【映画】ナイトスイム(ネタバレ感想・心理学的考察)

【映画】ナイトスイム(ネタバレ感想・心理学的考察)
(C)Universal Studios. All Rights Reserved.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

【映画】ナイトスイム(ネタバレ感想・心理学的考察)
(C)Universal Studios. All Rights Reserved.

難病で引退を余儀なくされた元一流メジャーリーガーのレイ。
現役復帰を夢見る彼は、理学療法を兼ねてプライベートプールを備えた郊外の家を購入する。
だが、長年使われていなかったプールに潜む謎が、一家を逃れられない恐怖の底へと引きずり込んでいく──。

2024年製作、アメリカの作品。
原題も『Night Swim』。

プール付きの家を購入したら、プールが呪われてた!
という比較的シンプルな設定で、4人家族を中心に描かれた本作。

うーん。

うーん……!

と思わず唸ってしまうのが、正直な感想です。
発想や雰囲気は良いのですが、お父さんがひたすら空回る展開には少々退屈してしまいました。
このあたりは相性なので仕方ありません。


良かった点は、夜のプールの雰囲気や映像の美しさです。
夜のプールというだけで、幻想的な雰囲気とどこか不気味な空気感が混ざり合っていました

プールが出てくるホラーで考えると『アクアスラッシュ』や『ファイナル・デッドサーキット』あたりがパッと浮かびましたが、前者は派手めなスプラッタですし、後者はプールが出てくるのはワンシーンだけ。
タイの作品である『THE POOL ザ・プール』もありますが、こちらはホラーというよりワニワニパニックなスリラー。
自分の知識が乏しいだけで他にも色々あるでしょうが、いずれにしても公共のプールが舞台のことが多く、個人宅のプールというのは珍しい気がします。

そんな個人宅のプール、それも夜のプールという舞台を活かして、あえて雰囲気で勝負している感が伝わってきたのは、退屈の要因にもなってしまっていましたが好印象でもありました
具体的には、本編が始まってからラストシーンまで誰も死なない点です(猫のサイダーは犠牲になってしまいましたが)。
けっこうベーシックで地味めなホラー作品に見えて、この誰も死なないという点は本作のようなオカルト要素のあるホラーとしてはなかなか攻めているのはないでしょうか。

上述したような、そもそも夜のプールというだけで不気味さのある点を最大限活かしていたように思います
誰もいないはずなのに、息継ぎの瞬間や水面下から人影が見える、コインが落ちてくる、何かに触れる……など。
夜のプールそのものの怖さが増すような演出は、本作ならではと感じました。


そのような静かでじわじわした演出が本作の特徴である一方、それが個人的にはテンポが遅く退屈に感じる要因にもなってしまっていました。
家族模様も描かれますが、それほど深みがあるわけでもなく、終始「パパ……」としか言いようのないもどかしさ。
むしろ家のプールの方が深かったのでは。
とまで言うと言い過ぎかもしれませんが、いやそれにしてもめっちゃ深いプールでしたよね。
無限の深さになったオカルトモードの話ではなく、普段から。

悪霊?の造形も何とも言えないというか、急に安っぽい感じが否めず、群がる姿はまるでディズニーランドのホーンテッドマンションのようで、どこかコミカルにすら感じてしまいました。
レベッカのお母さんの方が怖かった
『学校の怪談』のろくろ首でしか存じませんが、岸田今日子さんを連想しました。

一番「うわぁ」となったシーンも、ホラー部分ではなくて娘のイジーが転んで手にガラスの破片が刺さったシーンだったので、全体的にホラー演出が個人的にはいまいち。
ただ、がっつり怖いホラーというよりは、雰囲気重視かつ間口の広いライトめのホラーを意識したのだろうとも思います。


本作は、同じタイトルの『NIGHT SWIM』という2014年のショートフィルムがベースとなっています。
本作のブライス・マクガイア監督が友人のロッド・ブラックハーストと共同制作したもので、今でもYouTubeで観られます。
3分ほどの短い作品で、字幕はないですが映像だけでほぼ理解できるでしょう。

観ていただけばわかると思いますが、実にコンパクトにまとまっています
水中から人影が見えるような演出はこの時点で見られますし、猫もお好きなんですかね(長編では犠牲になってしまいましたが……)。
悪霊?はジャパニーズホラーっぽさがありますし、照明の使い方も見事。

この作品にジェームズ・ワンが目をつけ、長編化となったようです。
ただ、『ラリー スマホの中に棲むモノ/カムプレイ』でも思いましたが、短編を長編化するとどうしても冗長になってしまうな、という印象も否めません。

『ナイトスイム』は、ジェームズ・ワンとジェイソン・ブラムという、もはや定番であり現在のホラー映画界を牽引している最強タッグといって差し支えないと思いますが、2人がプロデュースしているという部分が日本版のプロモーションでは強調されすぎているようにも感じます
「この2人の名前があるから期待したのに物足りなかった」という感想もちらほら見かけ、気持ちはわかりますが、実際はそれほどこの2人は口を出していないのではないかなと勝手ながら思っています。

上述した通り、もともとベースとなるショートフィルムからスタートしているので、ブライス・マクガイア監督の世界観を尊重したというのも大きいと思います。
また、本作関連のインタビューでジェームズ・ワンは「僕にとって重要なのは、次世代の製作者を発掘することだ。才能はあるけど発揮する場所がないような」と述べており、若手の発掘にも力を入れている様子が窺えます。

なので、「ジェームズ・ワンとジェイソン・ブラムの作品」ではなく、本作はあくまでもブライス・マクガイア監督の作品
新しい才能を強力タッグが後押しした作品として捉え、さらなる今後に期待です。

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考察:レイが自分を取り戻そうとする物語(ネタバレあり)

【映画】ナイトスイム(ネタバレ感想・心理学的考察)
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レイの望んでいたこと

本作は、レイ視点での家族再生の物語と言えます。

元メジャーリーガーのレイは、病気により不本意な引退を余儀なくされました。
かなり実力があり活躍していたようなので、その喪失感は計り知れないものでしょう。

一方、夫や父親としてのレイは、だいぶ不器用に見えました
引き寄せられたのもあると思いますがプール付きの家購入を強引に押し進めたり、息子のエリオットに関する妻イヴの悩みをしっかりと受け止めなかったり。

とはいえ、彼なりに家族を大事に想っていたことは、最後のビデオ映像からも窺えました。
ただ、野球一筋で生きてきたためか、適切な関わり方がわからなかったのでしょう。

レイにとっての自己像や自信は、野球選手としてのものがほぼすべてでした
家族に対しても、野球で活躍することでしか自分の価値の見せ方がわからなかったのだろうと思います。
「娘の誕生の瞬間に力が湧いてきてホームランを打った」というレイと、「出産のとき、ひどい孤独を感じたけれど、イジーが生まれた瞬間に孤独ではなくなった」というイヴの認識のすれ違いが、まさしくこの家族を象徴していました
有名な野球選手という点で珍しく見えてしまいますが、結局は仕事ばかりで家族とうまく関われていないお父さん、という古典的なイメージが重なります。

エリオットの前で、わざわざバーベルを持ち上げていたのも印象的です。
野球をやれば友達ができると考えたり、わざわざ見学兼指導に行って自分が打つところまで見せつけたり。
強い男性像、偉大な野球選手像が、レイにとっての自慢の父親像だったのでしょう。
しかし、エリオットが求めていたのは力強い父親の姿ではなく、一緒にプールでコイン遊びをしてくれる父親でした。


そんなレイが野球を失ったのは、自分の価値の喪失とほぼ同義です
ここで、レイには大きく2つの選択肢がありました。
1つは、治療やリハビリによって再び野球選手としての自分を取り戻すこと。
もう1つは、野球を諦め、新たな人生を歩んで家族と向き合うことでした。

当然ながら、2つ目の選択肢は、大きな喪失による苦痛が伴います。
他人事で考えれば2つ目の選択肢も大いにありだと思うかもしれませんが、本人としてはすぐには諦めきれずに1の選択肢を選びがちでしょう。

実際、レイは野球選手としての復活を望みました。
最初に家を見学に行った際、レイはプールに落ちましたが、あのときに見ていたのは、奇跡の復活を遂げて再び野球選手として活躍する自分の姿でした。
あれこそがレイの無意識が最も望んでいたことで、あの瞬間からプールの呪いにかかり始めた(という表現で良いのかわかりませんが)のでしょう

家族に自慢できる自己像を取り戻すために家族を犠牲にするというのは矛盾していますが、彼にとってはそれだけ諦めきれず、それしか自己表現の手段がなかったのだろうと考えられます。
家族を生贄に捧げなければならないという契約条件はもちろん知らなかったと思いますが、そもそも、今までと変わらない形で野球選手としての自分を追い求めるのは家族を犠牲にし続けるのと同じことなので、メタファー的でもありました。

レイが特大ホームランを打った際に壊れた野球ボールはやや意味深です。
レイにとってはボールも野球を象徴する大切なアイテムであったと思われますが、それが壊れたというのは、願いが叶っても完全に今まで通りに戻れるわけではないことを示唆しているように感じられました。

ただ、レイはもちろん、家族を犠牲にすることを望んでいたわけではありません。
最終的に、悪霊?に打ち勝ち、エリオットを守るためにレイが自ら犠牲となったことで、家族の絆は深まりました。
最後の最後で、不器用な彼なりに最大限の愛情を示したとも言えるでしょう
エリオットを助けにプールに飛び込んだイヴはもちろんですが、頭は避けつつ、父親をバットで殴りまくったイジーもだいぶ頑張っていました。

生贄の基準は?

あえて生贄と呼びますが、生贄の基準は特になかったのではないかと思います
あのプールの場所に以前あったらしい悪魔的な取引で願いを叶えてくれる泉は、命を求めていました。
誰の命、何の命、というのはさほど重要でなかったのではないかと思っています。

実際、猫のサイダーが犠牲になってしまったときも、けっこうな効力が発揮されていました。
手の傷が治り、病気も奇跡的な回復を遂げたのは、サイダーの犠牲によるものだろうと考えられます。
そう考えると、誰の命でもとは言いつつも、願いを叶える本人にとって大事な存在の命であるほど効果は大きいのかもしれません
終盤では「水は彼(エリオット)を選んだ」とレイが言っていたので、どこかのタイミングでは生贄にすべき対象が決まるのでしょう。

プールパーティで友人の息子タイを溺死させそうになったのも、深い意味はなさそうです。
ちょうどあのときに水中で黒いもやもやがレイの中に入り込んだので、もともと無意識的な願望でプールに引き寄せられつつ、完全に取り込まれたのがおそらくあの瞬間でした。
たまたまそのとき肩車していたタイが、生贄にされかけたのかなと思います。

タイにサインボールを渡したあと、レイは「あの筋肉バカが目障りだ」とタイをゲームに誘いました。
これは深読みしすぎかもしれませんが、この発言にもレイの強い男性イメージが投影されているようにも思いますし、水中で黒いもやもやに完全に取り込まれてからは、息子のライバルになり得るタイを排除したいという無意識が増幅された可能性もあるかもしれません。

以前に住んでいたサマーズ一家の母親(ルーシー)は、病気の息子トミーのために、娘レベッカを生贄に捧げました。
だいぶエグい判断しますねお母さん、とも思いますが、レイも終盤は積極的にエリオットを生贄にしようとしていたので、取り憑かれモードになると制御できなくなるのでしょう。
レベッカ母は、イヴが訪ねた際にも黒い涙を流していたので、生贄を捧げて願いを叶えても、プールの呪いは完全には解除されないようでした。
そう考えるとなかなかに代償は大きく、やはり願いを叶えてくれる素敵な泉というよりは、悪魔との取引的なニュアンスの方が強そうです。

レベッカが落としたコインの意味

本作における唯一の良心、レベッカ。

プールに飲み込まれて生贄になりかけたエリオットをイヴが救助しに潜ったとき、助けてくれたのがレベッカでした。
イヴが飛び込んだ際にはオカルトモードで無限に深いプールとなっていましたが、エリオットを助けてから、イヴは方向感覚がわからなくなってしまいました。
レベッカは、とりあえず闇雲に進もうとしたイヴを制止し、コインが沈む方向で上下を教えて、進むべき方向を示してくれました
それにより、イヴには出口が見えるようになります。

いやもう、優しすぎませんかね、レベッカさん。
容赦なく犠牲にされた母親を探し続け、自分と同じように生贄になりかけた他者を助ける姿は、まるで水中の天使のよう。
クリオネっぽいという意味ではありません。

最後には、次の犠牲者を出さないため、イヴとイジー、エリオットはあの家に残ることを決めました。
そこにきっとレイもいるから、というのも大きかったでしょう。
危険なプールを埋めるのも必然です。

ただ、水中に天使レベッカがいたことも考えると、容赦なく埋められてしまったの、ちょっとかわいそう。
泉の悪霊なのか過去の生贄たちなのか判別がつきませんが、ホーンテッドマンションおばけたちも含めて、救われていることを祈ります。

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