【映画】恐怖の廊下(ネタバレ感想・考察)

映画『恐怖の廊下』
(C)2010 MIgma Film AB.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『恐怖の廊下』
(C)2010 MIgma Film AB.

留学中の医学生・フランクは、家具運搬の手伝いを頼まれ、アパートの新住人・ロッテと知り合う。
以来、彼女から図々しい頼み事をされ、恋人・ミッチとの情事に睡眠を妨害されるフランクは疎ましく思っていた。
ある晩、ロッテがフランクの部屋に泊まり──。

2010年、スウェーデンの作品。
原題は『Isolerad』で、スウェーデン語で「孤立した」の意。
U-NEXTで観たのですが、タイトルは『Corridor』と表記されていました。
おそらく英題で、「corridor」は「廊下」なので、邦題はこちらに近い感じ。
コリドーといえば、『シャドーコリドー 影の回廊』というSteam初の有名なホラーゲームを思い出します(まるでプレイしたかのように言っていますが、積みゲー中)。

よくあるご近所トラブルがどう発展していくのか……と思いきや、最後までご近所トラブルでした
76分という短さとはいえ、ご近所トラブルだけで保つとは思えなかったので、ある意味で意外性がありました。

騒音によるトラブルからの殺人事件といえば、日本では1974年のピアノの騒音トラブルから発展した殺人事件が有名でしょう。
2022年にも、大阪でテレビの音量などの騒音を巡ってトラブルとなった殺人事件が発生しているようです。
騒音によるトラブルも、世界中で見られるのですね。

とはいえ本作は、騒音トラブルはきっかけに過ぎず、その後はどちらかというと男女問題を中心とした思い込みや被害妄想が大きく影響していました
ほぼすべて主人公のフランク視点で、かつアパート内だけで進んでいくので、ソリッド・シチュエーションモノと言える気もしますが、大学や屋外といった別の場所もちょいちょい出てくるので、閉塞感はありません。
スウェーデンといえば北欧、北欧といえば美しい街並みというイメージなので、街並みがほとんど映らなかったのは残念でしたが、あのアパートあたりは治安も悪そうでした。
大学の図書館らしき場所は美しくて羨ましい。
冒頭およびラストの曇天は、不穏さが溢れていて良かったです。

全体を通しては、低予算ながら頑張っていた印象
螺旋階段の使い方など、ボロアパートというロケーションの使い方が巧みでした。
たまたまクリスマスに観始めたのですが、まさかにクリスマス時期の話だったので驚き。

ストーリーはシンプルで良いのですが、登場人物の行動原理が謎すぎました
しかしほとんど馴染みがなく、あまり映画も観たりしたことがない国の作品の場合、果たしてどこまでが文化差なのかの判断が難しいところ。

いずれにしても、一番の謎はフランクがロッテに惹かれていった点です
それも唐突に。
具体的には、レニーに殴られてロッテに介抱してもらったあたりから急に態度が変わって見えました。
あんなに迷惑そうにしていたのに、急に優しくなったり部屋に泊めたり、果ては電話番号まで渡したり。
DVを受けているアザらしきものを目撃したので、そのあたりがきっかけなのでしょうかね?

本作はU-NEXTで観たのですが、大学の講義が「会議」と訳されていたり、明らかに喋っているのに何も表示されていないシーンがあったので、基本的な流れはつかめましたが、細かいニュアンスが抜けていたり、ずれていたりする部分もあったかもしれません。
文句ではなく、スウェーデン語なんてまったくわからないので、字幕を作ってくれただけでも感謝ですが。


フランクは、特に序盤、ひたすらかわいそうでした
ロッテはもう、厚かましさの権化のような存在で、フランクの巻き込まれ具合は半端ありません。
あの関係性で洗剤を借りたお礼に手作りクッキーというのも、恐ろしい。
洗剤を借りに来たとき、勝手に部屋に入って物に触っていたので、絶対何か裏があって探っているのではないかと思いましたが、そんなこともなく。
恋愛依存体質なのかと思いきや、泊まったときも別に何もありませんでしたし、距離感がひたすら謎

原題が『Isolerad』だけあり、孤立したフランクが1人で恐怖を抱え込み、被害妄想に取り憑かれて暴走していくのが本作の魅力でした
しかし、フランクもフランクで、大学内での様子を見る限り、「泊めてくれ」という頼みもみんなに断られていましたし、もともと同級生らとあまり信頼関係を築けていなかった様子が見受けられます。
勉強を頑張っている自負はあったのでしょうが、成績が低い同級生を見下す感じだったり、逆に成績の良い長身の同級生に一方的なライバル意識を燃やしていたり。
一緒に勉強しようという誘いを冷たく断るなど、自分が求めていないときに他者が差し伸べた手は相手にせず、自分の都合が悪くなると頼ったりと、自己中心性が垣間見えました

そんなもともと若干孤立している中、テストで評価されない、騒音に邪魔される、(自業自得の側面もありながら)怖い男性から脅されるなど、さらに孤立してどんどん追い詰められていったのでしょう。
しかし、本作で重要なのは、フランク視点でしか描かれていないので、実際はどうだったのかわからない部分も多々ある、という点です。
ミッケがロッテにDVをしていたのかも確証はありませんし(ロッテも「暴力を振るわれている」と明言はしていなかったような)、レニーの死も「事故か他殺かは断定できない」と言っていたので、本当にミッケが殺したのかは曖昧なままです。
とはいえ、ブチ切れたミッケが部屋に侵入しようとしたりしてきたのは間違いないので、すべてがフランクの妄想だった、までではないでしょう。


上述した字幕の事情も含めて、考察するには情報が不十分ですが、人間関係がやや複雑だったので簡単に整理しておきます。

まず、ちょっとだけ出てきたレニーは、ロッテの元カレかロッテを好きだったのだろうと思われます
待ち伏せして唐突にフランクを殴ったのは、現在の彼氏と勘違いしたからでしょうか。
どうもロッテは、感情のコントロールが苦手な男性を引き寄せやすいようです。

ロッテの今カレであるミッケは、レニーのことを知っていたようです。
フランクの電話番号が書かれたメモを見て、レニーから渡されたものと勘違いした様子。
脅迫電話をかけましたが、人違いしているらしいことをいいことに、煽り返すフランクもどうなのか。

しかし、最初は騒音トラブルの相手としてフランクに怒りを感じて乗り込んでこようとしたミッケですが、途中でフランクがロッテの浮気相手なのではないかと思うのようになった、のかな
ハンマー片手にうろうろしたり、部屋に侵入しようとしてきたり、やばい奴であることは間違いないので、先ほどああは書きましたが、十中八九ミッケがレニーを殺したのでしょう。
ロッテが行方不明になり、探すために2回目にミッケに電話した際、レニーを名乗ったら「騙せると思うのか?」と返されていました。
単純にフランクの存在に気づいていたとも考えられますが、あの時点ですでにレニーを殺していた可能性もあるかもしれません。

いざ整理してみるとそれぐらいですかね。
意外とあっさり終わっちゃった。

ちなみに、ミッケ役のピーター・ストーメアは、『アルマゲドン』など数多くの有名なハリウッド映画にも出演している俳優さんでした。
なぜ本作に……?とついつい思ってしまうほど、贅沢な配役感。
本ブログで取り上げた作品の中でも、『ラプチャー -破裂-』に重要な役で出演していました。


あとはとにかく本作は、良くも悪くもツッコミどころが満載でした
プレスで淹れているのにあんなに美味しくなさそうに見えるコーヒーも斬新。
医学生らしく(?)、聴診器を使って盗み聞きしようとしたり、デンタルミラー?(棒の先端に鏡がついているやつ)を使って廊下の様子を窺おうとするところなどは、笑ってしまいました。
絶対ドアを細く開けて覗いた方がバレない。
鍵が開けば手を差し入れてチェーンが外せてしまう構造もやばすぎますが、ボロいアパートだからしょうがないのかも。

あとはあんなぺちぺち叩いたハンマーで、ロッテがあれほどの致命傷を負っていたとは。
片側が釘抜きになっているネイルハンマーだったので、そっち側が当たってしまったのでしょうか。

しかし何より一番笑ってしまったのは、フランクの老女(管理人)に対する頭突きですね。
あまりにも突然、そして一撃でKOする華麗な頭突き。
パニックに陥っていたのはわかりますが、一番やばいのはフランクだと確信するシーンでした。
許しちゃうおばあちゃんも優しすぎます。

最後はしっかり冷静に罪をなすりつけて終わったのも、フランクのクズさが溢れていて良かったと思います
バレないわけがないと思いますが、あの警察なら騙せそう。

と、ツッコミどころも多いため、いざ引いてみるとややギャグっぽくも見えてしまった本作ですが、いざ自分があのようなトラブルに巻き込まれたら……と考えると恐ろしくもありました
しかも、浮気したとか、手助けをしようとしたわけですらなく、最初はむしろ関わらないようにしていたのに、一方的に巻き込まれていく理不尽さ。
自業自得でありながらも、誰も助けてくれず孤立していく過程。
孤立して視野が狭くなると、あとから自分で振り返っても不思議に思うような変な言動をしてしまうほど追い詰められてしまうことも少なくありません。
なので、騒音トラブルや狭いアパートでのホラー映画というより、やはり原題通り、孤立して追い詰められていく心理に焦点が当てられていた映画なのだろうと感じました

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