作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
カメラマンのタンは恋人のジェーンとともに、大学時代の友人の結婚式に主席する。
その帰りに突然道に飛び出して来た女性を車ではねてしまう。
その場から逃げ出してしまった2人の周囲で、その後次々と奇妙な事件が起こり始める──。
2004年製作、タイの作品。
原題は『Shutter』。
『女神の継承』のバンジョン・ピサンタナクーン監督(声に出して読みたくなる名前)のデビュー作。
ずっと観たかった『女神の継承』をようやく観ようと思い、先にこちらを鑑賞しました。
タイの映画、もしかしたら初めてだったかも……?
評価も高めなので期待していましたが、評判に違わぬ面白さでした。
Jホラーっぽい演出も目立ち、時代的にも監督がJホラーも好きだったり影響を受けていたりするのかもしれませんが、そもそものタイの幽霊や宗教的な価値観は日本と似ているんだろうな、と感じました。
何よりこれを23歳のときに撮ったというのがすごい。
タイの地方の雰囲気も絶妙に不気味でしたし、葬儀や火葬などの雰囲気もまた良かったです。
しかし個人的に一番怖かったのは、まさかの本編開始前の「GMM PICTURES」のロゴ映像でした。
絵画に見えた大勢の人物が動き始めて演奏するやつです(覚えていない人も多いかもしれませんが)。
ホラー演出は良くも悪くも非常にベーシックで、来るぞ来るぞ……と不気味で不穏な恐怖を煽りつつ、ジャンプスケアでトドメ。
その繰り返しではありますが、カメラや写真というキーアイテムを中心に色々な見せ方をしてくれるので、飽きません。
白石晃士監督『カルト』の感想でも書きましたが、心霊写真や心霊映像の怖さというのはもはや今のデジタル時代では絶滅危惧種なので、この時代ならではの魅力があります。
ただ、そこそこ古い作品だからか、通常シーンとジャンプスケアの音量の差が激しかったので、音量調整に苦慮しました。
途中のトイレのシーンは明らかにギャグシーンで、その緩急のつけ方も見事でした。
あの隣の女性(?女装男性?)、謎すぎて一番ホラーかも。
日本だったら「赤い紙が欲しいか?青い紙が欲しいか?」と聞かれるシーンだなぁと思って見ていましたが、予想の斜め上すぎました。
徐々に真相が明かされていくミステリィ要素も飽きさせない要因となってしましたが、明かされた真相は何とも救いがなく悲しいもの。
そりゃあ恨みが残って浮かばれなくても当然ですね。
しかしとにかく、主人公のタンがクズすぎました。
良いのはちょっとワイルドでかっこいい見た目だけ。
周りに流され大切な人を守れず。
一度の過ちはまだしも、過去の過ちを後悔しているとか言っておきながら、ためらいなく轢き逃げを促してしまうようなところは、人間性に問題ありとしか言いようがありません。
先生!こいつきっとまたやりますよ!
とはいえ、タン以上にクズだったのが周りの3人でしたね。
たぶん、1人では何もできないけれど、複数人だったりお酒が入ると気が強くなっちゃうタイプでしょう。
ジェーンは基本的に巻き込まれただけでかわいそうでした。
轢き逃げをしてしまったのは問題ありですが、あのシーン、なかなかにリアルで、夜道で誰も見ていない状況、かつ同乗者から逃げようと言われたら、現実逃避してしまいたくなる気持ちもわからなくもありません。
特に現代日本なら無理でしょうが、2004年当時のタイのあんな田舎道であれば防犯カメラなどもなさそうですし。
そもそも飲酒運転だったのでは?と思いましたが、改めて観直してみるとジェーンが飲んでいたのはコーラか何かのソフトドリンクにも見えました。
その後のジェーンの性格から考えると、飲酒運転はしなさそう。
ですが、車のフロントライトがボッコボコに壊れたままの状態で事故現場を訪れていたのはちょっと笑ってしまいました。
絶対バレちゃう。
作業員が鈍感で良かったですね。
そしてとにかくかわいそうだったのは、霊となったネートでした。
ちょっとストーカー気質で、自殺を仄めかして繋ぎ止めようとするヤンデレでしたが、そんなヤンデレがダメな男に引っかかってしまった悲劇。
幽霊メイクも日本のホラーっぽさがあり、やり過ぎるとギャグっぽくなってしまいますが、メイクも映り込み方も、良いバランスだったと思います。
『禁じられた遊び』の変態ファースト・サマーウイカよりよほど良かったです。
はしごを這いつくばって降りてくるところとか、好き。
遺体がミイラ化するのが早すぎませんか?というのはご愛嬌ですが、あれは死体遺棄にはならないんですかね(タイに死体遺棄罪があるのかはわかりませんが)。
OD(オーバードーズ)して運ばれた先の病院から飛び降りたのがネートの死因だったようですが、その遺体を持ち帰った、ということなのでしょうか。
まぁまぁ、そのあたりはあまり細かく検討すべき点ではないでしょう。
ただ、考察するほど情報がないというか、おそらく統一されていないのだとは思いますが、ネートの目的はいまいちはっきりしませんでした。
タン以外の3人は、ネートが殺したと見て間違いありません。
おそらく直接操ったりしたわけではなく、精神的に追い詰めて自殺に追い込んだのだろうと考えられます。
トン(タンとトンがいてややこしい)の部屋の鏡が割られていましたが、おそらく割ったのはトン自身で、ネートの霊が映り込んだりしたのでしょう。
トンがタンに「あの写真を渡してくれ」と言っていたのは、過去に口止めのために撮った写真のことだと思われますが、「これをばら撒かれたくなかったら許してくれ」と霊を脅すつもりだったのですかね。
3人に対しては愛情はなく恨みしかないので、殺すことが目的であったと理解できますが、ネートがタンをどうしたかったのかが微妙にわかりません。
そもそも霊に合理的な理由を求める方が間違っているのかもしれず、色々な感情が混ざっていたとは思いますが、怖がらせたかったのか、殺したかったのか、近くにいたかったのか、ジェーンと別れさせたかったのか。
わざわざ車に轢かれてみたり、今になって動き出した理由もわかりませんが、あくまでもホラー演出として捉えるのが良さそうです。
しかし、ベッタベタにホラーの基本に忠実な方法で、丁寧に伏線も仕掛けながらタンを追い込んで行ったネートですが、ラストに度肝を抜いてくれました。
タンの首の伏線は、誰でもわかるじゃないですか。
ネートがおぶさっているんだろうなぁって。
肩車だったーーー!!!
いやもう斬新。
さすがに肩車は斬新。
そりゃ首もやられますよ。
タンは2回の転落にもかかわらず、しぶとく生き延びていました。
正気を失い、おそらくジェーンのことも認識できなくなったタンと、ネートはずっと一緒にいられるでしょう(肩車で)。
そう考えると、ネートにとっては一番ハッピーな結末を迎えたのかもしれません。
死してなお、あんな男にこだわり続けていいのか?とは思いますが。
エンドロールで流れていた歌謡っぽい曲も、日本の感覚的には何だか不思議でした。
こういう文化の違いが感じられるのも、面白くて好きです。
そしてラストの「映画に登場した心霊写真を提供してくださった方々に感謝いたします」という文言で、本当に作り方や演出が巧みだなぁと感心したのでした。
本作は『シャッター』という原題通りのタイトルでハリウッドリメイクされていますが、監督はまさかの日本の落合正幸監督で、評価はいまいちのようなので、観ようかどうかは迷いどころ。
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