作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
失業中の弁護士アリソン。
新しい職場に就くまで友人と同じ店で働き、親から譲り受けた一軒家の地下室を3人家族に貸すことに。
しかし現れたのは夫ジェームズだけで、公開プロフィールを更新しておらず最近離婚したのだと言う。
驚きつつも彼に好感を持ったアリソンは、契約通り受け入れるのだが──。
2019年製作、カナダの作品。
原題は『The Killer Downstairs』。
原題は「階下の殺人鬼」といった意味なのでかなり直球で、「ジェイムズは殺人鬼だ」という設定は隠すことなく前提の作品。
邦題の「ルームシェア」は、間違ってはいないような、ちょっと違うような。
ルームシェアだとホストはいないイメージなので、Airbnbとかの方が近そう。
さて本作は、ねっとり執着系殺人鬼ジェイムズが、優柔不断ガード緩い系女子アリソンに迫るお話。
それだけ。
そう、それだけでした。
ストーリーはあってないようなもので、意外性のまったくない展開は逆にびっくりするほどで、そのままストレートに終了。
流血描写はほとんどなく、優しめの作りでした。
ラストの格闘ではアリソンがジェイムズの唇だかを噛みちぎったようですが、そこでも血の描写はなく、アリソンの口周りも綺麗。
ジェイムズもアリソンも、その他登場人物たちもガバガバさが非常に目立ちますが、不思議と飽きずに楽しめました。
ただ終始、アリソンにもどかしさを感じてしまったのがもったいないところ。
アリソンにもジェイムズにも魅力が感じられなかったところが、個人的に本作最大のマイナスポイントでした。
殺人鬼ジェイムズは、人当たり良く相手を魅了し、一方で罪悪感なく嘘をつき、相手の気持ちなど一切考慮していないというサイコパス的なイメージで描かれていたのでしょう。
外見がイケメンかの判断は人それぞれでしょうが、個人的には十分かっこいいと思いますし、演技も上手でした。
十分魅力があるので堂々とアプローチすれば成功率も高そうですが、それは客観的な判断であり、彼の内面がどのようなものだったかは窺い知れません。
外見なり内面なり能力なりがいくら優れていようと、満たされていなかったり拗らせてしまっている人はたくさんいます。
ジェイムズの個人的なエピソードはほぼ描かれなかったので、そのあたりの経緯や彼の目的はよくわかりません。
とにかく明らかなのは好意を抱いた女性に対する異様な執着心であり、「自分だけを見て自分だけに尽くしてほしい」といった欲求でしょうか。
いわば、独占欲の塊です。
過去、色々あったのでしょう。
ジェイムズが殺人鬼と化す過程を端折ったのは別に良いのですが、気になってしまったのは、行動の一貫性のなさというか、中途半端さでした。
そして何より、あまりにも計画性のなさ。
この犯行形態で過去7人も殺しておいてよく捕まらなかったな、と思わざるを得ません。
本作におけるマシューズ(セクハラ上司)、マイケル(同級生の弁護士)の殺害に関しても、ジェイムズがアリソンの家に来た途端、アリソンの周りで死者や行方不明者が多発したりしたら、アリソンなり警察なりに疑われるのは必至でしょう。
そもそもなぜ周囲の人間を消していく必要があるのか、いまいちわかりません。
どちらかというと、暴力で支配し、家に閉じ込めて外界とシャットアウトさせるDV男タイプのイメージの方が近いように感じました。
ただ、その衝動性は、リアルさもありました。
違法行為や反社会的行動を繰り返す反社会性パーソナリティ障害の傾向がある人は、遅延価値割引傾向があることが示されています。
これは簡単にいえば、長期的に見てプラスになる結果のために我慢するよりも、今現在の欲求や目先の利益に流されやすい傾向です。
つまり、我慢が苦手で、あまり深く考えずにその場の欲求や衝動のままに動いてしまうわけで、ジェイムズの行動にもその傾向が強く見られます。
邪魔な奴は消しちゃおう、と考えても不自然ではありません。
アリソンに執着していた一方で、期待通りにいかないとアリソンをあっさり殺そうとしたのも、むしろ納得できるかもしれません。
その場合、当然ながら場当たり的で杜撰な行動になるので、早々に発覚するなり問題が生じるなりしてしまうことがほどんどです。
ジェイムズに前科・前歴があるのかはわかりませんでしたが、これまで無傷というのも違和感がありますし、前科・前歴があったならマシューズが死んだあたりで早々に警察にマークされそうです。
アリソンがハンナの電話番号にかけたらハンナの姉が出ましたが、「あいつやばいから警察に連絡してね」的なことを言っていましたので、過去に発覚するなり、少なくとも疑われたりはしていそうでしたが……。
マシューズ殺害は非常に手慣れている感を窺わせる手際の良さで一気に期待度が上がりましたが、その後は殴って気絶させて埋めようとしては失敗して、みたいな繰り返しで犯行が全体的にぐだぐだだったのもちょっと残念。
法律事務所前というどう考えても誰かに目撃されるリスクが高そうな場所でマイケルを拉致したのもこっちがドキドキでしたし、大柄なマイケルを手首しか拘束していないで案の定あっさり抵抗されたのもこっちがハラハラでした。
ラストシーンも、ちょっと盛り上がりに欠けたというか、結局ジェイムズの詰めの甘さ……を通り越して間抜けさが発揮されてしまっての敗北でした。
「もっとちゃんと拘束しないと危ないよ」というマイケルでの失敗を活かせなかったのが、ジェイムズの敗因でしょう。
とはいえ、突如アリソンが、筋肉ムキムキのジェイムズに負けない凄まじいパワーを発揮し始めたので、仕方なかった側面もあります。
盗撮用のカメラの隠し方がド下手だったのはご愛嬌。
いくらルールがあるとはいえ、あらゆる証拠品が地下入ってすぐのところに丸出しだったのは、さすがに愚かでした。
「冷酷で狡猾で周到なシリアルキラー」ではなく、「場当たり的だけど運が良くて見つからないうちに、殺し方だけは手際が良くなった独占欲男」となってしまっていた点が、本作においてはウィークポイントでした。
本作の軸である「恐ろしい殺人鬼が主人公に迫る」という設定に注力されていれば、細かいリアリティは乏しくても良いのですが、殺人鬼が魅力的でないと少々軸が揺らいでしまいます。
一方のアリソンも、あまりに押しに弱く、危機管理にも乏しいため、観ている側のもどかしさが募ります。
ただ、押しに弱く、ダメンズばかり引き寄せてしまう女性像という点においては、アリソンも非常にリアルさがありました。
自己肯定感が低いことで、他者に受け入れられたい気持ちが強く、自己主張ができない。
「何をしても父から認められず、逆らえなかったから、誰に対しても逆らえない性格になってしまった」と語られており、そこはかわいそう。
ただ、その呪縛からは抜け出していくことも可能です。
父親がいつまで生きており、成人後もどの程度関わりがあったのかはわかりませんが、冒頭での「親の家を売るなんてイヤ」というセリフからは、まだまだ親の檻に閉じ込められていることが示唆されていました。
いずれにしても、今の状態で弁護士という職業はなかなか無茶があったのは事実でしょう。
弁護士になったのもおそらく父親の意向であるため、本人の中に芯はありませんでした。
だからこそ、以前勤めていた弁護士事務所で不倫関係になり、退職まで追い込まれたのです。
逆に友人のサラは、少しお節介ながらも友達想いのすごくいい人で、本作において唯一常識を備えたキャラだった気がします。
マイケルも、下心があったにしてもアリソンを気遣っていたので、あっさり疑われて警察に売られたのはなかなかかわいそう。
ついでにどうでも良いポイントですが、マイケルが勤めていた法律事務所もだいぶ心配でした。
アリソンの「あの頃は混乱していて不倫してバレて退職しちゃったんです。再出発したいんです」という前職についての告白を「正直で誠実なんだね」と捉えて雇うというのは、判断としてだいぶリスキーな気がします。
もしかしてワンチャン、あの所長もアリソンを狙ってたんじゃ……?と勘繰ってしまうほど。
最後にはサラも事務員として雇われていたのも、どうなのかと思わなくもなかったり。
というわけで、発想と設定、そしてジェイムズの裏表のある感じは好きで、シンプルな展開で気軽に楽しめましたが、ちょっとキャラクター的に残念なジェイムズとアリソンのバトルに終始してしまった点が、物足りなさを感じてしまった1作でした。
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