【小説】清水カルマ『カケラ女』(ネタバレ感想)

小説『カケラ女』の表紙
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:カケラ女
著者:清水カルマ
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2021年2月19日

「ねえ、ふたりは『カケラ女』の都市伝説って知ってる?」
麻丘郁美は華やかな大学生活を送っていた。
ところが、仲間たちが1人の女子学生と諍いになり、屋上から突き落としてしまう。
現場にいた郁美は彼女の死亡を確認するが、翌日になると遺体は忽然と消えていた。
そして後日、仲間の1人が変死体となって発見される──。

『禁じられた遊び』に続く、清水カルマ2作目のホラー小説。
単体で独立している作品ですが、続編というほどではないながら世界観は繋がっており、『禁じられた遊び』も読んでいるとカケラ女の背景がよりわかりやすくなります。

以下、『禁じられた遊び』のネタバレも含まれるので、念のためご注意ください。

『禁じられた遊び』の感想・考察については以下の記事をご参照ください。

「カケラ女の都市伝説」を描いた都市伝説ホラー
『禁じられた遊び』の人差し指から派生したであろうカケラの発想が面白い。

前作『禁じられた遊び』は色々な要素が詰め込まれていて、個人的にはやや冗長に感じたりする部分もありましたが、本作はカケラ女のエピソードのみに焦点が絞られており、だいぶシンプルでわかりやすい作品になっていました
逆にシンプルすぎてあまり感想も考察もないのですが、個人的にはちょっとごった煮になってしまっていた『禁じられた遊び』より楽しめました。

カケラ女は、『禁じられた遊び』で復活を遂げ、怨念モンスターと化した伊原美雪が母体であることが示唆されていました。
前作で雷に打たれ、燃え尽きたと思われた美雪。
それがまさかこんな姿になってまで残っていたとは、恨みの恐ろしさというより、もはやかわいそうな存在に思えてきます。

けっこうベタベタな都市伝説ホラーな印象で、逆に新鮮さも。
ゲームでいうところの『流行り神』『真 流行り神』シリーズを彷彿とさせる、少し懐かしいような感覚にもなりました。
オカルト的な都市伝説ホラーが好きであえば、十分楽しめるのではないかと思います。

とはいえ、『禁じられた遊び』からの時間経過はどうやら十数年程度らしいので、都市伝説として定着するには少し早い気がします
都市伝説というと、話に尾ひれがついてどんどん変形していくものですが、本作で語られていたカケラ女の過去については、本当に美雪がカケラ女だとすれば、相当に正確な形でエピソードが伝わっていました。

このあたり、もう少し過剰なエピソードが加わっていたり変形されていた方が都市伝説っぽい気がしますが、まだそこまで時間が経過していないので、仕方ないところでしょうか。
そのため、都市伝説にまつわる噂を調べていくというよりは、すぐに都市伝説が本当であったことが判明し、そこからはカケラ女に順番に襲われていくホラー路線になります。


文章は相変わらずすらすらと読みやすく脳内で映像化しやすい印象で、何が起こっているのか、非現実的ながらイメージしやすかったです。
女子大が舞台なところなんかも、こちらも映画化を狙っているのでは、なんて思っちゃう。
蜘蛛が織り交ぜられたのも良い演出で、『禁じられた遊び』よりも恐怖感もストレートで伝わってきやすいものでした。
個人的な残念ポイントとしては、展開がかなり強引な部分があったり、会話の台詞がややわざとらしく感じられてしまうのも相変わらず。

また、女子大でのミスコンを取り巻く人間模様も多く描かれていました。
スクールカースト、整形、ネットいじめ、炎上、陰謀論といったような、現代的なテーマも多く扱われています。
全体的に「懐かしい都市伝説ホラー」感が漂いつつも、このような現代的な問題がピックアップされているのも面白い構成でした。

しかしとにかく、女性たちの水面下での攻防が、これでもかというほどに恐ろしい
展開はやや唐突でしたが、亜弥に対する壮絶な嫌がらせや、そして屋上から突き落とすという行為は、カケラ女よりよほど怖いです。

カケラ女のモンスター性が際立ちますが、カケラ女単体では何もできず、強い恨みを残して死んだ死体が必要となります。
亜弥に対する陰湿な嫌がらせ、そして壮絶な恨みを残して死んでいった亜弥。
さらには、自分とは違う世界に行ってしまうことが悔しくて郁美の顔に塩酸をかけた花音。
やはり怖いのは人間だな、ということを改めて痛感させられもする作品です。

よく考えると、あまりろくな登場人物が出てきませんね
花音や早苗に対する郁美の態度、絵里奈の取り巻き、神崎のクズさあたりは、テンプレレベルでひどいもの。
早苗だけは、巻き込まれただけでかわいそうでした。
亜弥も、過去の反動で攻撃的なほどの強気になっていただけで、ただただ被害者。
結局、最後まで絵里奈には悪気がなく天使ポジションだったというのはちょっと意外でした。


上述した通り、話としてはだいぶシンプルで細部まで説明されるので、考察ポイントもほとんどありません。
いくつかだけ整理しておくと、

  • 古典映画『禁じられた遊び』のテーマ曲『愛のロマンス』が着信のメロディであることは特に伏線ではなかった(絵里奈犯人説にミスリードさせるため?)
  • 郁美に塩酸をかけたのは、嫉妬した花音
  • 郁美は完全に死ぬ前にカケラ女に寄生されたので、少し理性が残っていてコントロールできた
  • カケラ女が順也(絵里奈の弟)を前に穏やかになったのは、春翔(美雪の息子)を思い出したから

といったぐらいですかね。


ちなみに、内容とは全然関係ありませんが少し気になってしまったのが、「ステマ」の使い方でした。
ステマは「宣伝であることを悟られないように商品やサービスを紹介すること」なので、お金で雇ったバイトを使って郁美のインスタのリプ欄をコントロールしていたのは、「やらせ」「サクラ」といった表現の方が適切な気がします
ただ、郁美やミスコン出場者を「商品」として見れば、気がつかれないように情報をコントロールしているという意味では、あながちずれているとも言えないのでしょうか。

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『カケラ女』が好きな人におすすめの作品

真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』

あえて清水カルマの関連作品ではなく、ホラーでもありません。
アイドルの炎上を中心に、人間の二面性など、『カケラ女』でも描かれていた人間の闇の部分をより抉ってくるミステリィ作品です。

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