作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:幽落町おばけ駄菓子屋
著者:蒼月海里
出版社:KADOKAWA
発売日:2014年8月23日
大学入学と同時にひとり暮らしを始めることになった僕。
有楽町の物件に入居するはずが、着いた先はなぜか「幽落町」。
そこは妖怪たちが跋扈し、行き場を見失った幽霊がさまようトンデモナイ町だった──。
有楽町ならぬ幽落町を舞台とした、ほのぼのほっこり物語。
ノスタルジー漂う空気感で、のんびりと楽しめました。
……という以上に、ちょっと感想が出てきませんね!
このブログで取り扱うか迷ったほど、あまりにもライトで平和な1作。
一応角川ホラー文庫なので記録も兼ねて取り上げましたが、ホラー慣れして感覚が麻痺しているのを差し引いても、おそらく本作をホラー作品として怖いと感じる人はいないでしょう。
別に批判的な意味合いではなく、タイトルや表紙、そしてあらすじを見るだけで、本格的なホラーを期待してこの作品を手に取る人はいないだろうと思います。
わざわざジャンル分けする必要もありませんが、あえて分類するとすれば、ホラーの要素を取り入れたキャラ文芸でしょうか。
迷い込んだ亡霊の未練を探り解決していく過程は、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』などのライトミステリィの流れを汲む王道ですが、ミステリィというほど謎めいているわけでもなく、どのエピソードも展開は途中でほぼ読めてしまいます。
設定的にも、ジローが猫だというのも水脈が龍だというのも、おそらく早々に予想がつく方が大半でしょう。
なのであくまでも、キャラや世界観を楽しむべき作品だろうと感じます。
間違っても、警察の捜査や都合の良い展開にツッコミを入れてはなりません。
メインキャラの3人(御城彼方、水脈、猫目ジロー)は名前も口調も特徴的なのでわかりやすいですし、他のキャラも妖怪モチーフなので覚えやすい。
特に水脈のキャラ設定はかなり狙っている感を禁じ得ませんが、それほどあからさまな演出があるわけでもないので、読みやすかったです。
というか、狙っている感あるキャラがいてこそのキャラ文芸ですかね。
こういったキャラモノで大切なのは会話だと思っていますが、良くも悪くもベタベタで、コントめいたやり取りもやや古さを感じるというか、あまり「思わず笑ってしまう」という感じではありませんでした。
というか、個人的にはちょっと読んでいて恥ずかしくなってしまうほどで。
このあたりももちろん批判ではなく、相性の問題です。
根からの悪人も登場せず、ただひたすらにほのぼのと平和。
亡霊たちは、未練ある死を遂げているわけなので背景には当然切なさもありますが、最後にはしっかりと前向きで明るい救いのある終わり方。
幽落町というのは、有楽町にかけたネーミングもシンプルな発想ながらとても良いですし、昭和レトロで素敵そうだな、という印象を抱かせます。
水脈が駄菓子屋の店主というのも、必然性は本作だけではわかりませんでしたが、年齢性別問わず人が惹かれ集まるイメージですし、ノスタルジーを喚起されますし、各地の有名なお菓子紹介要素も楽しい。
実在するお菓子や地名が登場するのも魅力でした。
個人的に好んで読みまくるタイプの作品ではありませんが、常々殺伐とした作品ばかり触れているので、たまにはこういった作品も良いですね。
自分の性格上、退屈さを感じてしまった部分は否めませんが、癒される要素があるのも確かです。
疲れて何も考えたくないときに、気軽に読むのに最適な1作でしょう。
そういう位置付けの作品はとても大切だと思っています。
当然ながら漫画化やアニメ化に向いていそうですが、すでにコミカライズはされているようでした。
そしてそもそも原作小説シリーズも10作出て完結しており、続編的な『華舞鬼町おばけ写真館』なるシリーズもあるようで。
彼方の祖父もけっこう思わせ振りでしたが、そのあたりも明かされていくのかな。
こういったキャラや世界観重視の作品は、ハマるとずーっとその世界を味わいたくなる気持ちがわかるので、それだけ続いてくれているのはファンには嬉しいでしょう。
個人的にはすぐに追いたい感じではないので他人事のような表現になってしまいましたが、のんびり癒された作品でした。
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