作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
溺愛する娘ライリーのために、彼女が今夢中の世界的アーティスト、レディ・レイブンが出演するアリーナライブのプラチナチケットを手に入れたクーパー。
遂にライブが幕を開け、3 万人の観客が熱狂に包まれる中、彼は異変に気付く。
異常な数の監視カメラ、会場内外に続々と集結する警察。
口の軽いスタッフから「ここだけの秘密」を聞き出すクーパー。
指名手配中の切り裂き魔についてタレコミがあり、警察がライブというトラップを仕組んだという。
だが、その世間を騒がす残虐な殺人鬼こそ、優しい父親にしか見えないクーパーだった──。
2024年製作、アメリカの作品。
原題も『Trap』。
『ノック 終末の来訪者』以来のM・ナイト・シャマラン監督作品。
娘のイシャナ・ナイト・シャマランの初監督作品『ザ・ウォッチャーズ』もあったりしたので、それほど久々感はありません。
凶悪な殺人犯を追い詰めるべく警察が巨大なライブ会場に罠を仕掛けるという、もう設定だけで面白すぎる作品。
その期待に違わず、終始スリリングな脱出劇が繰り広げられるザ・エンタメ作品でとても楽しめました。
どうしたシャマラン。
すごいぞシャマラン。
わかりやすいぞシャマラン。
これはわかりやすいシャマラン。
略してわかラン。
わかりやすいのに、わかラン。
こいつはいきなり何を言っているのかとお思いのことでしょう。
「最後までわかりやすい」というのがもはやどんでん返しなのではと思えるほど、シャマラン監督作品にしては非常に素直な作りでした。
勝手に抱いている「いわゆるシャマランらしさ」は少なめでしたが、そもそもの設定がシンプルに見えつつもなかなかに突飛ですし、登場人物には癖もあり、展開は何だかんだ先が読めずと、個性もしっかりと光る作品。
物足りなさを感じてしまう部分もあるというか、さっぱりしているのでちょっと記憶には残りづらいかもしれませんが、間口の広い作品に仕上がっているのではないかと思います。
世界的歌手レディ・ガg……じゃなくてレディ・レイブンを演じたのは、M・ナイト・シャマランの娘であるサレカ・シャマラン。
サレカが長女で、『ザ・ウォッチャーズ』で監督デビューしたのイシャナが次女。
そんなサレカの推しっぷりが、とにかくすごい。
3分の1ぐらいはサレカのプロモーションだったのではないかと思うぐらい、ライブシーンが繰り広げられます。
親バカっぷりが極まっており、ここまで堂々とやられるともはや清々しいほどでした。
しかしそれで評価が大きく下がらないのは、楽曲がしっかりしていた点と、ライブの臨場感が作品とうまくマッチしていた点が大きいでしょう。
楽曲はいずれもサレカ自身が作っており、サントラとしてレディ・レイブン名義でのアルバムも配信されています。
まだ聴いてはいませんが、どの曲も良い感じで映画内でも馴染んでいました。
もともとシンガーソングライターとして活動しており、M・ナイト・シャマラン監督『オールド』でも楽曲提供しているようです。
ポッと出で起用したわけではなく、実際に積み重ねがあった上での実力が感じられました。
とはいえさすがにまだまだ父の威光が大きいとは思うので、今後が勝負でしょう。
ただ、「無理に起用したので作品から浮いてしまっていた」とはなっていなかったのはとても大きいと思います。
しっかりと作品として仕上がっていたからこそ親バカ感が微笑ましくもなりますし、シャマラン監督のインタビューによれば、以前からサレカと「ライブとスリラーを融合できないか」と映画と音楽を融合させたプロジェクトを話し合っていたようなので、それを見事に実現したのが本作と言えるでしょう。
そう、単純にライブ会場を舞台とした映画というだけではなく、ライブと映画それぞれの魅力が融合していました。
ライブは実際に観衆を集めて撮影したようなので、当然ながら本物の臨場感があり、音響も含めて映画館で観られて良かったです。
しかしまぁ、あれだけの箱に人を集めて実際にライブを行うとは、なかなかにすごい。
会話のシーンで話している人の顔がアップになるのは、『ノック 終末の来訪者』で印象的でした。
単純にハマっているのかもしれませんが、臨場感が出るので確かに本作にも合っていたように思います。
内容は、とにかくジョシュ・ハートネット演じる連続殺人鬼ブッチャーことクーパーがひたすら何とか逃げようとするお話。
追い詰められた殺人鬼視点というのも、閉鎖空間から脱出しないといけないというのも面白い。
どう考えても捕まった方が良い存在でしかないのに、序盤は殺人鬼としてのシーンをほとんど映さないことで良いパパのイメージのまま進行していき、観ている側もクーパーに同一化してまるで娘のために最善を尽くす父親の奮闘劇のように見えてきて、脱出できるかどうかドキドキさせる進め方が巧みでした。
突っ込みどころは満載どころか突っ込みどころしかないにもかかわず、緊張感を孕みながら進行していくのは、脚本の巧さもあるでしょうが、ジョシュ・ハートネットの演技力が非常に大きかったと思います。
にわか映画ファンなのでジョシュ・ハートネットの出演作を観るのはたぶん初めてだったのですが、表情だけの演技も多い中、しっかりと引き込まれました。
展開も都合が良すぎるパターンだらけですが、次々トラブルが生じてテンポが良いのでそれほど気になりません。
リアリティにこだわり過ぎず、しっかりと楽しませようという想いが伝わってきます。
特に終盤、ライブ会場から抜け出してもなかなか終わらないのが面白い。
もう顔は割れているのでどう動いたとしても詰んでいるはずなのに、どうなるんだろうというドキドキ感が維持され、サスペンススリラーとして秀逸。
ついに終わ……らないんかーい!
ついに終わ……らないんかーい!
の繰り返しで、どんでん返しこそありませんでしたが最後まで飽きることなくテンポが良かったです。
騙し、騙され、振り、振られ。
その分キャッチーで軽めであり、シャマラン監督作品としてはあまり印象に残らない方かもしれませんが、すでに幅広く多数の作品もあるので、これはこれで逆に新鮮味があって好き。
ある意味親バカ映画として開き直ってもいたのか、監督自身のカメオ出演もいつも以上にあからさまで、わざわざ探すまでもなく顔さえ知っていれば速攻わかりますし、見逃す心配もないほど長時間登場してくれていました。
クーパーはもちろん、レディ・レイブンの臨機応変さも尋常ではなく、正体がバレてからの攻防も面白かったです。
ただクーパーは、アドリブ力は高いですが計画性は乏しそうですね。
ライブの日程なんてだいぶ前から決まっていたでしょうに、その日ぐらい監禁するのはやめておけば良かったのに。
トイレでチェックしてしまう脇の甘さなんかもお茶目ですが、それだけ犯行が日常的なものになっていた、ということかもしれません。
突っ込みどころは突っ込み始めたらキリがありませんし、野暮なのでやめておきますが、ブッチャーとしてのクーパーの掘り下げが浅いというか雑な点は少し残念でした。
二面性というのがメインでしたが、母親が原因といったような古典的かつ単純な描かれ方で、心理学的に見ると少々不満も。
性的欲求に基づく快楽殺人ではないと思われますが、支配欲が原動でしょうか。
母親に支配されていた → 支配する側に回ったという背景なのかなと思いますが、あまりにも雑ではあります。
表に見える設定自体が雑なのは良いのですが、母親のフリをして呼びかけると『13日の金曜日』のジェイソンばりに動揺するという演出が終盤の重要なポイントになっていたので、さすがに引っかかってしまいました。
ただ、レディ・レイブンが母親のフリをして呼びかけたときには「そんなの効果あるわけないだろ」みたいな反応だったので、あえての演出だったのかな。
シャマラン監督の奥さんは心理学者のようなので、だから『シックス・センス』でも心理学に関する描写が巧妙だったのかなと勝手に想像しているのですが、まったく適当なシリアルキラーイメージや古典的な偏見でパーカー像を作り上げたわけではないだろう、とは思います。
ただ、OCD(強迫性障害)と言っていたのは、作中のクーパーを見る限りまったく当てはまらなさそうでした。
職人気質なプロファイリングおばあちゃんも、今どきちょっと。
と、専門上どうしてもそのあたりは引っかかってしまうのですが、あくまでもそのあたりは最低限のおまけ設定。
一方では良きパパ、一方では凶悪シリアルキラーな二面性を持つパーカーが窮地をどう乗り切るかというスリルを楽しむエンタメサスペンススリラーとして、深く考えすぎずに楽しむのが一番かなと思うので、シリアルキラーとしてのクーパーの考察は控えましょう。
実際、クーパーの背景を細かく描いていたら、それはそれで冗長になってしまっていただろうと思います。
楽曲の歌詞がクーパーとリンクしているらしいので、それを検討すればもう少し明らかになるのかもしれませんし、そうだとしたらそれも映画 × ライブの融合を活かした演出として素晴らしいです。
突っ込みに近くなってしまうかもですが、そもそも「ライブ会場に来るだろうからそこで捕まえよう!」という発想が面白いですよね。
隠すことなく警察や特殊部隊が包囲して、ちょっと怪しい人を見つけては連れ出してチェックしてと、犯人をこれ以上ないほど警戒させたり追い詰めることは間違いなく、「犯人は冷静に切り抜けようとするはず」というプロファイラーおばあちゃんの言葉だけを頼りに、他の観客の安全、まるで無視。
でもそんな設定ながらも謎の説得力を持たせながら突っ走るところがさすがです。
妻のレイチェルがレシートを警察に見つけさせたのが罠のきっかけでしたが、ライブチケットそのものじゃなくレシートのレベルで、ライブの日付とかまでわかるものかな。
何のライブかとかもレシートには書かれないような……。
そもそもレシートがあるなら誰がどこで購入したのかも辿れるような……。
はっ、これ以上はいけない。
お口の軽い売店のジェイミー、最後まで楽しませてくれました。
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