『ソウ5』の概要と感想(ネタバレあり)
FBIのストラム捜査官は、ジグソウの死のゲームからケガひとつ負わずに生還したホフマン刑事がジグソウの後継者なのではないかと疑い、密かに捜査を開始する。
だが、この時すでに、捕らわれた5人の男女が新たな殺人ゲームでサバイバルに挑んでいた──。
2008年製作、アメリカの作品。
原題も『SAW V』。
本記事には、前4作『ソウ』『ソウ2』『ソウ3』『ソウ4』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『ソウ4』については、以下の記事をご参照ください。
シリーズついに第5弾。
監督は、これまでのシリーズで美術監督を務めてきたデヴィッド・ハックル。
監督作品は『ソウ』シリーズ以外も含めて本作だけのようです。
脚本は『ソウ4』から引き続き、パトリック・メルトンとマーカス・ダンスタン。
本作はシリーズの中でもやや異色で、ゲームがおまけに感じられてしまい、ホフマンとストラム捜査官の対決がメイン、といった印象です。
ホフマンとストラム捜査官の対決に5人のゲームが特に関係なかった点が、影響としては大きいでしょうか。
今まではメインのゲームとジグソウたちの群像劇が最後には絡み合っていましたが、本作はほぼ独立してしまっていました。
ジョンが最後にホフマンに託したゲームだったり、ストラム捜査官を嵌めるのに使われたゲームではありましたが、最後に一つに収束したとは言い難いものがあります。
どんでん返しという点でも、正直もっとも意外性に乏しいのが『ソウ5』であると思います。
ホフマンがジグソウの後継者であるというのも、ストラム捜査官が罠に嵌められていっているというのも、観ている側にはわかっていますからね。
最後、ストラム捜査官がホフマンを箱に閉じ込めて捕まえたように見せていたのも、ホフマンの思惑通りであると思っていた方が大半ではないでしょうか。
そのため、ホフマンはわかっていた通り最後まで悪い奴でしたし、ストラム捜査官はわかっていた通り陥れられて死んでしまいましたし、何も意外性はありません。
ゲームも行う必要性があったかという点も、いくらジョンの遺言とはいえ、ちょっと弱い。
それでも、個人的に『ソウ5』はかなり好きなのです。
なぜかといえば、『ソウ5』からリアルタイムに映画館で観るようになったので、それが大きいです。
つまりは思い出補正ですね。
それ以外にも、ホフマンがけっこう好きなので。
完全にジョンの思想とは真逆に走りますが、そこも含めて超悪役でしかないホフマンのワルっぷり、好きです。
演じているコスタス・マンディロアもかっこいいですし、低い声も好きですし。
本作含め、決めシーンで鼻血とか流していることが多いのが残念ですが。
『ソウ5』は、いわばホフマンのための作品と言っても過言ではないかもしれません。
ホフマンの過去が明かされ、ホフマンがひたすら暴れるだけ。
過去に関しては、唐突な「妹を惨殺されて、復讐のためジグソウを模倣した」設定は、ちょっと強引さは否めません。
「力を手にしたことで暴走してしまう」というのはよくあるパターンではありますが、もともとは優秀で誠実そうな刑事だった姿にも少々違和感を抱いてしまいます。
ホフマンとジョンの出会いも明かされるわけですが、この点もよく考えてしまうとツッコミポイントは多めです。
もちろん、シリーズを追うごとに後付けで設定を増やしていっているのは明らかなので、仕方ありませんが。
せっかくなので大きな引っ掛かりポイントだけ挙げておくと、まず一つは、ジョンの思想。
ジョンが「人殺しを憎んでいる」と口にするたびに、1でジョンに殺されたシン刑事(ショットガンのトラップで死亡)が浮かんできてしまうんですよね。
あれもシン刑事が深追いしてきたから自らトラップに引っかかって死んだのだ、とは言えるかもしれませんが、タップ刑事の首も直接切りつけていますし。
『ソウ』ファンとしてもちろんジョンジグソウが一番好きなのですが、シリーズを追って「人殺しを憎む」思想が強調されるたびに、あのシーンの違和感も強くなっていってしまいます。
二つ目は、1で死んだポールのゲームの裏側が明かされたシーン。
カミソリ・ワイヤーの檻に閉じ込められていた男性です。
あれもホフマンが協力していたのだ、という裏設定が明かされたのは、ファンとして熱いものがありました。
ただ、ホフマンが刑事として知り得た犯罪者の情報をジョンに流していたのだとすると、別にポールはその網に引っかからないのでは……?と思います。
ゲームに選ばれた理由は、リストカットして自分の命を大事にしていなかっただけですからね。
『ソウ5』で「実は犯罪者だった」といったような過去が明かされたわけでもないですし、そもそももし犯罪歴で選ばれたのだとしたら、リストカットが理由ではなくそちらを理由にゲームを設定したはずです。
なので、『ソウ』の感想でも書きましたが、裏側を描かれてなおポールがゲームに選ばれた理由がいまいちわからず、いまだにかわいそうな印象も拭えません。
しかしポール、病気で高齢のジョンは別にしても、豚マスクを被っていたとはいえホフマン相手に暴れ回り投げ飛ばす姿は強すぎてちょっと笑ってしまいました。
まぁまぁ、ホフマンもまだお仕事に慣れていなかったですからね。
といったあたりを中心にどんどん粗さも目立ってきてしまい、とにかくどんでん返しに意外性が乏しかった点が『ソウ』シリーズとしては致命的であった本作。
それでも、ラストのインパクトはシリーズ屈指です。
ぺっちゃんこストラム。
映画館であのシーンを観た衝撃は、今も忘れられません。
いやもう、すごくないですか?
壁が迫ってきてぺっちゃんこですよ。
古典的ながら、絶対体験したくない死に方ですよ(『ソウ』シリーズの他の死に方も全部嫌ですが)。
しかもリアルに、支えていた腕が折れ、断末魔をあげて血を振り撒きながら潰されていったストラム。
意外性は弱くとも、印象に残るラストシーンとしては、決して劣っていたとは言えないかもしれません。
ちなみに、あの助かるための箱は『ソウ4』でジョンが製作しているシーンが映っていました。
ホフマンがそれを流用したんですかね。
ジョンが作ったにしてもホフマンが作ったにしても、あの迫る壁の部屋を作った技術力が凄まじすぎますが、どんどん壮大になる装置や技術力に関しては触れてはいけません。
あまり関係はなかったとはいえ、5人のゲームも好きでした。
さすがジョンが準備しただけあり、全部協力すれば全員助かり得たという仕組みはかなり秀逸でしょう。
以下、少しだけ後発シリーズのネタバレも含むのでご注意ください。
5人のゲームで最後に残ったのは、ブリット(女性、不動産開発会社副社長)とマリック(男性、薬物依存の金持ち息子)でした。
最後が腕を切り刻んで血を溜めるゲームでしたが、ブリットがどこまで自分を切り刻んでいたのか、だいぶ怪しいんですよね。
マリックは腕が真っ二つになってしまっていましたが、ブリットだけは最後まではっきり映りません。
エリクソンが助けに来たときも、マリックは生死不明でしたが、ブリットは謎のフック片手に生存が確認されています。
5人が集められた理由であるビル火災の事件も、きっかけはブリットの計画のようでした。
だいぶ怪しく描かれていたブリットは、『ソウ5』公開後、実はジグソウ側説も流れていました。
どう見ても、1人だけ絶妙に存在が異質で怪しさが否めません。
でも、その後はまさかの再登場はありませんでした。
結局、ただの被害者の1人として終わってしまったようです。
これは完全に勝手な想像ですが、おそらく『ソウ4』あたりから、伏線に使えそうな要素を適当に散りばめていたのではないかと感じます。
シリーズが続くのか、続くにしても誰が作るのかもわからない中、とりあえず使おうと思えば何かに使えそうな思わせぶりな演出を残しておく。
そんな意図が透けて見えます。
遺言でジョンから元妻のジルに託された箱ですが、あれも『ソウ5』の時点では、中身は決まっていなかったのではないかと思えてなりません。
この箱はのちに再登場し、中身が重要な役割を果たしていましたが、ジョンの遺言の言葉と合っていたかというと微妙なところ。
いずれにしても、個人的に『ソウ』シリーズが好きなのは、これだけ継ぎ接ぎで続きながらも、世界観が完全には崩壊しないままに『ソウ ザ・ファイナル 3D』まで一定のクオリティを維持した点にあります。
ブリットのように思わせぶりなまま無視された伏線もありますが、後続の製作者たちが、引き継がれた伏線を活かしてシリーズを作っていったのだと思うと、感慨深いです。
この感慨深さの前提となる「適当に伏線になりそうな要素を散りばめていた」という推測が間違っていないことを祈りつつ。
追記
『ソウ6』(2024/08/19)
続編『ソウ6』の感想をアップしました。
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