作品の概要と感想(ネタバレあり)
ある時、田舎町を走るトラックの積み荷から汚染廃棄物がこぼれおち、ビーバーの生息する湖を汚染してしまう。
一方、湖の近く小屋ではメアリー、ゾーイ、ジェンの3人が女子会キャンプを開いていた。
そこへそれぞれの彼氏や元彼であるサム、トミー、バックの3人組が現れ、現場は乱痴気騒ぎに発展。
そんな中、ジェンがバスタブで凶暴なビーバーに襲われるが、トミーがビーバーを撲殺する。
しかし翌朝になると、そこにあるはずのビーバーの死体が消えており──。
2014年製作、アメリカの作品。
原題もまさかの(?)『Zombeavers』。
もはや「ホラー」から独立して「ゾンビ」という一つのジャンルを築いていると言っても過言ではないゾンビ作品も、群雄割拠の時代に突入。
サメ映画同様、『ゾンビ津波』のようなシチュエーション勝負の作品から、『ブラックシープ』のような新しい生物との掛け合わせまで、もはやアイデア勝負の様相を呈しています(『ブラックシープ』がゾンビかどうかは議論の余地があるかも)。
思いついたもん勝ち、先にやったもん勝ち。
本作はタイトル通り、ゾンビにビーバーを掛け合わせたホラーコメディ。
コメディ要素が強めで、その割にゴア表現には気合が入っており、その点『ブラックシープ』に近い印象です。
これこれ、これでいいんですよ。
と、言いたくなるシンプルさと面白さ。
実にくだらないですが、定期的に観たくなるやつ(『ゾンビーバー』を定期的に観たくなる、という意味ではありません)。
チープすぎる作品も多い中、本作のように完成度が高かったり工夫が凝らされている作品は光り輝いて見えます(それは言い過ぎかも)。
本作は『Zombeavers』のタイトルを思いついた時点ですでに勝っているでしょう。
内容と展開は実にシンプル。
汚染廃棄物で何かゾンビ化しちゃったビーバーたち。
B級ゾンビものに科学的な設定は必要なく、とりあえず汚染廃棄物か未知のウイルスさえ出しておけば何とかなります。
襲われるのはこれもまた典型的な、異性とセックスのことしか頭にない、知能はすでにゾンビより低い大学生たち。
その点と、危機的状況で浮気が発覚して内輪揉めする姿は、『海上48hours ―悪夢のバカンス―』ともオーバーラップします(『海上48hours ―悪夢のバカンス―』の方が後発)。
というか、大学生だったのですね。
最初、もう少し年上かと思ってしまっておりました。
性格も外見(似てるわけではないのですが)もみんなだいたい同じに見えてしまう上に、狭いグループ内でごちゃごちゃしてしまう短絡さなので、メアリーだのジェンだのサムだのトミーだの、観終わった直後でもどれが誰だかすぐに思い浮かびません。
性的なネタ・下ネタが多かった本作ですが、「beaver」には俗語で「女性器」を表す意味もあるそうです。
ゾーイが途中で「私のビーバーを舐めたら?」みたいなことを言っていましたが、そういった意味のようで。
これは偶然ではなく、ジョーダン・ルービン監督のインタビューによれば「“動物の名前”と“セクシーな言葉”のダブルミーニングになるといいなと思った」とのことで、そんな発想がゾンビとビーバーの組み合わせにも繋がっているようでした。
しょうもな(褒めてる)。
インタビューによれば他にも、80年代ホラーのオマージュなども多用されているようで、それが完成度の高さにも繋がっているのでしょう。
さらに、ジョーダン・ルービン監督は、イーライ・ロス監督とは大学の同級生らしく、イーライ・ロス監督のデビュー作『キャビン・フィーバー』のプロデューサーが、本作でもプロデューサーの1人として参加しているようです。
確かに、そう言われると似た空気感を感じなくもありません。
本作の登場人物に話を戻すと、みんな一様に愚かなので、通常、相対的には少しまともな主人公キャラがいるものですが、本作ではそのようなキャラがいないところも新鮮。
序盤こそジェン(金髪で、彼氏が浮気)が若干主人公っぽさを醸し出していましたが、結局流されやすいだけの同列キャラで、早々に退場。
助かってほしい……!と思えるキャラが皆無なので、ひたすらゾンビーバーの活躍に注目できる親切設計。
やっちゃってください、ゾンビーバーさん。
そんなシンプルさでありながら、木を齧ったりビーバーダムで道を塞いだりと、ビーバーの特性を活かした演出が巧みでした。
リアルさは完全に捨てつつもド派手なゴア表現など、メリハリの効いた演出が特徴的。
最初にキッチンでジェンがゾンビーバーを包丁で刺したシーンでは、どう見ても脳天に突き刺していましたが、カメラが切り替わった瞬間にはもう背中近くに包丁が刺さっていました。
細かいことは気にすんなよ、と言わんばかり。
取捨選択が見事でした。
77分というコンパクトさでまとめているところも、「わかっているな」と思わせます(何様だ)。
どれだけ面白くても、こういった作品はたぶん90分を超えると飽きやすいものです。
序盤の若者たちのやり取りはぐだぐだしていますが、無駄に引っ張ることもなく、ゾンビーバーがいきなり登場してからは変にもったいぶることもなく、勢いも良かったです。
意外と伏線がしっかりしているところも、隙のない作りでした。
冒頭のトラック2人組がラストを持っていく綺麗さがお見事。
ゾンビーバー誕生も彼らのせいですし、実に罪深い2人組ですね。
コメディというかギャグ要素は、個人的にはあまり刺さらずでしたが興醒めするほどでもなく、可もなく不可もなく。
バックが切断された足を抱き抱えて寝ていた姿と、もぐら叩きならぬビーバー叩きのシーンは、画的に面白かったです。
おじさんの射撃の腕がプロすぎたところと、隣人が撫でていた犬がゾンビーバーに入れ替わっていたシーンは好きポイント。
登場人物はとにかくお馬鹿でしたが、お間抜け行動が即、死に繋がったわけではないところも憎いです。
たとえば、最初に車で脱出しようとしたシーン。
トミー(一番まともで友達想い)がバックの腕を肩にかけて走っていましたが、どう考えてもトミーが1人で車まで走って行って、家の前まで車を持ってきた方が良かったですよね。
でも、そのシーンで死ぬかというと、そういうわけでもない。
射撃おじさんが合流してからも、なぜか近くにトラックがあったはずなのに隣の家まで走っていましたし、足がないのに走らされまくっていたバック、かわいそうでした。
最初に負傷したのに発症がだいぶ遅かったのはご愛嬌。
そこは個人差があるのです、きっと。
何より本作を印象深いものにしていたのは、チープすぎるけれど味のあるゾンビーバーのパペットのコミカルさと、ゾンビーバー化した人間のインパクトでしょう。
噛まれると単なるゾンビではなくゾンビーバー化するところが、『ブラックシープ』に似た印象を抱いた理由ですかね。
汚染廃棄物でゾンビ化したビーバーに噛まれるとなぜビーバー化するのかは、清々しいほどに何の説明もありません。
ゾンビーバーのアニマトロニクスや、ゾンビーバー化した人間の特殊メイクを担当したのは、何と日本人の特殊メイクアップアーティスト、田中好さんという方のようです。
すごい。
日本絡みのネタが2個ぐらいあった気がしますが(もう何だったか忘れた)、そのあたりも影響しているのでしょうか。
作られたゾンビーバーのパペットは7体らしいですが、大群を表現するときには光る目などを使って工夫していたのも巧いところ。
オープニングは『アメリカン・バーガー』あたりを思い出しましたが、好きなチープさ。
そして秀逸だったのがエンディング曲で、歌詞で諸々のツッコミどころをメタ的に回収。
犬のゴズリングを囮に投げ入れるのはゲスすぎましたが、歌詞でカバーしつつ、NGシーンで可愛く戯れている姿を映してくるなど、アフターフォローもばっちりなのでした。
コメント