作品の概要と感想(ネタバレあり)
駆け出しのウェブニュース記者のナヨンは、ボーイフレンドのウウォンを助手として、アクセス数を稼ぐため、地下鉄オクス駅での人身事故の記事を書くことに。
取材を進めていくと被害者以外に「線路に子供がいた」という奇妙な目撃談が出てくる。
ある目撃者は、取り憑かれたように謎の数字を連呼するのだった。
事件の真相を追ううちに、2人の周囲で次々とおぞましい怪死が起こり始める──。
2022年製作、韓国と日本の合作作品。
原題は『옥수역 귀신』で、おそらくシンプルに「オクス駅の幽霊」。
英題だと『The Ghost Station』のようです。
邦題の『オクス駅お化け』は、何かちょっと可愛いですね。
「オクスえきおばけ」って書くと、絵本みたい。
でも「オクス駅の幽霊」より印象に残るように思うので、なかなか巧い邦題かも。
お化けだったか?と言われると微妙ですが。
けっこう話題になった作品であり、色々なところで書かれているので、制作経緯など調べればすぐ出てくる情報は極力省きましょう。
全体の感想としては、とてもシンプルな都市伝説系ホラーだったな、という印象。
良くも悪くもクラシカルなJホラー感が漂い、ライトに味わえた1作。
それもそのはず、と言っていいのかはわかりませんが、『リング』などの高橋洋がベースの脚本。
見覚えのある井戸が友情出演(中の人は出てこない)。
高橋洋、井戸、と来れば『リング』が浮かばないわけもないので、そのあたりはちょっと意図した演出でもあるのでしょうか。
原作は韓国のウェブトゥーン(スクロールタイプのウェブコミック)作品。
日本語版を読みましたが1分もあれば読み終わる短さで、映画では冒頭、タイトルが出るまでのシーンだけが該当します。
なので原作があるとはいえ、内容はほとんどオリジナル。
それもあってか、冒頭のシーンだけちょっと浮いてしまっていた印象も否めません。
インパクトも結局、冒頭部分が一番でした。
「そうはならんやろ!」ではありますが、スクリーンドア(ホームドア)で首切断はインパクト重視で好き。
原作のマンガは2011年なので当時はまだスクリーンドアはなく、線路から突如現れた手に引っ張られて線路に落ちて死ぬという設定でした。
それが今やスクリーンドアによって安全になったため、今回の演出になったようです。
なのでちょっぴり突飛ではありますが、ピンチ(というほどではないですが)をチャンスにうまく活かしていました。
ちなみにこの首を切断された男性が、マンガ原作者のホ・ランとのこと。
印象やインパクトで言うと、やはりちょっとポスター詐欺感は否めませんね。
この女性も冒頭だけでの登場でしたし、ポスターの廃駅での登場ではありませんでしたし。
ただ、この廃駅は実際にオクス駅近くの地下にある廃駅らしいので、雰囲気は抜群です。
内容や展開は、良く言えば王道でシンプル、悪く言えば目新しさはなく物足りない。
日本で、かつホラー慣れしていると「今さらこんな『リング』の亜種のような?」と思ってしまいますが、ターゲットが10代のようなので、この点で批判するのはおそらく的外れ。
韓国でも『リング』はリメイクされていますが1999年と古いですし、今の若い世代にはこの典型的なレトロ感が逆に新鮮に映るのかもしれません。
もともとの高橋脚本はもう少し複雑な構成だったらしいですが、イ・ソヨンや白石晃士が手を加える中でティーンエイジャー向けに削ぎ落としてわざわざシンプルにしたようなので、古き良きJホラー感を現代に落とし込みつつライトに楽しめる王道ホラーとして捉えるべきかと思います。
それもあってか、怖がらせ方も基本は典型的・古典的なジャンプスケアで、いきなり顔バーン!しかし視点が切り替わったらすぐ消える!の連続でした。
霊?のビジュアルも、韓国よりは日本のホラーっぽかった気がします。
いや、アメリカとかっぽいかな。
子どもたちは霊っぽいというよりただ汚れていただけの気もしてきました。
金切り声は怖い・驚きというより「えっ、うるさっ」とついつい思ってしまいましたが、井戸の中で皮脂に助けを求める声の再現だったのかもと思うと切ない。
陰惨な真相の割にはじめじめした感じよりはさっぱり勢い良く進んでいくのは、どちらかというと韓国ホラー寄りでしょうか。
JホラーとKホラーの良いところが化学反応を起こしていたというよりは、ぶつかり合ってどちらの要素も中途半端になってしまっていた感も若干否めず。
すでに近年の他作品でも多々使われていますが、スマホのカメラの顔認証で幽霊の存在を示唆したり、そもそも主人公の目的がネット記事をバズらせたいことだったり、現代的な要素もしっかりと散りばめられていたのは好き。
上述した経緯のため、ホラー好きには物足りないのは必然でそこに文句はまったくないのですが、主人公のナヨンの感情がちょっとあまりにも死んでしまっていませんでしたかね?というのは気になってしまいました。
これもまたもしかするとその方が過剰なリアクションよりも現代のティーンエイジャー受けが良いのかもしれませんが(いや、それは偏見か?)、超パワハラ上司に怒鳴られようが、示談金自費と言われようが、知人が死のうが、目の前に幽霊が現れようが、「はぁ、そうですか」と口半開きでほとんどノーリアクションな感じ、むしろ何だかそちらの方が心配になってしまいました。
また、ナヨンも決して正義感に溢れていたりするわけではなく、結局はゴシップ目的、アクセス数目的で動き、防犯カメラの映像を横流ししてもらうなど不正を働きまくっているので、いまいち共感できず。
ホラー映画の主人公に共感や感情移入させる必要はありませんが、2人だけで廃駅に忍び込んだりとここまで「まぁどうなっても自業自得で仕方ないよな」感が漂ってしまうと、恐怖感も薄れてしまいます。
と、まぁまぁ、途中でナヨンがすでに死んでいたはずの運転士にインタビューしていたのもメカニズムはよくわからなかったりと、考察しようとしたり細かい部分を気にしてしまうとどうしても粗が目についてしまうのでやめておきましょう。
番号(名前)を口にすることで呪われる設定もしっかり説明され、シンプルながらもしっかりと人間の闇が背景に隠されていたのは良かったです。
ラストも定番の呪い拡散不穏エンドではなく、あえてミクロ視点の爽快感で終わっているところも好き。
あそこまでテンプレな嫌味パワハラ上司であるモ社長、もちろんただで済むまいとは思っていましたが、最後のナヨンの顔が一番感情が感じられました。
しかし、局所的な爽快感はあったとはいえ、ウウォンの裏切り(?)はエグいですし、ナヨンの今後のメンタルも心配です。
ウウォンが電話番号を装ってナヨンに数字を言わせるのは巧妙でしたが、モ社長に数字を言わせようとするナヨンは直球勝負の力業すぎてちょっと笑ってしまいました。
それをさほど怪しむことなく素直に読み上げるモ社長も、まぁちょっと頭は良くなさそうですね(おっとお口が)。
霊たちがいつ成仏してくれるのかはわからず、万が一速攻成仏してしまったら呪いが解除されると思うので、そうしたらナヨンはモ社長に報復されてしまいそう。
ただ、呪いは今になって始まったわけではなく、昔からあったわけですよね(恨みが強まるのに比例して呪いも強くなっていた可能性はありますが)。
不運な人たちが巻き込まれて単なる事故死や自殺扱いになっていただけだったのが、過去の事件が明るみになったことで呪いが感染しやすくなったと考えると、アクセス数目的で深入りしたナヨンたちの責任はなかなかに大きいでしょう。
まぁ、そもそも以前にもみ消したモ社長がこれまたより悪いですが。
児童養護施設における過去の事件は、日本で1948年に発覚した寿産院事件がモチーフとなっているようです。
また、映画の内容とは直接関係ありませんが、作中に出てきた4桁の数字はいずれも適当ではなく、過去に韓国で起きた児童を対象とした犯罪事件の日付らしく、「忘れずに覚えておきたいという思いで慎重に入れました」とチョン・ヨンギ監督がコメントしていました。
ホラーとしてはライトに仕上がっていますが、詰め込まれているものは色々と重い。
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