【小説】清水カルマ『禁じられた遊び』(ネタバレ感想・考察)

小説『禁じられた遊び』の表紙
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:禁じられた遊び
著者:清水カルマ
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2019年6月14日

主人公・伊原直人は、妻の美雪、息子の春翔と共に幸せな生活を送っていた。
しかし、念願のマイホームを購入した矢先、美雪が交通事故に遭い死亡してしまう。
絶望する直人に対し、春翔は「ママを生き返らせる」と、美雪の死体の指を庭に埋め、毎日熱心に祈りを捧げる。
同じ頃、フリーのビデオ記者、倉沢比呂子の周りで奇怪な出来事が起こり始める──。

第4回本のサナギ賞の大賞作品。
刊行前は『リジェネレイション 闇の底に蠢くもの』というタイトルだったようです。
こちらの方が内容そのままを反映した感じですね。

というより、『禁じられた遊び』というのは、若干内容と合っていないようにも感じてしまいました。
別に、子どもの遊びだったわけでも、禁じられていたわけでもないような。
必然的に名作映画の『禁じられた遊び』が浮かんできますが、死を理解していない子ども、埋葬、お墓、といったワードが共通するので、そのイメージでしょうか。

内容としては、だいぶシンプルなホラーだった印象です。
とても素直というか、「死んだ母親の指を埋めて生き返らせようとする」というのがあらすじレベルで書かれていますが、本当にそれだけが展開していきます。

美雪の復活は息子である春翔の力だろうというのは中盤あたりで気づけますし、ラストまで意外性は少なめな作品でした。
文章も映像的というかイメージしやすいため、気軽に読める1作です。

どちらかというと、漫画やラノベ、ネット小説寄りなイメージでした。
その分、読書家、さらにはホラー小説好きには、少々物足りないかもしれません。
どちらが良い悪いというわけではなく、普段あまり本を読まない人や若い層、ホラーに興味があるけれど怖がりな人にも、入門しやすい1作なのではないかと思います。

個人的には、可もなく不可もなく。
丁寧な展開は、わかりやすくもあり、冗長にもなりがちでした。


引っかかってしまったのは、登場人物たちの心理や行動原理。
いまいち考えがわかりづらく、何でそんな行動を?と突っ込んでしまったこともしばしば。

特に、主人公である伊原直人は、なかなかもどかしかったです
決意したと思った次の瞬間には「いやでもやっぱり……」とふにゃふにゃ優柔不断になり、事態は悪化。
心境としてわからなくもない場面もありますが、そもそも「トカゲの尻尾からトカゲが蘇る」というのを教えたところまではまだしも、わざわざ必死に生きたトカゲを探して来てまで復活したように見せかけたのはやり過ぎな感があり、スタートからして共感しづらい。
全体的に、色々な場面で「直人のせい」感が漂います

ただ、誰にでもあり得る些細な嘘や悪戯が、取り返しのつかない恐怖をもたらすという展開は好きでした。
「指から身体が復活する」という発想は斬新というほどではないため、もう一捻り欲しかったな、とは思ってしまうところ。


比べるべきではないとわかっていながらも、どうしても綾辻行人の短編『再生』が浮かんできてしまいました。
決して似ているわけではないですが、『再生』が短いながら完成度とインパクトが圧倒的過ぎるため、触れずにもいられません。
『禁じられた遊び』のもともとのタイトルだった「リジェネレイション」こそ、まさに「再生」です。
綾辻行人の短編集『眼球綺譚』や、角川ホラー文庫の短編集『再生』に収録されているので、興味のある方はぜひ。


『禁じられた遊び』は色々引っかかるポイントが多くなってしまった作品でしたが、これがデビュー作であり、本作以降も複数刊行されているので、そちらも読んでみたいと思います。

また、ちょうど読み終わる数日前に『禁じられた遊び』の映画化が発表されました。
運命的。

監督は、『リング』を始めとするジャパニーズホラー映画界の巨匠・中田秀夫。
正直に言うと、『事故物件 恐い間取り』の悪夢が頭をよぎります。

そもそも、『禁じられた遊び』の終盤、中途半端に復活する美雪の姿は、映像化するとものすごくシュールになってしまう可能性を孕んでいます。
読者各自の頭の中で想像されているからこそ恐怖感が成立してしますが、果たして映像化してしまって成立するのか、さらには『事故物件 恐い間取り』レベルのCGだったらとんでもないことになってしまうのでは……と懸念してしまっています。
こんな不安を大きく裏切ってくれる作品を期待。

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考察:出来事の整理と曖昧な点(ネタバレあり)

シンプルなようで以外とややこしさもある『禁じられた遊び』。
果たして何が起こっていたのか、だいぶ簡単にですが整理してみたいと思います。

何が起こっていたのか

結局、『禁じられた遊び』では何が起こっていたのか。

本作における超常的な現象は、すべて伊原直人の妻である美雪と、その息子である春翔が持つ不思議な力によるものでした。

「何でそのような力があるのか」という点は言及されませんが、美雪には子どもの頃から不思議な力があったようです。
おそらく生まれつきそのような力があったのでしょう。
それが、息子の春翔にも遺伝していたのでした。
もしかしたら美雪の親もまた同じで、代々受け継がれているのかもしれません。

大まかには、美雪の嫉妬や恨みを、春翔の力が増幅させた、という構図です。
本作で起こる怪奇現象の数々は、その相乗効果によるものでした。

指から復活した美雪にはもはや理性はなく、残っていたのは嫉妬や裏切られたという悔しさの感情のみ
それら負の感情を受け止め、復讐の手助けをしようとしていたのが春翔です。
美雪を指から復活させたのも、春翔の力によるものでした。

何がしたかったのか

では、その目的は?といえば、明確なものはなさそうです。

美雪はもはや、嫉妬と怨念の塊のようになっていて、理性はほぼ失われていました。
春翔の目的は、純粋に母親を復活させたかったということでしょう。
誰かを怖がらせるつもりはもちろんなく、ただ美雪の味方であろうとしただけであったと考えられます。
美雪の想いがもはや嫉妬と怨念だけだったので、あれだけの恐ろしい事態に発展してしまったのでした。

美雪の負の感情も直人の嘘も、どちらも真正面から受け止めてしまった春翔は何も悪くなく、親が世界のすべてである子どもにとっては当たり前の反応でもあります。
「ホラー × 子ども」というのも王道ではありますが、春翔の行動は切なくもあり、その純粋さが恐怖を引き立ててもいました。

倉沢比呂子の周りで怪奇現象が起こったのは、もちろん美雪の嫉妬が根元です。
物理的な接触はなかったとはいえ、夫の気持ちが移ろいだだけでそれを感じ取ってしまったというのは、それはそれで大変そう。
何もしていないのにあそこまで恨まれた比呂子もかわいそうではありますが、嫉妬というのはそういうものなのでしょう。
直人の性格を考えると、比呂子とのことが解決していたとしても、また別で問題を作り出していたのではないかな……と思ってしまいます。

やや曖昧なポイント

ただ、比呂子の周辺、つまり以前の同僚の平岡麻耶や、霊能力者の大門謙信、そして比呂子に好意を寄せるディレクターの柏原亮次らが巻き込まれた理由は、少々曖昧です。
比呂子を怖がらせてから殺そう、というのがあったのかもしれませんが、大きな理由は「霊感がある人たちが影響を受けた」ということでしょうか。

作中で大門が述べていましたが、美雪 × 春翔の力が大きいために、霊感があると影響を受けてしまうようでした。
大門の死、そして麻耶の狂乱はそのためです。

ただ、大門は直接乗っ取られたり操られたわけではありません。
操られたのは、その弟子、黒崎でした。
黒崎の手にした日本刀によって、大門、そして黒崎自身も命を落としました。

しかし、黒崎はそれほど霊感が強くなかったようです。
少なくとも、大門が気づいた比呂子の背後の影に、黒崎はまったく気づいていませんでした。
ただ、その後、帰り道で少し不穏さは感じていたようなので、霊感がゼロだったわけでもないようです。

普通に考えれば霊感が強い大門の方が影響を受けたり乗っ取られそうですが、そこはむしろしっかりと力があったから乗っ取りはされず、逆に中途半端に霊感のあった麻耶や黒崎は抵抗する術もなく乗っ取られた、という解釈が一番しっくりくるでしょうか。


また、「対決!霊能力者42人!」の収録スタジオで死んでいた霊能力者・犬塚大吉に至っては、だいぶ意図が不明です。
犬塚は収録前に交通事故に遭って死んでいたわけですが、死亡が確認されたのは搬送先の病院。
死体が病院からスタジオまで来たのか、死体は病院にあるままなのかもわかりません。

犬塚は本当に霊感があったのだとしても、春翔に死体を操る力まであったのかはわかりませんし、そもそも死んだ犬塚がスタジオに現れたのは目的が不明確です。
比呂子が好意を抱くようになっていた(あるいは単に比呂子に近い存在である)柏原を怖がらせようとした、というのが、やや無理矢理ながらの解釈でしょうか。
このシーンはけっこう好きなのですが、ストーリー上必然性があったというより、ホラー小説としての演出色が強めでした。

生き霊から肉体の復活へ

『禁じられた遊び』で一番マイナスに感じてしまったのが、美雪の復活劇です。

そもそも、指を埋めて蘇らせるという軸の設定は好きでした。
また、この世に幽霊など存在せず、世の中の怪奇現象はすべて人の想いによるものだ、というのもとても面白いです。
美雪の幽霊による怪奇現象ではなく、美雪が復活しているからこその怪奇現象だったわけです。

ただ、そのメインの方向性が、生き霊ものからゾンビ・モンスターものへジャンル転換してしまったようなところが、一番混乱を来しました。
前半と後半で異なる恐怖を持ってきたかったのだろうと思いますが、その分、整合性がやや破綻してしまっていたのが残念なところ。
ここは、長編ホラーの難しいポイントだと感じます。

美雪の力や恐怖は、復活する前の方が圧倒的でした。
結局は春翔の影響が大きかったので、春翔が近くにいたかどうかというのが大きな要因ではありましたが、明らかに肉体の復活後は、見た目が怖いだけで肉弾戦に近いバトル。

肉体復活前の方が、ポルターガイスト的な現象を起こしたり、黒崎や麻耶の身体を乗っ取れるほどだったと考えると、下手に肉体が復活しない方が強かったのでは……?とすら思ってしまいました。
また、大門が比呂子の背後に見た影は何だったんだ?という話にもなってきてしまいます。

このあたりは決着をつけるために仕方なかったとは思いますが、発想や軸となる部分は面白いながら、ストーリーや演出ありきのために整合性がうまく取れなくなってしまっているところが、残念に思ってしまったポイントでした。

ラストシーンの解釈

ポチが咥えてきた春翔の肉を埋めて、復活させようとしていた直人。
悪夢が終わらないことを予想させるラストは、ベタベタなホラー感があって好きです。

ですが、直人には力がないので、春翔はきっと復活しないのでしょう
春翔も、さすがに自分が死んでも自力で蘇るだけの力はないのでないかと思いますので(いや、あるのか?)、精神的に不安定になったらしい直人は、あのままいつまでも庭で呪文を唱え続けるのでしょうか。
そう考えると、切ないラストでもあります。

とはいえ、いまいち直人に同情しづらいのは感想のところでも述べた通り。
何とか火の手から逃れてきたポチに対して、まさかの「犬のくせに主人を見捨てて逃げてきやがって……」と言い捨てた直人。
子どもを案ずる親心はわかりますが、本性が現れちゃっているというか、さすがに鬼畜過ぎませんかね

実は、一番恐ろしかったのは、美雪でも春翔でもなく直人だったのでは。
オカルトや嫉妬心の怖さを描いたように見せかけて、実はやっぱり人間が一番怖い系の作品だったのでは。
と、思ってしまったのでした。

追記

『カケラ女』(2023/02/01)

『禁じられた遊び』より後日の時間軸。
作品としては独立していますが、世界観は繋がっており、『禁じられた遊び』を読んでいるとより背景がわかりやすくなります。

『忌少女』(2023/02/02)

『禁じられた遊び』の前日譚で、美雪の過去が描かれる作品。
こちらも作品としては独立していますが、より『禁じられた遊び』との関連は強めです。

映画『禁じられた遊び』(2023/12/19)

映画版『禁じられた遊び』の感想をアップしました。

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