【小説】阿泉来堂『忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件』(ネタバレ感想・考察)

【小説】阿泉来堂『忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件』(ネタバレ感想・考察)
(C) KADOKAWA CORPORATION.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

タイトル:忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件
著者:阿泉来堂
出版社:KADOKAWA
発売日:2021年12月21日

ホラー作家、那々木悠志郎の担当編集となった久瀬古都美は、彼が初めて体験したという怪異譚を題材にした未発表原稿を読むことに。
そこに書かれていたのは、心霊現象に懐疑的な小学6年生、篠宮悟が、流行りの噂話で語られる『崩れ顔の女』を呼び出してしまうという物語だった。
その顔を見てしまった者は視力を奪われ、精神的に追い詰められた末に自殺してしまうという怪異。
その真相を調べにやってきた那々木悠志郎の助けを借りて、悟は調査を進めていく。
一方で、原稿を読み進める古都美のもとにも『崩れ顔の女』が現れる──。


『ナキメサマ』『ぬばたまの黒女』に続くシリーズ第3弾。
以下、『ナキメサマ』および『ぬばたまの黒女』の内容にも少し触れるのでご注意ください。

タイトルからわかる通り、シリーズのメインキャラである那々木悠志郎の原点が描かれた作品。

まずはちょっと、聞いてください。

「篠宮悟=(シリーズに登場する)那々木悠志郎」というトリック、かなり序盤でわかりました!

などと自己満足な自慢から始めるのもいかがかとは思いつつ、正直、阿泉作品はだいぶ伏線が丁寧で「あ、これ伏線っぽいな」というのがわかりやすいですし、自分がわかったぐらいなので他にも気がついた人も多いのでは?と思っておりますが。
ただ、気がつけたポイントとしては、『ぬばたまの黒女』から立て続けに本作を読んだのが大きいだろうと思っています。

『ぬばたまの黒女』では、『ナキメサマ』ではほとんど描かれなかった那々木悠志郎のキャラが少し深掘りされていました。
その中で印象的だったのが、「火の点きが悪いライターは叔父の形見」「大きく影響を受けた人物で、怪異譚を蒐集しているのは叔父との約束を果たすため」と話していたシーンでした。

そんな那々木の原点が描かれるというのと、本作の冒頭での「初めて体験した怪異」「デビュー前に書いた」という説明。
編集者の久瀬古都美の執拗なまでの「今の那々木とキャラが違う」という発言。

そして何より、これまでにもあったから本作にも何かトリックが仕掛けられているんだろうな。
しかも、叙述トリックが得意だからな。
といったイメージ(こういったイメージに作家は苦労されるのでしょうね……)。

それらの組み合わせで確信したので、やはり前作での叔父の話が新鮮な記憶として残っていたのが大きいだろうと思います。


それはさておいて本作は、これまでの「凶悪パワータイプ怪異@ヤバい奴らばかりの因習村」とはやや趣が異なり、「精神的に攻めてくる都市伝説タイプの怪異@ジュブナイルホラー」といった印象でした
残酷なスプラッタ展開も前2作より控えめでしたが、精神的なグロさは強めでしょうか。

しかし相変わらず、怪異の個性が魅力的ですね。
目を抉られたり全身の骨を折られたりして死ぬのも嫌ですが、視力を失い、最後に見たものとして恐ろしい顔がずっと目に焼きついて離れず発狂するしかないというのも、相当につらい。
最終的には発狂して自殺してしまうのだとすれば、むしろあっさり殺された方がまだマシかもしれません。

怪異の背景に人間の恐ろしさがあるのも相変わらずでした。
さすがに子どもたちは純粋で安心しましたが、出てきた大人たちはみんな終わっている人ばかり
「崩れ顔の女」の怪異と化した巌永卑沙子でさえ、生前はあまり同情できる感じではなさそうでしたし。

しかも、受け入れてもらえたら一旦引くけれど、満足して成仏するわけでもなく、次々と受容を求め続けるというのは、怪異と化してもなかなか自分勝手な傾向が強そうです。
元恋人で元凶でもあった教師の坂井を見ても認識できていない様子だったので、もはや怨念しか残っていないのかもしれませんが。

しかも「見ないでぇ……」と言いながらまぶたを引きちぎってまで見せつけてくるの、相当にタチの悪い押し売りじゃないでしょうか
さらには、小野田菜緒の死はやや謎が残されたままですが、卑沙子が再登場したがゆえの死だとしたら、より一層タチが悪いですしかわいそう。

ただ、22年前の事件がきっかけですでに都市伝説化しているというのは、けっこう早いな、という印象も。
事件のことを覚えている人も少なくないでしょうし。
しかも、古椿の木に人間の顔面がたくさん浮き出てきて哭くというのは非常に不気味で好きな演出でしたが、22年の間にそれほどの人が犠牲になっていたのだとすれば、けっこうな話題になりそう。
といったあたりは、作中作、つまりはフィクションの中のフィクションなので、あまり現実的な観点で考えるのは野暮ですね。

大人たちが相変わらず終わっている分、子どもたちの友情が熱く、ジュブナイルホラー感が今までの2作とはまた違った雰囲気で楽しめました
特に、険悪だった安良沢との友情はほっこりと癒されました。
おそらく、論文を書いていた明北大学の澤村准教授が安良沢だと思われるので、今後再登場する可能性もありそう。


ストーリーや背景に関しては、過去2作よりも丁寧に描かれていた印象で、それほど残った謎はありません。
色々と複雑に絡み合っていた過去2作に対して、怪異の背景自体はシンプルで、那々木の過去が描かれ、少年たちの心理描写や人間ドラマにもだいぶ重きが置かれていたからかな、と思います。

なのでそれほど本作の内容に関して考察するポイントが残されている感じではありませんが、シリーズを意識した要素なのかな?と思われる点も散見されたので、そのあたりを少し整理してみたいと思います。

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考察:後続シリーズで登場しそうな要素(ネタバレあり)

人宝教

カルト、と言って差し支えなさそうな新興宗教であった人宝教。
すでに発売されている4作目『邪宗館の惨劇』では、「かつてある宗教団体の信者が集団死したといういわくつきの建物」である館が舞台になるようなので、これももしや人宝教では……?と期待してしまいます。
だとしたら、児童虐待は行うわ集団死事件は起こるわで、なかなかとんでもなさそうな団体です。

しかし、幼少期の久瀬古都美が虐待の被害に遭わなかったのは良かったですが、古都美を差し出すために連れて行く父親を見送るしかなかった母親はかなり複雑ですね。
祈りを捧げ、結果事故が起こったから良かったようなものの、古都美が思っていたように「何を犠牲にしてでも守りたいと思ってくれていた」というのとはちょっと違うような気も。

澤村太一郎准教授

上の感想でも触れましたが、明北大学の准教授として怪異について研究していた澤村太一郎。
安良沢の名前は「太一」だったので、悟と安良沢の最後の会話から見ても、十中八九、同一人物と見て良いでしょう。

彼が研究していたらしい「二十三年に一度奇祭が行われる村」は『ナキメサマ』、「道東の人骨が埋まっているというトンネル」は『ぬばたまの黒女』にそれぞれ該当していると思われるので、那々木の情報源として、大人になってから交流が再開していそうです

だとすると、いずれ澤村准教授も登場するかもしれませんし、他に挙げられていた「大地震を予見し島民を津波から救った一族」や「呪われし血を受け継ぐ魔女の末裔が住む館」についても、後続シリーズで舞台となったりするかもしれません。
というか、もしかすると「呪われし血を受け継ぐ魔女の末裔が住む館」は、4作目の「邪宗館」の可能性も?

裏辺刑事

北海道警察の刑事である裏辺。
『ぬばたまの魔女』で思わせ振りに登場しましたが、本作ではまた名前だけしか出てきませんでした。

そこはもちろん、本作は過去の話がメインなので仕方ありません。
真面目で動物愛が強そうという明らかに個性的な描かれ方をしてえる彼は、確実に那々木の相棒ポジションになる気がするので、次作あたりからいよいよ活躍してくれるでしょうか。

眞神月子

さて、あえて最後に取っておきましたが、あまりにも意味深すぎるキャラが眞神月子でした
さすがに発言すべてがハッタリだったただの不思議ちゃんとは思えないので、何かしら今後鍵を握るキャラとなりそうです。
というか「──ずっと先の未来で、会おうね」というセリフまで残しておきながら登場しなかったら、詐欺です、詐欺(言いすぎ)。

月子に絡んだ話では、那々木(篠宮悟)の叔父とは7〜8年で苦しい別れが訪れるとのことでした。
『ぬばたまの魔女』の時点ではやはり叔父は亡くなっていそうでしたし、寂しげに叔父のことを振り返っていたので、何かしら大きな壮絶な事件なりが起こるのは間違いありません。
それもいつか描いてくれるのでは、と期待。
叔父那々木は「ずっと探し続けているのに、求めているものが見つからない。だから私はひたすらに怪異を追いかけている……」と言っていたので、それが那々木(篠宮悟)が引き継でいるものと思われます。

しかし、月子のキャラはまだあまりにも謎すぎますね。
可能性の一つは、未来を含めた色々なことが「視える」能力の持ち主
ただ、視えるだけで介入はできなさそうなので、西尾維新『クビキリサイクル』に出てくる天才・占術師の姫菜真姫のイメージに近いでしょうか(果たしてこのたとえがどれだけの人に伝わるか……)。

もう一つは、未来から来た、という可能性もあるかなと思います
というか、タイムトラベラー的な?
こちらの方がよりぶっ飛んだ世界観になってしまいますが、公式のあらすじレベルなのでネタバレではないと判断して書きますが、4作目『邪宗館の惨劇』はタイムループものっぽいので、あながちあり得なくもありません。

いや、むしろ上述した「呪われし血を受け継ぐ魔女」が眞神月子の可能性も?とすら考えてしまいますが、そのあたりは一旦『邪宗館の惨劇』を読んでから判断した方が良いかなと思うので、持ち越しとしたいと思います。

また、『ぬばたまの黒女』の考察では「真相を見抜く能力が鋭すぎるので、那々木に特殊な能力があるのか?」的なことを書きました。
この点は、本作を読む限りでは、「特にそのような能力はなさそうだな、単純に推理力や勘が鋭いだけかな」という印象。
叔父那々木も特に特殊な能力はなさそうですし、篠宮那々木はまだ子どもなので今後何かしらが開花する可能性もありますが、「一応まだ保留とはしつつもそういう設定ではなさそう」というのを現時点での結論としておきましょう。
篠宮悟の両親がいなくなった理由も結局明らかにいなっていないので、そのあたりも気になるところ。

追記

『邪宗館の惨劇』(2025/03/27)

続編『邪宗館の惨劇』の感想をアップしました。



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