【映画】ジャッリカットゥ 牛の怒り(ネタバレ感想)

映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』のポスター
(C)2019 Jallikattu
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』のシーン
(C)2019 Jallikattu

南インド、ケーララ州のジャングルにある村。
冴えない肉屋の男アントニが1頭の水牛を屠ろうとすると、命の危機を察した牛は怒り狂って脱走する。
肉屋に群がっていた人々は慌てて追いすがるが全く手に負えず、暴れ牛は村の商店を破壊し、タピオカ畑を踏み荒らす。
恋心を寄せるソフィに愛想を尽かされたアントニは、牛を捕まえてソフィに見直してもらおうと奔走。
村中がパニックに陥る中、密売の罪で村を追放された荒くれ者クッタッチャンが呼び戻されるが、アントニとクッタッチャンはかつてソフィを巡っていがみあった仲だった。
牛追い騒動は、いつしか人間同士の醜い争いへと展開していく──。

2019年製作、インドの作品。
原題は『Jallikattu』。

「ジャッリカットゥ」というのは、タミル・ナードゥ州を中心とした南インドで行われている伝統的な牛追い競技のようです。
公式ホームページには、以下の説明が載っていました。

ジャッリカットゥは、牛を群衆の中に放ち逃げようとする牛の背中の大きなコブに参加者が両手で捕まり続けることを競う牛追い競技である。
参加者は、コブにしがみつき牛が逃げようとするのを力ずくで止める。
また、地域によっては牛に取り付き、角につけられた旗を奪う。
インドのタミル・ナードゥ州を中心に2000年を超える歴史を持つと言われ、毎年ポンガルという収穫祭の頃に行われる。
タミル・ナードゥ州ではプロリーグも存在している。

『ジャッリカットゥ 牛の怒り』公式ホームページ

ジャッリカットゥは当然ながら非常に危険な競技で、2008年から2017年の間では43人の人間が犠牲となっているそうです。
動物愛護の観点から、2014年に一旦インド政府により禁止されたが、2017年には100万人を超える民衆が参加する大きな抗議運動が起こり、タミル・ナードゥ州では改めて競技開催が認められることになったとのこと。
熱量がすごい。

群衆の中を逃げる牛を捕まえようとするという点で、本作のモチーフにもなったのでしょう。
本作にも狂気を感じましたが、そもそものジャッリカットゥの時点で狂気の沙汰でした


水牛が逃げ出したという、動物パニック映画のインドバージョン。
と、単純に思ってはいけません。
そこはさすがインド映画なのか何なのかわかりませんが、もう狂気と熱量がすごすぎました

ずるいよ。
こんなの面白くないわけないじゃん

水牛1頭が逃げ出しただけで、ジュラシック・パークから恐竜が逃げ出したよりも大騒ぎになる村。
「1人見たら100人いると思え」とばかりに湧き出てくる人、人、人。
なぜかみんなキレ気味で攻撃的なのは文化差かとも思いましたが、「口調が攻撃的に聞こえる」みたいな話ではなくて、実際にみんな言動は攻撃的でした。

中でも、とにかく人の多さが尋常ではありませんでした
主要な登場人物1人が出てくるたびに背後には100人ほどがおり、しかも全員インド人(当たり前)でキレ散らかしているので、もうどれが誰で、誰と誰がどんな関係で、誰が何をしていているのか、さっぱりわかりませんでした

しかし、それにもかかわらず楽しめてしまうんだからすごいです。
日本版ポスターの「暴走牛 VS 1000人の狂人!!」というのは、誇大広告ではありませんが、間違ってはいました。
水牛、何も悪くない
水牛を出しにした、ただの人間同士の欲望が渦巻く、狂人たちのバトルでした。
終盤のアントニとクッタッチャンのバトルは長すぎて、「これ何の映画だっけ?」状態に。
日本版副題の「牛の怒り」は完全にミスですが、「ジャッリカットゥ」だけでもどんな映画なのかまったく伝わらないので難しいところ。

主要な人物は、アントニとクッタッチャンだけと言っても過言ではない気がします。
前提としては、1人の女性ソフィを巡り、アントニがクッタッチャンを陥れて白檀泥棒に仕立てあげ、クッタッチャンが村を追放されてしまいました。
今回、アントニが事故で水牛を逃してしまい、表面上はそれを捕まえるための応援要請を受けつつ、アントニに復讐するためにクッタッチャンは戻ってきたのでした。

ストーリーも、それだけといえばそれだけ
途中、教会の白檀が切られてクッタッチャンの家に人々が押しかけたシーンなどは、回想シーンだったんですね。
回想シーンになったことも、髭面がクッタッチャンだったこともすらも、わかりづらかったです。


本作を観て一番感じたのは、「文明って大事だな……」でした。
別に原始的なコミュニティや途上国を馬鹿にするつもりはありませんし、科学至上主義でもありませんが、ひたすら無策で牛を追いかけ、わちゃわちゃして取り逃し、また無策で追いかけ、死者や怪我人が出て……という人々を見ていると、あまりの愚かさに涙を禁じ得ませんでした
途中で数人が使っていたスマートフォンに違和感や虚しさを感じたほど。

しかし、何の策もないのによくあれだけ怒涛の勢いで捜索ができますね
もはや感心の域。
誰一人、見つけたときにどうやって捕まえようとか考えていなかったのでしょうか。
どうやらみんな水牛を手に入れたいという思いに突き動かされていたようなので、欲望のままに動いていたということでしょうか。
計画性、大事。

冒頭と最後の黙示録は当然ながら本作の内容を示唆していましたが、途中で焚き火を囲いながら老人が喋っていた「あいつらを見ろ。2本足で歩いとるだろ。だが中身は獣と全く変わらん」というセリフが、本作を一番象徴していたように感じます。
欲望に目が眩み、本能に突き動かされるまま暴徒と化した人間は、もはや獣と何ら変わりありません。
その前では、宗教も警察も無力なのです。
暴徒と化していたのがほとんど男性だけだったのも印象的でした。

ラストシーンの人間の山はインパクト抜群でしたが、『ウォーキング・デッド』のゾンビばりに暴徒が集まり山となり、『グリーン・インフェルノ』ばりに顔を撫で回される(?)アントニたちの姿は、もはやカオスを超越した地獄絵図
本作における「そうはならんやろ!」の総決算とばかりにどんどん積み重なっていく人間たちのは、何とも言えない余韻と人間という存在の愚かさ、そして虚しさを残してくれました。


そんなはちゃめちゃな本作ですが、映像や雄大な景色が非常に美しいのと、音楽や効果音が独特だった点がとても印象に残りました

映像に関しては、景色だけでも綺麗ですが、夜の闇と、懐中電灯や松明の光のコントラストがとても美しかったです。
あまりに多すぎる懐中電灯の灯りには笑ってしまいましたが。
森の中、草木にぶつかりまくる勢いで松明を掲げていましたが、あれ、大丈夫なんですかね。
山火事になりそうで心配でしたが、大雨のあとだったから大丈夫だったのかな。

何でこんなことになっているのかはあまりにも謎でしたが、パニックや暴徒の描き方や臨場感も抜群でした
リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督のインパクトによれば、『ジョーズ』や、それこそ上述した『ジュラシック・パーク』の影響を受けたらしく、牛のリアリティもしっかりしていました。
しかし、水牛はとにかくかわいそうでしかなく、むしろ可愛く見えるほどで、本作における癒し枠でした。

音楽と効果音は独特すぎましたが、あれがインド映画の標準的な感じなんですね。
インド映画は昔、突然陽気に踊り出す系を1本観た記憶があるだけ(内容は覚えていない)なので、わかりません。
冒頭の、時計の針の音(?)に合わせて、寝ている人、目を開いている人、を交互に映すシーンは、謎に頭がおかしくなりそうでした。

そして何より、「たっ、たらったったったった♪いーあーうーあークッタッチャン♪」ですよ。
推しすぎですよ。
たっ、たらったったったった♪じゃないんですよ。
いつまでも終わらない大合唱に、ついには笑ってしまいました。
『アメリカン・バーガー』並みに敗北感。

暴走した水牛よりも恐ろしいのは人間という、いわゆる「ヒトコワ系」ではありましたが、普通のヒトコワ系では括りきれないインパクトとオリジナリティ、そして勢いと熱量が凄まじい作品でした
これだけ溢れんばかりの野性のエネルギーがあるとなると、ジャッリカットゥが求められる必要性もわかる気がします。
こういう凝り固まった常識の枠を突き破ってくる作品、大好き。

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