作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:ホーンテッド・キャンパス
著者:櫛木理宇
出版社:KADOKAWA
発売日:2012年10月25日
八神森司は、幽霊が「見えてしまう」体質の大学生。
片想いの美少女こよみのために、仕方なくオカルト研究会に属している。
ある日オカ研に、女の顔の形の染みが、壁に浮き出るという悩みが寄せられ──。
第19回日本ホラー小説大賞〈読者賞〉受賞作品。
このブログでもすでにいくつか取り上げていますが、個人的に好きな櫛木理宇の、本作がデビュー作でもあります。
タイトルや表紙、あらすじや設定などから想像していた通り、ホラーとしてはだいぶライトな作風。
がっつりホラーというよりは、ライトミステリィやキャラクター小説としての性質が強く感じられる作品です。
実際、櫛木理宇のインタビューでも、
「正統派のホラーを書いたら、他の応募者の方々には敵わないだろうと思ったんです。
https://ddnavi.com/news/95496/a/
それならば、ホラー的な要素の入った青春小説にして、怖がってもらうというより、キャラクターに共感していただけるような作品にしようかなと思って」
と、述べられていました。
本格的にホラーを求めて読むと物足りなさは否めませんが、日本ホラー小説大賞の読者賞に選ばれ、2024年3月現在の時点でシリーズが21作も出ていることを踏まえれば、この作戦は間違いなく大成功だったと言えるでしょう。
殺人事件の犯人探しを主とした本格的なミステリィではなく、個性の強いキャラクターが日常の軽い謎を解いていき、主人公たちの成長や人間模様(特に恋愛要素)を描いていく、という作品が、一時期流行しました。
系譜としては昔からあり、ラノベブームを経ての延長にあるのだと思いますが、西尾維新だったり米澤穂信だったりを経て、個人的に大きくブームになった印象が強いのが三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』で、この作品のヒット以降、似たようなライトミステリィが雨後の筍のように量産されていました。
『ビブリア古書堂の事件手帖』の刊行が2011年なので、『ホーンテッド・キャンパス』もちょうどそのライトミステリィブームの波と重なっており、人気を後押しする要因の一つになったのでしょう。
ホラー要素を組み込んだことでオリジナリティを発揮し、かつ本格的なホラーが苦手な人でも楽しめるような、間口の広い作品に仕上がっています。
もちろん、本作が雨後の筍でないことは、現在の櫛木理宇の活躍を見れば言うまでもありません。
1作目の時点で各キャラもしっかりと立っており、森司とこのみの関係性だけでなく、オカ研メンバーそれぞれも深掘りされていくのが面白そうと思えます。
とはいえ、決してキャラ頼みなだけではなく、謎自体はしっかりとオカルト要素が組み込まれているのが魅力の一つ。
「なんちゃってホラー要素をとりあえず取り入れてみました」というのではなく、しっかりとホラー愛が感じられます。
さらには、その背景にあるのは、人間の怖さや闇深さ。
森司やこよみを中心とした爽やかさとは対照的に、本作におけるオカルトの背景にあったのは、すべて性犯罪や男女関係のどろどろ。
現在の櫛木理宇を見ればもはや得意分野として何の違和感もありませんが、しっかりとデビュー作からその片鱗が垣間見えるのが面白いところです。
個人的には、本作では「第五話 秋の夜長とウィジャ盤」が闇深くて、他者の身体に乗り移るために自殺するという発想も面白く、好きでした。
また、インタビューでは以下のようにも述べられていました。
「本当は本作のようなノリのよい作品より、ちょっと暗めの話のほうが得意なんです(笑)。
https://ddnavi.com/news/95496/a/
枠にとらわれず、様々な作品を書いていきたいですね」
個人的にはやはり『殺人依存症』から始まる依存症シリーズを筆頭に、えぐい櫛木作品が好きですが、著者自身もやはりそちらの方が書いていて楽しかったり、書きたい内容なのでしょう。
ホラーにはあまり恋愛要素も求めていないので、本シリーズよりは他作品の方が好みですが、間口が広く人気な本シリーズを軸として、書きたいものや幅広い作品を書いていくというのは、とても安定していて理想的な形なんだろうと感じました。
余談ですが、よく男性作家が女性を主人公とした視点で書くのは難しいとも聞きます。
逆に本作は、女性作家が男子大学生を主人公としている作品ですが、作中にあった「おまけにスクエアトウのパンプスを履いていた」という描写が、少し笑ってしまいました。
本作は森司を主人公としつつ三人称視点の描写なので、森司の観察ではない可能性もありますが、奥手でちょっと拗らせている森司のことなので、絶対女性の靴なんか見なければスクエアトウも知らんやろ……!と思ってしまったのでした(ごめん、森司くん)。
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