【映画】事故物件 恐い間取り(ネタバレ感想・考察)

映画『事故物件 恐い間取り』
(C)2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『事故物件 恐い間取り』
(C)2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

売れない芸人・山野ヤマメは「テレビに出してやるから事故物件に住んでみろ」と先輩から無茶ぶりされ、テレビ出演と家賃の安さから殺人事件が起きた物件に引っ越す。
その部屋は一見普通の部屋だったが、部屋を撮影した映像には謎の白いものが映り込み、音声が乱れるなどといった現象が起こった。
ヤマメの出演した番組は盛り上がり、ヤマメは新たなネタを求めて事故物件を転々とする。
住む部屋、住む部屋でさまざまな怪奇現象に遭遇したヤマメは「事故物件住みます芸人」として大ブレークするが──。

2020年製作、日本の作品。

事故物件住みます芸人・松原タニシの実体験を記したノンフィクション『事故物件怪談 恐い間取り』の実写化作品(本の方は未読)。
監督は『リング』などでジャパニーズホラー(以下「Jホラー」)を牽引してきた中田秀夫監督。

レビューなどで覚悟はしていましたが、感想としては確かに、「残念……」と言わざるを得ません
事故物件という題材は面白いですが、それは原作の題材なわけで、映画のオリジナリティというわけはなく。

ただ、過去に不幸があったというだけで、何となく室内が陰鬱としたものに見える雰囲気は好きでした。
明らかに新築ではない、薄汚れた部屋の様子は、海外でいう古い屋敷のような、独特の歴史の重みを感じさせます。
何かいる……変な現象が起きてる……といった不気味さはジャパニーズホラーの真髄でもあり、その不穏さの演出はさすが中田監督であったのだと思います。

しかし、やはりどのレビューを見ても「怖かった」という感想がほとんど見つからない通り、どうにもホラー映画として観るには苦しいものがあります。
『呪怨』の清水崇監督の最近の作品、『犬鳴村』『樹海村』も観ましたが、同様に残念な印象が拭えません。
過去のJホラーの勢いを知っている身としては、近年の失速は少々寂しいものがあります。

ただ、ネガティブな内容をつらつらと書くのはこのブログの目的としていません。
かといって、心理学的に考察しようにもそんなに考察ポイントがないので、後半では何が駄目だったんだろう……」「どうすれば良かったんだろう……」という点を自分なりに考えてみたいと思います。


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考察:何がいけなかったのか(ネタバレあり)

映画『事故物件 恐い間取り』
(C)2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

「ジャパニーズホラー」の怖さとは何だったのか?

『リング』『呪怨』を筆頭に、Jホラーブームが巻き起こった1990年代後半〜2000年代前半。
その影響はハリウッドまで及び、『リング』『呪怨』などはハリウッドでもリメイクされたほどです。

その魅力は、その怖さの本質は、何だったのか。
ひとつは、「何かがいるという恐怖」、つまり、人間の想像力を刺激してくる恐怖であったと思います。

それまでの海外のホラーといえば、ゾンビや殺人鬼、あるいは悪魔が乗り移った人間といったような「対象が明確な恐怖」が主でした。
一方、日本的な怖さとは、怪談などにも代表されるように、「幽霊」や「呪い」といったような「直接的」というより「間接的」な怖さが、古来伝わってきているものです。
文化的な違い、宗教観の違いによる点が大きいはず。

まさに「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のような、想像力に訴えかけて「何かいるのでは」「何か良くないことが起こるのでは」という不安を煽る恐怖こそが、日本的な怖さの芯であるように思います。
おそらく、同じものを見ながら、どのような恐怖をイメージしているのか、人それぞれ異なる。
万物に神が宿ると考える「八百万の神」の心性にも通ずるものです。

一方で、『リング』には貞子、『呪怨』では伽倻子といったような、アイコンとしての「明確な対象」も出てきます。
日本的な「間」を活かした恐怖の新鮮さと、見た目の不気味さや登場のインパクトも強いアイコンとしての幽霊キャラ
そのバランスが、海外でもウケた要因ではないかな、と思います。

『事故物件』はなぜ怖くないのか

もともと、恐怖と笑いは紙一重というか、ホラーは一歩間違えるとコメディになってしまうというのは、すでに多く指摘されている点です。
それは、怖いと感じるのも面白いと感じるのも、どちらも「普通(日常など)からのずれ」に起因しているからです。

『事故物件』も、雰囲気として悪くない点は多々ありました。
事故物件の部屋に入ったときの空気感であったり、「誰もいないのに防犯ライトが光る」「ドアが自然に開く」「女性の泣き声が聞こえる」といった演出は好きで、いかにもJホラー的な雰囲気であり、その魅せ方はさすが中田監督と思えるものです。

一方、その雰囲気をぶち壊してしまっているのが、テレビ番組並みのチープなCGであり、どう見ても人間が演技しているとしか見えない幽霊たちでした。

CGに関しては、どう見ても作り物の演出としか思えなくなり、気持ちが一気に醒めてしまう。
黒いもやもやとか、肩の上に浮く髪の毛とか、何より最後の線香の火とか、予算の都合なのか技術の都合なのか理由はわかりませんが、もう少し、もう少しどうにかならなかったのか……!と思わずにいられません。

幽霊の演技に関しては、学芸会かな?というとさすがに失礼ですが、

いや、学芸会かな?

とやっぱり思ってしまうほど。
ただこれは、馬鹿にしていたりするわけではなくて、同じ日本人だから目立つ、というのもあるかもしれません。
海外の映画であれば、下手でも日本人の俳優と比べるとわかりづらい、と感じます。

貞子や伽倻子は、その見た目や動きにも怖さがあり、何より登場シーンにインパクトがあります。
井戸から這い出てくる貞子、「あ、あ、あ……」と独特の音とともに這い寄ってくる伽倻子の不気味さは、そのシーンだけ切り取っても価値があるものです(あれもかなり笑いぎりぎりのラインですが)。

しかし、『事故物件』における幽霊は、とりあえず白っぽく幽霊っぽいメイクをして、ゾンビっぽく近づいてくるだけの、「演技をしている人間」にしか見えません。

そもそも、幽霊は、その存在の「不安定さ」「曖昧さ」が恐怖感を醸し出す存在であり、姿をビジュアル的なものとして定義してしまうことは、それだけでリアリティを失い得る諸刃の剣です。

ホラーにおいて、一定度のリアリティはとても大切です。
もちろん誰もがフィクションとして観ていますが、「現実にこんなことがあったら怖いな」と思わせることが、観客の恐怖に繋がります。
たとえば、血糊が明らかにチープなだけでも、怖さは一気に半減してしまうものです。

そこに来てこの学芸会。
偉そうに悪くは言いたくないんですけど、やっぱり学芸会。
演出にしても、最後の幽霊ラッシュで、最初の脚をつかんできた男はまだ許せても、冷蔵庫の中の姫が現れた瞬間、一気に脱力しました。
無理心中したカップル以外、同じくあの部屋で死んだ人たちなんでしょうけど、いきなりの登場に「誰だよ!何で冷蔵庫の中でのんびり食べてんだよ!何があったんだよ!」と、突っ込まずにはいられませんでした。

そこからは、お守りをかざすと「うわ〜」と消えていく幽霊
突然のラスボスバトル
ビジュアル面も何とも言えないラスボス。
しかもあのラスボス、序盤からずっとついてきてましたよね?
ハコフグよろしくお線香ふーふー。
「それが伏線だったのか!」という感動は微塵も感じられない傘の活躍。

もはや何かの再現VTRかと思いました。

このあたりはもはや悪口が言いたいわけではなく、『ゾンビ津波』と同様に、突っ込みながら楽しむものとしちゃった方がいいんじゃないかな……。

ちなみに、このCGや学芸会幽霊に関しては、『樹海村』などでもまったく同じ印象でした。
Jホラーの予算の都合なのか、日本の技術的な問題なのか……頑張ってほしい。

現代のJホラーの難しさ

とはいえ、ただJホラーの質が落ちたという話ではなく、時代の変化も影響していると思います。
「CINEMOA」というサイトに掲載されていた中田監督のインタビューの中でも、現代におけるJホラー演出の難しさが語られていました。
以下、少し引用です。

“ただ、そういった“静的”なクワイエット・ホラーばかり作っていると、自分自身も「また同じだな……」と思ってしまう。”

“能動的にホラー映画を楽しむ日本人が増えてきた時代に、たとえ実際の事故物件がそうだとしても「天井のシミが怖い」だけだと今の若い人の感覚では地味すぎるだろう、という思いはありました。”

“亀梨和也くんにも「じめっとして怖いよりも、もっとポップなものを狙いに行きます」ということは、はっきり伝えましたね。”

“今まで観たことのない、新しい切り口を模索していきました。”

などなど、時代に合わせたJホラーを模索されている様子が窺えます。

今回に限って言えば、それがうまくいっていたとはちょっと思えない、というのが個人的な感想になってしまいますが、これからまた時代に合わせた新しいJホラーが登場することを期待しています。

確かに、何かいるかも……とカメラがゆっくりと寄っていく、みたいな演出がずっと続くのも、今ではもどかしいかもしれません。
目を見開いて固まる、というリアクションも、少し古く感じました。

『事故物件』と同じようなテーマでは、完成度の高い小野不由美の小説『残穢』を先に読んでしまっていたのも良くなかったかもしれません。
『残穢』の映画版も、完成度は高めでした。

最近観たアジア系のホラーでは、韓国の『コンジアム』がすごく好きでした。
次々と不気味な現象が続き、飽きさせないスピード感。
最終的に、はっきりと幽霊的なものが出てこない演出も、リアリティを増していたと思います。
呪われた(?)人の目が全部黒目になる変化が唯一際どい部分でしたが、個人的には許容範囲でした。

日本独自の恐怖の表現というのは、まだまだ可能性があると信じています。
『事故物件』でマイナスに感じたのは、「スピード感がない(だれてしまう)」「リアリティがない(主にCGや演技のせい)」といった部分が大きいように感じました。

新しいJホラー……どんなのがいいか、考えていきたいですし、新たな波に期待もしたいと思います。

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