作品の概要と感想(ネタバレあり)
ベトナム・ハノイを舞台に人間狩りにいそしむ医者とその生き残りたちが、互いに喰い合う。
2016年製作、ベトナムの作品。
原題も『Kfc』。
以前からSNSなどで話題にはなっていましたが、満を持して、そしてまさかの日本上陸。
それはもう、インモラルやタブーの詰め合わせチキンセットでした。
しかし、人肉ヒャッハー!な狂った世界観を想像していたのですが、思ったより群像劇が中心で、終始鬱々とした雰囲気が漂っていました。
その点、方向性はまったく違えど『ザ・シェフ 悪魔のレシピ』との類似も感じられました。
カニバリズムを扱ったリベンジホラー、という点も共通しています。
しかしまぁ、よく本作が製作されたな、の一言に尽きるでしょう。
レ・ビン・ザン監督が映画学校の卒業制作として企画していたところ、脚本を読んだ大学側から却下され、しかも退学になったという、その逸話だけでも箔がついているような作品です。
しかもその後、ザン監督は諦めずにプロデューサーを探して長編映画化し、賞まで受賞しているとのことなので、素晴らしい信念というか執念というか。
ただ、思ったよりカニバリズム要素は少なめでした。
ゴア描写も、想像していたよりはマイルド。
しっかりと人体破壊されており、ぐちゃっとした音の不快感は強烈でしたが、殺し方は比較的スタンダードなので、斬新な衝撃を受けるほどではありませんでした。
とはいえもちろん、普通の感覚ではグロすぎるでしょうし、おいそれとおすすめできない作品であるのは間違いないのですが、それはグロさというよりも、インモラル詰め合わせな点が大きいように感じました。
めっちゃグロいのを想像していたのですがそこまでではなく、グロ耐性がある身としては、一番に浮かんだ感想は、
治安悪すぎませんか?
でした。
あくまでもフィクション、現実とは関係ないですよ、何回も言いますけれど現実の過去とも現在とも未来とも関係がないですよ、としつこく念押しして始まった本作なので、どこまでベトナムのリアルが反映されているのかはわからないのですが、あまりに治安悪すぎて心配になります。
もはやドラマ『ウォーキング・デッド』ばりの、終末感漂う無秩序さを感じてしまいました。
カニバリズムは少なめとはいえ、太っちょ少年が手を食べるシーンと、義眼男性が舌を食べるシーンはインパクトがあり、非常に気持ち悪くて良かったです。
でも、リアルさは度外視でしょうが、あの食べ方はすぐ病気になりそう。
その他、殺人、強姦・死姦、拷問、死体損壊と、挑戦的なほどにダークな要素が詰め合わせられていた点は、期待していた方向とは違いましたが、問題作を作ってやろうというような意気込みが感じられて、好きです。
一方、本作の大きな難点は、群像劇が中心の割に、とにかく人間関係が、いや、それどころかどれが誰でどんな関係で、どんな理由で何をしているのかがとにかくわかりづらかった点でした。
台詞が極端に少ない点がさらに拍車をかけていましたが、意図して台詞が少なくされていたであろうことは間違いないので、アート映画っぽい映し方なども含めて、あえてのこだわりの部分でもあったのでしょう。
時間軸が入り乱れていたのはわかりましたが、どれが誰で、何をしていたのかは最後までしっかり把握できず。
また配信などされて観直す機会があれば加筆したいと思いますが、配信されたとして、また観るか、しっかしりと把握したいか、と問われると正直微妙なところ。
一応の認識としては、とにかくあの太っ……ふくよかな男性医師が元凶であり、マッドだったわけですよね。
カニバリズムとネクロフィリアを持ち合わせたような変態医師と、義眼の男性はその手下のような存在でしょうか。
そもそも救急車であんな蛮行に及べる意味がわかりませんが、公式サイトの紹介でも当たり前のように「ベトナム・ハノイを舞台に救急車で人間狩りにいそしむ医師」と紹介されているので、深く考えずに「そういう人なんだ」と受け入れましょう。
ついでに公式サイトから引用すれば「人肉中毒のその息子」と表現されていたのが、ふくよかな少年(上で太っちょと書いてしまいましたが)。
そして彼の成長した姿が、冒頭でコカ・コーラとペプシを混ぜていたふくよかな男性でした。
いや、彼は表現に気を遣わなくて良いでしょう、太っていました。
少年時代の彼と出会ったのが、母親が売春をしていた兄と妹。
変態医師が母親を買春していたはずなので、世間は狭いものです。
そして、少年の家の秘密の部屋で焼け死んだのが、この変態医師と兄妹の母親でしょう。
ちなみに、太っちょ少年と兄妹は、子どもの頃と成長後の顔や雰囲気がだいぶ似ていたので、絶妙な配役だなと思いました。
KFCの店員女性をバイクで迎えに来た男性が、ヘッドホンの男性です。
女性は結局、救急車内で死亡。
ヘッドホン男性は助かったようですが、その復讐劇が本作の中心だったはず。
元凶となる変態医師は焼死していましたが、義眼男性は残っていましたし、息子たちのことも許せなかったのでしょうか。
結局、ホルマリン漬けにされていた2つの頭部は、誰と誰だったのでしょうか。
妹と太っちょ息子が泣いていた点からすると、焼死した変態医師と兄妹の母親だったのかな。
火事になった際、ヘッドホン男性はあの場で目覚めたはずなので、即座に状況を把握して2人の遺体を回収するなり首を切断なりしたということになります。
あとは、妹が兄を殺したのもいまいちわかりませんでしたが、「ママを助けなかった」から、ですかね。
まぁあまり細かく考えるべきではないでしょうが、全体的に、ヘッドホン男性が暗躍していたのは間違いないでしょう。
ラストで義眼男性の家のインターフォンが鳴ったのも、ついにヘッドホン男性が最後の復讐を果たしにきたのか、あるいはKfcのデリバリーか。
後者の場合、義眼男性一家が頼んだ様子ではなかったので、いずれにしても何かしらヘッドホン男性の策略のはず。
でも、わざとぶつけられたならしょうがないですけど、ヘッドホンしながらバイク乗ってたのも悪いよ。
というのがとりあえずの大雑把な把握なのですが、もし何か間違っていそうだったらご指摘いただけるとありがたいです。
しかしとにかく、カーネルおじさんっぽいキャラのイラストもバリバリ映っていましたし、いつ本家KFCから訴えられてもおかしくありませんね(その予防が冒頭の執拗なメッセージだったにせよ)。
とはいえ、フライドチキンのようにフライド人肉を喰らう作品でもなく、フライドチキンはフライドチキンで普通に美味しそうでしたし、KFCの人間が悪事を働いたりしていたわけではありませんでした。
それでも、グロ・ゴアが苦手な人が本作を見てしまったら、今後しばらくはKFCを食べる際に思い出してしまうでしょうし、影響がないわけはないでしょう。
あと、ドラえもんが出てきたのもびっくりでした。
『女神の継承』、『フォービア/4つの恐怖』といったタイのホラー映画にもドラえもんは出てきていましたし、アジア人気、すごいんですね。
しかし、本作にも登場したのがドラえもんにとって本望なのかどうかは微妙なところ。
KFCとドラえもんからは、風評被害で怒られても文句は言えなさそうな作品でした。
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