作品の概要と感想(ネタバレあり)
女優になりたいリアンと映画監督を目指すレイチェルは、ラスベガスを目指してバスに乗り込む。
ところが、道中の砂漠地帯で溶接マスク姿の殺人鬼がバスを襲撃し、乗客たちは溶接トーチで生きたまま焼き殺されてしまう。
捜査に乗り出した2人の刑事は、被害者が撮影した犯行の証拠映像を手がかりに犯人を特定しようとするが──。
2013年製作、アメリカの作品。
原題は『Evidence』。
いきなり関係ないですが、ポスターの「遺伝子震撼」っていうフレーズの破壊力、すごいですね。
個人的にはかなり好きな作品でした。
振り返って考察すると細かい部分はめちゃくちゃ粗だらけですが、勢いで押し切る終盤が素晴らしい。
真犯人は必然性があるというより「驚かせるため」感が強く、強引さは否めません。
溶接トーチ片手に襲ってくる殺人鬼というだけで、もう大好きです。
この殺人鬼に特化したホラーも観てみたい。
オープニングの映像もスタイリッシュで、スタートから「あ、好きだな」と直感。
ちょっとぶっ飛んだ殺人鬼像もあってか、ゲームっぽさも感じました。
ゲーム化してほしい。
現場から押収されたビデオカメラに映る、殺人鬼から逃げ惑うPOVホラーパート。
それらの映像を解析して真相に迫る刑事たちによるサスペンスパート。
一粒で二度美味しい作品です。
グロさもそれなりにあり、個人的には嬉しいポイントでした。
ただ、グロさ的な意味では、ヴィッキー(ダンサーの女性)が殺された際の、溶接トーチで手足を焼き切られてから燃やされるシーンがピークだった気がするので、後半は鳴りを潜めてしまったのが少し残念。
カトリーナ(大金おばさん)の肉片ポイポイも良かったけど。
夜のPOVあるあるで、何が起こっているのかよくわからないシーンも多々ありますが、他のカメラの映像で補完される部分もあり、面白い構成。
ぶつ切りだったりノイズが入る映像も良い。
全体的に、『ソウ』が意識されていた印象を受けます。
ラストシーンというか真相は、意外性はありましたが、『ソウ』のようなカタルシスには乏しかったと言わざるを得ません。
というか、色々伏線は回収されていましたが、よくわからなかったり都合が良すぎる展開も多く、力業にもほどがありました。
登場人物全員が怪しく見えてくる演出は巧みでした。
映像を解析しながら犯人像に迫る展開はとても面白かったですが、これもまた定番ながら、刑事たちがあまりに無能だったのも残念なところ。
トラウマを負った被害者(犯人でしたが)を、取調室に1人で残すのも、犯人がまだ捕まっていないのに送りもせずに1人で帰すのも、ガバガバとしか言いようがありません。
リース刑事(娘を亡くして休職中)だけは頑張っていましたが、バルケズ刑事(指揮官っぽい女性)は結局何一つ役に立っていなかったような。
映像を全部見もせずに、途中で得た情報だけで突っ走って記者会見しちゃうところなんかは、相当な早とちりさんです。
とりあえず、一通りはちゃんと見ましょう。
ちなみにバルケズ刑事は、大好きな映画『サイレントヒル』の主人公ローズを演じていたラダ・ミッチェルでした。
上述した通り、細かい整合性を求めると破綻してしまうので、細かい部分はさておいて、考察できるポイントを考察していきます。
考察:犯人の目的や動機、共犯者は?(ネタバレあり)
犯人の心理:目的や動機
犯人はリアンとレイチェルの2人であり、警察を翻弄するために、編集した映像をわざと証拠として残していたのでした。
彼女たちはなぜ、このような事件を起こしたのでしょうか。
本作の事件だけを切り取ると、連続殺人ではなく大量殺人事件です。
途中でバルケズ刑事は「連続殺人犯だ」と言っていましたが、これはこの事件が初犯ではなく、また、今後も同様の事件を起こすつもりなのだ、という読みでしょう。
不特定多数に対する大量殺人は、テロなどを除けば、不満がベースとなることが多く、それは「社会全体」に向くこともあれば、特定の集団に向くこともあります。
その中には、「拡大自殺」と呼ばれる、「自分1人で死にたくないから大勢を巻き添えにする」者も少なくありません。
リアンとレイチェルは、大量殺人犯の類型にはあまり当てはまりません。
彼女らの目的は、愉快犯に近いものでした。
つまり、警察や社会を翻弄し、自分たちが注目されることに愉悦を覚えていたのです。
『ザ・シェフ 悪魔のレシピ』や『死刑にいたる病』などの考察で触れた連続殺人の類型は、以下の通りです。
- 幻覚型(visionary):妄想性の精神疾患に罹患しており、幻覚妄想に基づいて殺人を行う
- 使命型(mission):偏った信念によって、特定のカテゴリーに属する者を殺害する
- 快楽型(hedonistic):拷問したり殺害することで、サディスティックな快楽や性的快楽を得る
- パワーコントロール型(power/control):他人の生死を自分がコントロールできるという、力と支配の感覚を得るために殺人を行う
リアンとレイチェルは、「4.パワーコントロール型」に非常に近いと言えるでしょう。
その心理は、終盤、リース刑事がリアンに話していた内容そのものです。
「連続殺人犯にとって、殺人は芸術かスポーツなんだ。
一番を目指し注目を集めようとする。
力を見せつけたいんだ。
“生と死を統べる力がある”と。」
犯人を目の前にしながらそんなことを語る刑事を見ながら、リアンの内心はきっととんでもない快感で満たされていたはずです。
そう考えると、彼女らはバルケズ刑事の読み通り、本作の事件が初犯ではなかったのかはわかりませんが、少なくとも本作の事件だけで満足するとは思えません。
何が彼女らをここまでの凶行に駆り立てたのかは、まったく描かれていないので想像するしかありませんが、パワーコントロール型としての、警察や社会を翻弄するといった支配欲がベースに渦巻いているのは間違いありません。
また、水着姿でわざわざ(ちょっとダサい)決め台詞を残すような映像からは、強い承認欲求や自己顕示欲も窺えます。
警察や社会を翻弄させるだけではなく、「それをやったのは私たちだよ」と主張しないと気が済まなかったのでしょう。
そう考えると、本作の事件で彼女たちは相当な快感を覚えたであろうことは間違いありませんが、それだけで一生満足できるとは思えず、きっとまたいつかこのような事件を起こしたくなるはずです。
ここまでの強い承認欲求や自己顕示欲は、常に自分たちが注目を浴びていないと許せないのです。
本作は2013年製作ですが、今で言うところの迷惑系YouTuberの究極形態のような犯行でした。
共犯者は?
いまいちわかりづらいのが、彼女らには他に共犯者がいたのか?という点です。
特に、終盤まで活躍していたベン(バスの運転手)や、溶接マスクの下から顔を覗かせたタイラー(リアンの彼氏)は、どうだったのでしょうか。
個人的な結論としては、共犯者はいなかったと考えています。
まずわかりやすくタイラーからですが、彼はネタばらし映像で、拘束された状態で溶接マスクを被せられていました。
それを外すシーンを撮影して、犯人と思わせるように利用したのでしょう。
結局彼はリアンに惚れたのが運の尽きで、大衆の面前でプロポーズを断られ(あのプロポーズもどうかと思いますが)、いじけながらもリアンの頼みを聞いて一緒に来たのに、ただ利用されてしまったのでした。
ただ、タイラーが生きていたというのは少々謎です。
殺し損ねた、にしては詰めが甘すぎますが、彼の回復が早ければ、リアンとレイチェルの企みは水泡に帰していたでしょう。
もう一人怪しかったベン。
ベンというのは偽名であり(ここではわかりやすく今後もベンで統一します)、彼は銀行強盗の前科がありました。
また、運転手としてあの場所まで導き、終盤まで生存していたことからも、共犯者である可能性が示唆されます。
しかし彼も、ただ利用されたに過ぎないと解釈しています。
まず、ネタばらし映像でレイチェルが「今キッドウェル、報酬は3倍、現金で払う」と電話していた相手はベンで間違いありませんが、これは第三者を装っていたと考えられます。
つまり、レイチェルたちはベンの過去も知っていたのかもしれませんが、お金で釣ってキッドウェル方面へバスを導こうとしたのです。
その手前に、有刺鉄線を仕掛けていたのでした。
また、ベンは生死が定かになっていませんが、死んでいるはずです。
終盤、リアンとレイチェル、そしてベンが逃げ込んだ場所で、すぐにベンの姿が消えました。
ベンも共犯では?と思わせる映像ですが、「ベンがいない」と言う前に映像が一瞬乱れており、ここがおそらく編集ポイントです。
その後、「ベン」と呼びかけるリアンが絶叫する映像が続きますが、ネタばらし映像では、「ベン」と呼びかけるリアンに、レイチェルが「ダメ、映ってる」とNGを出していました。
このシーンは一瞬ですが、床に倒れている人物が映っており、これがベンであると考えられます。
つまり、あの場所に逃げ込んだあと、リアンとレイチェルはベンを殺害して、編集用の映像を撮影したのだと考えられます。
そう考えると、ベンは最後まで何も知らなかったと考えるのが自然です。
2人の特性からも、2人で成し遂げることに意味があったはずです。
共犯者はおらず、色々な人を利用しながら2人で行った犯行であると考えられます。
最後に燃やされたのは?
レイチェルが燃やされた(ように見える)終盤のシーン。
ここでは、直前にレイチェルらしき女性が溶接マスクマン(中身はリアン)に殴られています。
その流れのまま燃やされているように見えますが、燃やされる直前にここでも一瞬映像が乱れます。
おそらく、ノイズが入る部分の一部は編集ポイントであると考えられます。
つまり、実際に溶接マスクリアンがレイチェルを殴り、燃やそうとする直前でカット。
その後、違う誰かを燃やしている映像をくっつけたのでしょう。
この燃やされていたのが誰かといえば、おそらくスティーブン(家出少年)です。
レイチェルを燃やしていると見せかけたシーンは、実は何も燃やしていなかった可能性もありますが、あの映像を残す限り、野外に焼死体がないと不自然です。
また、冒頭の事件現場の映像では、実際に野外に焼死体が残っていました。
この死体は、腹部に裂かれたような傷があります。
そのため、腹部をぐさぐさ刃物で刺されたスティーブンの死体であったと考えられます。
ちなみに、リアンは「スティーブンは生きていた」といったような内容を証言していましたが、あれは喉に押し込まれたSDカードを見つけさせるための嘘でしょう。
実際は、あのぐさぐさ刺されたシーンで死んでいたと考えられます。
しかし、あれだけ母親への想いを語っていたスティーブンを躊躇いなく刺し殺し、さらには偽装にまで利用するなど、リアンとレイチェルの鬼畜っぷりは相当ですね。
リースとバルケズの関係は?
これは完全に推測になりますが、リース刑事とバルケズ刑事は夫婦(あるいは元夫婦)ではないかな、と思っています。
根拠としては、休職中だったリースが捜査への参加を申し出たときの会話です。
あのとき、リースが小声でバルケズを「アレックス」とファーストネームで呼んでいたのもそうですし、「まだ早い」「邪魔になる」といった辛辣な言葉や、何より空気感に同僚以上の親密さを感じました。
もちろん、夫婦ではなく単に親しいだけかもしれませんが、夫婦と考えるとしっくり来る気がしました。
そうすると、娘を殺され、打ちのめされて休職に追い込まれた夫と、仕事にのめり込むことで忘れようとする妻という構図になります。
リースの子どもの事件
さらに妄想的になりますが、あえてもう一歩踏み込むと、リースの子どもが誘拐され殺害された事件も、リアンとレイチェルの仕業という説が浮かんできます。
リースは映像解析のプロだったので、あのように映像を残した事件を起こせば、彼が出てくると考えたのかもしれません。
リースとバルケズが夫婦だったと想定すると、立場的に彼女が指揮官となることも想定できたかもしれません。
夫婦の子どもを誘拐して殺害し、その2人に新たな事件を捜査させてミスリードさせ、嘲笑する。
なかなかに鬼畜な2人にとっては、あり得る演出だと思いませんか?
そう考えると、自分の傷をさらけ出して共感を示したリースの姿は、リアンには滑稽以外の何者でもなかったでしょう。
そうすると、「犯人は見つかった?」「いいや」の会話が、リアンにとって一番の快感ポイントだったのかもしれません。
同情し悲しむ演技を続けたのは、まさに女優。
あれだけ自己顕示欲が高かった2人なので、もうそうだとすれば最後のネタばらし映像でその点も言及したのかな、という点だけ引っ掛かります。
ただ、それを差し引いても、「連続殺人犯」という伏線も回収され、十分あり得ると思いませんか?
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