作品の概要と感想(ネタバレあり)
減刑のための労働奉仕として、老朽化の進む廃ホテルの修繕をすることになった10代の軽犯罪者たち。
しかし、彼らの他には2人の監察官と女主人しかいないはずのホテルには、肉鉤チェーンを振り回す恐ろしい殺人鬼ジェイコブが潜んでいた──。
2006年製作、アメリカの作品。
原題も『See No Evil』。
原題の意味は直訳すると「悪を見ない」ですが、「See no evil, Hear no evil, Speak no evil.」で「見ざる、言わざる、聞かざる」になるらしく、「見て見ぬ振り」的なニュアンスがあるようでした。
さて本作は、タフな大男キラーに若者たちが次々殺されていくという、実にシンプルなスラッシャーホラーでした。
R18+だけあってしっかりとゴア表現もあり、84分というコンパクトさもあって満足です。
展開はシンプルながら、廃ホテルという舞台と、犯罪者の若者たちという設定がオリジナリティを放っていました。
旅行に来た若者というのがよくあるパターンですが、犯罪者たちが減刑のために労働に来るというのは、これを書いている2024年現在でもなかなか新鮮味がある設定です。
そしてとにかく、この廃ホテルの雰囲気が抜群でした。
殺人鬼どころか幽霊が出てもおかしくない趣。
それにしたってまぁ汚すぎましたけどね。
面白く楽しめた作品ですが、不意打ちで虫が映りまくったのは許しません。
グロは平気だけれど虫が大嫌いな自分にとっては、「うっ」「ごっ」「がっ」とうめきながら何度も目を逸らしてしまいました(誇張)。
嫌悪感や不快感を喚起してくるという意味では、効果的でしたが。
廃ホテルに関しては、逃げ出せそうで逃げ出せない環境作りに一役買っていたのも見事でした。
わざわざ犯罪者たちにする必要はなかった気もしましたが、簡単に逃げられないシチュエーションを作るのにうまく活かされていました。
結局、狙われていたのは過去にジェイコブを撃ったウィリアムズだけだったので、いくら犯罪者とはいえども、みんなただただ巻き込まれただけでかわいそうでもありました。
しかし、監督者が2人だけというのはさすがにちょっとガバガバすぎやしませんかね。
みんな軽犯罪者で、あえて減刑のチャンスを捨ててまで逃げ出すリスクの方が高いであろうとはいえ、男女合同であることを心配していた割に夜にはのんびり汚いバーで飲むなど、実に呑気なものでした。
といったような細かい点は良いのです。
それは半ば強引ながらシチュエーションを作るためだけの設定であり、廃ホテルで若者たちが屈強な殺人鬼に襲われる姿こそを楽しむ作品なのです。
本作の殺人鬼・ジェイコブを演じたのは、ケインというアメリカのプロレスラー。
そもそも本作は、アメリカのプロレス団体WWEが映画プロデュースに進出したWWE Filmsの第1回作品とのこと。
いかにもプロレスラーらしい屈曲さが、良い味を出していました。
ちなみにケインは、2017年には政界にも進出しているようです。
このジェイコブの設定も独特だったのが面白かったです。
結局、黒幕はジェイコブの母親であるマーガレットでした。
いわばジェイコブは、洗脳下にあったような状態でした。
マーガレットの目的はいまいちわかりませんでしたが、厳格なクリスチャン、というよりはもはや聖書を独自に曲解した新興宗教の教祖のような存在だったので、彼女なりの悪の排除、神への信仰をしているつもりだったのでしょう。
そんな彼女の息子に生まれてしまったのがジェイコブの運の尽きで、幼少期から虐待され、洗脳・支配下に置かれていました。
彼の言動からは純粋な悪という感じではなかったので、真相を知ればかわいそうな雰囲気すら漂う殺人鬼像となっていました。
また、こういった屈強で無口な殺人鬼は、筋肉バカというか、脳筋というか、パワーに全振りしていて頭は悪いことが多いですが、ジェイコブはそれなりに知的だった点も印象的。
というか、怪物というよりは人間味が強かったからですかね。
空のエレベーターを囮にして壁をぶち破ってくる不意打ちシーンなんか、完全にゲーム『バイオハザード』のタイラントという敵キャラでした。
眼球を集めていたのに背景が設定されていたのは良かったですが、ある意味過去のトラウマ由来のようで、これもまたかわいそうでした。
もはやほとんど喋らなかったのも、精神的な要因だったのではないかと心配してしまいます。
親が良ければ優しい子に育っていそうだったのが切なさを誘います。
序盤で多様していた肉鉤も、めちゃくちゃ上手でした。
そこらのカウボーイなんか目じゃないほど、遠距離から確実に獲物を仕留めていました。
あれもきっと、母親の期待に応えるために一所懸命練習したのでしょう。
健気。
後半はまったく使っていませんでしたが、印象的だったので邦題のサブタイトルに使ってしまうのもわかります。
『悪魔のいけにえ』では人間を吊り下げるだけだった肉鉤を、縦横無尽に振り回していましたからね。
ただ、ジェイコブが不死身のモンスターだったのか人間だったのかはいまいちよくわかりませんでした。
銃で撃たれて後頭部に穴が空いていたわけなので、普通に考えれば死んでいます。
その傷痕を抉られた際にはウジやハエが湧き出ていたので、マーガレットが魔術で生き返らせたとか、少なくとも普通の人間は超越した存在となっていた可能性が高そうでした。
それでも、人間らしさを失っていなかったジェイコブ。
あまり感情を表に出さない殺人鬼が多い中、彼は作業中にベルがなると「あぁもう、今忙しいのに!」といった苛立ちが丸わかりで、憎めません。
さらに、最後はかなり壮絶な最期を迎え、普通のスラッシャーであれば起き上がったり姿が消えていたり「ヤツは死んでいなかった……」的な終わり方をするものですが、ジェイコブは最後まで死んでいました。
それどころか、犬におしっこまでかけられてしまう始末。
最後までがっつり死んだ姿のまま終わるスラッシャーホラー、なかなか珍しいのではないでしょうか。
しかし、どうやら本作は『シー・ノー・イーヴル 肉鉤のいけにえ2』という続編があるようです。
また殺人鬼はケイン演ずるジェイコブっぽいので、結局生きていたということなのかな。
そのあたりはいずれ2を観る際のお楽しみに取っておきたいと思いますが、いずれにせよ監督も脚本も代わっているようなので、本作の時点では死んでいる想定だったのかもしれません。
ジェイコブもまた毒親の犠牲者だったことを考えれば、それはそれでスラッシャーホラーらしからぬ哀愁漂う終わり方で良かった気もします。
最後は洗脳から解き放たれて良かったですが、マーガレットを殺したあと、「さぁお前ら、俺と一緒に脱出しようぜ!」みたいなノリで生き残りの若者たちを引き連れて脱出していたら、かなり斬新だったのではないでしょうか。
そんな展開だったら、面白いですが評価的にはだいぶやばいことになっていたかもしれませんが。
カメラワークや効果音はやや独特でしたが、『ソウ』シリーズに似ていたように感じます。
特に、カメラが急加速するような演出。
本作は2006年製作ですが、『ソウ』が2004年なので、影響は受けていたのかも。
拷問スプラッタという点では、イーライ・ロス監督の『ホステル』も2005年なので、ブームに乗っかった側面もあったのかもしれません。
それでもしっかりとオリジナリティも組み込まれており、十分楽しめた1作でした。
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