作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:カケラ女
著者:清水カルマ
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2022年3月25日
1999年10月。
母と二人暮らしの中学3年生・美雪は、ある特殊な能力を持っていた。
彼女はふとしたことからクラスの不良少女3人組に執拗ないじめを受けるようになり、ついには古い体育倉庫に閉じ込められてしまう。
凄まじい憎悪の感情が美雪を満たし、そして──。
『禁じられた遊び』『カケラ女』に続く、清水カルマ3作目のホラー小説。
続けて一気に読んでみました。
『カケラ女』は、『禁じられた遊び』よりも後の話。
『禁じられた遊び』との繋がりもありますが、独立した一つの作品としても十分楽しめます。
一方の『忌少女』は、『禁じられた遊び』の前日譚。
こちらも作品単体で楽しめますが、より『禁じられた遊び』との関連は強い作品でした。
以下、『禁じられた遊び』『カケラ女』のネタバレも含まれるので、念のためご注意ください。
『禁じられた遊び』『カケラ女』の感想や考察については、それぞれ以下の記事をご参照ください。
さて、『忌少女』では、主に『禁じられた遊び』に登場する美雪の中学生時代が描かれていました。
不思議な力を持つ少女が、禁断の使い方に目覚めた時期。
『禁じられた遊び』でも、その力のせいで過去に苦労をしたというエピソードが軽く描かれていましたが、本作はそれを深掘りした作品です。
前2作とはまた少し恐怖の質や作品の方向性が異なり、マンネリ感を感じることもなく楽しめました。
『カケラ女』から1年ほどの短い間隔で刊行されていることもあってか、長さも短めでサクッと読める手軽さ。
前2作は、主にモンスター的な異形が暴れましたが、本作はそのような作風は薄め。
恐怖感もありますが、切なさの方が前面に感じられるような作品でした。
とはいえ、前2作と同じように、現実的な恐怖というよりはオカルト的な傾向が強いので、好き嫌いはそこで分かるかもしれません。
前2作が苦手であればここまで読んでいないでしょうし(知らずにたまたま本作から手に取った人もいると思いますが)、好きであれば引き続き楽しめる内容でしょう。
オカルト的な要素の日常への溶け込ませ方は、シリーズを通して巧み。
『カケラ女』もそうでしたが、本作ではより、いじめの描写が陰湿でした。
読んでいてイライラしてくる方も少なくないのでは、と思います。
ただそれが、『禁じられた遊び』では、特に比呂子目線では不気味でしかなかった美雪の苦しみを際立たせていました。
逆襲するときの美雪を、応援したくなるほどです。
生きている人間としてはほとんど出てこなかったから仕方ないとはいえ、『禁じられた遊び』を読んでいて美雪を不気味と感じたのも、美雪をいじめていた晴香たちと違いはないのかもしれません。
唯一の癒しだった野良猫のミーチャを殺され、生き返らせたところから大きく歯車が狂い始める美雪。
美雪から春翔に引き継がれたように、美雪の母の十和子にも美雪と同じ力があったという事実が明かされました。
そんな十和子も殺されてしまい、十和子を蘇らせてしまったあたりからは、『禁じられた遊び』との類似性が強くなっていきます。
しかし、特殊警棒で殴ってそんな脳が見えるほど頭蓋骨陥没するのか……?という点はちょっと気になってしまいました。
重要な十和子の死のシーンであるがため、特に。
本作では、美雪の心理描写が多く、自分が不思議な力を持つことや、死者を甦らせることへの葛藤が強く伝わってきました。
悪魔の子であるダミアンくんですら映画『オーメン2』では悩んでいたので、超能力を持つ者が思春期に悩むのは必然ですね。
宮部みゆきの小説『クロスファイア』も思い出しました。
合理的に考えると「何であんなに言われてたのにお母さんを甦らせたの?」「早く楽にさせてあげなよ」とも思ってしまいますが、美雪は中学生であり、すでに父親を失っている今となっては唯一の親、しかも自分が持つ力の苦しみを理解してくれる存在です。
「やっぱりお母さんには生きててほしいの!それがどんなお母さんであっても、生きててほしいの!」という台詞は、胸を打つものがありました。
『忌少女』も前2作と同様、内容についてはかなり丁寧に説明されるので、謎として残る部分はそれほどありません。
ここでは少しだけ、『禁じられた遊び』との繋がりを検討しておきたいと思います。
ちょっとだけ考察:『禁じられた遊び』との繋がり(ネタバレあり)
『忌少女』は美雪の過去が描かれた前日譚ですが、『禁じられた遊び』の描写とはやや矛盾点もあり、もともと前日譚まで設定されていたというよりは、あとから構築したのかな、と思われます。
ただ、美雪の心情まで慮れば矛盾を解消させることも可能であり、以下、その点を見ていきます。
具体的に、『禁じられた遊び』で描かれていた美雪の過去は、以下のようなものでした。
- 小学校の高学年の頃、母親に叱られて美雪が癇癪を起こすと、いきなりテレビが火を噴いた。母親は火傷を負い、もう少しで家が火事になるところだった。それ以来、母親は二度と美雪を叱らなかった
- (中学に入っていじめに遭った美雪は)ある日の放課後、体育倉庫に閉じ込められた。少女たちは美雪を閉じ込めたまま帰宅してしまい、大声で助けを求めても誰にも気づいてもらえず、心配した母親が夜遅くに学校に駆けつけてようやく発見してもらえた
- 母親に強く抗議された担任教師がいじめていた少女たちの自宅に電話してみると、全員が階段から落ちたり、倒れた書棚の下敷きになったり、帰宅途中に車にはねられたりして大怪我を負っていた
- 美雪は「だけど私は気を失っているあいだに、とっても恐ろしい夢を見ていたの」とぽつりと付け足した。少女たちが怪我をしたことには、きっと自分が関係していたような気がするというのだ
そして、二度と同じようなことを起こさないために、他人に対して憎しみの感情を持たないように心がけることにした、それが美雪の冷たい無表情の真実だった──と結ばれていました。
細かく見ると、『忌少女』では異なる部分が多々見受けられます。
美雪が小学生頃にテレビが火を噴いたシーンは、『忌少女』ではすでに中学生になっていたので描かれなかったのかもしれませんが、少なくとも母親は美雪が力を使ったときには厳しく叱っていました。
体育倉庫に閉じ込められていた美雪を発見したのは母親と担任教師(大崎)で、母親は強く抗議してはいません。
美雪は、『忌少女』の終盤ではさらなる力を発揮しているので、いじめられた少女たちの事故が自分のせいであるということは自覚を持っていました。
しかし、これらは『禁じられた遊び』の主人公・伊原直人が美雪から聞いた話として語られます。
そのため、直人の記憶が間違っていたり、美雪が少し嘘をついて伝えた可能性も十分あるでしょう。
また、『禁じられた遊び』において、美雪が交通事故に遭って死亡した際には、美雪の両親も病院に駆けつけ悲嘆に暮れていました。
『忌少女』では、美雪の両親はどちらも死亡してしまったはずです。
ただ、『忌少女』の終盤では、美雪の父親の兄夫婦、つまり美雪の伯父と伯母が美雪を引き取る話をしており、実際に引き取られたようでした。
養子縁組もして実際の親子になったのかもしれません。
この2人が、病院に駆けつけた美雪の「両親」であると考えられます。
直人の美雪に関する回想シーンから鑑みるに、直人は美雪の家庭事情を知らなさそうでした。
美雪は『忌少女』の終盤で、ショックにより十和子の死にまつわる記憶を失ってしまったようなので、それがずっと続いていたのでしょう。
あるいは、もし思い出したにしても、たとえ夫にでもわざわざ語らなかった可能性は十分に考えられます。
さらに美雪は、『忌少女』のラストでは死んだトンボを生き返らせることができず、力を失ってしまったようでした。
『禁じられた遊び』でも、美雪自身は大きな力を放っていません。
美雪の復活も、比呂子やその周囲の人間に起こったポルターガイスト的な現象なども、すべて美雪の恨みを増幅させた春翔の力によるものでした。
春翔が生まれる前にあったことといえば、直人と比呂子が接近した際に倒れたことと、比呂子に「私たちの子どもに近づかないで」と牽制したところですが、ここはぎりぎり「女の直感」のカバー範囲内でしょうか。
『忌少女』まで読むと、これだけ純粋で苦しんでいた美雪が、自らが母親と同じどころかそれ以上のモンスターとなって蘇り、果てはカケラ女となって怨念の塊になってしまったと考えると、だいぶ切ないものがありました。
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