
作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:あなたもスマホに殺される
著者:志駕晃
出版社:KADOKAWA
発売日:2019年2月23日
中学教師・鈴木のスマホに、ある日「自殺相談室」という怪しいSNSから招待が届いた。
自殺志願者の匿名の相談に、4択から1つ意見を選び答えていく中で、鈴木は他人の人生を覗き見るような感覚の虜になっていく。
しかし、担当クラスの女子生徒・雨宮を招待して以降、いつのまにか「自殺相談室」が学校中に蔓延し、ついには新人教師の山本が自殺してしまい──。
映画化もされた『スマホを落としただけなのに』シリーズの著者による、同じくスマホをキーアイテムとしたミステリィ。
KADOKAWA公式では「サイバー・ミステリー」、カドブンでは「SNSミステリー」と表現されていました。
『スマホを落としただけなのに』は映画の1作目を観ただけで、原作は未読。
そのため著者の作品を読んだのは本作が初めてでしたが、さすがにこなれている感じがあり、楽しめました。
没入したというよりは気軽に読みましたが、ツッコミどころは多々あれど何だかんだ先が気になり一気に読破。
まず、設定がシンプルながら面白い。
山田悠介作品のようなやや突飛なワンアイデアながら、ラノベほどに非現実的ではありません。
こなれた文章も相まって、リアルにあり得そうな怖さは『スマホを落としただけなのに』に通ずるものがありそうです。
ただ、『あなたもスマホに殺される』というタイトルはインパクト重視なのか、読み終わってみるとややしっくりこないような気も。
「自殺相談室」の魅力としては、公式の紹介文にもあるように、他者の秘密を覗き見るような快感でしょう。
自分の回答だけで決まるわけではありませんが、自分の選択が相手の人生を左右する。
さらに、回答して終わりではなく、相手によってはその続きも知ることができる。
それにはどこか後ろ暗い優越感が伴います。
シンプルに、誰かの役に立っているという充実感や達成感を抱くこともできます。
秘密の悩み相談に乗ること自体に、依存的になる要素が組み込まれていると言えるでしょう。
「自殺相談室」は報酬がありましたが、知恵袋やSNSを見ていると、特に金銭的な報酬もない(詳しくないのでたぶんですが)のに誰かの相談に積極的に答えている人はたくさんいます。
それは、上述した充実感だったり達成感だったり、自分の存在価値を感じられるだったり、何かしら心理的な報酬を得ているからです。
読んでいる最初のうちは、回答者の選択通りにしなければいけないのかと思ってしました。
つまり、主人公の鈴木が「自殺する」を選択すれば、相談者は必ず自殺しないといけないのかと。
何なら、超常的な力が働いて自殺させられる、ぐらいの漫画のようなぶっ飛び設定な可能性もあり得るかもしれないと覚悟していました。
ですが、徐々に明かされる中でそうではないことがわかります。
相談は大勢に送ることができ、回答内容は基本的に全部見ることができる。
最終的な選択権は、あくまでも相談者自身にある。
そういった仕組みは実際にあり得そうで、リアリティを感じました。
まぁ、名称的にもApp Storeの審査は絶対通らないでしょうけどね。
それでも、「自殺する」という選択肢を必ず入れないといけないのはなかなかダークです。
匿名の誹謗中傷で自殺に追い込まれるという事例は、現代において枚挙に暇がありません。
自殺を考えている人が、見知らぬ大勢から「自殺する」という選択をたくさん突きつけられたらどうなるか。
考えるまでもありません。
「自殺相談室」は中河内が開発したという事実が明かされましたが、彼の「本格的な運用前に、相談者が高確率で自殺してしまうという問題を抱えていた」という発言からは、自殺させることを目的に作られたものではないようです。
しかし、「自殺する」の選択肢を入れておいて、実際に自殺する人が増えてしまう可能性を考えないというのは、あまりにもお粗末でしょう。
もちろん、そのあたりは細かく突っ込むものではないでしょうし、本作を読む限りでは中河内の真意はわかりません。
いずれにしても、そんな危険なサイトを友人でテストすること自体、頭のネジは何本か外れていそうとしか言えません。
もしかすると、自殺するような弱者は淘汰してやろうぐらいの選民思想的な狙いがあったとしても不思議ではありません。
そんな中河内の作ったサイトにのめり込み翻弄される主人公・鈴木を描いたのが本作でした。
鈴木は鈴木でなかなか共感しづらい考えの持ち主でしたが、中河内いわく「依存しやすい性格」なので仕方ありません。
「人生相談室」でフレンドになった遥なる女性と勤務校最寄りで会おうとするところなんて、ガバガバすぎてかなり心配になります。
遥も遥でなかなかに強烈でしたが、年齢を偽ってストーカー化するあたり、何だか妙なリアルさを感じました。
これも『スマホを落としただけなのに』あたりにも通ずるように感じますが、五十嵐貴久『リカ』の方が印象は強いかも。
しかし、遥が何か鍵を握っているキャラなのかと思いましたが、本編とはほぼ何の絡みもなく、ただただヤバい奴でしかなかったところが一番衝撃だったかもしれません。
まぁ遥の存在が、妻の響子が出ていくきっかけにもなったわけですが。
最後に明かされた真実としては、響子が押尾の親族であったらしいことでした。
姉か妹の可能性が高いかとは思いますが、響子は鈴木の4歳下であると明言されていたのに対して、押尾は鈴木より年下というだけで、はっきりした年齢はわかりません(見落としていなければ)。
この設定は若干、驚かせるために無理矢理つけ足した感も否めず、物語上の必要性はあまりよく感じられませんでした。
むしろ、押尾が響子の兄か弟であるとすると、結婚した鈴木がその事実を知らなかったのはかなり無理もあるような。
響子は最初から自殺相談室に関わっていたわけではなく、中河内から打ち明けられたのは最近と言っていました。
一方の押尾は、かなり古参のようです。
しかし、中河内と響子の関係を考えると、押尾は偶然自殺相談室に招待されて優秀な成績を残して幹部卒業生になった、とは考えづらいものもあります。
元来人を誑かすのが得意な押尾があっさりと教師を退職したところからも、押尾はもともと自殺相談室の設立あたりから関わっていた可能性も高そうです。
響子と関係があったわけなので、中河内と押尾に面識があったとしても不思議ではありません。
そうなると、もともと運営側であった押尾が幹部卒業生として登場したのは、サクラ的な立ち位置となります。
その方が自然な気も。
あまり設定を深掘りするべきではない作品かと思うのでこのあたりにしておきますが、あえてリアリティ的な側面に言及しておくと、2点だけ特に気になってしまいました。
1つは、自殺相談室の利用者があっさり洗脳状態に陥っていたこと。
生徒の雨宮が顕著でしたが、依存しやすい要素を抱えている人が利用者に多いだろうという点を差し引いても、アプリだけであれだけのマインドコントロール状態になってしまうというのはかなり飛躍がありました。
リアリティを求めるべきではないとはいえ、この点は作品の根底にも関わるのでずっと気になってしまいました。
もう1点はだいぶどうでも良い点で、鈴木の中学教師としての日常です。
だいぶ暇そうでした。
もちろん学校にもよるでしょうが、日々忙殺されてしまっているのが教師という職業です。
会議中にスマホを触れたり、スマホ依存になれるほど暇そうな鈴木の日常は、教師の解像度としては低く感じてしまいました。
この点もフィクションとしては良いのですが、近年は元教師の経歴を持つ作家や、三浦晴海『廃校教師』などのように解像度が高い作品も多いので、終始少々気になってしまいました。
とはいえ、著者独自の発想で、スマホという身近な存在をキーアイテムに据えた作りはとても好み。
いずれ機会があったら他の作品にも手を出してみたいと思います。

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