【映画】search/サーチ(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『search/サーチ』のポスター
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『search/サーチ』のシーン

16歳の女子高生マーゴットが突然姿を消し、行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか誘拐なのかが判明しないまま37時間が経過する。
娘の無事を信じたい父親のデビッドは、マーゴットのPCにログインして、Instagram、Facebook、Twitterといった娘が登録しているSNSにアクセスを試みる。
だがそこには、いつも明るくて活発だったはずの娘とは別人の、デビッドの知らないマーゴットの姿が映し出されていた──。

2018年製作、アメリカの作品。
原題は『searching』。

アニーシュ・チャガンティ監督作品。
先に『RUN/ラン』を観ていましたが、ずっと観たかったこちらもようやく鑑賞。

個人的にはとても楽しく高評価な作品でした。
ストーリーの完成度、すごい。
こういうどんでん返しや伏線回収がしっかりしているサスペンススリラー、大好きなのです。


PC画面上の映像のみで進行していく本作ですが、その試み自体は新しいものではありません。
どれが原点なのかはわかりませんが、ホラーでも『アンフレンデッド』『ズーム/見えない参加者』といったビデオ通話の画面のみで繰り広げられる作品があり、少なくとも『アンフレンデッド』は2014年製作なので、『search/サーチ』より先行しています。

ただし、低予算プラス工夫によって生み出されたであろう『アンフレンデッド』などに対して、『search/サーチ』は何かの条件や制限によってPC画面上のみでの展開になったわけではなく、積極的にPC画面上のみで展開させようという方向性が感じられました。
「PC画面上のみで展開させるという発想ありき」の作品ではありません。

そのため、PC画面上のみの映像であるという点がフル活用されていました。
それは、謎を解き明かしていく過程もそうですし、何より、PCを操作する登場人物(主に主人公のデビッド)の心情が、ポインターの動きからひしひしと伝わってくる間の取り方や演出がとても見事。

個人的には、冒頭からすでに強く引き込まれました。
娘のマーゴットの成長、妻のパムの病気の発覚と闘病、そしてパムの死。
動画、メール、カレンダーなどを駆使しながら、家族の日常の映像なども交えることで、どれだけ仲の良い家族であったのか、そしてパムの死がデビッドとマーゴットにどれだけ大きな衝撃を与えたのかが、短時間で強く伝わってきます。

マーゴットが生まれたときに作成したマーゴットのアカウントを、成長したマーゴットが使うようになった時の流れ。
その彼女のアカウント内のカレンダーで、「Mom comes home!」がの日付が後ろにずらされ、Facebookに何も投稿することができないまま、カレンダーから削除されるシーンは、序盤なのにすでに感情移入できる痛ましさが感じられました。

個人的に、PC画面上の映像だけで登場人物の心情を表現する演出に優れていた際たるシーンは、終盤でマーゴットが死んだとデビッドが思い込み、「MemorialOne」のサイトにアップする動画を探していたシーンでした。
ここで見つけた「父の日」の動画。
動画を見て、マーゴットからもらった「世界一のパパ」という手紙が映った場面で動画を停止し、しばしの間。
そして、この動画だけが削除されます。

このシーンはもう、眉毛が究極まで八の字に曲がったデビッドの悲嘆に暮れる顔が、目に浮かぶようでした
ここまで頻繁に八の字デビッドの顔を映してきて、このシーンだけデビッドの顔を映さないというのは、あまりにも効果的でした。

そういった登場人物の心情を表す以外にももちろん、SNSから謎を解明していくプロセスだったり、そのプロセスをビデオ通話の画面やニュースの映像、果ては盗撮している小型カメラの映像まで駆使していく多様な表現であったり。
PC画面上の映像を最大限活かしつつ、ネットやSNSがストーリー上も大きく絡んできます。
そして、現実には存在しないなりすましの人物だったり、被害者家族への心無い言葉であったり、行方不明になった途端「友達」と言って注目を集めるクラスメイトだったり、といった現代的な問題も含まれていました。


伏線だらけで、無駄なシーンがないと言っても過言ではないので、2周目もまた違った楽しみ方ができる作品
ポケモンや枝豆が出てくるのも面白かったです。
しかも枝豆は「edamame」って言ってましたね。

文化差なのか演出なのかわかりませんが、湖から車が引き上げられるシーンや渓谷からマーゴットが引き上げられるシーンでは、マスコミがばっちり撮影しており、警察側も目隠しはまったくしていませんでした。
無惨な遺体になっていたらそれが生中継されてしまうわけで、大丈夫なのか?と勝手に心配になっていました。

この記事を書いている2023年3月時点ではちょうど、4月に続編である『search/#サーチ2』も公開されるようですが、どうなのでしょう。
アニーシュ・チャガンティはプロデューサーに回り、『search/サーチ』で編集を務めたウィル・メリックとニック・ジョンソンの2人が監督・脚本を手がけるようです(2人とも監督デビュー作)。
完成度の高い脚本こそが『search/サーチ』の売りだったので、そのあたりがどうなるのか、あるいはまた違った路線で魅了してくれるのか、期待したいと思います。

アニーシュ・チャガンティ監督は、現在長編3作目の脚本の執筆に取り組んでいるようなので、それも楽しみ。
『search/サーチ』も『RUN/ラン』も、まったく違った形ですが「親子」が大きなテーマとして描かれていたので、それが引き継がれる3作目になるのか、また異なる路線で来るのか。


『search/サーチ』における事件の真相については、作品終盤で丁寧に明かされます。
ここでは、各登場人物の心理について、少し掘り下げてみたいと思います。

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考察:登場人物たちの心理(ネタバレあり)

映画『search/サーチ』のシーン

デビッド・キムの心理

主人公であり、妻のパムを亡くした悲嘆に暮れながらも、懸命に一人娘のマーゴットを育てるデビッド。
さらっとIT系の仕事をしている様子が映ったことで、PCなどに詳しい理由もさり気なく示唆されていました。

デビッドの印象は、実直かつ不器用、といったところでしょうか。
思い込むと視野が狭くなり、感情のままに突き進んでしまう場面も多々。
それでも、マーゴットへのメッセージを何回も書いては消しているところからは、マーゴットのことを心から想いながらも、母親を亡くし思春期に突入した娘との関わりに葛藤や悩みを抱えている様子も窺えました。

『search/サーチ』で描かれていた大きなテーマは、親子の、ひいては家族の再生でした。
デビッドとマーゴット父娘は、決して険悪な仲ではありません。
どちらも優しい性格でお互いを思い遣っており、もともと非常に仲が良い親子だったはずです。

しかし、デビッドの妻でありマーゴットの母親であるパムを病気で亡くしたところから、家族は危機を迎えます。
大きな要因としては、やはりデビッドがマーゴットの前ではパムの話題を避けるようになったことでしょう。


大切な人を亡くしたとき、人の心は危機的な状況に陥ります。
それを対象喪失と言いますが、それを乗り越えていくのは「モーニングワーク(Mourning Work)=喪の作業」と呼ばれ、典型的なプロセスなども研究されていますが、乗り越えていく方法や道筋は人それぞれです。

喪の作業は、適切な時期があります。
ある程度、心の状態と環境が整っていないと、なかなか向き合うことができません。

喪の作業の回避方法の一つが、「目を背けること」です。
わざと明るく振る舞ったり、仕事に没頭するなどして、対象喪失を「なかったこと」にしようとする試みを、躁的防衛と呼びます。
これは無意識的に心を守ろうとする働きですが、このままでは喪の作業が進まないので、気がつかないうちに心身が疲弊したり、ふと気が抜けた瞬間に一気に悲しみが押し寄せてきます。

ただ、デビッドがこのような心理状態にあったのかというと、決してそうではなかったと考えられます。
彼は彼なりに、妻の死と向き合い、思い出を振り返り、喪の作業を進めていたはずです。
弟のピーターとの会話ではパムの話題が自然と出ていたり、パムが作ったレシピを調べたりしていたところから、そのように推察されます。

そう考えると、彼がパムの話題を回避していたのは、マーゴットに対してだけでした。
しかしこれも、おそらくマーゴットを大切に思うがゆえのことだったのでしょう。
忌避していたわけではなく、マーゴットがどう思っているのか、どのように話せば良いのか、わからなかったのだと考えられます。
マーゴットがどう思っているのか、知るのが怖いという思いもあったはずです。

親子であれば何でも話さなければいけないものでもなく、今回の事件で発覚した「自分の子どもの知らなかった一面」は、どの親子にもあって当たり前のものです。
しかし、大切な話、話すべき話を回避していると、「表面的な仲の良さ」に終始することになり、どこかで目を背け続けていた根本的な課題に家族全体がぶつかる時期が訪れます

本作においては、デビッドは自分なりに喪の作業を進めていましたが、家族全体でパムの死に向き合えてはいませんでした。
それはやはり、娘であるマーゴットではなく、父親であるデビッドにその責任があったと言えます。
マーゴットが配信しながら1人寂しくパムの誕生日を祝っていたときに、デビッドがマーゴットの部屋を訪れてもじもじしていた様子からは、「パムのことを話さないといけない」「マーゴットから切り出してくれないかなぁ」といった気持ちが読み取れますが、やはりデビッドから切り出すべきだったでしょう。

とはいえ、いずれにせよ彼もマーゴットと一緒にパムの死にどう向き合えばいいのかがわからなかっただけであり、本作における事件が、奇しくもその困難を乗り越える役目を果たしました
彼自身、パムの死についてマーゴットと話し合う必要性は感じていたはずです。
パムの友人やピーターからマーゴットとの関係性を心配された際、「娘との関係は問題ない!」と必要以上にムキになっていたのも、問題を抱えている認識があったからこそでした。

さらには、事件があった夜中にマーゴットがデビッドに電話をかけた際、デビッドは起きることなく眠り続けていました。
このシーンでは、一瞬、画面手前に白い薬のケースが映りますが、これはおそらく睡眠薬であると考えられます。
睡眠薬を飲んで寝ていたから、電話の音にも気がつかず眠り続けていたのです。

これは、当時のデビッドの苦悩の深さを窺わせるアイテムです。
その要因はもちろん、自分なりに処理は進めているとはいえパムの死に関する悲しみであり、マーゴットとの関わりの悩みです。


本作の事件を通して、マーゴットが本当はどのような思いや悩みを抱えていたのか、そしてそれにデビッドがいかに気がつけていなかったのか、デビッドは痛感することとなりました。

事件後の2年間については、詳しくは語られません。
しかし、デビッドがマーゴットに向き合い、ともにパムの死を悼めるようになったのは、おそらく確実でしょう。
映画冒頭では削除した、「お前を誇りに思っている」に続く「Mom would be too.(ママもそう思うはずだよ)」を最後には送信するという演出も、素晴らしいとしか言いようがありません。

この結末に至ったのは、デビッドが最後までマーゴットを信じ続けたことが大きな要因でしょう。
願望もあったにせよ、絶対に生きていると諦めなかったのもそうですし、違法行為に走っていると信じなかったのもそうです。
マーゴットを信じ続けたからこそ、事件を隠蔽しようとしたローズマリー・ヴィック捜査官のカバーストーリーに騙されることなく、家族の再生に繋がったと言えます。

もちろん、態度を変えたからといって急に関係性が変わるわけではないので、デビッドがこれまでずっとマーゴットのことを想い悩んでいたのがしっかりと伝わっていたことも、早期の関係改善に繋がる土壌となっていたと考えられます。

また、音大を受験していたことからは、マーゴットが「パムを思い出すので嫌だった」ピアノを再開したことが仄めかされています。
このあたりのさり気なさも見事なのですが、この点からも、マーゴットがパムの死を受け入れながら前に進んでいる様子が窺えるのでした。

マーゴット・キムの心理

デビッドとパムの一人娘として、大切に育てられてきたマーゴット。
残された動画からもマーゴットとパムの仲の良さが窺え、それだけに、パムの死がマーゴットに多大な喪失感を与えたことは想像に難くありません。

もともとなのか、パムを亡くしてからなのかはわかりませんが、マーゴットはどちらかというとコミュニケーションが苦手であり、1人でいることの方が多かったようです。
ただ、もともとであったにせよ、パムの死によりその傾向に拍車がかかったことは間違いないでしょう。

パムの死は、マーゴットに孤独感を与えました
デビッドは大人であり、デビッドにとって妻であったパムとは、言ってしまえば「出会うまでは、あるいは結婚するまでは、他人」であった存在です。
自分自身の中で、あるいは他の人との関わりの中で、その傷を癒していくことがある程度は可能です。

しかしマーゴットにとっては、パムは唯一の血の繋がった母親です。
その喪失を子ども1人の力で乗り越えていくのは、並大抵のことではありません。
他者の存在が必要であり、そしてそれを一番助けることのできる唯一の存在は、父親であるデビッドでした。

しかしデビッドは、上述した通りマーゴットとの向き合い方がわからず、パムの話を回避します。
デビッドがいかにマーゴットを愛しており、悩んでいたのだとしても、行動として現れなければ、マーゴットにとっては「ママの話を避けるパパ」でしかありません。

マーゴットは、デビッドとパムの話をしたかったのです
父親と一緒に母親の思い出を振り返り、その死を悲しむ。
それが、マーゴットに必要な喪の作業でした。

ここでマーゴットが寂しい気持ちをぶちまけられれば良かったのですが、マーゴットも優しく思い遣りがあったため、そのようなことはできませんでした。
しかし、お互いが大切な話を回避し続けることで、マーゴットの中には「パパは私の気持ちをわかってくれない」という思いが生まれてしまうことになりました。
どちらもお互いのことを大切に思っていたのに、しっかり話し合うことをしなかったことで、すれ違いが生じてしまったのです。


孤独感を抱えるマーゴットは、幸せそうなクラスメイトたちともうまく馴染めなかったのでしょう。
きっと、何不自由ない(ように見える)彼らに、羨ましいという思いもあったはずです。
それでも、デビッドに心配をかけないように、友達との関わりは多くあるように見せていました。

そんな彼女が、ある程度本心をさらけ出せる逃避場所になったのが、叔父のピーターであり、配信サイトであるYouCastでした。
その二つが組み合わさって本作の事件が起こったと考えると、皮肉でもあります。

ちなみに、本作の舞台となったサンノゼという街があるカリフォルニア州では、マリファナ(大麻)はある程度合法化されているようです。
しかし、それも21歳以上の所持や使用なので、当然ながら、未成年であるマーゴットの使用には問題があります。

そこはもちろんピーターに大きな問題がありますが、わざわざ会ったこともない他人のためにお金を貯めて送るような優しさを持つマーゴットが、1人でマリファナを吸わざるを得ないほど追い込まれていたという状況は、痛ましいものがありました。

マーゴットが「fish_n_chips」のアカウントの持ち主にお金を送ったのは、自分と同じように親の病気に苦しむ子を救いたいという優しさがあったでしょう。
それと同時に、自分自身を救済しようとする側面もあったはずです。

大切な人を亡くしたとき、何もできることはなかったとわかっていても、「自分にはもっと何かできたんじゃないか。自分がもっと頑張れば、どうにかして救うことができたんじゃないか」といった考えや無力感が浮かんできてしまうものです。
同じような境遇の他者を救おうとすることは、何もできなかったかつての自分を救うことにも繋がるのです。


マーゴットは、デビッド、ピーター、そしてヴィック刑事といった大人たちの被害者であったとも言えます。
しかし最後に、ずっと変えていなかったデスクトップの壁紙を、パムとの2ショット写真から事件後のデビッドとの2ショットに変えたことからは、マーゴットの視点からもデビッドとの関係を取り戻し、家族関係が修復され、共にパムの死を乗り越えようと前に進めるようになったことが示唆されます。

ローズマリー・ヴィックの心理

さて、本作で一番問題児だったヴィック刑事。
彼女も彼女で、悪意があったわけではなく、間違った形であるとはいえ「子どもを救おうとした」ことが原因でした。

しかし、子どもが起こした事故を他者に罪を被せて隠蔽しようとしたわけで、それが本当に子どものためになるとは到底言えません
それはパムの話題を避けていたデビッドも同じであり、『RUN/ラン』においても同じような構図の親子関係が描かれていました。
「子どものためと言いながら、自分のために動く親」というのが、2作品に共通しています。

それはさておいて、彼女の息子ロバートが起こした事故が発端というのが、本作の真相でした。
その報告を受けた彼女の隠蔽工作は、かなり度を越しています。
少なくとも、

・「fish_n_chips」のアカウントを調べて聞き込みに行った(ウェイトレスや店長から話を聞いて映像を確認した)
・マーゴットが自分のアカウントに送金をしていた

というのは、実際には捜査をおこなっておらず、デビッドにだけ伝えた嘘でした。

その他にも、マーゴットが落下した地点は「危ない場所なので警察で捜索済み」としたり、車から性犯罪の前科や服役経験のあるカートフのDNAが見つかったというのも、マーゴットの偽造免許証も、すべてヴィック刑事の工作でした。
完全に職権濫用であり、マーゴットを悪者に仕立て上げ、逃走したと匂わせるような隠蔽工作は、相当に悪質でしょう。

懸命に捜査をしながらデビッドの気持ちを思い遣るように見えていたのもすべて演技だったと考えると、なかなかに恐ろしい人物です。
夜中に叩き起こされても現場に駆けつける良き捜査官に見えましたが、あのシーンも湖という事件現場が発覚したから焦っているに過ぎません
デビッドは湖とは一言も言っていないにもかかわらず、「湖にいるの?」と勢い込んで尋ねているところなどは、伏線にもなっていました。


しかし、彼女がもともと倫理観の逸脱した悪人だったかといえば、そうとも思えません
それは過去の経歴からも窺い知れますし、デビッドに対する態度も、すべてが嘘だったとはどうにも思い難いところがあります。

彼女も彼女で、間違ったやり方でしたが、息子を守るために必死でした。
すべてを敵に回しても息子を守る、というのが彼女の原動力であったはずです。
後には引けなくなり、葛藤も強く感じていたでしょう。
最後に大人しく逮捕された姿からは、いつか発覚する可能性についての覚悟も感じ取れました。

犯人に仕立て上げられたカートフについては、明言はされませんでしたが、大麻などを使って嘘の自白を強要し、その後は殺害したと考えられます。
この点も相当に冷酷さが感じられますが、「やり始めたからにはもうとことんやるしかない」という覚悟とも取れます。

取り調べシーンでの「第1級殺人についても」というセリフは、カートフ殺害のことを指していたと考えられます。
第1級殺人は、計画的な殺人などについて用いられる用語です。
マリファナを用いたのか脅迫したのかは結局定かではありませんが、殺害する前にわざわざ偽証の動画を撮らせていたわけなので、計画性はかなり高い殺人だったと言えるでしょう。


ヴィック刑事が良心を捨て悪の道に踏み入ったのは、息子ロバートを守るためでした。
ただ、このロバートもどうやら困難を抱えていた様子が窺えます。
おそらく、ヴィック刑事は今回の事件だけではなく、これまでも苦労を重ねてきたのだと想像できます。

これも明言されていませんが、ロバートは何かしら障害を抱えていたのではないかと推察されます。
取り調べの際、ヴィック刑事がロバートについて「うちの子はよその子とは違うんです」と発言していたことが、その可能性を示唆します。

個人的には、発達障害の一つである自閉症スペクトラム障害であったのではないかな、と考えています。
軽度の知的障害や、あるいは何かしら他の精神障害の可能性も考えられますが、作中で語られるエピソードだけから推察すれば、発達障害の可能性が高そうです。

自閉症スペクトラム障害は、「心の理論」の障害、つまりは他者の立場に立って物事を考えることが苦手な発達障害です。
その他、こだわりの強さやコミュニケーションの苦手さなどが多く見られます。

本作の中で、ロバートに関する事件は二つ描かれていました。
どちらもヴィック刑事が語っていた内容なので、どこまで真実かはわかりませんが、ここではヴィック刑事の話した内容が全て真実であったと仮定します。

一つ目の事件は、2年前、「パパとママは警官」というチャリティー名で、ヴィック刑事の息子であることを言って近所の家を回り、偽の募金を募っていたというものです。
すぐにバレそうな嘘(しかも実際バレた)であり、2年前といえば14歳ぐらいのはずですが、やや幼稚な嘘であると言わざるを得ません

また、二つ目はもちろん今回の事件ですが、もともと好意を抱いていたマーゴットの配信をたまたま見つけ、別人を装って仲良くなりましたが、偽のエピソードに同情したマーゴットからお金が送られてきてしまったため、真実を打ち明けてお金を返すためにマーゴットを尾行。
しかし、急に話しかけられて驚いたマーゴット(しかもマリファナを吸っていた)とトラブルになり、意図せず渓谷に突き落としてしまいました。

他者になりすましていたところから始まる本件における一連の流れも、また稚拙でした。
さらに注目すべきは、「真実を打ち明けてお金を返そうとマーゴットを尾行した」点です。
夜中に人気の少ない場所で突然男性に話しかけられれば、いくら同級生であるとはいえ、マーゴットが恐怖心を感じることは容易に想像できます。
しかし、ロバートはその点が想像できなかったと考えられます
また、すべてを打ち明けようという妙な素直さや純粋さも、「裏の気持ち」が苦手な自閉症スペクトラム障害を持つ人に多く見られる傾向です。

そしてもう一つ推察の根拠となるのが、パムがパソコンに保存していた知り合いの連絡先です。
「サンウッド中学」フォルダの中に「ロバート:親が警官、マーゴットを好き」と書かれたファイルがありました。
だいぶ情報が細かく整理されており、パムの性格の細かさが窺えますが、それはさておいて、ここですでにロバートの情報が登場していました。

「マーゴットを好き」というのは、母親であるパムまでそれを認識するような出来事が何かあったはずです。
単純に告白されただけで、マーゴットがそれをパムに話したのかもしれませんが、ロバートが相手の気持ちを想像することが苦手だったと考えると、ストーカーまではいかなくとも、何かしら一方的なアプローチがあった可能性も推察されます。

ちなみに、こういった障害を取り上げる際には毎回念のために言っていますが、発達障害だから犯罪や問題を起こす可能性が高いということではありません
今回の事件も、ヴィック刑事の説明を信じれば意図的な行動ではなかった上、悪いのは偽装・隠蔽しようとしたヴィック刑事です。
募金に関しても、やはり「本当にそういう募金をしていました」と嘘を重ねてロバートを庇ったのは、間違っていたとしか言いようがありません。

ただ、パムのロバートに関するファイルには、字幕には出ていませんでしたが、「divorced Family」と記載されていました。
つまり、作中の様子からも想像がついていた人が多いかと思いますが、ヴィック刑事は離婚しており、シングルマザーでした
それが良い悪いという話ではなく、それがロバートの心理に影響を与えていた可能性もあれば、「何が何でも自分が息子を守らないといけない」というヴィック刑事の心理に繋がった可能性もあります。
ロバートが中学時代にはすでにヴィック刑事は離婚していましたが、離婚後にロバートが「パパとママは警官」というチャリティー名をつけたのだとすると、そこにロバートの複雑な心境を読み取ることも可能かもしれません。

色々な要因が絡み合っているのが現実であり、何かわかりやすい唯一の原因があるわけではないということがほとんどなのです。
それでも、「親が悪い」「発達障害が悪い」など、何かわかりやすい要因に原因を帰属させて安心したくなるのが人間です。
ネット社会ではそれが顕著であり、本作においてもそのような点がやや風刺的に描かれていましたが、それも踏まえると、本作の事件の要因も、簡単にわかったつもりになってはいけないのだろうと感じました。

追記

『search/#サーチ2』(2023/11/17)

続編『search/#サーチ2』の感想をアップしました。

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『search/サーチ』が好きな人におすすめの作品

『フロッグ』

あえて『RUN/ラン』ではなく。
粗さはありますが、『search/サーチ』に負けず劣らず伏線回収が見事な、個人的には大好きなサスペンススリラー作品です。


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