿でした。
中田秀夫監督『事故物件 恐い間取り』が自分の中では低評価なのも、CGすぎる霊の存在が大きいです。
どうやら自分は、CG丸出しの霊が出てくるとどう頑張っても没入できず、興醒めしてしまう様子。
また、CGに次いでマイナスに感じてしまったポイントは、緊迫感の乏しさでしょうか。
フライトパニックは好きなので、本作のコンセプト自体は好きなのですが、どうにもちぐはぐ感が否めませんでした。
コメディや親子愛など色々な要素を詰め込みすぎて、まとまりきっていなかった印象。
どうにも呑気というか、幽霊が出ては騒ぎ、幽霊が消え、また現れては騒ぎ、消えるの繰り返し。
その合間合間では、ひたすら言い争い。
緊迫感の乏しさは、登場人物たちに魅力を感じられなかった点も大きいでしょう。
登場人物が多めな割にそれぞれキャラが立っていたのはわかりやすく良かったのですが、どうにもみんなイライラしてしまい、共感しづらい人たちばかりでした。
特に、3人家族の母親のフェン。
冒頭から明らかにわざとキャリアはバリバリながら厄介で自己中心的な人物像として描かれているのはわかるのですが、とにかく口を開けば周囲も観客もイライラさせることしか言いません。
終盤も、幽霊に惑わされてみんなが自滅していくという以上に「フェイさえいなければもっと犠牲者が減るのでは……」とついつい思わずにはいられませんでした。
娘のギフトはひたすら眉間に皺を寄せていた印象の強い捻くれた子でしたが、母親があれで、父親のヤムラスは頼りなかったので、捻くれるのも仕方ないと言えば仕方ありません。
時に上野樹里、時に加藤諒に見えましたが、とにかく髪型と険しい顔ばかり気になってしまいました。
死の危険を目前にしたことで父と娘が和解というか気持ちを伝え合えたのは良かったですが、特にこの家族が深掘りされていたわけでもないので、感動できるわけでもなく。
オネエな客室乗務員・王子は一番好きなキャラでしたが、世界観を崩壊させてしまっていたような。
王子の言動はコメディ路線に走っていましたが、かといってホラーコメディな作品というわけでもありません。
オネエが出てくるタイのホラー映画で言うと『祟り蛇ナーク』があり、こちらは完全にホラーコメディに振り切った勢いのある作品でした。
タイのオネエも日本と同じ感じなんだなぁと『祟り蛇ナーク』では驚きを感じたのですが、『ゴースト・フライト407便』でもオネエキャラが出てきたのは意外性あり。
技術者のバンクは本作唯一と言っていいほどまともで頼りになりましたが、進行役っぽさが強く、キャラの印象はいまいち弱め。
お坊さんはまさかの役立たずで、たぶん一番何もしてない。
おばあちゃんはただただかわいそう。
ドレッドヘアのウェイブと香港出身女性のアンは、当て馬感が強め。
という感じで、みんな個性が強い割に結局わーわー騒ぐだけで、それぞれのキャラを活かせていなかったように感じられてしまいました。
そして、本作の鍵を握っていた客室乗務員・ネウ。
演じていたマーシャ・ワタナパーニットは、『フェート/双生児』でも主演を務めており、凛々しい顔が印象的。
本作の悲劇は、ネウが引き起こしたといっても半ば間違いではないでしょう。
遡ると、10年前にネウが初フライトで乗ったのがおそらく同じ407便で、そのときにも同じような霊による惨劇が勃発。
今回と同様、乗客乗員同士が殺し合い、唯一生き残ったのがネウでした。
他の客室乗務員たちを見捨ててまで助かったので、恨まれてしまっていたようです。
ただ、さらに遡ると、それ以前にもこの407便内での死亡事故があったようでした。
死因不明?の遺体がトイレ下から見つかったり。
ボールで遊んでいた子どもが死んでしまったり。
この2件が同じフライトで起きた事故だったのかはわかりませんが、最初は事故から始まって、だんだん呪いの飛行機に変わっていったのでしょう(最初から呪われていた可能性も無きにしも非ずですが)。
ネウが巻き込まれた事件は10年前なので、その間、同便での事件がなかったのかどうかは不明です。
もしかすると、ネウが今回たまたま10年振りに407便に乗ったため、それによって10年前の恨みを抱えた幽霊たちが目覚め、事件自体も10年振りに起こったとも考えられるでしょうか。
とはいえ、初フライトでそんな惨劇を経験しながらも客室乗務員を続けたネウの精神はなかなか強靭です。
休職していた可能性もありますが、客室乗務員のトップになっていたので、それなりのキャリアはあるはず。
また、そんな惨劇を経験した便名を忘れているわけもありませんし、そんな事故が多発している飛行機を飛ばし続ける航空会社もどうかと思いますが、弱小航空会社で飛ばせる飛行機は飛ばすしかなかったのかもしれません。
緊急時の対応説明を踊りながらやったり、社員同士の結婚をフライト中に発表して客に祝わせたりと、だいぶやばそうな会社ではありました。
展開に関しても、ラストでネウが死んでいるのは明かされる前にわかってしまう感じでした。
パイロットに憧れるギフトが窮地を救うと見せかけて違った、というのはあえて外してきたのだと思いますが、そこをあえて外す必要性があったのかは疑問ですし、それならそれであそこまでギフトのパイロットネタに時間を割かなくても良かったのでは、と思ってしまいます。
リアルと言えばリアルでしたが。
「ゲームと一緒だ」でうまくいってしまっては、パイロットさんたち激おこでしょう。
飛行機の外観がボロボロになるところと、窓の外に幽霊たちがまとわりついている演出は好きでした。
幽霊がわらわらと飛行機の外にしがみついている姿、なかなか斬新。
一番怖かったのは、笑い飛ばして幽霊撃退シーンでした。
「死んだら幽霊とやり合える」という発想はとても面白いですが、その後、3人揃って大爆笑する姿は狂ってしまったとしか思えませんでした。
客室乗務員幽霊3人組のガタイがよく見えたのは、気のせいでしょうか。
あとどうしても気になって仕方ないが、終盤、飛行機内に幽霊が溢れかえるシーンで、何かクレオパトラみたいなやつがいませんでしたか?
タイの何か文化的なものなのだろうとは思いつつも、あまりに浮きすぎていて、一番記憶に刻まれてしまいました。
ネウが1人だけ生き残った10年前の事件はどう着陸したのかも気にはなりますが、まぁまぁ、そういう細かい背景を気にしてはいけない作品でしょう。
ただそれでも、フライトパニック × オカルトホラーに特化しても物足りなさを感じてしまう作品で、その割には無駄に感じてしまうシーンも多く、105分というのは冗長さが否めず。
似たような作風の作品としては、同じくレビュー評価は低めですが、個人的には清水崇監督『7500』が圧勝でした。
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