【映画】元カノ 〜憑き纏う女〜(ネタバレ感想)

映画『元カノ 〜憑き纏う女〜』
(C)2009 RS Public Company Li All Rights Reserved.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『元カノ 〜憑き纏う女〜』
(C)2009 RS Public Company Li All Rights Reserved.

人気俳優のケンは相当の女好きで、彼の女遊びは常にマスコミの格好のゴシップネタだった。
遊び相手の1人、ミーンから妊娠を告白されたケンは、お腹の子は自分とは関係ないと、彼女を
無情にも捨ててしまう。
その後、人気女優のプロイと恋に落ちたケンは、彼女との結婚を真剣に考えるようになる。
そんな中、彼の遊び相手だった女性たちが次々と不可解で無残な死を遂げていく──。

2009年製作、タイの作品。
原題は『My Ex』、タイ語だと『แฟนเก่า』で、どちらも「元恋人」の意。

クズな主人公が溢れるタイホラー。
ここにまた、新たなる1人のクズ男「ケン」の名が刻まれた──

いや、色々観ているタイホラーの中でも製作順的には古い方の作品なので、新たな1人というよりは先駆的なクズ男さんでした。


というわけで、チャラチャラ女遊び系主人公が妊娠させて捨てた元カノに恨まれて、因果応報の自業自得で大変な目に遭ってしまう
それだけの作品です。
それだけなのに、程よくグロく、多様なホラー演出を見せてくれるので飽きずに楽しめました。
「恐ろしき女性の恨み・執念」という感じでしたが、性別が逆だったら「勝手に自殺した上に執着してくるキモいストーカー男の霊」としてフルボッコに叩かれそう(ミーンが妊娠していたのも大きいですが)。

タイのホラー映画を立て続けに観てきてわかったのは、因果応報的な展開が多いということ。
主人公にクズが多いのは、呪われたりひどい目に遭うのは因果応報であるという考えがタイの宗教観に近いのかな?というのは『スイマーズ/溺れるトライアングル』の感想でも触れました。
ちなみに、『スイマーズ/溺れるトライアングル』の感想では「タイ映画の登場人物に「クズ」という表現を使いすぎている気がするので、反省」とも書いていますが、このページでも現時点ですでに4回使っています。

また、そんな因果応報な事情もあってか、あまり救済措置がないというか、助かるための手段を探るパートが少なく、ひたすら怖がらせられて追い詰められていく展開が多いように思います。

そのためか、細部の整合性や背景の説明にはこだわらず、その一方で霊がかなり強力でチートキャラであることも多い印象
助かるためにはオカルト現象にもルールや規則性が必要ですが、本作の霊ミーンは『カミングスーン』に近い感じで、限界突破の超能力者と化していました。
だからこそホラー演出に特化されているとも言えるので、あまり深みはありませんが、容赦ない怖がらせ方がタイホラー好きな要因かもしれません。


本作において霊となったミーンですが、ミーンはミーンでいまいち同情はしづらいキャラで、そもそもケンに引っかかって信じ切るのも盲目すぎますし、ヤンデレの領域だったと言えるでしょう
ただ、かわいそうだったのは間違いありません。
避妊していたのかどうかによってちょっと変わってくるところもありそうですが、妊娠したら捨てられた、というのは恨むには十分でしょう。
特に、『THE POOL ザ・プール』の感想などでも何回か触れていますが、タイでは2022年まで中絶が違法だったようなので、なおさら。

そんな彼女は、自分のお腹を割いて胎児を引き出し、壁に投げつけ、薬品?を飲み、さらに死ぬまでリストカットしまくるという壮絶な自殺を遂げます。
切腹なんか比べものにならないほど、覚悟がすごい
血だらけの現場を放送しちゃうニュースもすごい。

そのおかげ(?)か、彼女が手にしたのは何でもござれのスーパーパワー
最初はあらゆる場所に姿をチラ見せし、手前の登場人物に焦点を当てさせておいて背景にボヤ〜っと映り込みます。
いざ姿を見せるときには、とんでもないホラー顔で怖がらせ。
相手に恐ろしい幻覚を見せることも可能。
さらには生前の姿で実体化し、触れ合うことすら可能でした(触れ合っていたのは全部ケンの幻覚だった可能性もありますが)。

他にも、車を事故らせる、ガラスの破片を飛ばす(完全に超能力者のようでしたが、かっこいい)など、多彩な技を繰り広げてくれます。
そして何より、メンヘラの究極奥義のような、終盤でのリストカット攻撃ですよ
「私の痛みと苦しみをその身をもって思い知れ」と言わんばかりの、自分の手首を包丁で切るたびにケンの身体が切り刻まれる捨て身システム。
どれだけ強烈な恨みであるかを思い知らせてくれる、まさに身を張ったヤンデレすぎる攻撃、すばらしい発想でした。


ケンの元カノや今カノが犠牲になったのは、当然ながら嫉妬でしょう。
かつ、ケンに「お前が私以外の女に目を向けたからだぞ」と気づかせて怖がらせて追い詰めていく意味合いもあったと考えられます。

仕事仲間のニミートは、完全に巻き込まれでしたが、ケンの味方でありミーンを冷たくあしらったので、恨まれたのでしょう。
わざわざ心霊写真を持って別荘まで来てくれるいいヤツでもありました。
出番は少なかったですが、印象に残る死に様で爪痕を残してくれました

カメラマンのキングは、最初はマスコミの嫌な部分が凝縮されているような印象でしたが、彼なりの信念を持って頑張っていました。
彼が殺されたのはよくわかりませんが、わざわざスクープを明るみに出したからでしょうか。
普通であれば「真実を知れて良かった」となりそうですが、ミーンの感じだと「余計なことをしてくれたな」と逆恨みしそうな気もします。

完全なる巻き込まれだったのは、ボウを電話ボックスごと跳ね飛ばして殺してしまったトラックの運転手でした(彼は死んではいなさそうでしたが)。
電話ボックス、脆すぎるし車道に面しているのにガードレールとか何もないの、怖い。

ケンはとにかく自業自得だったので仕方ありません。
ここで個人的な恋愛観について触れるのは(怖いので)避けますが、「運命の人は選んで決めたい」というのは全然良いと思うのですが、妊娠させておいて「本当に俺の子どもなのか?」はさすがにクズ発言の極み

ただ、ちょっと憎めなさもありました。
計算高く女性の気持ちを無視して踏み躙りながら搾取する遊び人というよりは、先のことを考えずに今この瞬間の気持ちを最優先して生きるタイプだったからかもしれません。
その瞬間は、本当に相手を愛していて「ずっと一緒にいたい」と思っていたのも嘘ではなさそうでした。
どう見ても発言内容は空っぽで、ある意味では ただの学習しない馬鹿 純粋で常に今に全力だったとも言え、本作の限りではあんな言動に引っ掛かる女性たちもどうかと思う感じでしたが、きっと母性本能をくすぐるようなタイプだったのでしょう。

最後は真摯にミーンに向き合いつつも(ミーンが死んでからですが)、結局はすぐ他の女性に手を出したことで死んでしまいました。
とはいえ、一生独り身でミーンのことを想いながら生きていかないと許さなかったのかと思うと、やはりミーンのヤンデレな重さも否めず


しかし、あの事故で生きていたケン、頑丈すぎました
腹筋すごかったから何とかなった、とかのレベルじゃない。

ただ、ケンが乗っていた車は安全性重視で有名なVOLVOだったので、時代を考慮してもエアバッグがなかったというのはやや不自然です。
現実的な検討をするべきではない点ですが、逆手に取って考えると、もしかするとあれも夢オチ的なケンの幻覚での事故だったかもしれません。

他の可能性としては、エアバッグが作動しなかったのはプロイも同じなので、ミーンの超能力の一つで封じられていたのかもしれません。
そうだったとすると、やはりケンが頑丈だったということに。
ワンチャン、マンションから落ちても生きているかも

これもタイホラーあるあるですが、エンドロールは曲も映像も謎のハッピーエンド感が漂っていました。
エンドロールだけ見たら、切ない恋愛映画のエンドロールに見えかねません。
冒頭2枚目に載せてあるポスター画像は、恋愛映画っぽく見せかけてミーンが映り込んでいるデザインで面白い。
冒頭1枚目の画像は日本版DVDのパッケージですが、これはこれで雑コラみたいになっていて別の意味で面白い

タイ、ホラー映画、心霊写真、といえばバンジョン・ピサンタナクーン監督の『心霊写真』
『心霊写真』が2004年、『元カノ 〜憑き纏う彼女〜』が2009年なので、『心霊写真』のヒットが意識されている側面もあるかもしれません。
面白いなと思ったのは、途中、カメラマンのキングがゴシップ雑誌編集者の女性に電話した際、女性に「そんな写真、合成と疑われるのがオチよ」「心霊写真なんかお断りよ」と言わせておいて、最後の車での事故のシーンなどは『心霊写真』を彷彿とさせる演出でもあり、意図されているのかはわかりませんが、リスペクト的なものも勝手に感じました。

追記

『元カノ Death』(2024/05/18)

続編『元カノ Death』の感想をアップしました。

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