【小説】最東対地『おるすばん』(ネタバレ感想)

最東対地『おるすばん』(ネタバレ感想)
(C) KADOKAWA CORPORATION.
スポンサーリンク

 

『おるすばん』の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:おるすばん
著者:最東対地
出版社:KADOKAWA
発売日:2019年9月21日

兄夫婦の家を訪ねた祐子は、久しぶりに地元の友人に再会し、「ドロボー」が律儀にチャイムを鳴らして家を訪ねてくるという都市伝説を知る。
その日を境に、祐子の周囲で不穏なできごとが起こりはじめる──。


『えじきしょんを呼んではいけない』に続き、2作目の読了。
『えじきしょんを呼んではいけない』がちょっと笑えてしまう要素もあるB級ホラー感満載だったのに対して、『おるすばん』はかなりしっかりとホラー寄りで、その振り幅に驚きました
細かい部分は相変わらず粗めではありますが、描きたいものがはっきりしている感じがあるので好きです。

やや土着信仰的な要素が強めだった『えじきしょんを呼んではいけない』に対して、本作は都市伝説がメイン。
それだけに、日常に密接した恐怖感が描かれていた点もよりホラー度を高めていました
それこそB級ホラー映画の登場人物のようにだいぶ共感はしづらかった『えじきしょんを呼んではいけない』のキャラに比べると、本作の主人公・高梨祐子などは感覚がまともだったのも、使い分けが見事でした。

『おるすばん』も、ルーツを辿っていくと民俗学的な背景が見えてきますが、それとは関係なく突然日常が侵食される点が恐ろしいです。
何より、インターホンが鳴るという日常的なシチュエーションが恐怖に繋がる点が、ベタだけれども良い
自分の日常でも、近年は置き配も使いまくっているので、インターホンが鳴るだけでちょっと驚いたり警戒してしまいます。

さらに、「自宅に1人でいる」という本来は安心できる空間や環境が恐怖に反転するというのが、これまた定番とも言えますがいやらしいですね。
10代頃に読んでいたら、1人で留守番するのが怖くなっていたかもしれません。


だいたい同じパターンではありましたが、次々と色々な人たちが襲われるシーンも魅力的でした。
読んでいる側は「開けちゃダメ」というのはわかっていますが、初めて遭遇する登場人物たちは当然ながら〈ドロボー(キムラサン)〉の性質を知らないわけなので、あれだけ巧妙に騙されたら開けてしまうのも仕方ありません。
メカニズムはわかりませんが、姿も声も他者になりきれるというのはなかなかにチートスキルです
ただ、本人に記憶がなくなるとはいえ、次々と自宅で四肢の一つが欠損した重症患者が見つかるわけなので、現実的に考えてしまうと大きな話題になってしまいそう。

祐子の友人・浅窪文香はあからさまに怪しかったですが、思った以上に黒幕的存在でした。
しかし、文香は幼少期に頭を持っていかれたわけですが、だいぶハズレですよね
腕や脚を持っていかれた場合は生きている人も多そうでしたし、「1回目は命は取らない」と説明されていましたが、さすがに頭を持っていかれたら生存の可能性はゼロ。
文香は行方不明扱いになっていたらしいので、頭を持っていかれた場合だけは遺体も残らないのでしょうか。

そのような細かい点は疑問が多々ありますが、『えじきしょんを呼んではいけない』と同じく、背景はそれなりに説明されますがあまり細かく詰められているわけではなさそうなので、じっくりと考察や検討するような作品ではありません。
あくまでも、クリーチャーの恐怖を楽しむべき作品。

一応大枠としては、過去に兎次集落で起きた惨劇が起点
〈人形村〉とも呼ばれていた兎次集落の生き残りであるクサノミの呪い、そしてその想いを受け継いだキヨワカが創始した人形會によって、人形を使って兎次集落を蘇らせようとしていたようです。
実際は、兎次集落を壊滅させた侍の血を探していたようですが、そのあたりの設定はそこまで重要ではなさそう。
全国どの家も危ないですよ、と拡大させるための設定と思われます。

2回襲われ、1回目のことを思い出すと恐怖で死んでしまうというのはわかりましたが、なぜ殺すために2回目に会いにくるのかは謎でした。
文香(の頭を載せたキムラサン)が祐子を執拗に狙っていた理由も、滝沢を殺した理由もはっきりしません。
キムラサンが増えてきて、侍の血を探すという本来の目的を達成するためだとしても、そこまで必要性もないような。


まぁまぁ、そのあたりは置いておきましょう。
ちなみにですが、被害者として描かれていた中で、「しんちゃん」の人形を持っていたのが幼少期の祐子、「みかんちゃん」のぬいぐるみを持っていたのが幼少期の文香であったと考えられます。
家族構成や取られた部位も同じですし、山で襲われたとき、文香は祐子に「しんちゃん、私のことはみかんちゃんと呼んで」と言っていました。

子どもが容赦なく犠牲になるのも、後味は悪いですがホラーとしては攻めていて好きです。
最後は祐子も死に、繭も犠牲になりと救いがないのも良い。

高梨智恵が人形を出産するというエピローグはあまりにも唐突で意味不明でしたが、それもまた今後の不穏さを想像させるものとして捉えました。
おそらく、ここまで読んできた内容を超越した何かが新しく起こり始めるのでしょう。
エピローグの章タイトルが「序」である点が、それを示唆しているように思いました。

しかし、高梨家はかわいそうですね。
先祖を辿ると兎次集落あるいは侍との関係が深かったりするのかもしれませんが、妹の祐子は死に、娘の繭は腕を失い、智恵は人形を出産と、あまりにも過酷。
この勢いだと人間は全滅し、〈キムラサン〉だけの世界になってしまうかもしれません。



コメント

タイトルとURLをコピーしました