【映画】呪われた息子の母 ローラ(ネタバレ感想・考察)

映画『呪われた息子の母 ローラ』のポスター
(C)AMN Productions LTD. t/a Park Films / Elastic Film Entertainment Ltd / Belladonna Productions Inc. 2020
スポンサーリンク

 

作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『呪われた息子の母 ローラ』のシーン
(C)AMN Productions LTD. t/a Park Films / Elastic Film Entertainment Ltd / Belladonna Productions Inc. 2020

8年前にカルト教団から逃亡し、シングルマザーとして息子デイヴィッドを育ててきたローラ。
しかしデイヴィッドは教団信者に襲撃されたことをきっかけに、謎の奇病に侵されてしまう。
やがて、ローラが封印し続けてきた驚くべき真実が明らかになる──。

2021年製作、アイルランド・アメリカ・イギリス合作の作品。
原題は『Son』。

「邦題はもう少しどうにかならなかったのかな」シリーズの一つ。
そもそも「呪われた息子の母」というのは日本語としておかしいような気がします。
とはいえ、原題そのままの「息子」でもまったく興味をそそられないので、苦心の結果でしょう。

恐ろしい存在へと変わっていく息子を、倫理観に逆らい他のすべてを敵にしても守ろうとする母ローラ。
かつ、結局、デイヴィッドは本当に悪魔の息子であったことが確定するラスト。
内容的には、デイヴィッドに焦点が当たっている原題の方がやはりしっくりくるようには思います。


それはさておき、派手さはないながら思った以上に楽しめた作品でした
ゾンビ的なカニバリズム、カルト、悪魔、親子愛、虐待と、様々な要素を詰め込みつつも、デイヴィッドを守ろうとするローラを中心にうまくまとまってました。
結局、カルトや悪魔の背景はほとんど描かれていないので、親子愛を軸とした物語として捉えています。
とはいえ、グロさはしっかりあり、良い。

ローラを演じたのは、2018年からのリブート版『ハロウィン』3部作でローリーの孫娘アリソンを演じたアンディ・マティチャック。
『ハロウィン』3部作では、次世代を担う「娘」「孫娘」という立ち位置でしたが、本作では手を血に染めてでも息子を守る母親を見事なまでに演じていました。

息子デイヴィッドを演じたルーク・デヴィッド・ブラム(名前、同じDavidなんですね)の演技もとても良かったです。
可愛さと、どこか不気味さを湛えた雰囲気も。
Instagramで見るともともと金髪ではないようなので、染めていたのでしょうか。
本作では眉毛も金色だったせいか、たまに眉毛がないように見えて若干いかつく見えたのも、逆に良い雰囲気になっていたのかもしれません。
でもこの歳でそんなわざわざ染めないか、成長のによる変化か見え方の問題ですかね。

刑事ポールを演じていたエミール・ハーシュは、初めて見たと思っていましたが、『ジェーン・ドウの解剖』で息子オースティンを演じていました。
気がつかなかった。


内容に移ると、本作はデイヴィッドが人肉を食べる存在へと変貌してしまう点が重要でしたが、カニバリズムというよりゾンビに近い印象を受けました。
冒頭、デイヴィッドが見ていたテレビで一瞬映ったのは、おそらくファンであれば一瞬でわかる、ゲーム『バイオハザード』における最初にゾンビが登場して振り返る一番有名なシーンでした。
その後もゾンビの話をしていることからも、ゾンビをイメージして設定されているのは間違いないでしょう

ゾンビ作品は映画でもドラマでも無数にあり、「自分や家族が感染したときにどうするか」といった葛藤や人間ドラマはたくさん描かれていますが、『呪われた息子の母 ローラ』における特徴は、人肉を食べると症状が落ち着き人間らしく戻るという点でした。
それにより、新たに「息子に人肉を食べさせ続けるのか?」というテーマが生まれ、それがさらにローラの葛藤を深刻なものにしていました。

それを軸に、果たして本当にカルトや悪魔は存在するのか?
あるいはすべてローラの妄想なのか?
といった不安定さが終始つきまとい、終始鬱々とした重い空気感
ローラとデイヴィッドの逃走劇は、『Detroit: Become Human』というゲームも思い出しました。

最終的にはバッドエンドということもあり、なかなか暗い作品と言えるでしょう。
終盤に出てきた悪魔は、やや際どいビジュアル。
はっきり映さなかったのは正解だと思いますが、個人的にはあれでもけっこう映しすぎだった気もします。

ポールは最初から微妙に怪しかったですが、まさかあそこまで黒幕とは思っておらず、意外性もあり良かったです
デイヴィッドに向けて包丁を振りかぶったローラを撃った際、完全にヘッドショットを決めていたので、「もう少しポールの射撃が上手くて、包丁を持ったローラの腕とかを撃っていたらこんなバッドエンドにならなかったのに……!」と思いましたが、あれはきっとわざと射殺したのですね。

ラストシーンでは、デイヴィッドがポールの肉片を食べるシーンでモザイクがかかっていました。
腕の肉を剥ぐところはがっつり映しておいて、そっちがモザイクなのか……?と基準がちょっと不思議で面白かったです。

背景に関してはだいぶ謎も残り、粗い部分もあったり、あまりホラー度が高い作品ではありませんが、設定が面白く、ローラとデイヴィッドという母子の関係性に軸足を置いているのがはっきりしており、楽しめました
ただやっぱり、悪魔の怖さというのはいまいちわからないのでした。

スポンサーリンク

考察:真相の検討(ネタバレあり)

映画『呪われた息子の母 ローラ』のシーン
(C)AMN Productions LTD. t/a Park Films / Elastic Film Entertainment Ltd / Belladonna Productions Inc. 2020

細かい部分を考え始めると矛盾があったり謎が残ったままとなってしまうのですが、大まかに本作の出来事を振り返ってみたいと思います。

まず、大きいポイントとしては上述した通り、カルトや悪魔は本当に存在するのか?あるいはすべてローラの妄想なのか?といった点が焦点でしたが、

  • 実際にデイヴィッドがおかしくなり、人肉を食べる存在になったのは間違いない
  • ローラ目線だけでなく、ポール目線でもデイヴィッドは人肉を食べ、悪魔が登場している

といった点から、ローラの妄想ではなく、カルトや悪魔の存在は真実であったと考えられ、それを前提に話を進めます

重要なのは、ポールがカルト側の人間だったということでしょう。
ただ、カルトの目的という重要なポイントがいまいち曖昧なのですが、おそらく悪魔崇拝のカルトであり、悪魔の血を引くデイヴィッドの覚醒(?)が目的であったのではないかと考えられます。
それを踏まえて何がしたかったのか?
なぜ8年経ってようやく動き出したのか?
……は、謎のまま。

ポールがローラに接近したのは、もちろんデイヴィッドの覚醒が目的でしょう。
ただ、もともとローラを追い詰め殺そうとしていたわけではないだろう、と考えています。
殺そうと思っていたのであれば、それにしては必要以上に助けようとしていた感じがしますし、何よりもっと早めにいつでも殺せたはずです。
ミスリードさせるための演出だった可能性もありますが、実際にローラに好意は抱いており、ローラの理解も得た上で「ローラも再びカルトに戻ってくれたら」と思っていたのではないかと感じます。


デイヴィッドが目覚めた(?)きっかけは、ローラは「部屋にいたカルト集団が人肉を食べさせたのだ」と予想していました。
これは実際にそうであった可能性もありますが、まったく痕跡が残っていないのも不自然です。
ポールが揉み消した可能性は十分ありますが、スティーブ(もう1人の刑事)も騙せたかな?という点はやや疑問。

ここは個人的には、

  • 肉を食べさせたのはポールで、カルト集団はローラの幻覚
  • 実はローラが無意識に自分の肉を食べさせた
  • 食べさせたのはカルト集団だが、彼らは霊的な存在だった

のいずれかではないかな、と考えています。
カルトの本拠地も完全に廃墟でしたし、カルト集団が登場したのもあのシーンだけでした。
現存していて実際にぞろぞろと侵入して痕跡も残さず消えた、というのは少々不自然に感じます。
とはいえ病院スタッフはカルトメンバーっぽかったので、拠点を変えて実在はしていたのかな。
病院スタッフの会話はローラの被害妄想だった可能性もあるかもしれません。

いずれにせよ、デイヴィッドが覚醒。
病院に入院した際、症状が落ち着いたのは、ポールか病院の関係者が人肉を食べさせたからでしょう。
いずれにせよ、ローラとポールがいい感じになった際、「この傷は?」と尋ねた傷は、ポールに食べさせた部分であったはずです


その後は比較的シンプルで、ローラがデイヴィッドを連れて逃走し、何とか連れ戻そうとポールが追跡。
知りすぎたジミーはポールが殺害。
刑事3人を送り込んだのもポールの可能性もありますが、さすがにローラが返り討ちにすることまでは予想できなかったはずですし、ローラを危険に晒すとも考え難い。
突入時にポールがいなかったことからも、あれはスティーブの独断の可能性が高そうです。

ラストシーンは、考え始めるとかなり矛盾というか、謎が残ってしまいます。
そもそもポールは真相を知っていたなら、わざわざ精神病院などに捜査に行く必要はなかったはず。
また、「僕が君を守る」「誰にも知られないようにする。君の正体をね」「君を一人きりにしない。二度と孤独にはさせない」というセリフが、かなり謎を呼びます。

最初は、ポールは何も知らないのかもしれないと思いました。
その場合、デイヴィッドを覚醒させたのは侵入してきたカルト集団であり、ポールの傷は本当に別の事件で負った傷ということになります。
ローラを置いかける途中で真相を知り、ローラとデイヴィッドを守ろうとした
実は、全体の流れとしてはその解釈が一番しっくりきます。

しかしそうなると、最後に「ほぉら、お父さんだよ」と悪魔パパを紹介したのがかなり意味不明になってしまいます
あれはやはりポールもカルトの一員であることを示すもの、と考えないと不自然です。

感想で述べた通り、人肉を必要とする悪魔の子といった特殊設定の中での親子愛を描いたのであり、このあたりは細かく検討してはいけない作品なのだと思います。
親子愛を描いたにしては、ラスト、ローラの不在を悲しむことなく悪魔と抱き合うデイヴィッドの姿は何とも言えないところもありますが、より悪魔寄りの存在になっていたということでしょう。

綺麗な解答は見出せませんが、やはりポールはカルトの一員だったけれど、ローラとデイヴィッドを守ろうとしていた
ただ、一番大事なのはデイヴィッドであったため、デイヴィッドを殺そうとしたローラは射殺してしまった。
というのが、個人的には最も腑に落ちる解釈かな、と思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました